昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
朝日が窓から顔をのぞかせる。
毛布からはみ出た白い手は日光を浴びるのを嫌うようにモゾモゾと中に引っ込み、静かな部屋にはすぅすぅと寝息だけで満たされている。
ーーーいや、満たされていた。
階下からドタドタと激しい音が鳴り響き、ドアが勢いよく開けられる。
「おはよーーー!ヨルちゃん!起きて!」
ベッドの毛布はあっけなく引きはがされ、中からはまるで女神の彫刻かと錯覚させ、芸術家もため息をついていしまうほどの少女ーーー否、少年が丸まっていた。
朝日に柔らかな光を反射する亜麻色の髪。
髪の隙間からは白く、透き通るような肌。
そして、見つめられるだけで自分の鼓動が他人に、いや、この子に聞こえてしまうんじゃないかと恥じらわせる赤い瞳。
ゆっくりと、その瞳をのぞかせ「ヨルちゃあああああん!」
天使のような顔に、栗色の髪の女の子……ライザの胴体が降ってくる。
天使の顔、形無しである。
「……モゴ……どけ……ガキ……」
抱きつかれ、窒息しつつあるヨルにライザがパァ!と顔を輝かせ、まるで犬のようにもちもちとした自分の頬を、ヨルの亜麻色の髪にこすりつける。
もみくちゃにされ、うめき声をあげるが、徐々にうめき声から寝息へと移行しかける、が
「外いくよ!ヨルちゃん!」
まるでぬいぐるみのように連れていかれるヨルだった。
そんな二人の小さな背中を軒先から眺めつつ、
「もう七歳か……あの子たちも……」
「そうね〜。愛息子がとられて寂しいのかしら〜?」
「子供は親のそばから段々と離れていくものさ……」
すでに見えなくなったにも関わらず、ライザが走っていった方向を見つめるベリル。
「しかし」、と続けた。
「もう三年の付き合いだというのに、いまだヨルを女の子だとおもっているとは……」
「面白いからいいじゃない〜」
クラウがコロコロと笑った。
「みんなー!連れてきたよー!」
溌剌とした声で、ライザが数人の子供に向かって手を振る。
そのうち、目つきの悪い子供…ボオスが、目を見張る。
「おい、あいつなんか人攫いしてねえか。」
ライザはまるでぬいぐるみのように小柄なヨルを抱きしめ、ずるずると引きずりながら走ってきていた。
「えぇ……ライザ、なにやってるの…」
「おいおいライザ、誰だそいつ!?」
ボオスの言葉に釣られるように、メガネの少年…タオや、赤髪の少年…レントが絶望したような声を漏らす。
亜麻色の髪は引きずられながら左右に揺れ、ライザがふぅ、と息を整えながら「はい!ヨルちゃんです!」とぬいぐるみのように連れてきていたヨルを見せる。
「…ぐぅ…」
寝ていた。
ボオス、レント、タオが息を飲む。
(寝てんな…)
(なんで寝れてるの…)
(髪の毛ながいな…)
「?」
ヨルをつれてきた当の本人は、なぜみんな黙ってるんだろう…と首を傾げていた。
すると、腕の中でうーん、と呻き声を出しながら、ヨルが起きる。
唐突に連れ出されてなお絹のように流れる亜麻色の髪の毛。
優しい亜麻色の隙間から覗く、白いカンバスを思わせる肌。
熟れた宝石の果実のような、瞳。
思わず、ライザ以外の3人は息を呑む。
赤い瞳はこちらを見据えながら、口を開く。
「……なんで砂利が三匹もいるんだ?」
どこだよここ。そう呟きながら、足元の小石を横に蹴り飛ばす。
3人は、澄まし顔であたりを見渡す女神のような少女から飛び出た暴言に、思わず脳の処理が追いつかず、固まっていた。
「この3人はあたしの友達だよ!みんな、この子はヨルちゃん。あたしの友達!」
それぞれがまちまちな反応をする中、またもや女神、いや暴君が口を開く。
「おいそこのメガネ。俺は寝るからライザの首輪閉めとけ」
じゃあおやすみ。
そういいながら、地面なのも気にせず横になる。
あまりの外見と内面の乖離ぶりに、すでに3人は限界を迎えていた。
「「「な…なんなんだこいつは!?!!?」」」
「……んで、今日は何すんだ?」
赤毛の少年……レントが、寝たヨルに顔を向けながらライザたちに問いかける。
「今日は、南の水没坑道を冒険したいな!」
ヨルの白い頬をむにむにとつついてたライザが、その問いかけに元気に返す。
「え、えぇ…?足元滑ったりするしあぶないよ〜…?」
「…ふん。くだらねぇ」
まちまちの反応を返す4人に対して、寝ていたヨルが手を挙げる。
「がんばれよ、俺は帰って寝るからな。砂利ども」
「ヨルちゃんもいくんだよ!?」
そう言われながら、またもやぬいぐるみのように連れて行かれるのだった。