箱入り聖女は劣等異端審問官に不貞を囁く 〜許嫁がいると告白を断ったら、聖女さまの表情が曇って倫理崩壊した〜 作:全部オレのモノォ!!
決闘はまずいッ。なんせ、彼ら魔族にとっての決闘といえば――
「――断ることも、半端に受けることも許さんぞッ。僕はこの戦いに……魂を賭ける!」
王太子の決意に満ちた声とともに。彼から噴き出す魔力の勢いがさらに一段増した。
「これは、魔族固有の……誓約魔術か!」
「ハハハ、さすがよく知っている! 王族の魂を賭けた誓約だ。たとえ聖女殿の解呪でも反故にはできない!」
クソ、やられたッ。
誓約魔術――術者と被術者の二名に同じ誓約を設定し、破った者は大きなペナルティを受ける。
王太子は自分のペナルティに魂を賭けた。つまり俺が誓約を破った場合にも同等のペナルティが課される。さらに血統による魂の格の差を利用して、誓約に同意もしてない俺を無理やり魔術に嵌めたんだ……!
それで――
「誓約の内容は……ッ?」
「無論――決闘の勝者に、聖女殿への求愛の権利を!!」
意味わからん! クソ、でも逃げ道はないわけだ。一方的に決闘を強制できるとか、戦闘民族の王子すぎる……。俺が勝ってもメリットないし。
「……いや、メリットどころか和平に影響が出そうだ」
厄介すぎる。これわざと負けた方がいいのでは? 早々に降参するとか。
「勝利条件は相手を殺す、ないしは戦闘不能にすることだ! もちろん戦わずして負けを宣言するなど軟弱なことはナシッ」
選択肢を即潰された。戦闘民族すぎる。どこが穏健派なん。
ええ、やるしかないのか? 王太子怪我させるとか外交問題なんだけど……。
俺は困って、しがみついてくるエルシー様に視線を落とす。そして首を傾げた。
…………あれ、もう泣き止んでる? じゃあそこでなにしてんの?
まあ、泣き止んでるならさっきまでの話は聞いてたよな。それじゃあ……。
「――エルシー様。……この決闘、どのような結果を望まれるので?」
「えっ」
ぎゅうっと腕に押し当てられてた顔が離れる。現れたのは泣き腫らした赤い目と、同じく赤く染まった頬。
なんか驚いてるというか、意表をつかれたような顔してる。
「……さ、サイガさまは…………わたくしのために、戦ってはくれないのですか……?」
いまエルシー様の意向聞いたじゃん! エルシー様のためだよそれは。
さっき俺がちょっとエルシー様を疑っちゃったのを気にしてるのかな。もう少し詳しく話は聞きたいけど、確かに酷いことしちゃったし……。
「……先ほどの態度はすみません。でも、俺はエルシー様の護衛だ。――エルシー様のためなら王太子とも戦う」
だから、バカな俺に教えてくれ。俺はどうすればいい? どうすれば終戦に近づく? エルシー様……!
正しい行いのためならなんでもすると、そんな意志を込めて真っ直ぐエルシー様を見つめる。
すると、エルシー様は目を大きく開いて、口に手を当てて。いやに大袈裟な反応を見せる彼女は、さっきよりもよっぽど顔を赤く染めて……そして、言った。
「っじゃ、じゃあ……それじゃあ……っわたくしのサイガさま――――どうか、勝利を!」
よしきた。まかせろ!
……ん? いまなんか言った? 「既成事実」とか聞こえたような……………………ま、気のせいか!
ということで。
いま俺は、決闘場とかいうよく分からん場所で王太子と向かい合っている。
なんだよ決闘場って。決闘のためだけの部屋作るとか魔族すぎる。
ただ、この部屋自体に結界や治癒の魔術が付与されてるみたいだから、相手を殺すことや周囲への被害を気にしなくて良さそうなのは助かった。
「この部屋の治癒魔術より……わたくしのほうがずっと……」
なんかぼやきが聞こえたけどそりゃそうだよ。聖女だからね。治癒においては世界一だし。ただ――
「僕かお前、どちらかが倒れるまで外野の手出しは厳禁だ」
「ああ。分かってる」
それがいいなら、ずっとエルシー様に治癒魔術打ってもらえばいいもんな。不死身の戦士の誕生だ。ぜったい負けない。
でも、それをすると誓約に反するみたいだから。ほらアレ、魂がなんかえらいことになるからね。
俺は向かい合う王太子をじっと見つめる。華美な服で分かりにくいけど、よく鍛えられてるな。で、武器はない……。魔族は肉体を魔力で強化したり、魔力を武器の形にしたりするの多いもんな。
そして、その肝心の魔力だけど――やっぱりかなりの規模だ。そもそも魔族っていうのは、人間よりずっと魔術適性が高い種族。だてに戦闘民族じゃない。
穏健派筆頭なんて呼ばれてるけど、まったく油断できる相手じゃなさそうだ……!
と、俺と王太子が睨み合っている横で、外野はというと――
「――でなー? ひどいんだよボス。ボクはイヤだって言ったのに、いいから鬼面を襲ってこいって」
「そう、だったのですね。ロコちゃんのように小さな子に無理やり……サイガさまを襲わせるなんて……っ」
なんか仲良くなっとる。確かにロコ、人懐っこくて良い子そうだけども。
「諸悪の根源はあの男……。訳のわからない勘違いでサイガさまを害そうとするなんて。………………でも、サイガさまが勝てば雨降って地固まる、かも?」
それは和平に近づく的な意味だよな? さっきなんかボソッと言ってた話とは関係ないね?
なんて、よそに気を取られていると。
「――さあ。そろそろ始めるぞ鬼面よ!」
「……ああ。俺はいつでも」
「フハハ、いい覚悟だ! ではとうとう、この僕が聖女殿を娶るための第一歩を……!」
そう叫んだ直後。魔力を充溢させていた王太子は、「はぁぁぁあ!」と力を込め始める。
すると…………ッただでさえ強力だった魔力が、さらに何倍にも?
「ハーハハハァ!! どうだ鬼面よ! この僕の魔力はァ!」
「これは……魔族とはいえ、いくらなんでもッ」
「気づいたか!? そうだ、これは僕だけの魔力ではない!」
それは、どういう――
「これは――この決闘場に仕込まれた術式の効果! 僕に対してだけ発動する魔力増強だァ!」
な……姑息な。いいのか、戦闘民族たる魔族がそんなの!
「ハハハハ! 下準備も含めて、出来ることをすべて尽くした結果が実力というもの! この王族専用決闘場に施されたいくつもの戦闘術式がそれを肯定しているぅ!」
そう気持ちよさそうに叫んだ王太子に、外野から非難の声が飛ぶ。
「ウワー。ボス、そんなこと思ってたんだ。ふつうに卑怯者だよぉ」
「そこ! うるさいぞロコよ! どちらの味方だお前はッ」
「…………ひどいです、こんなの! 初めからサイガさまにだけ不利な条件なんて……! それがいいなら、わたくしも出来うる限りの付与魔術を決闘前に――」
「――あー! それはダメだ! ダメダメ! そんなことをされては僕が殺されてしまうッ」
「サイガさまこちらに! 【白光】、――」
「ダメだと言っているッ!」
賑やかすぎる。えっ決闘ってこんな感じ? もっとこう、厳かにっていうか、厳格なものだと思ってたんだけど。王太子は卑怯なことしてくるし。
今もほら、王太子がエルシー様を言葉で邪魔しようとして、ゾクっとする絶対零度の視線を向けられてる。それでそんなに落ち込むくらいなら初めから正々堂々来いよ。
エルシー様も他国の要人にそんな目向けちゃダメだって。関係悪化が……。
「む、なにやら全方位から軽蔑の眼差しを向けられている気がするぞ……。心外な!」
「そりゃそだよボスー。アハハ、決闘勝って求婚してもぜったい断られるねえ」
「わ、分からんだろうそれは!」
むっとした様子で声を上げる王太子だけど、その感情が向いてるのはエルシー様じゃなくてロコだ。
この様子ならまあ、大丈夫そうか? ……それなら。
「王太子殿下。いい加減、始めよう」
「む。僕が言うのもなんだが……この僕の魔力を前に、まったく動揺していないな。さすがは百戦錬磨の異端審問官というところか」
王太子はそう意外そうに言う。
「しかし。……僕を前に余裕を見せたこと、後悔させてやろう」
「サイガさま……! わたくしの援護はっ?」
僕を睨んで素手で構えを取る王太子と、不安そうに声を上げるエルシー様。
正反対の感情を見せてるようで、それでも二人の根底にある考えは同じだな。要は――
「――俺のことを、舐めている」
俺は、問答の最中に練り上げた魔力を解放した。王太子に勝るとも劣らない勢いで外界へと現れる。
「ッな、この魔力は……!! 魔族でも上澄みであるこの僕よりも……!?」
王太子と、他二人が上げる驚きの声にも構わず。
俺は言った。
「俺は、教会戦力における最大魔力保有者だ。さあ――――やろうか」