箱入り聖女は劣等異端審問官に不貞を囁く 〜許嫁がいると告白を断ったら、聖女さまの表情が曇って倫理崩壊した〜   作:全部オレのモノォ!!

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第5話

 

 ――この魔王城は、基本的に質素だ。

 

 石造りの頑丈な壁、床、天井、そして窓に嵌められたガラス――もちろんそれらを見れば金がかかっているのは分かる。

 

 でも、あくまでも実用上の必要にかられてそうなっただけで、そこに嗜好の類はあまり見られない。

 

 やっぱり俺たち人族と違う、魔族の質実剛健……というか脳筋なところがよく表れてるな。

 

 ただ、一方で。

 

 俺はたったいま足を踏み入れた部屋の中を見渡して、思わず呟いた。

 

「――悪趣味すぎる」

 

 広い部屋のあちこちに金や銀で彩った調度品があって、絵画だとか、なんかよく分からん置き物とかも散在してる。

 

 うーん、金がかかってるのは分かる。分かるけどこう、端的に言うと……成金趣味なんだよな。

 

 なんてことを考えていると。

 

「――ふむ。これはこれは……聖十字教会の聖女殿ご一行ではないか」

 

 そう声を上げたのは、この部屋の主人。奥の執務机にこっち向いて座ってる、やたらと華美な服を着た男だ。

 

 そして、男の頭には捻れた二本の大角。黄金の長髪と瞳に捻れ角といえば、確かに魔王の系譜に見られる特徴だった。

 

 そんな彼、魔国の王太子であるグリード・カルガリーは。俺と、隣のエルシー様と、ここまで俺たちを連れてきた青鬼ロコに向かって言った。

 

「さて。これはいったいどういう了見で――――『鬼面』の彼が、その抹殺を命じた僕のところへ来たのだ?」

 

 ……! 今のセリフ、やっぱりロコの言葉に誤りはなかったわけか。

 

「なぁ、ロコよ。僕が君に命じたことを忘れたか――?」

 

 王太子は鋭い金眼でロコを睨む。

 

 さすがは王族、すごい威圧感だ。能天気なとこばっか見せてたロコも、これに動じずには……って、なんか全然大丈夫そう。

 

 こいつ、ぽけーっとした顔でほんのり笑みを浮かべながら王太子を見てるぞ。

 

「…………ロコよ。ずっとそっち側に立っているが、まさか寝返ったとは言わんな? お前に離反されれば僕の陣営は終わりだぞ?」

 

「裏切ってないよ。でもさ、ボク、サイガに負けちゃったんだよなー。だから勝者の言うこと聞いて連れてきた」

 

「ほう? このロコを凌駕した上で、僕に?」

 

 王太子は机上で腕を組んで、三白眼で俺を射抜く。

 

 次いで……いまなんか、流し目でエルシー様を見たな。意味深な感じで。さっきから様子が変なエルシー様も、王太子を見てピクリと反応した気がするし。

 

 なんて、怪しい二人の様子を伺っていると。

 

「――それで? 聖女の鉄壁と名高い『鬼面』よ。これまで数多くの魔族を屠った、聖女のためなら教皇にも逆らったという狂信者が……いったい僕に、なんの用だ。襲撃の抗議にでも?」

 

 腕を組んだ姿勢で、余裕綽々に首を傾げて見せる王太子。

 

 それを見て、さすがは王族の貫禄だって第一印象だったけど……どうも、そんなこともなさそう。俺を見て組んだ手プルプル震わせてる。

 

「アハハハ! ボスなっさけなあい! 怖い? だいじょぶだよサイガは! 怖いのぉ?」

 

「だからどちらの味方だ、お前は。それに怖いかどうかなど……――――こんな物騒な男、怖いに決まっているだろうッ!」

 

 えぇ……?

 

 さっきまでの余裕をかなぐり捨てた王太子に、俺は思わず拍子抜けする。ちょっとコミカルに眉を吊り上げて、ロコとわちゃわちゃ言い合いして。

 

 ていうか、何気にひどいこと言ってたな。物騒ってどういうこと? また顔の話?

 

 俺はそう、立て続けに顔のこと言われて傷ついたり、隣のエルシー様が抗議もせずダンマリなこと不審がったりしていると。

 

 ! さっきから動きのなかったエルシー様が顔を上げた。王太子に視線を合わせて――

 

「――ご無沙汰しています、グリード王太子殿下」

 

「あぁ。これは、聖女殿。久しいな」

 

 俺の自惚れじゃなければ、エルシー様は俺を襲ったロコの上司たる王太子に険しい顔を向けてる。

 

 ……ん? いやこれは、わずかに唇を噛んでうつむき加減で…………自責? でもなんで、と。

 

 感情の機微を読み取って疑問に思った、その瞬間だった。

 

 エルシー様は、まるで絞り出すように言ったのだ。

 

「わたくしのせい、ですか……っ?」

 

 え。どういう意味だ? あっ、俺が王太子陣営に襲われた原因のこと? でも、狙われたのは俺なんだから俺に問題があるんじゃ……。

 

 そんな疑問に、王太子の回答は即座に返ってきた。

 

「よく分かっているではないか、聖女殿。貴女の推察通りだ」

 

 そして。

 

 続く言葉に、俺にとってまさに青天の霹靂だったのだ。

 

 

 

「今回の襲撃のきっかけは、僕が聖女殿から――――『終戦調停の延期』を提案されたことだ」

 

 

 

 思考が止まる。

 

 は? 調停の、延期?

 

 …………人類の平和が遠のくようなことを、なんでッ。エルシー様!

 

 

 

「……ぁ、ああああ、……わたくしのせいで、サイガさまを危険に……? ご、ごめ、――――っごめんなさぃい……!」

 

 

 

 ちがう、そんなことはどうでもよろしい! それよりも、これがエルシー様の私欲による悪行だっていうなら……ッ。

 

 俺は…………ッエルシー様を、断罪しないといけないじゃないか――――

 

 

 

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