昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
連日のライザ襲撃をブルネン邸で回避したヨルは、ボオスに飯を用意させ、食べ終わると同時にボオスに摘まみだされた。
まるで侵入した猫のように首根っこを掴まれ、投げ出されたヨルは首をさすりながら「反抗期か……?」とこぼす。ボオスだけに。
クァ……とあくびをし、さすがにもう
雲一つない快晴にうめき声を出し、暑さに顔を少し赤らめながら歩く。
「ゲロ暑すぎる……。」とふらふら歩いていると、ラーゼン地区へと向かう道を歩くタオが視界に入る。
汗をだらだらと流しながら、「見つかったら最後、ライザが来る……寝れなくなる……」と、タオを避けるため、迂回することを余儀なくされた。
「……あれ、いまヨル兄さんいた?」
「クソ、港にまで来ちまった……」
額の汗を拭い、庇の下に座り込む。
大きく足を開き尊大な態度で休憩していると、待ちゆく子供がヨルを見つめてくる。
そんな様子の子供をキッと睨み、「何見てんだガキ」と威嚇した。
日陰で涼みながら、目の前の売店をぼーっと眺めていると、
腰まで伸びた亜麻色の髪が気持ち悪いな、と無造作にまとめ、うなじを露出させる。
髪をまとめるのに四苦八苦していると、船着き場に集まる護り手たちが視界に入った。
その中にはアガーテの姿も見える。
「……?姉御か。」
あちこちから飛び跳ねるアホ毛も気にせず、暇つぶしに眺めていると、アガーテがこちらに気が付き、歩み寄ってきた。
「今日は一人なのか?ヨル」
「二人に見えたら怖くて寝れなくなるな」
手でパタパタと顔を仰ぎながら憎まれ口を叩くヨルに呆れながら、アガーテが水の入ったボトルを投げてよこす。
「顔が真っ赤だぞ。しっかり水を飲め」
それと、と続ける。
「お前がうなじを出すと騒ぎ始めるバカが多いからあまり出すな。」
「はぁ?俺の知る所じゃ無さすぎる。」
こんなので騒ぐやつは、暑さで頭どうかしてんだよ。とボトルの水を口に含んだ。
「おいし~♡ありがとうなお姉ちゃん♡次は冷たい果実水が飲みたい♡」
「調子に乗るな。」
ゴンっと亜麻色の頭を殴られ、ちっと舌打ちをする。
はぁーあ、と立ち上がり、大きく伸びをしていると、視界の端にレントが飛び込んでくる。
「……!?」
バッと身をひるがえし、アガーテの影に隠れる。
「お、おい。何をしている。ヨル」
唐突のヨルの奇行に困惑するアガーテに、ヨルが隠れながら話を逸らす。
「なんでもねーよ、姉御。……そいやなんか今日港に護り手多くねーか?」
アガーテの小脇から少しだけ顔をだしつつ、レントを注視する。
ああ、となにやらアガーテは話をしているが、ヨルの耳はそんな説明は、右から左の状態だった。
(こっちにくんなやレント~~~!)
徐々にこちらに距離を縮めるレントをにらみながら、かくなる上は、と覚悟を決める。
「あ、アガーテ姉さん。」
「ん?ああ、レントか。」
「そうだ、ヨル兄みなかったか?」
「ヨルか?それならちょうど……む?」
先ほどまで自身の影に隠れていたヨルがいなくなっていることに気づき、アガーテが首をかしげる。
(ここなら見つからんだろ)
ごそごそと、日光を遮るほどの厚手の布の中で身動きをし、ゴンっと頭を打つ。
「今何か聞こえたか?」
「いや……?」
外からは漁師の声が聞こえる。
見つかったらライザたちに連れまわされるより面倒なことになる……!と、息をひそめる。
停泊していた船に潜り込み、厚手の布をかぶり、身を隠す。
直射日光がない分、覆い隠した直後の船は幾分涼しくなっていた。
「涼しい……寝れる……」
波の音に加え、緩やかに揺れる船が、ヨルを夢へと誘う。
「……?おい!小舟が流されてんぞ!」
「舫い縄が緩んでたのか……?」
「だからしっかり結んどけっつったろ!」
「う~ん」
船を覆っていた布の中が暑くなり、布を蹴とばすように這い出る。
亜麻色の髪の毛が絹のように流れ落ちる。
首筋に張り付く髪を疎ましく感じながら、ぐっと体を伸ばし、身を起こす。
そしてあたりを見渡して、ヨルは腕を組む。
湖に浮かぶ船は気がつくと浜に打ち上げられ、そこは見知らぬ森の入り口に面していた。
「……どこだ、ここ」
目をこすりながら、船を降りる。
ザクッと、サンダルが砂浜を踏みしめ、小気味のいい音が耳に届く。
肩までずれた上着を直しつつ、森の入り口まで歩き、振り返る。
ーーーやはり、見覚えのない砂浜だ。
亜麻色の髪が日光を反射する。
ゲロ暑い……。
そう思いながら、日差しが入らない森の奥へと足を進める。
砂浜で少し濡れたサンダルに森の土が固着し、歩くたびに襲ってくる不快感に顔をしかめる。
ライザの家の裏手にある森もそうだが、どうにも森は好きになれん……。
そう思いながら歩いていると、だんだんと空気は澄み、涼し気になってきた。
さて、どうしたもんかと腕を組み、足元を飛び跳ねる青いぷにぷにーーー『青ぷに』を眺める。
「こんなもんが魔物、なぁ」
ヨルはその場に座りこみ、つんつんと青ぷにをつつく。
いままでヨルに気づいていないかのように足元を飛び跳ねていた割に、ちょっかいをかけると一目散に走り去ってしまった。
「……暇んなったな」
ハァーア。と服が汚れるのも気にせず、木の根元に座り込み、軽く目をつむる。
すると、なにやらどこかから軽快で、透き通るような音楽が聞こえてきた。
「……?」
音が聞こえてくる方向に視線を向ける。
木に寄り掛かりながら、立ち上がる。
軽快な調べに引き寄せられるようにヨルの足が向く。
身体の赴くままに歩くと、広場にたどり着いた。
その中心部には屋根が崩れた廃屋があり、その裏手から音が聞こえる。
「ここ、か……?」
ひょこっと顔だけをだすと、金髪の少女が音楽を奏でていた。