目を開けると、そこは球体のような空間の中だった。
その空間にはコロニーの中から見慣れた宇宙の景色が広がっており、遠くで輝く星々もくっきりと見える。
ここはどこだろう、と身体を動かすと手に何か、硬い棒のようなものが当たった。
そこに目を向けると、それは何かを操縦するための操縦桿だとわかった。
そして目を少し下、胸の高さ辺りには操縦パネルがあり、顔付近にはモニターがあった。
「GUNDAM…?」
モニターの右下に小さく、【GUNDAM.No001:Vx11-Valkyrie】と書かれていた。この空間の名称だろうか。
だが、空間ならどうして操縦桿やモニターがあるのだろうか。
というかそもそも何故、こんな所にいるのだろうか。
私、マナ・クルスザカは齢15の頭で思い出そうとした時、外から光のようなものが通り、直後に空間が揺れた。
「なにっ!?」
状況を知ろうと、周りを見渡してすぐさま入ったモニターには、こちらへと銃を向ける人型が10機、小さく映っていた。
宇宙で銃といったものを難なく扱えるのは恐らくモビルスーツだろう。そうなると先程の光はビーム…あれはビームライフルだ。
「てかなんで…?」
では何故、私に向かって撃ってくるのか。
心当たりがなかった、だが一つだけ、わかったことはある。
「戦わないと、死ぬ!」
そう思ってから一瞬、いや少しの間だろうか。
記憶が途切れ、意識を取り戻した時には目の前にモビルスーツの残骸が漂っていた。
「…え」
モビルスーツの残骸、その間に見え隠れする人だったものが目に入り、状況を理解した。
死んだのだ、見知らぬ人間が。
初めて目にした死体を、吐き気を堪えながら見続ける。
目を離せなかった。
今すぐにでも見なかった振りをしたかったのに、何故か見続けるしかできなかった…いや、身体が動かない。
そして同時に思い出してしまった。
こんな事になるまでの記憶を。
◈◈◈◈◈
およそ20分前。
『Cn-07』で過ごす私にとって、クルスザカ家長女の私にとって、新年は下の弟妹を寝かしつけるところから始まる。
母は『Cn-13』の中学校で教鞭をとっているため、中々帰ってこず、父はここ数年地下に籠りきりだ。
故に私が家事育児全てやらなければならず、学校を中退してまで家に縛られる日々を送っている。
唯一、心休まる瞬間はこういった長期休みの期間、毎日家に来てくれる親友のメイと居る時間だ。
弟妹が歯磨きをしている間、私は外に干していた洗濯物を取り込み、畳む。
「…はぁ」
新年はいつもこうだ。
またこんな日常が続くのか、私だって人生を謳歌したいだとか、そんなことばかり考えて逃げ出したくなる。
だが中学すらまともに卒業できないであろう私が逃げ出しても生きていけるわけがない。
身体を売るくらいしか選択肢はないだろう、それはなんか嫌だ。
「なにか…起きないかな」
私はこの瞬間、どこか非日常を求めていた。
そんなものを求めてはいけないと何となくわかっていながら、求めてしまった。
「…?」
コロニーに何かが落ちてくる音が聞こえた。
ベランダから庭に出て、塀に登り周りを見渡す。
「モビルスーツ…!?」
かなり向こう、コロニー港がある方向で人型の巨大ロボ…モビルスーツがスラスターを吹かせながら地表に降り立つのが見えた。
そして、コロニー連合の紋章を肩に入れている灰色のモビルスーツが家の屋根を破壊し、何かを探し始める…いや、そう見えたというだけなのだがそうとしか見えなかったのだ。
私はここも危ないと思い、塀を降りて弟妹に歯磨きを中断させ、避難ブロックへ移動する準備を始めさせた。
私も2階へ続く階段を上がり、自分の部屋から財布とスマホ、モバイルバッテリーと缶詰め等を入れているリュックを手に持つ。
大雑把に確認をした後に下に降りると、メイが心配になって見に来ていたようだ。庭で手を振っていた。
「おーい!」
私はベランダの鍵を開け、庭に出た。
弟妹も続いて庭に出、メイと共に避難ブロックへと移動を開始する。
「あ」
「どうしたん?マナ」
避難ブロックに着いた頃、あることを思い出した。
「いや、親父がまだ地下室にいるかも」
脳裏に親父の存在を思い出した私は、メイに弟妹を任せて家へ戻る。
途中でコロニー内を飛ぶ戦闘機のようなものが頭上を通ったが気にせず走り、家に戻った。
「えっと…地下のパスは」
パスワードは確か親父の誕生日…0401を入力するとロックが解除された音がしたので半ば乱暴に開き、地下への階段を降りる。
「親父!」
そこに親父の姿はなかった。
だが、目の前には巨大な人型のようなものが入っていた。
「…なんだ、これ」
その直後、後ろから針のようなものが刺され、記憶が途切れた。
◈◈◈◈◈
…というのが覚えていることの全てである。
恐らくあの巨人はモビルスーツで、親父はあれを開発していたのだろう。
で、針は麻酔薬を投与された…と考えるのが妥当か。
それを刺したのはきっと親父で、この空間はモビルスーツのコックピット…その内部だろう。
「…でも、私は操縦したことない」
一つ、疑問に感じた。
親父がモビルスーツに乗せたのだとして、親父は私がモビルスーツやプチモビにすら乗ったことのないただの人間だと言うことくらい分かっているはず。
それでも乗せて、宇宙に出した理由は?というかどうやって宇宙に?
分からないことばかりだ、一旦整理した方がいいだろう。
と、状況を確認するために操縦パネルの隣に置いてあった説明書のようなものを手に取り、読み込む。
「えっと…機体を見るにはここと…」
パネルを説明書通りにタップすると、機体に関するデータがモニター端に映った。
「このモビルスーツは革命のための機体…。親父は何に乗せたんだ」
革命、その意味は何となくはわかるが何に対して革命するつもりなのか私にはよく分からない。
コロニー連合に?仮にそうだとして、平和に暮らせているのになぜ壊そうとしてるのか。
そうなると親父はどこの所属なのか…これに関しては三惑星同盟の人間なのだろう、親父は。
「…分からないよ」
そう呟いたと同時に光の一本線が機体に直撃した。
「ビーム!?どこから!」
状況を一瞬で飲み込み、すぐにモビルスーツの操縦を開始する。
身体が分かっているかのように動く。
ここを押せば武装が使えるだとか、操縦桿をこう倒せば腕が足が動くとか。
「なんなの」
今は特に考えないことにした、今は生きることだけを考えろ。
腰に装備されていた二本のライフルを合体させ、長距離用ビームスナイパーライフルで周りを飛ぶ五機のモビルスーツを撃ち落とす。
ビームを避けながら向かってくる二機にはライフルを分解し、二丁のライフルで応戦。
(そんなものか!テロリストォ!)
(今すぐ投降するっすよ!死にたくなければ!)
二機のモビルスーツパイロットのだろうか、思念のようなものが脳裏を横切ったが気にせず攻撃を続ける。
一機のモビルスーツがビームを掻い潜って下に攻撃を当てた時、聞き覚えのある声が聞こえたような気がした。
(いやっ!)
メイ?何でメイの声が聞こえるの?ここにはいないはず…。
そう思いながら下を見ると、このモビルスーツは戦艦のようなものの上に立っていた事に気づいた。
そして、戦艦の中にメイがいると直感で分かった。
「何で…?」
考えるな、今はこのモビルスーツを倒すんだ。
私は無意識に背中からビームサーベルを抜き、戦艦に攻撃したモビルスーツに斬りかかる。
サーベルは胸の下辺りを貫き、モビルスーツが電気のようなものを纏い始めた。
爆発するのだろう、サーベルを抜き、もう一機のモビルスーツに投げる。
そのモビルスーツは爆発寸前のモビルスーツを操縦しねいたパイロットを救出し、遠くへと消えていった。
「…なんだったの」
分からない。
だが、あのパイロットは私に対してテロリストと言っていた。
親父がやろうとしていたことは国家転覆?革命?分からない…だけど、私は巻き込まれ、人を殺したんだ。
今更日常へ戻ることはできないだろう。
「…あ」
戦艦の存在を思い出し、何処かから入れないかと試みる。
立っていたのが運良くカタパルトデッキだったためすぐに見つけることができ、モビルスーツ用のハッチを開け、中に入る。
ハッチを開けたまま外に出ようと思い、操縦席を立とうとした時、宇宙服を着ていないことに気づいた。
「…はぁ」
モビルスーツでハッチを閉め、コックピットを開ける。
空気はある、窒息の心配はない。
コックピットを出ると、その空間は無重力となっていた。
コロニーですら中々感じることのできない無重力を少し堪能した後、戦艦内部へと通ずるのであろうドアを見つけた。
「メイ…探さなきゃ」
戦艦内に感じた親友の存在、それを確認するために内部へ通じるドアを開ける。
それが、その選択肢が、私を戦争の渦中に突き進めることになるなんて…この時はまだ思ってもみなかった。
S.C.1022年1月1日午前1時1分。
後の歴史で言うところの、第一次宇宙大戦始まりの日である。
マナとメイ、親友は謎の戦艦の中で再開する。
だが、二人に再開を喜びを感じる間を世界は許さなかった。
強襲するは、カタクリノ最大戦力『アルバート艦隊』、対するはガンダムヴァルキリー一機のみ。
少女は親友と共に生きるために戦闘を選ぶが、メイは…。
次回、機動戦士ガンダムヴァルキリー第3話。
近日更新予定。