昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
「水没区画っつっても、案外そこら中が水没してるわけじゃないんだなー。」
「とはいえ人の住処としては廃退した原因なんだ。あまり湖には近づくなよ。」
「湖って言ってもここら辺には魚とかは見当たらないんだね…うわっ」
レント、ボオス、タオが辺りを見渡しながら歩く。
ボオスは気をつけるよう注意を促し、濡れた地面に足を滑らせるタオを支える。
「あ、ありがとう…」
「ふん。気をつけろよ、足を滑らせて怪我なんて人には言えないぞ。」
と、その横で勢いよくヨルが足を滑らせる。
ボオスは、驚きのあまり口が閉じなくなっていた。
「おまっ……なにやってんだ!?」
「おいおい大丈夫かよ!?」
鈍い音があたりに響き、ボオス、レントが駆け寄ってくる。
「…足場の悪いこの区画と、砂利共の話を聞き流してた俺、どっちが悪いと思う?」
後頭部にたんこぶをこさえているにも関わらず、腹立たしいほど澄まし顔が整っていたヨルに、思わずレントは吹き出し、ボオスはため息をつく。
「ぷっ、あははは!お前後頭部にたんこぶつくってるやつのセリフじゃねーだろ!」
「…次からは気をつけろよ、お前…」
ボオスの隣にいたタオ、先を歩いていたライザも焦って戻ってくる。
「うあちゃー、派手に頭打ったね…大丈夫…?」
「だ、大丈夫!?ヨルちゃん、平気…?」
レントに手を引かれて立ち、タオは顔を覗き、ライザに後頭部をさすられる。
もはや介護である。
ボオスの目は、(こいつ、薄々思ってたが外見に対し内面が終わってないか?)とありあり語っていた。
「あまり露骨な目を向けるなよ砂利。ミセモンジャネーゾ。」
「砂利じゃねえ。ボオスだバカが。」
「ま、まあ落ち着けよ。仲良くやろうぜ?…え、俺の名前はわかってるよな?」
「砂利だろ?」
「レントだよ!お前マジでなんも聞いてねーんだな!」
ライザやレントに服についた汚れを手で落とされる。
さも当然ですと言った顔のヨルだが、尋常ではない顔の良さに腹は立っても憎みきれないものがあった。
「僕はタオだよ、覚えてね」
「おー」
「あたしはライザだよ?」
「しってる」
さもありなん、と言った様子に加え、段々と興味をなくしてきたのか遠い目をし始めたヨルに、レントが話しかける。
「なんでライザは知ってんだ?」
「もう5?6?年の付き合いだからな。」
「まだ3年だよ、ヨルちゃん…」
わかってないじゃねーか…とボオスがまた呆れ、タオがこの子、覚える気あるのかな…と言った様子で肩をがっくしと落とす。
そこでライザが、指をばっとあげながら、元気に話す。
「コレからみんなで遊べばヨルちゃんもみんなのこと覚えてくれるでしょ!」
「昼の3時からで頼む…」
「遅いな!?」
「もーそろボーデン地区に帰るか?」
昼が過ぎ、日が徐々に傾き始めた頃。
湖のほとりを歩きながら、そろそろ引き返して帰るか、という提案が出始めた。
「そうだな。日が暮れ始めると足元もおぼつかんだろうしな」
「だね、またコケないともかぎらないし…」
レントの提案にボオス、タオが同意する。
ライザは「えー。」とまだ探検し足りない様子だったが、みんなが帰るというので道を引き返す。
ヨルは特にこれといって主張はなく、後ろの方を歩いていた。
「今日は楽しかったでしょ?」
前を歩く3人を尻目に、ライザが歩くスピードを落としてヨルの隣にくる。
「まあまあだな。」
「…意外だなぁ。否定してくると思ってた」
目を丸くしながらライザがヨルを見る。
亜麻色の髪が、傾き始めた光に綺麗に反射し、ヨルの顔に影がかかる。
「そこまでガキじゃねーよ。」
そういいながら、三つ編みの髪をいじりーーーぶちっと、きれてしまった。
「「あっっ」」
手の上にある、切れた黒い髪留めを眺める2人。
「切れちゃったね…」あはは…と笑うライザに、なんの音沙汰もないヨル。
「……まあ、こういうこともあるだろ」
そういいながら、無造作にほどけた髪を雑にまとめ、切れた髪留めを雑に巻いて縛り上げる。
「あ、ちょっとちょっと、あたしがやるよ?」
「帰るだけだし問題ないだろ。……いい加減眠さも限界だしな……」
亜麻色の髪に触れようとするライザを、スーッと横にスライドしながら避ける。
さっさと帰るぞ。と振り返りながら歩け、と促す。
「えー、せっかく綺麗な髪なんだから、もっと綺麗に縛ったらいいのに…」
と言いながら、前を歩くレント達に追いつくために早足で一歩目を出そうとし…
「あっ」
ライザの足元が滑る。
咄嗟にヨルの白い手首を掴むが、非力なヨルに耐えられるわけもなく、共に濡れて滑りやすくなった傾斜をずり落ちていく。
あっという間にライザは胸の下あたり、ヨルは腰まで浸かってしまった。
「…バカ」
ライザにつかまれている腕とは反対側の手で、落ちないように抵抗するが、滑り続けーーー
ズシャ、という音と共になんとか止まる。
「ヨ、ヨルちゃん。あ、あたし、ごめ…っ」
腰まで水に浸かったライザは空いた手のほうで登ろうとするが滑ってうまく登れず、それどころか重心が崩れてさらにズレ落ちそうになる。
身動きの取れないライザは、迫る湖に面にパニックになっていた。
それとは対照的に、ヨルの顔色は一切変わらない。
「大丈夫だから、動くな。」