箱入り聖女は劣等異端審問官に不貞を囁く 〜許嫁がいると告白を断ったら、聖女さまの表情が曇って倫理崩壊した〜 作:全部オレのモノォ!!
――この魔王城は、基本的に質素だ。
石造りの頑丈な壁、床、天井、そして窓に嵌められたガラス――もちろんそれらを見れば金がかかっているのは分かる。
でも、あくまでも実用上の必要にかられてそうなっただけで、そこに嗜好の類はあまり見られない。
やっぱり俺たち人族と違う、魔族の質実剛健……というか脳筋なところがよく表れてるな。
ただ、一方で。
俺はたったいま足を踏み入れた部屋の中を見渡して、思わず呟いた。
「――悪趣味すぎる」
広い部屋のあちこちに金や銀で彩った調度品があって、絵画だとか、なんかよく分からん置き物とかも散在してる。
うーん、金がかかってるのは分かる。分かるけどこう、端的に言うと……成金趣味なんだよな。
なんてことを考えていると。
「――ふむ。これはこれは……聖十字教会の聖女殿ご一行ではないか」
そう声を上げたのは、この部屋の主人。奥の執務机にこっち向いて座ってる、やたらと華美な服を着た男だ。
そして、男の頭には捻れた二本の大角。黄金の長髪と瞳に捻れ角といえば、確かに魔王の系譜に見られる特徴だった。
そんな彼、魔国の王太子であるグリード・カルガリーは。俺と、隣のエルシー様と、ここまで俺たちを連れてきた青鬼ロコに向かって言った。
「さて。これはいったいどういう了見で――――『鬼面』の彼が、その抹殺を命じた僕のところへ来たのだ?」
……! 今のセリフ、やっぱりロコの言葉に誤りはなかったわけか。
「なぁ、ロコよ。僕が君に命じたことを忘れたか――?」
王太子は鋭い金眼でロコを睨む。
さすがは王族、すごい威圧感だ。能天気なとこばっか見せてたロコも、これに動じずには……って、なんか全然大丈夫そう。
こいつ、ぽけーっとした顔でほんのり笑みを浮かべながら王太子を見てるぞ。
「…………ロコよ。ずっとそっち側に立っているが、まさか寝返ったとは言わんな? お前に離反されれば僕の陣営は終わりだぞ?」
「裏切ってないよ。でもさ、ボク、サイガに負けちゃったんだよなー。だから勝者の言うこと聞いて連れてきた」
「ほう? このロコを凌駕した上で、僕に?」
王太子は机上で腕を組んで、三白眼で俺を射抜く。
次いで……いまなんか、流し目でエルシー様を見たな。意味深な感じで。さっきから様子が変なエルシー様も、王太子を見てピクリと反応した気がするし。
なんて、怪しい二人の様子を伺っていると。
「――それで? 聖女の鉄壁と名高い『鬼面』よ。これまで数多くの魔族を屠った、聖女のためなら教皇にも逆らったという狂信者が……いったい僕に、なんの用だ。襲撃の抗議にでも?」
腕を組んだ姿勢で、余裕綽々に首を傾げて見せる王太子。
それを見て、さすがは王族の貫禄だって第一印象だったけど……どうも、そんなこともなさそう。俺を見て組んだ手プルプル震わせてる。
「アハハハ! ボスなっさけなあい! 怖い? だいじょぶだよサイガは! 怖いのぉ?」
「だからどちらの味方だ、お前は。それに怖いかどうかなど……――――こんな物騒な男、怖いに決まっているだろうッ!」
えぇ……?
さっきまでの余裕をかなぐり捨てた王太子に、俺は思わず拍子抜けする。ちょっとコミカルに眉を吊り上げて、ロコとわちゃわちゃ言い合いして。
ていうか、何気にひどいこと言ってたな。物騒ってどういうこと? また顔の話?
俺はそう、立て続けに顔のこと言われて傷ついたり、隣のエルシー様が抗議もせずダンマリなこと不審がったりしていると。
! さっきから動きのなかったエルシー様が顔を上げた。王太子に視線を合わせて――
「――ご無沙汰しています、グリード王太子殿下」
「あぁ。これは、聖女殿。久しいな」
俺の自惚れじゃなければ、エルシー様は俺を襲ったロコの上司たる王太子に険しい顔を向けてる。
……ん? いやこれは、わずかに唇を噛んでうつむき加減で…………自責? でもなんで、と。
感情の機微を読み取って疑問に思った、その瞬間だった。
エルシー様は、まるで絞り出すように言ったのだ。
「わたくしのせい、ですか……っ?」
え。どういう意味だ? あっ、俺が王太子陣営に襲われた原因のこと? でも、狙われたのは俺なんだから俺に問題があるんじゃ……。
そんな疑問に、王太子の回答は即座に返ってきた。
「よく分かっているではないか、聖女殿。貴女の推察通りだ」
そして。
続く言葉に、俺にとってまさに青天の霹靂だったのだ。
「今回の襲撃のきっかけは、僕が聖女殿から――――『終戦調停の延期』を提案されたことだ」
思考が止まる。
は? 調停の、延期?
…………人類の平和が遠のくようなことを、なんでッ。エルシー様!
「……ぁ、ああああ、……わたくしのせいで、サイガさまを危険に……? ご、ごめ、――――っごめんなさぃい……!」
ちがう、そんなことはどうでもよろしい! それよりも、これがエルシー様の私欲による悪行だっていうなら……ッ。
俺は…………ッエルシー様を、断罪しないといけないじゃないか――――