どう考えてもお荷物の俺を、最強パーティの幼馴染たちが追放してくれない 作:ひじき次郎
その日の夜。
俺たちは王都の酒場にいた。
ギルドへの転職話が潰れた。
正確には、雇ってはくれるらしい。
ただし《黎明の鐘》を続けながら。
それでは転職ではない。
仕事が一つ増えただけである。
「親父、もう一杯!」
「まだ飲むの?」
向かいのセレナが呆れた顔をする。
「今日は飲む」
「昨日も飲んでたでしょ」
「今日は昨日より飲む!」
「好きにしなさい」
追加の酒が置かれる。
アルトは肉料理を食い、フィアは果実酒をゆっくり飲んでいる。
俺はぐっと酒を流し込んだ。
くそ。
次だ、次。
商会。
食堂。
王城の事務。
探せば安全な仕事くらいいくらでもある。
何も好き好んで、竜だの魔獣だのが出る場所まで行く必要はない。
そんなことを考えていたときだった。
「――《黎明の鐘》も、随分甘いよなあ」
少し離れた席から声が聞こえた。
大柄な冒険者が三人、酒を飲んでいる。
全員かなり酔っていた。
「勇者アルトに、大魔法使いセレナ、それに聖女フィアだろ?」
男が酒杯を揺らす。
「三人とも王国でも指折りだ。それなのによぉ」
セレナの眉がわずかに寄った。
フィアも酒杯を置く。
アルトは黙って声の方を見た。
「一人だけ、普通の奴が混ざってんじゃねえか」
誰のことかは考えるまでもない。
「戦ってるとこ見た奴いるか?」
「ねえな」
「俺もねえ」
「だろ?」
大柄な男が笑う。
「何であんな奴が《黎明の鐘》にいるんだ?」
三人の空気がじわりと悪くなる。
セレナは明らかに不機嫌そうだ。
フィアもいつもの柔らかい表情ではない。
アルトは何も言わない。
俺は酒杯を置いた。
「おい」
俺は声をかけた。
三人が固まった。
「え?」
「今の話」
近づく。
「もう一回言ってみろ」
「……何を?」
「最後のとこだよ!」
男が少し身構える。
「普通の奴が一人混ざってたら、どうなんだ?」
「いや……」
「遠慮すんな!」
俺は椅子を一つ引いて座った。
「続けろ!」
三人が顔を見合わせる。
「……お荷物、なんじゃねえかって」
「そう!」
俺は机を叩いた。
「そうなんだよ!」
「……は?」
「お前、よく分かってるじゃねえか!」
男がぽかんと俺を見る。
「お前……レオンだよな?」
「そうだよ!」
「今、お前の悪口言ってたんだけど」
「知ってるよ!」
「なんで喜んでんだ?」
「やっとまともな奴がいたからだ!」
「まとも……?」
「そう!」
俺は自分たちの席を指差した。
「こいつらな、何回言っても俺を辞めさせねえんだよ!」
男が《黎明の鐘》の三人を見る。
それから俺を見る。
「……お前、辞めたいの?」
「辞めたい!」
「なんで?」
「危ねえから!」
「そりゃまあ……」
「だろ?」
俺は大きく頷いた。
「なのに、こいつら『必要だから』とか言って聞かねえ!」
「戦えねえのに?」
「そうなんだよ!」
「そりゃおかしいな」
「そうだろ!」
いい。
非常にいい。
会話が通じる。
「この前の大型魔獣討伐なんか、俺はずっと後ろに隠れてたからな!」
「マジか?」
「マジ!」
「何もしてねえの?」
「戦闘では何もしてねえ!」
「じゃあ完全に三人で倒してんじゃねえか」
「そう!」
俺は男の肩を叩いた。
「もっと言ってやってくれ!」
「何を?」
「俺いらねえだろって!」
男も酒が入っている。
だんだん調子が出てきたらしい。
「まあ、そりゃそうだよなあ」
「そうそう!」
「勇者に魔法使いに聖女だろ?」
「そう!」
「そこに戦えねえ奴一人入れたって、危ないだけじゃねえか」
「その通り!」
すばらしい。
「いや、俺も前から思ってたんだよ」
男が身を乗り出す。
「幼馴染だから切れねえだけなんじゃねえかって」
「そうなんだよ!」
「レオン」
後ろからアルトの声がした。
まだだ。
俺は無視する。
「ほら、もっと!」
「もっとって……」
「遠慮すんな!」
酒まで注いでやる。
「俺のことをどう思ってんだ!」
「そこまで自分から聞く奴いる?」
「いいから!」
男は少し考えた。
「まあ……足手まとい?」
「そう!」
「お荷物」
「そうそう!」
「幼馴染の情けで置いてもらってるだけ」
「それだよ!」
俺はまた机を叩いた。
「お前、本当に分かってるな!」
「だろ?」
「もっと言え!」
「じゃあ……《黎明の鐘》みたいな一流パーティなら、もっとまともな奴を入れた方がいい」
「そうだ!」
「いっそ追放した方が――」
「ちょっと待ちなさい」
ようやく。
セレナが口を挟んだ。
声が低い。
振り返ると、三人ともこちらまで来ていた。
「さっきから好き勝手言ってるけど、こいつがいなくなったら誰が依頼の手続きするのよ」
「自分でやれよ!」
「レオンは黙ってて!」
「なんでだよ!」
フィアも続く。
「旅の間のお食事も、ほとんどレオンさんが作ってくださっています」
「フィア、お前まで余計なこと言うな!」
「買い出しや宿の手配もしてくださいますし」
「だから自分でやれ!」
「金も全部レオンが管理している」
アルトまで言った。
「お前はもう少し自分の金に興味持て!」
「報酬の受け取りから経費の精算までこいつよ。交渉事もね」
「俺がやった方が早いからだ!」
「装備の手入れもしてくださいます」
「お前らがやらねえからだ!」
「料理もうまい」
「自分で作れ!」
酔っ払いが俺を見る。
さっきまでの勢いが、少しだけ弱くなっていた。
「……お前、結構やってんじゃねえか」
「戦闘じゃねえだろ!」
「まあ、そうだけどよ」
「そうだろ! ほら続けろ!」
「いや、でもお前が抜けたら、それ全部こいつらがやるんだろ?」
「当たり前だ!」
「できんの?」
酔っ払いが三人を見る。
セレナが目を逸らした。
フィアが困ったように微笑む。
アルトは黙っている。
「できる!」
俺が答えた。
「覚えりゃ誰でもできる!」
「なんでお前が一番必死なんだよ」
「俺の退職がかかってんだよ!」
「退職……」
酔っ払いが俺を見る目が、だんだん変わってきた。
まずい。
「おい。流されんなよ」
「いや……」
「最初に言ってただろ! 《黎明の鐘》に戦えねえ奴が一人混ざってるって!」
「言ったけどよ」
「だったらもっと言え!」
「もう十分言っただろ」
「足りねえ!」
俺は机を叩いた。
「お荷物! 足手まとい! 役立たず!」
「いや、役立たずではねえだろ」
「じゃあ面汚し!」
男が止まった。
「……いや」
「なんだよ」
「面汚しは言いすぎじゃね?」
「ふざけんな!」
俺は勢いよく立ち上がった。
「お前が始めたんだろうが!」
「俺はそこまで言ってねえよ!」
「似たようなもんだろ!」
「全然違うわ!」
「なんで急に日和ってんだ!」
「話聞いたら普通に役立ってんじゃねえか!」
「そこは無視しろ!」
「無理だろ!」
「じゃあ足手まとい!」
「戦闘ではな」
「役立たず!」
「それは違う」
「面汚し!」
「だからそれは言いすぎだって!」
「お前、どっちの味方なんだよ!」
「最初からお前の味方じゃねえよ!」
裏切りやがった。
さっきまであんなに意気投合していたのに。
「なあ」
「なんだよ」
「最後に一回だけ頼む」
「嫌な予感しかしねえ」
「こんな奴は《黎明の鐘》から追放した方がいいって言ってくれ」
「嫌だよ!」
「なんでだよ!」
「もう事情聞いちまったから無理だ!」
「余計なこと聞くなよ!」
「お前らが勝手に喋ったんだろ!」
「責任持てよ!」
「何の責任だよ!」
「もういいわよ」
セレナが俺の腕を掴んだ。
「帰るわよ」
「待て! 俺はまだこいつを説得する!」
「何を説得するのよ!」
「俺を追放しろって!」
「本人が説得することじゃないでしょ!」
「レオンさん、帰りましょう」
「フィアまで!」
アルトはすでに会計を済ませていた。
「お前はお前で勝手に締めんな!」
「終わったからな」
「終わってねえ!」
結局。
俺は三人に連れられて酒場を出ることになった。
後ろを振り返る。
さっきの酔っ払いが、妙に気まずそうな顔でこちらを見ている。
「おい!」
「なんだよ!」
「次会ったときはもっと罵倒しろよ!」
「もう二度と言わねえよ!」
「なんでだよ!」
まったく。
人の悪口を言うなら。
最後まで責任を持って言ってほしい。