第3話【襲来、アルバート艦隊】
無重力、人はどんなに慣れてしまっても"それ"を本能的に"怖い"と感じてしまう。
生まれた時から宇宙で過ごす私たちであっても、人間である限り、"それ"と向き合い続けなければいけない…と学校の先生は言っていた。
だが、生まれてこの方故郷の『Cn-07』コロニーを出たことのない私にとって初めての無重力は、そこまで怖いと思わなかった。
何故なのかは分からない。
この窓から見える星々は美しく感じたけれど、凝視していると飲み込まれそうなほどに果てしなく続く、宇宙と呼ばれる暗闇は少し恐ろしく感じた。
けれど、無重力は何処か自由に感じて…心地の良いものと思えてしまったんだ。
◈◈◈◈◈
私の乗っていたモビルスーツ、それが棒立ちしていた謎の戦艦に乗り込み、親友のメイを探し始めて大体10分程が経過した。
宇宙服が管理してあった部屋と、食堂のような部屋、洗濯機と大浴場のある部屋、食料品が置いてある部屋を探し終わり、今は居住スペースを1部屋ずつあたっていた。
「にしても…この戦艦ホント広いなぁ」
途中、食堂で見つけた戦艦の見取り図で色々な部屋があることが分かり、居住スペースは戦艦中央部に位置する中央広場の東と西で各25部屋…計50部屋ほどが用意されている。
そのうちの25部屋は2人部屋、10部屋は4人部屋となっており、かなりの人数が過ごすことを前提とされているようだった。
「大浴場も、食堂もかなりの広さだったし、洗濯機もかなりの量が置いてあった…この戦艦は何をするための艦なんだ…」
カタパルトデッキが上下計4つ、その間に生えた巨大大砲、巨大レールガンが横に2砲の戦艦…戦争が目的なのは想像にかたくない。
が、この戦艦の設定者はモビルスーツ格納庫に意図したような空間を残している。
見取り図ではブリッジに上がることのできる中央広場の下、私が入ってきた格納庫の奥側にかなりの空間が開いているように見えた。
…流石に私の考えすぎだろう。
悪い癖だ、ありもしないものを突き詰め過ぎようと思考を巡らせるのは。
「えっと、最後はここか」
居住区東棟最後の1部屋、その扉前に立ち、スマホで撮って置いた見取り図で確認する。
この部屋だけは確認したという印の✕を見取り図に書いていないので間違いないだろう。
「誰かいますか?」
そう内側に聞こえるであろう程度の声で呼びかけながら扉を開ける。
この艦のドアは今どきでは珍しい錠タイプで、それも鍵が閉まっていない。
艦の扉といえばパスワードを入力だとか、キーカードみたいなもので開けるタイプなのかと思っていたので正直拍子抜けだったのは秘密だ。
「…誰?」
部屋の奥には窓から宇宙を眺めているメイの姿があった。
「メイ…」
「…マナ?」
私の声に反応したメイが窓から離れ、私の胸元に飛びついてくる。
「怖かった…ここどこなのか分からなくて、私…」
メイは少し震えた声をしていて、だけど安堵したような顔をしていた。
「私もだよ…何なのか分からないの、この艦」
私はメイの背中に手を伸ばし、抱きしめる。
「それに、何処かに向かってるみたい」
不意に目に入った窓から見えた『Cn-07』コロニーが遠くに見える星ぐらい小さくなっており、艦が動いているのが分かった。
「どうなるんだろ、これから」
そう言葉が口から漏れた直後、艦がなにかに当たったような音がし、少し揺れた。
「なにっ!」
(あーあー、こちら『宇宙コロニー連合』軍属特殊作戦実行組織『カタクリノ』所属、『アルバート・テンシュリー』である。これよりそちらの艦に対して攻撃を仕掛ける。但し、降伏して情報の提供に対応してくれるのなら温情もかけてやれる。直ちに降伏し、協力してくれると助かる)
「反乱分子…?」
「どうしたの?」
また何かの言葉が脳に流れてきた、なんなのだろうか。
メイは何も聞いてないということなら幻聴なのだろうと切り捨てたいところではある。
だが、先程のが幻聴でないことが分かった以上は動くしかない。
「…いや、何でもない。少し離れるからこの部屋で大人しくしててね」
そう言って部屋を出、私はモビルスーツを置いてきた格納庫へと向かった。
◈◈◈◈◈
「アルバート提督、あちらに聞こえないのにやる意味あるんです?それ」
「形だよ。形でもやったという証拠さえあれば聞こえなかったあちらさんが悪いということにできるだろう」
「はぁ…」
『カタクリノ』の中でも最大規模の艦数を誇る『アルバート艦隊』、その艦隊を率いる男が『アルバート・テンシュリー』である。
提督の名に似つかわしくないこの美青年はコロニー連合の発足当初から軍事で支え続ける貴族『テンシュリー伯爵家』のご子息にして次代当主筆頭候補である。
その手腕はトップクラスであり、モビルスーツの腕も良い。
「にしても、あのメイスが作戦を失敗するとは…中々やるようだな。シエルの新型モビルスーツとやらは」
「はい、それもガンダムの名を冠しているとか」
「ガンダム…こちらの象徴的存在を騙るとは、そのシエルとやらはコロニー連合という体制を壊したいと見える」
「…というと?」
「我らがコロニー連合は
「こうあらためて聞くと長いですね」
「だな。故にコロニー連合自体が腐敗していた時期もあるのだが、今もこうして存続され、市民から政府として支持を得れている。それを壊そうとするのならそれなりの理由があるのだろう。わざわざ歴史上のモビルスーツであるガンダムの名を新型につけるくらいだ」
「…よく分からないのですが」
「俺もだよ。奴らは何を考えているのか分からぬさ。だが、それなりの理由があるのだろう。軍としてそれを見過ごすことはできんがな」
「はぁ…」
「…さて、モビルスーツを発進させろ。あちらからガンダムが来るぞ」
「え?」
「来るのだよ。戦士としての直感さ」
ガンダムよ、来るのだろう。
かかってくるがいい、体制を破壊するためのモビルスーツ、その性能とやらを見せてくれ。
「レーダーに金属反応!所属不明のモビルスーツ、ガンダムだと思われます!」
アルバート艦隊のモビルスーツに苦戦を強いられるマナとヴァルキリー。
彼女の危機を察知したメイは導かれるかのように格納庫へと足を進める。
そこで目にしたのは2機目のガンダム、ヴァニタスであった。
次回、機動戦士ガンダムヴァルキリー第4話。
近日更新予定。