箱入り聖女は劣等異端審問官に不貞を囁く 〜許嫁がいると告白を断ったら、聖女さまの表情が曇って倫理崩壊した〜 作:全部オレのモノォ!!
魔国の王城、その庭園にて。
聖王国とはずいぶん植生が違う、それでも鮮やかに咲き誇る花々に囲まれたここで。
――俺はいま、人生最大のピンチに見舞われていた。
「我が騎士、サイガさま……。わたくし、貴方のことを……」
やばいやばい。嘘だろ? この雰囲気、さすがに言われなくても分かるぞ。
俺は目の前の少女を信じられない気持ちで見つめる。
神聖な白を基調とした祭服。ヴェールの下には、ピンクゴールドのふわふわした長髪に、まるでお人形みたいに整った顔立ちが。
そして、そんな可愛らしい彼女の顔はいま…………ほのかに赤く色づいて、潤んだアメシストの瞳が俺を射抜く。
こんなの。エルシー様――聖女様が次になにを言うかなんてもう……ッ。
焦る俺は、それでも立場の違いからその言葉を遮るなんてとてもできない。だから、俺はただ死刑宣告を待つしかできないがごとく、震えるように開くエルシー様の唇を見つめることしかできなかった。
そうして。
エルシー様は言ったのだ。
「――――お慕い、っしています! どうかわたくしと、男女の仲になってくれませんか……?」
あああああ。やらかした!
いや、こんなことなるなんて分からんよ。俺ずっと、ほとんど黙って仕事してただけだし! 他のやつらからは怖がられてるのに、なんでエルシー様だけッ。
いや確かに、うっすら気づいてはいたよ? 人形みたいに自分の意思を表に出さない聖女だった彼女が、俺には妙に懐いてくれてるなっていうか。まあなんか、兄妹みたいな感情ならいいなとは思ってたけど……。
「サイガさま? お返事は……」
ああ、はいはいッ。とりあえず、なにか探りを。
「気持ちは……嬉しいですが。……なぜ?」
「! 嬉しいということはっ? 受け入れてくださるという?」
「……早計だ。ひとまず会話を」
「っむぅ……いいですけど」
めっちゃ不満げだ。
そうだよな。純真無垢で聞き分けのいい理想の聖女様なんて呼ばれて、こんな顔は俺にしか見せないもんな。それ自体は嬉しいんだけども、恋人とか言い出すと。
俺はひとまず、エルシー様の言葉を待つ。
そして。
「……もうすぐ、終わってしまうので。大変だけど、人生でいちばん楽しかった日々。誰よりもわたくしを想って、何度も救ってくれたひとと過ごす毎日が」
それは。……確かに、この旅の目的である「魔国との停戦調停」は、もう間近へと迫ってるけど。
「このまま無事に調停が成ったとして。国に、教会に帰って、またサイガさまと別々の道を行くことになるなんて――――死んだほうがマシです」
「えっ」
いきなり暗い顔で、でもどこか深い覚悟を感じる言葉だ。これまでエルシー様からあまり感じたことのない、どこかネガティブで湿り気を帯びた雰囲気。
でも、言いたいことは分かったぞ。
「このまま役目を終え、教会へ帰っても。繋がりがほしいと」
「……」
確かにエルシー様の言う通り、俺みたいな一異端審問官は本来聖女と会話できる立場にない。このまま帰ったら、もう今みたいに接することはできやしない。
でも。きっとそれが俺たちのあるべき姿で。俺みたいな出来損ないの異端審問官は、エルシー様との繋がりなんて無くなった方がいいんだ。
「……そもそも、俺が出来損いってバレないようにあんま喋らなかったのに。司教に怒られる……」
「え? いまなにか?」
「いえ。それよりも…………回答を」
「!」
覚悟するみたいに身を固くするエルシー様。ちょっと恥ずかしげに、そして不安そうに眉根を下げつつ、ただ俺の返事を待つ。
そんなエルシー様を見て、本当に俺のことを好いてくれてるんだと。嬉しさと申し訳なさを覚えつつも…………しかし、答えなんて最初っから決まってたんだ。
そう。そもそも、俺の感情とかは関係がなくって。
「俺には……――――許嫁がいる。だから、エルシー様とは付き合えない」
「…………………………。ぁ、――……ぇ……?」