どう考えてもお荷物の俺を、最強パーティの幼馴染たちが追放してくれない 作:ひじき次郎
大陸中央部に広大な版図を持つ、レグナ王国。
北には一年の半分を雪に閉ざされる大山脈が連なり、東には人の手がほとんど入っていない大森林が広がる。
西方には魔物の跋扈する荒野。
南部には、かつて栄えた古代文明の遺跡が数多く残されている。
人々が暮らす街や村には王国軍が駐屯し、主要な街道にも兵士や騎士が配置されている。
だが、それで守れるのは人の領域だけだ。
一歩街道を外れれば、そこはもう人間だけの世界ではない。
森には魔獣が棲み。
山には竜が巣を作り。
地下には、いつ誰が築いたのかさえ分からない迷宮が眠っている。
時には、それらが人の領域へと姿を現すこともある。
だからこそ、この国では古くから冒険者という職業が必要とされてきた。
魔物の討伐。
隊商の護衛。
行方不明者の捜索。
未知の土地の調査。
迷宮や古代遺跡の探索。
小さな村から持ち込まれる依頼もあれば、領主や貴族、果ては王国そのものから仕事を任されることもある。
危険のあるところに、冒険者の仕事はあった。
もっとも、冒険者であれば誰でも同じ仕事ができるわけではない。
駆け出しが相手にするのは、小型の魔物や街道を荒らす獣。
経験を積んだ者ならば、オーガや大型魔獣とも戦う。
そして、そのさらに上。
普通の冒険者では到底手に負えない脅威を討ち、一つの街を、一つの領地を、ときには王国そのものを救う者たちがいる。
人々は彼らの名を知っている。
酒場ではその武勇が語られ。
子供たちは彼らに憧れ。
冒険者たちはいつかその域へ至ることを夢見る。
そんな者たちが集まる場所こそ、レグナ王国の王都アルディアだった。
人口数十万を抱える、王国最大の都市。
中心には白亜の王城がそびえ、その周囲を貴族街、神殿区、商業区、職人街が取り囲む。
各地から運ばれてきた品々が市場に並び、昼夜を問わず馬車が行き交う。
そしてアルディアには、王国内の冒険者たちを束ねる巨大な冒険者ギルドも存在していた。
その王都で。
いや、レグナ王国で冒険者に少しでも関わる者なら、まず知らぬ者はいない。
そんなパーティがある。
《黎明の鐘》。
四人組の冒険者パーティ。
四人は同じ村で生まれ、同じ村で育った幼馴染だった。
共に故郷を出て。
共に冒険者となり。
数々の依頼を成し遂げながら、その名を王国中へ轟かせてきた。
今では王国でも最上位級と評される、有名パーティである。
その一人。
勇者アルト。
金色の髪に、澄んだ青い瞳。
高い背丈と整った顔立ちを持つ、誰もが認める正統派の美男子だった。
だが、彼を勇者たらしめているのは容姿ではない。
剣を取れば、その武勇は王国でも指折り。
巨大な魔獣を正面から斬り伏せ、鋼鉄より硬い甲殻を断ち切り、数多の強敵を打ち破ってきた。
その戦いぶりを目にした者ならば、誰もが納得する。
勇者。
まさしく、その名にふさわしい男だった。
二人目。
魔法使い、セレナ。
艶やかな黒髪に、切れ長の美しい瞳。
凛とした雰囲気をまとった、目を引くほどの美人である。
そして、その魔法の才は容姿以上に有名だった。
並の魔法使いでは扱うことすら困難な最高位の魔法を自在に操り、一度その力を振るえば、巨大な魔物の群れすらまとめて消し飛ばす。
若くして王国最高峰に数えられる、天才魔法使い。
それがセレナだった。
三人目。
僧侶、フィア。
淡い金色の髪。
柔らかな顔立ちに、穏やかな微笑み。
女性らしく豊かな体つきも相まって、王都を歩けば自然と人々の視線を集める美女である。
彼女が得意とするのは、治癒術と結界術。
瀕死の重傷者すら救い。
並の治癒術では完治に長い時間を要する傷であっても癒やしてみせる。
さらに彼女の張る結界は、巨大な魔獣の一撃どころか、竜の吐く炎さえ防いだことがある。
その力から、聖女と呼ぶ者も少なくない。
勇者アルト。
魔法使いセレナ。
僧侶フィア。
いずれも若くして王国中に名を知られた、英雄と呼ぶにふさわしい冒険者たち。
そして《黎明の鐘》には、もう一人。
三人と同じ村で生まれ育った幼馴染がいる。
四人で村を出て。
四人で冒険者になり。
これまでずっと、四人で旅をしてきた。
――その日。
《黎明の鐘》は、一つの討伐依頼を終えて王都アルディアへ帰還していた。
相手は、王都から数日の距離にある山岳地帯に巣食っていた大型魔獣。
すでに複数の冒険者が討伐に失敗し、付近の街道を封鎖する原因となっていた怪物だった。
その討伐を、《黎明の鐘》は成し遂げた。
王都へ戻った四人は、その日のうちに拠点へ集まり、今回の依頼について簡単な報告を済ませていた。
そして話が一段落したところで、不意に声が上がった。
「このパーティの中にお荷物が一人いる」
唐突な言葉だった。
「正直にいって、この後の戦いにはついてこれない」
《黎明の鐘》は、もう駆け出しの冒険者パーティではない。
任される依頼は年々難しくなり、相手にする魔物も強くなっている。
これから先は、さらに危険になるだろう。
「幼馴染だからって情けをかける必要はない」
四人は幼い頃からずっと一緒だった。
だからこそ、ここまで一緒にやってきた。
だが、それと命を懸けることは別の話だ。
足手まといを無理に連れていって、いつか取り返しのつかないことになるくらいなら。
「ここでお別れにしよう」
――つまり、俺である。