昼行燈の女神は微笑む   作:匿名

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9話

廃屋の裏からふわりと亜麻色の髪が覗く。

 

「……?」

 

少女はそれに気づき、思わず奏でていた手を止める。

 

続いてゆっくりと、亜麻色の髪の隙間から透き通るような白い頬、猫のようなくりっとした、赤い宝石のような瞳が現れた。

 

思わず息が止まる。

フルートを持っていた手がふと下がり、

そこで自分がいま、口を開けてポカーンとしていることに気が付き、慌てて表情を取り繕う。

 

「綺麗な音色だな。」

 

そんな様子の少女など気にも留めず、ヨルが感想を口にする。

大きく開けた広場に風が吹き、亜麻色の髪がふわっと広がる。

 

「あなたは……そこでなにを?」

 

「音楽を聴いていた。」

 

ヨルが「お前、名前は?」とぶっきらぼうに名前を聞いてくる。

少女は風に吹かれる自分の髪を抑えながら、答える。

 

「私はクラウディア……。クラウディア・バレンツ。……あなたは?」

 

「……ただのヨルだ。」

 

赤い瞳に見据えられながら、ふとあることに気が付く。

髪の毛はアホ毛が飛び跳ねまくり、足元は砂と土で汚れていた。

 

自分でもなぜこんなこと言うのだろう、と思いつつクラウディアは口を開く。

 

「髪……整えようか?」

 

「いらん。触れるな。」

 

ぴしゃりと断られてしまう。

そんな様子のヨルに、なぜかクラウディアは自分の頬が綻んでしまうのを感じる。

 

(なんだか猫みたいだな。)

 

「ヨルはどこからきたの?」

 

「……クーケン島だ。」

 

クーケン?と首をかしげる。

たしか、お父様と取引の一環で行く場所の名前だ。

 

「クーケン島の人がなぜ、ここに?」

 

「寝て覚めたら船着き場にいた。……音が聞こえたからここに来てみたんだ。」

 

悪いか?と顎をくいっと上げるようにしながら腕を組む。

そんな太々しい態度のヨルを気にも留めずに、頬に手を当てながら、話を続ける。

 

「じゃあ、迷子なの?」

 

ヨルは、無言で立ち尽くす。

 

「ああ、そうなんだね……」

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ船で寝てたら砂浜に流れ着いていた、ってことなんだ……」

 

広場から来た道を戻り、最初の船着場を目指すヨルとクラウディア。

「俺は戦えんから魔物に襲われたら俺を見捨てろ。俺も見捨てる。」と最低な言葉を吐きながら森を歩く。

 

「ふふ、逃げるの?」

 

「あ?悪いか?」

 

足元の石を蹴り飛ばしながら、クラウディアをキッと睨む。

そんな様子のヨルがなんだか可笑しくて、クラウディアはくすくすと笑う。

 

何がおかしいんだ…?と唸りながら歩くヨルを見ていると、左胸に垂れ下がるおさげに、きらりと何かが見えた。

 

「……?なんだか綺麗な髪飾りだね。贈り物?」

 

「……まあそんなとこだ。」

 

ミセモンジャネーゾ、とキッと睨みながら両手でおさげを隠す。

 

「……ふーん?」

 

なぜかヨルの睨み顔をニコニコと見ながら歩くクラウディア。しかし、さっきまでの表情豊かなヨルの顔が打って変わって、一瞬で目を見開きながらスンッとした顔になる。

 

「……?どうしたの?」

 

「……」

 

あたりを見渡すこともなく、黙り込む。

 

「…何か聞こえる。」

 

そう呟きながら、ゆっくりとクラウディアに顔を向け、腕を掴み走り出す。

 

「え!?」

 

「走れ!!!!」

 

その瞬間、クラウディアの背後の木の影から人型の魔物が飛び出してくる。

 

転けそうになるクラウディアの身体を無理やり起こしながら、一目散に船着場を目指して走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー少し時間は遡る。

クーケン島・ライザの部屋。

 

「ヨル兄、どこ行ったのよ……」

 

せっかく面白そうな話があるのに…と、ライザがぷりぷりと怒る。

その様子を横目に、タオが呆れながら相槌を打つ。

 

「うーん、やっぱりトレッペの高台らへんで見かけた気がするんだけどなあ」

 

「トレッペの高台かぁ……」

 

ライザが腕を組んで考え込む。

 

あの日差しが弱点、を体現したようなヨルちゃんがトレッペの高台の、日陰のない道を歩ききるかな…?

 

うんうんと唸っていると、部屋のドアが開き、レントが入ってきた。

 

「おーすっ。……て、やっぱヨル兄はいねえか。」

 

「あ、レント」

 

いつも通り遠慮なく扉を開けて入ってくるレントを尻目に、

「ヨルちゃんもこんな風に遠慮なく入ってきたらいいのになあ」と考える。

 

そのとき、ふとレントが気になる言葉を口走っていたことに気が付く。

 

「やっぱ、てどういうこと?」

 

目を丸くしながら問うライザにレントが答える。

 

「あー。ちょっと野暮用で港のほうに行ってたんだけどよ。アガーテ姉さんが、『ヨルならさっきまで庇で休憩してたぞ』って言ってたんだよな。」

 

『唐突に私の背中に隠れるから様子が変だった』

と、アガーテの真似をしながら話す。

 

「アガーテ姉さんにはそんなことするんだ……」

 

唇を尖らせながら、うーんと唸る。

ライザがちらっとタオを見ると『……港に迂回したね』と呆れた表情をしていた。

 

「よし!そうと決まれば港に出発だ!」

 

そう高らかに宣言し、一人先走って扉を出ていくライザ。

その背中を見送りながら、レントとタオが顔を見合わせる。

 

「……なぁ、タオ」

 

「……なんとなく、言いたいことはわかるよ」

 

「これってつまり、そういうことか……?」

 

「まあ、そういうことじゃないかな……」

 

「ちょっと二人ともー!はやくー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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