箱入り聖女は劣等異端審問官に不貞を囁く 〜許嫁がいると告白を断ったら、聖女さまの表情が曇って倫理崩壊した〜   作:全部オレのモノォ!!

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第1話

 

 魔国の王城、その庭園にて。

 

 聖王国とはずいぶん植生が違う、それでも鮮やかに咲き誇る花々に囲まれたここで。

 

 ――俺はいま、人生最大のピンチに見舞われていた。

 

 

 

「我が騎士、サイガさま……。わたくし、貴方のことを……」

 

 

 

 やばいやばい。嘘だろ? この雰囲気、さすがに言われなくても分かるぞ。

 

 俺は目の前の少女を信じられない気持ちで見つめる。

 

 神聖な白を基調とした祭服。ヴェールの下には、ピンクゴールドのふわふわした長髪に、まるでお人形みたいに整った顔立ちが。

 

 そして、そんな可愛らしい彼女の顔はいま…………ほのかに赤く色づいて、潤んだアメシストの瞳が俺を射抜く。

 

 こんなの。エルシー様――聖女様が次になにを言うかなんてもう……ッ。

 

 焦る俺は、それでも立場の違いからその言葉を遮るなんてとてもできない。だから、俺はただ死刑宣告を待つしかできないがごとく、震えるように開くエルシー様の唇を見つめることしかできなかった。

 

 そうして。

 

 エルシー様は言ったのだ。

 

 

 

「――――お慕い、っしています! どうかわたくしと、男女の仲になってくれませんか……?」

 

 

 

 あああああ。やらかした!

 

 いや、こんなことなるなんて分からんよ。俺ずっと、ほとんど黙って仕事してただけだし! 他のやつらからは怖がられてるのに、なんでエルシー様だけッ。

 

 いや確かに、うっすら気づいてはいたよ? 人形みたいに自分の意思を表に出さない聖女だった彼女が、俺には妙に懐いてくれてるなっていうか。まあなんか、兄妹みたいな感情ならいいなとは思ってたけど……。

 

「サイガさま? お返事は……」

 

 ああ、はいはいッ。とりあえず、なにか探りを。

 

「気持ちは……嬉しいですが。……なぜ?」

 

「! 嬉しいということはっ? 受け入れてくださるという?」

 

「……早計だ。ひとまず会話を」

 

「っむぅ……いいですけど」

 

 めっちゃ不満げだ。

 

 そうだよな。純真無垢で聞き分けのいい理想の聖女様なんて呼ばれて、こんな顔は俺にしか見せないもんな。それ自体は嬉しいんだけども、恋人とか言い出すと。

 

 俺はひとまず、エルシー様の言葉を待つ。

 

 そして。

 

「……もうすぐ、終わってしまうので。大変だけど、人生でいちばん楽しかった日々。誰よりもわたくしを想って、何度も救ってくれたひとと過ごす毎日が」

 

 それは。……確かに、この旅の目的である「魔国との停戦調停」は、もう間近へと迫ってるけど。

 

「このまま無事に調停が成ったとして。国に、教会に帰って、またサイガさまと別々の道を行くことになるなんて――――死んだほうがマシです」

 

「えっ」

 

 いきなり暗い顔で、でもどこか深い覚悟を感じる言葉だ。これまでエルシー様からあまり感じたことのない、どこかネガティブで湿り気を帯びた雰囲気。

 

 でも、言いたいことは分かったぞ。

 

「このまま役目を終え、教会へ帰っても。繋がりがほしいと」

 

「……」

 

 確かにエルシー様の言う通り、俺みたいな一異端審問官は本来聖女と会話できる立場にない。このまま帰ったら、もう今みたいに接することはできやしない。

 

 でも。きっとそれが俺たちのあるべき姿で。俺みたいな出来損ないの異端審問官は、エルシー様との繋がりなんて無くなった方がいいんだ。

 

「……そもそも、俺が出来損いってバレないようにあんま喋らなかったのに。司教に怒られる……」

 

「え? いまなにか?」

 

「いえ。それよりも…………回答を」

 

「!」

 

 覚悟するみたいに身を固くするエルシー様。ちょっと恥ずかしげに、そして不安そうに眉根を下げつつ、ただ俺の返事を待つ。

 

 そんなエルシー様を見て、本当に俺のことを好いてくれてるんだと。嬉しさと申し訳なさを覚えつつも…………しかし、答えなんて最初っから決まってたんだ。

 

 そう。そもそも、俺の感情とかは関係がなくって。

 

 

 

「俺には……――――許嫁がいる。だから、エルシー様とは付き合えない」

 

 

 

 

「…………………………。ぁ、――……ぇ……?」

 

 

 

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