昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
「……う〜ん…」
程なくして、ライザが目を覚ます。
水分を多く含んだせいで、重みが増した服を感じながら起き上がる。
「お!ライザ!」
「よかった〜…」
「だから気をつけろと言っただろうが…」
なんとか起き上がるライザを見た三人が、駆け寄ってくる。しかしそのメンツに、ヨルが見当たらない。
徐々に冷静になり、青ざめながら三人を問いただす。
「よ、ヨルちゃんは!?」
「ん?ああ、ヨルならそこにーーー」
レントが指を指す。
亜麻色の髪の毛を水に濡らし、地面に横たわっているヨルの姿が目に入る。
厚手の服を体にかけられ、力なく横たわるヨルをみて、ライザは足をもつれさせながら近づいた。
「よ、ヨルちゃん!?」
大事な友達が、自分のせいで危険に遭った。
その事実がライザの胸を締め付ける。
いつもひんやりとしたヨルの頬を触れると、まるで生気を感じられない冷たさに、ライザが取り乱す。
「お、おいおいライザ、起き上がったばかりなんだからそんなーーー」
レントやタオの制止も耳に入らず、目の前が涙でぼやけていくがーーー
「うるせぇ、寝させろ…騒音ども…」
うーん、とヨルが寝返りを打った。
ぽかーん、と口を開くライザ。
そーっと、白い頬を指で突く。
「……やめろ。」
構わず、指を頬にめり込ませる。
「…………やめろ。」
親指と人差し指で、柔らかなヨルの頬をむにっとつねる。
「……やめろバカガキが!!!!」
しゃー!っと威嚇するようなヨルに、ライザはようやく安堵する。
「生きてた……。」
「勝手に殺すなや人を!!」
頭突きをかます勢いのヨルに、ライザが安堵のため息をしていると……ぐいっと首根っこを掴まれる。
「お前たち……こんなところで何をしてたんだ?」
切れ長の目に、茶髪の女性ーーーアガーテ・ハーマンがライザとヨルの首根っこを掴みながら持ち上げる。
「げ!ね、姉さん」
「おろせ姉御。俺は荷物じゃねーぞ。」
首根っこを掴まれながら、片手をポケットに入れ、びっ!と中指を立てるヨルと、同じく掴まれながらオドオドするライザ。
そんな様子を見て、ふっとため息をつく。
「まったく…大事にはならんかったから良いものを。あれほど危ない場所には立ち入るなと言っていただろう。」
「ふぇぇ…」
どさっと2人を下ろしながら、お前たちもだぞ!とボオス、タオ、レントにも飛び火する。
三人を一喝するアガーテを尻目に、ヨルがその場に座り込む。
「あ、ヨルちゃん、大丈夫…?」
「少し水飲んだだけだ。問題ねーよ。」
そういいながらライザは、ヨルの三つ編みのおさげの一つが解けていることに気がつく。
「ん、ああ……。まあ雑に縛ったとこだったしな……。」
「仕方ねーだろ。」と言いながら、ブチっと雑に巻かれた紐を引きちぎり、ポケットに捩り込む。
その様子に、はっとしながら自分の髪留めで結んであげようとしつつ、思い出す。
(代わりにあたしの髪留めで結んであげようとしたけど、避けられちゃうもんなあ)
「……おい。」
くっ。と顎を上げるように、ヨルがライザに体を向ける。
「……?」
「さっさと結べよ。」
左胸あたりに垂れ下がるおさげの残骸を、親指で弾きながら、太々しくライザに言い放つ。
しかし、そんなヨルにライザはーーー
「んじゃまあ、帰るかあ。」
レントが伸びをしつつ、タオやボオス、ライザに言う。
島の警備隊ーーー護り手に同行されながら帰ることには「さすがにもうちゃんと帰るって!」と騒いでいたが。
ラーゼン地区に向かうライザたちの背を、眠そうにおうヨルに、アガーテが声をかける。
「おい、ヨル。」
「なんだよ、姉御」
つかつかとヨルに近寄り、ずっとポケットに突っ込まれている腕を掴み、引き抜く。
親指以外の指先が、赤く染まったヨルの手がそこにはあった。
「やはりな…」
指先の爪はほとんどが剥がれていた。
ズボンは汚れで目立ちはしないが、よくよく目を凝らせばポケットの内側から赤い液体が染み出ている。
「なんでもねーよ。眠いから帰らせてくれ。」
そう言いながら、ヨルは掴まれた腕を引くが、あまりの弱々しさにアガーテの顔が曇る。
「無理をするな。痛みに堪えてるんだろう。……全然力が入っていないじゃないか。」
(いや全然全力だけど)
「ついてこい。」と半ば無理やり腕を引かれ、近くの護り手から受け取った止血用の包帯を指に巻かれる。
くぁー。とあくびをするヨルに、巻き終えたアガーテが声をかける。
「ほら,終わったぞ。……あまり無理をするなよ。」
「あーい。」と、片手をフリフリしながら歩いていく。
ふと、ヨルのおさげの一つが、夕陽を受けてキラリと反射するのがアガーテの目に映った。
(……似合ってるじゃないか)
「……遅ぇぞ。」
ぐしょ、ぐしょ。と水分を多く含んだサンダルに顔を顰めながら歩いていると、ボオスが腕を組んで立っていた。
「勝手に待ってたんだろ、お前が。」
包帯が巻かれた手をポケットに突っ込みながら、ボオスの横を通り抜ける。
「……指。大丈夫なのかよ。」
「はぁ?」と顔を大きく歪ませながら振り返るヨルに、ボオスが向き直る。
「あの場で気付いてないのはライザだけだ。……お前みたいなクソ野郎にもそんな心遣いがあったんだな。」
「喧嘩売ってるのかクソガキ、俺を舐めるなよ。一瞬でお前を返り血に染め上げれるぞバカタレが。」
「負けてんじゃねえかお前……」と呆れる。
そんな様子のボオスを一瞥し、振り返らずにヨルは歩き去ろうとーーーー
「次はお前が俺を引っ張り上げろよ。」
包帯が巻かれた中指をボオスに向ける。
ぐしょ、ぐしょ、と間抜けな音が遠ざかっていくのを聞きながら、「……なってやるよ。」と、溢すようにボオスは呟いた。