昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
「にしてもヨル、最後まで笑わなかったなぁ」
「笑うのが苦手な奴もいるだろう。」
あいつはそもそも生きるのが下手そうだが。
そう続けながら、ボオスは急に黙りこくってしまったタオの方を振り返る。
タオは、振り返りキョロキョロと周りを見渡していた。
「おいタオ。どうし……!?」
「ぼ、ボオス。ヨルとライザが……」
「あれ?あいつらどこに行ったん……!?」
「ヨ、ヨルちゃん……どうしよう……」
肩まで湖に浸かり、徐々に湖面が顔に迫る。
「大丈夫だから動くなと言っているだろ、ライザ」
二度も言わせるな、と言わんばかりの顔でライザの顔覗く。
いつも見慣れた尊大で、冷静さを保った表情のヨルをみて、少しだけ平静さを取り戻す。
そして、少し先を歩いていた三人も、異常に気が付き引き返してくれたことに気が付く。
レントが身を乗り出し、必死に手を伸ばす。
「ヨル、ライザ!?掴まれるか!?」
「帰るといったそばからお前ら何してんだ!?」
「まってレント!身を乗り出しすぎたら君まで落ちる!」
どうあがいてもレントの手は二人には届かない。
そう判断したボオスは唇を噛みしめながら、「くっ……俺は大人を呼んでくる!」というと、一目散にかけていった。
レント、タオは必死に手を伸ばそう、なにかロープの代わりになるものを探そうとしているが、
ヨルを見上げる形になっているライザだけが気付く。
無表情ながら、唇の端から血が出るほど歯を食いしばるヨルに。
(あたしのせいで、ヨルちゃんまで……)
ライザは、震え、おびえた表情で決心し、
一度だけ、こんな状況ですら衰えない、光に消え入りそうな亜麻色の髪を、
血よりも濃い瞳を見つめーーー掴んでいたヨルの手首を離した。
ーーーああ、ヨルちゃんの手首、赤くなっちゃってる。
ごめんね。
手を離した先に、目を見開くヨルが映りーーー
がっと、ライザは手首を掴まれる。
掴まれた手首が痛むほどの強さで握られ、ライザもまた目を見開く。
「な、んで……駄目だよ、ヨルちゃん……」
「ばかが……」
落ち行くライザを支える。徐々に二人の体を湖が飲み込んでいく。
「ダメだよ、ヨルちゃん!ヨルちゃんまで……」
必死に手を伸ばすレント、タオが、涙目になりながら何かを叫んでいる。
しかし、ライザの瞳には、目の前の。
まるで光が透き通り、微笑みを向ける女神様のようなヨルだけが映っていた。
「大丈夫。死ぬ時は一緒だ。」
寂しがるな。
そんな言葉が聞こえた気がした。
ゆっくりと湖に落ちていくような刹那。
ともに落ち行くヨルに、赤子のように抱きしめられ、湖のしぶきも、レントたちの叫び声も聞こえず、鼓動の音だけが耳に残る。
目の前に降りた女神様の微笑みだけが映っており、視界は真っ暗になった。