第1話【Into an Era of War.-始まりの日・1-】
人類が文明を築き始め、既に途方もない刻が流れた。
かつては緑と青に包まれていた母なる星は、今となっては荒れ果てた荒野となり、海はかつての人類が行った愚かな行為を映し出すかのようにどす黒く濁っている。
現在、太陽系に生きる人類の9割は宇宙のラグランジュポイントに建設されたコロニーといった巨大建造物や、月都市、火星や木星等のテラフォーミングに成功した惑星で人生を謳歌していた。
◈◈◈◈◈
時は
新年の始まりを告げる鐘とともにコロニー『Cn-07』で住む人々は祝砲を上げ、神社へお参りに行き、就寝し、各々の形で新しい年の1日目を過ごし始めていた。
コロニー『Cn-07』、それは稼働中コロニーの中で最初期、要するに暦がS.C.になってすぐの頃に作られた最古のコロニー郡『00』の中でも7番目に建造された住居用コロニーである。
最大生活可能人間は約1000万人で、最古のコロニー郡で唯一、コロニー内で可能となっている全ての要素が集約された実験的コロニーの側面も持ち合わせていた。
01コロニーでの農業、02コロニーでの工業、03コロニーでの住居、04コロニーでの教育・病院施設、05コロニーでのショッピング施設、06コロニーでの娯楽施設…それらを1つに集約したものが07コロニーであり、これは以降に建造された10コロニー、20コロニー、30コロニー…と続く現存コロニーでのテンプレ的存在となっている。
「…こんなありふれたコロニーで反連合のモビルスーツが開発されているとはな」
『Cn-07』と『Cn-06』宙域の間に漂うダミー隕石の中に隠された『宇宙コロニー連合』軍属特殊作戦実行組織『カタクリノ』専用艦・『コンデムネーション』、そこである粛清作戦の準備が進められていた。
その粛清対象は反連合組織『シエル』の新型モビルスーツ開発計画『Project:V』、それによって生み出されたモビルスーツの破壊と押収である。
軍の情報では新型宇宙艦の開発も進んでいるとの噂も存在するのだが今回の作戦での優先順位は高くなく、上層部はできたらでいいとの考えらしい。
「ありふれた所だからこそやりやすいんじゃないっすか?先輩」
「…聞いていたのかユウリ・フラワー伍長」
ユウリ・フラワー、彼はこの艦で一番の新入りである。
新型量産機『イーゲル』のパイロットで、その腕はかなりのものだ。
イーゲルが歴戦の猛者も慣れるのに時間のかかる少し癖の強い万能機で、それを初テストの時から難なく乗りこなしていることも考えるとセンスの塊だろう。
「というかそもそも、コロニー以外でモビルスーツの開発が可能な所ってなくないっすか?」
「いや、最近だと火星と木星でもモビルスーツの生産が始まったと聞く。秘密裏にな」
「秘密裏に、ですか…連合に隠れてって戦争でもする気なんです?惑星同盟らは」
木星、火星、月の間に結ばれた『惑星同盟条約』。
それは宇宙コロニー連合という名の政府と決別した三惑星が各々で経済を回し、生きるために選んだもの。
彼らは、コロニー連合が長年搾取してきた結果の独立と謳っているが背景の裏にはコロニー連合を潰すという目的もあった。
コロニーは1回穴を開けてしまえばそこから空気が漏れ、中に住む人々は死に絶える。
それ故にコロニーは厳重に守られ、数回の弾薬とビームくらいなら軽く耐えられる特殊な材質を混ぜた金属板で硬く作られている。
そんなコロニーに穴を開けるのは容易ではない、だが三惑星との質量戦になれば数個は確実に破壊され、数千万の人々は簡単に宇宙の藻屑になるだろう。
それを起こさないために我々がいるのだが。
「先輩、どうやら準備終わったらしいっすよ」
「…そうか、お前はイーゲルの起動準備に取りかかれ。俺もすぐに行く」
「了解っす」
ユウリはお手本のような敬礼をしたあと、モビルスーツ格納庫へと移動した。
「…Project:Vか。Vは五機のモビルスーツということか?それとも新機のコードネームか…」
プロジェクト名に特に意味がないと言うことはないだろう、そもそも五機ある前提で動いた方が成功確率は高い。
ただ、問題があるとしたら…その新機の性能が未知数であること。
五機だけでコロニー連合に立ち向かう前提の設計だった場合、一機一機がワンオフ機以上の性能を持っているか、特殊な機能を備えている可能性が高い。
…いや、可能性を考えたらキリがない。
「…行くか」
少しの不安を抱きながら、モビルスーツ格納庫へと向かった。
◈◈◈◈◈
(ラグランジュポイント1、エリアAを通過。周りに不審な影無し。モビルスーツ発進どうぞ)
「ユウリ・フラワー、イーゲル出るぜ!」
そう言ってユウリは、赤みのかかったモノアイを光らした灰色のモビルスーツを発進させた。
その後に続いてゲルが5機発進し、俺も後に続く。
「メイス・ファフティマ、ゲルセカンド発進する」
己の名と搭乗しているモビルスーツの名を口上し、カタパルトデッキから飛び立つ。
(メイス・ファフティマ部隊長、連合軍情報部から新しい情報が入りましたのでそちらのミニモニターに映します)
「頼む」
そうして情報部から送られてきた情報は、どこの者によって開発が主導されていたか、そして…機体のシルエットだった。
「二本の角に、白と赤を基調とした新型モビルスーツか…」
主導した人物はかつてゲルシリーズの開発に携わり、数年前に軍の機密情報を持ち出して逃亡したゴロウ・エテル。
どうやら月に潜伏していたらしく、数日前に身元がバレ、逮捕されたらしい。
その時に押収したPC等にProject:Vの情報があり、発覚。
それ故に俺たちが今、こうして特殊作戦を遂行中という時系列だ。
「ゴロウは新型の名を戦神や救世主、革命と呼んでいる…か」
革命のためのモビルスーツ…そういえば昔の文献で、時代が西暦だった頃に起きた五年戦争であるモビルスーツがそう呼ばれてもいたな。
「…ガンダム」
五年戦争の末期にコロニー連合の前身となった組織が投入した白きモビルスーツの名が確かそんなだった。
1000年以上前の大戦の文献の上、そんな昔の話を知っている者は余程の歴史好きでもなければ引っ張ってこないような名だ。
だが…。
(先輩、コロニー内に潜入するっすよ)
「…ああ、わかっている」
考えるな、どうせ奴らの目論見は潰えるんだ。
ただ、この作戦を成功させることだけを考えるんだ。
ユウリがコロニー内部へ通じる通路を開け、続々と侵入を開始する。
宇宙空間とコロニーの内部は勝手が違うため侵入直前にコロニーの重力に対応できるよう操作を地上用に切り替えながら通路を進む。
暗い通路を抜け、内部へと侵入するとコロニー中から一般人が避難する声が聞こえた。
「今のうちに探すぞ、混乱に乗じて奴らが外に逃げたらそこでお終いだ」
「わかってますよ、先輩」
ユウリはそう返しながらスラスターを吹かせ、コロニーの地表へと降下し始める。
この後にゲル部隊も降下し、家の屋根を破壊し始めた。
「何か隠してる痕跡は見当たらないっすね」
「そりゃあ奥のブロックに隠しているんだろう、時間を稼ぎながら逃走の準備ができるようにな」
「わかってるっすけど、裏をかいている可能性だってあるってわかるっしょ?」
「ああ、だから俺と後から合流予定のゲルIII部隊は中央ブロックと奥ブロックを重点的に探す。ここは任せたぞ」
「了解っす」
ユウリと作戦の確認をすぐに終わらせ、奥ブロックへと移動を開始する。
スラスターで機体を浮かせ、飛行形態へ移行、そのまま数百km先の奥ブロックへ飛ぶ。
「…ん?」
途中、避難ブロックへ移動せず、住宅街のある方向へと走る少女を見かけたが気にせず飛ぶ。
数分後奥ブロックへ到着し、屋根の破壊を開始した。
半分くらい破壊し、ないことを確認。
中央ブロックにゲルIII部隊も到着した頃、コロニー外で待機していたスナイパーゲル部隊からある通信が入った。
(コロニー内部から出てくる所属不明機と戦艦が出てきました!)
「何!?どんな形状をしている!」
(白い機体です!角のようなものが2本あって、頭部には【GUNDAM】…?と書かれてます!)
「…ガンダムだと!?」
(はい…っ、?な…ザ…う…ザザー…く…るなーザザ…!)
その直後、突然通信が切れた。
少し嫌な予感がし、コロニー外で移動を開始してすぐに『スナイパーゲル部隊全滅』との連絡が入った。
「ガンダム…だと!古き英雄の名を語るなよ、テロリスト!」
この日、この白きモビルスーツの登場によって、世界は再び戦乱の世へと移り変わることを…人々はまだ知らない。
コロニー…基本的にこのスター・センチュリー世界ではCn(コロニー・ナンバー)の後に建造番号は付けられる。
宇宙コロニー連合…五年戦争でかつての世界政府に勝利し、宇宙と地球の自治権を手に入れた者たちが立ち上げた政府である。
惑星同盟条約…三惑星間で締結された条約。内容は三惑星間での貿易や、武器などの輸入や輸出、核などの共有、三惑星間での戦争の禁止といったルールを取り決めたもの。
軍属特殊作戦実行組織『カタクリノ』…コロニー連合に武力行使しようとする者に対して事前に粛清を実行することが可能の組織。軍属と謳われているが実際は政府直属の組織である。
反連合組織『シエル』…三惑星同盟傘下の水星がコロニー連合を潰すために結成したテロ組織。三惑星同盟から預かったガンダムを使い、コロニーと地球に対するテロ行為を行おうと画策している。