どう考えてもお荷物の俺を、最強パーティの幼馴染たちが追放してくれない 作:ひじき次郎
翌朝。
「起きろ!」
返事なし。
「アルト!」
「……起きてる」
「目閉じてんじゃねえか!」
布団を剥がす。
「セレナ!」
「あと五分」
「うるせえ起きろ!」
最後にフィアの部屋を叩く。
「フィア、朝だぞ」
「はーい」
こいつだけは返事がいい。
返事は。
五分後。
「……おはようございます」
「お前も遅え!」
四人分の朝食を並べる。
パン。
卵。
昨日買っておいた野菜。
残り物で作ったスープ。
セレナの前には紅茶も置いた。
「ありがと」
「おう」
子供の頃からやっていることなので、今さら大した手間でもない。
「今日は?」
フィアが聞く。
「まずギルド。昨日の報告と精算」
「その後は?」
「アルトの剣を鍛冶屋に持ってく。セレナの杖も店で見てもらえ。フィアの外套は仕立屋」
セレナが紅茶を飲みながらこっちを見る。
「杖、別に平気だけど」
「俺に言うな。見ても分かんねえ」
「昨日普通に使えてたわよ」
「じゃあ店でそう言え」
「面倒」
「大型魔獣とやり合った翌日に点検くらいしろ!」
アルトもパンを食べながら言う。
「剣も使える」
「だから俺には分からん!」
「振れば分かる」
「お前にはな!」
刃が欠けてるとか、柄が緩んでるとか。
見れば明らかなものならともかく。
専門的なことは知らん。
だが壊れてから持っていくのはおかしいだろう。
「ほら、食ったら行くぞ」
「レオン」
「何だよ」
「眠い」
「知らん!」
◇
冒険者ギルドに着くと、そのまま受付へ向かった。
「昨日の大型魔獣討伐の報告」
「お疲れさまでした」
受付嬢へ書類を渡す。
討伐報告。
素材申告。
消耗品の追加経費。
途中で助けた冒険者三人の救助記録。
緊急救助費の申請。
それから、帰り道で見つけた橋の損傷報告。
受付嬢が一枚ずつ確認していく。
「相変わらず早いですね」
「昨日帰ってから書いた」
「橋の報告まで?」
「板が一ヵ所割れてた。馬車で通ったら危ねえぞ」
「それは助かります」
受付嬢が別の箱へ書類を分ける。
「こちらは道路管理へ回しておきます」
「頼む」
確認には少し時間がかかった。
その間に俺は、昨日使った費用を帳面へ書き足す。
保存食。
薬。
馬車代。
途中で助けた冒険者に渡した物資。
「レオン」
「何」
「まだ?」
アルトが聞く。
「見りゃ分かるだろ」
「暇だ」
「座ってろ!」
ようやく受付嬢が奥から戻ってきた。
「お待たせしました。報酬の確認をお願いします」
「おう」
机の上に紙と金袋が置かれる。
「大型魔獣討伐の基本報酬が金貨八枚」
「うん」
「指定部位の納品分が金貨二枚と銀貨三十枚」
「うん」
「素材売却分が――こちらです」
俺は依頼書を開いた。
書かれている報酬額と照らす。
「救助分は?」
「冒険者三名。緊急救助費として銀貨四十五枚」
「三人で四十五?」
「はい。一名十五枚です」
「昨日使った薬と保存食は別?」
「そちらは経費申請で戻ります。銀貨十三枚」
受付嬢が別の紙を指した。
「馬車代は?」
「帰路分のみ対象です」
「行きは依頼経費に入ってるからか」
「はい」
「じゃあ合ってる」
今度は金袋を開ける。
数える。
金貨。
銀貨。
もう一つ。
「素材の査定、これで確定?」
「はい。解体場からの査定票もこちらに」
受け取って見る。
「角、思ったより高いな」
「状態が良かったそうです」
「アルトが一発で落としたからか」
アルトを見る。
「そうなのか?」
金額を帳面へ書く。
今回の消耗品。
残り。
「今回は一人――」
「私の分、預けといて」
セレナが言った。
「私もお願いします」
フィアも続く。
アルトは何も言わない。
「お前は?」
「いつも通り」
「聞くだけ無駄だったな!」
結局、三人分とも俺が預かる。
受付嬢が少し笑った。
「全部レオンさんが管理してるんですね」
「こいつらが気にしねえんだよ」
「なくならないからな」
アルトが言う。
「俺を金庫みたいに言うな!」
「でも安心」
セレナ。
「お前も乗っかるな!」
報酬を片付けたところで、次。
「アルト、剣」
「ん」
「俺に渡すな。鍛冶屋に持ってくんだよ」
「レオンが持っていけばいい」
「本人が説明しろ! どこに違和感あるか俺が分かるわけねえだろ!」
「特にない」
「じゃあ『特にないけど大型魔獣とやり合った』って店で言え!」
セレナも同じだ。
「杖もあとで魔具店な」
「本当に行くの?」
「行け」
「壊れてないのに」
「壊れてから行くな!」
フィアの外套だけは話が早い。
袖口が裂けている。
「これは見れば分かる。仕立屋」
「はい」
「お前が一番素直だな」
「ありがとうございます」
「褒めてねえけどな」
「以上で、今回の手続きは終わりです」
受付嬢が言った。
「終わった?」
「はい」
「よし」
俺は帳面を閉じる。
そこで。
ふと思った。
「なあ」
「はい?」
受付嬢が顔を上げる。
「ここ、事務の空きない?」
「……事務?」
「そう」
後ろの三人が一斉にこっちを見る。
「何よ、急に」
「急じゃねえよ。昨日言っただろ。俺は転職する」
「まだ諦めてなかったの?」
「一晩で諦めるわけねえだろ!」
受付嬢は少し驚いた顔で、今しがた処理した書類の束を見る。
「冒険者を辞めて、ギルド職員に?」
「そう。書類仕事ならできるし、危険な場所にも行かなくて済む」
「事務能力だけなら、普通に欲しいと思いますけど」
「だろ!?」
「管理部に確認してみましょうか?」
「頼む!」
「駄目だ」
後ろからアルト。
「お前に聞いてねえ!」
「辞めるのは駄目」
セレナも腕を組む。
「いい加減諦めなさいよ」
フィアが受付嬢へ聞く。
「レオンさんがこちらで働いた場合、《黎明の鐘》の依頼がある時はどうなるのでしょう?」
「お前は余計なこと聞くな!」
だが。
今のところは悪くない。
「じゃあ話、通しといてくれ」
「分かりました」
「レオン」
「何だよ」
「昼」
アルトが言った。
「今それ言う!?」
「腹減った」
「お前は本当にぶれねえな!」