どう考えてもお荷物の俺を、最強パーティの幼馴染たちが追放してくれない 作:ひじき次郎
翌日。
「……なんでお前らも来るんだよ」
冒険者ギルドへ向かう道で、俺は後ろを振り返った。
アルト。
セレナ。
フィア。
三人ともいる。
「暇だから」
アルトが言った。
「俺は暇じゃねえんだよ」
「昨日の話、気になるじゃない」
セレナは当然のような顔をしている。
「私も、レオンさんのお仕事が決まるか気になります」
「お前らなあ……」
今日は昨日受付で頼んだ、ギルド事務職の話を聞きに行く日だ。
俺一人で十分である。
「なんで普通について来てんだよ」
「別にいいでしょ」
「よくねえよ!」
◇
「お待ちしておりました、レオンさん」
ギルドへ着くと、昨日の受付嬢にそのまま奥へ案内された。
通されたのは、小さな応接室だった。
机の向こうには四十代くらいの男が座っている。
「管理部の責任者をしております、グレゴールです」
「レオンです」
「存じています」
「そりゃどうも」
その後ろから三人も入ってくる。
グレゴールが少し驚いた。
「皆さんもご一緒でしたか」
「勝手についてきました」
四人で座る。
グレゴールは昨日俺が提出した書類を机の上に置いた。
「拝見しました」
「はい」
「受付からも普段の様子を聞いています。報告書、経費処理、依頼後の各種手続き。かなり慣れていらっしゃるようですね」
「まあ、その辺はずっと俺がやってるんで」
「率直に申し上げると、こちらとしては歓迎したい人材です」
「おお」
これは。
かなりいい。
「では――」
「勤務条件についてなのですが」
グレゴールが一枚の紙をこちらへ向けた。
「こちらでどうでしょう」
俺は受け取った。
勤務は基本的に王都中央ギルド。
担当は冒険者関連の書類確認、依頼情報の整理、物資発注補助。
ここまではいい。
むしろ理想的だ。
問題は、その下だった。
「……ん?」
俺は指で一行をなぞった。
《黎明の鐘》として遠征依頼を受ける場合、勤務扱いを停止。
帰還後に通常勤務へ復帰。
さらに長期依頼の場合も、職員籍を維持。
「…………」
もう一度読む。
変わらない。
「どうでしょう?」
グレゴールが聞いてくる。
「ちょっと待ってください」
「はい」
「これ、どういう意味です?」
「そのままですが」
グレゴールは穏やかに答えた。
「レオンさんほどの方なら、《黎明の鐘》を離れるのは不本意でしょう」
「は?」
「ですので、冒険者活動と両立できる勤務形態にしました」
俺は黙った。
「通常は認めていません。ただ、《黎明の鐘》ほど重要なパーティとなれば話は別です」
グレゴールは続ける。
「依頼がない時期はこちらで働いていただき、パーティに必要とされた際にはそちらを優先していただく。長期遠征で一月空いても、職員としての席は残します」
「……」
「もちろん、その間こちらから出勤を求めることもありません」
どうです。
とでも言いたげな顔だった。
「いいじゃない」
横からセレナ。
俺はゆっくり顔を向けた。
「……何が?」
「条件。かなり良くない?」
「そうですね」
フィアまで頷く。
「これなら今まで通り四人で依頼を受けながら、レオンさんがやりたかったギルドのお仕事もできます」
「そうだな」
アルト。
「違うだろ!」
三人がきょとんとする。
グレゴールもきょとんとしている。
「え?」
「え、じゃねえ!」
俺は紙を机へ叩きつけた。
「俺は冒険者を辞めたいんです!」
グレゴールが瞬きをする。
「……《黎明の鐘》を?」
「そうです!」
「何か、パーティ内で問題でも?」
「問題はそこじゃねえ!」
横を見る。
三人。
「こいつらとは普通に仲いいです!」
「なら、なぜ?」
「危ねえからだよ!」
応接室が静かになる。
「大型魔獣とか竜とか、そういうのが出る場所に行きたくないんです!」
「しかし、レオンさんは戦闘をされないと聞いていますが」
「戦わなくても現場にはいるんだよ!」
「フィアさんの結界があるでしょう?」
「お前までそれ言うの!?」
思わず敬語が飛んだ。
グレゴールが少したじろぐ。
「す、すみません」
「俺は安全な仕事がしたいんです! 王都で! 机に座って! 夕方になったら帰る!」
「でしたら、普段はまさに――」
「途中で竜の依頼が来たら出ていくんだろ!」
「……はい」
「それを辞めたいって言ってんの!」
セレナがため息をついた。
「せっかく向こうがここまで考えてくれたのに」
「余計なお世話なんだよ!」
「レオンさん」
フィアが困ったように笑う。
「かなり配慮していただいてますよ?」
「方向が真逆なんだよ!」
グレゴールはようやく何かに気づいた顔をした。
「つまり……《黎明の鐘》を続けやすい条件ではなく」
「はい」
「辞められる条件をご希望だった?」
「最初からそう言ってるだろ!」
「受付からは、『冒険者を辞めて事務職へ』とは聞いていたのですが……」
「なら分かるだろ!」
「てっきり、待遇面への不満などかと」
「命への不安だよ!」
グレゴールが頭を下げた。
「申し訳ありません。こちらが勝手に意図を汲み違えました」
「本当にそう!」
「ただ」
「まだあるんですか」
「《黎明の鐘》から完全に離脱されるとなると、当ギルドとしても……」
「何」
「惜しい、というのが正直なところです」
「俺、戦えないんですけど!」
「それは承知しています」
「なんで全員そこだけ承知してんだよ!」
アルトが俺を見る。
「じゃあこの条件では駄目なのか」
「今の話聞いてた!?」
「働けるぞ」
「冒険者も続いてんだよ!」
「そうだな」
「そこだよ!」
俺は頭を抱えた。
何なんだ。
昨日はいい話だと思ったのに。
安全な仕事に転職するはずだったのに。
向こうが勝手に気を利かせた結果。
なぜか。
冒険者を続けながら仕事が一つ増えそうになっている。
「この話、なしで」
「レオン!」
「フィア、止めるな!」
「でも、とてもいい条件です」
「俺にとっては最悪だ!」
グレゴールが残念そうに紙を引っ込めた。
「分かりました。もし気が変われば、いつでも」
「冒険者辞めていいなら来ます」
「それは……」
「じゃあ来ません!」
俺は立ち上がった。
三人も立つ。
「昼どうする?」
アルトが聞いてきた。
「お前は何しに来たんだよ!」