どう考えてもお荷物の俺を、最強パーティの幼馴染たちが追放してくれない   作:ひじき次郎

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第7話 王都の便利屋

翌朝。

 

「今日は1人で出るからな」

 

 朝飯の席で、俺は先に宣言した。

 

 セレナがパンをちぎりながら顔を上げる。

 

「どこ行くの?」

 

「仕事探し」

 

「また?」

 

「またじゃねえ。まだ見つかってねえんだよ」

 

 ギルドは駄目。

 

 昨日会った冒険者どもは論外。

 

 なら、もっと普通の仕事を探せばいい。

 

 今日は商業区を回るつもりだった。

 

 商会の事務。

 

 店の管理。

 

 食堂。

 

 倉庫仕事なんかも悪くない。

 

 俺なら何かしら見つかるだろう。

 

「私も――」

 

「来るな」

 

「まだ何も言ってないんだけど」

 

「どうせ来るって言うんだろ」

 

「……言おうと思ったけど」

 

「今日は1人だ!」

 

 こいつらを連れて行くと、話がややこしくなる。

 

 特に《黎明の鐘》の名前が出ると駄目だ。

 

「夕方には戻る」

 

「昼は?」

 

「外で食う」

 

「夜は?」

 

「俺が作るよ!」

 

「分かった」

 

「そこだけ返事早えな!」

 

 まったく。

 

 俺は上着を羽織った。

 

「じゃあ行ってくる」

 

「レオン」

 

 アルトが呼ぶ。

 

「なんだ」

 

「肉」

 

「何の話だよ」

 

「今夜」

 

「昨日も食っただろ」

 

「食いたい」

 

「知らねえよ!」

 

 扉を閉めた。

 

 さて。

 

 今日は俺の人生を前へ進める日だ。

 

     ◇

 

 最初に向かうのは、大通りにある商会だった。

 

 ここなら事務方を募集していると聞いた。

 

 条件次第では本気で――

 

「おお、レオン!」

 

 道の向こうから声が飛んできた。

 

 嫌な予感がした。

 

 見る。

 

 鍛冶屋の親父だった。

 

「……おう」

 

「ちょうどいいところに!」

 

「俺、今急いでるんだけど」

 

「5分!」

 

「その5分で終わった試しねえだろ!」

 

「いいから来い!」

 

「人の話聞け!」

 

 腕を掴まれた。

 

     ◇

 

「これ」

 

 鍛冶屋の店先。

 

 木箱が4つ積んである。

 

「何?」

 

「運んでくれ」

 

「弟子にやらせろよ!」

 

「2人とも配達中だ」

 

「じゃあ帰ってくるまで待て!」

 

「雨降りそうなんだよ」

 

 空を見る。

 

 確かに西の方が少し暗い。

 

「ったく」

 

 俺は上着を脱いだ。

 

「どこだよ」

 

「裏」

 

「最初からそう言え!」

 

 箱を抱える。

 

 重い。

 

「中身何だ?」

 

「鉄」

 

「先に言えよ!」

 

「持ててるじゃねえか」

 

「そういう問題じゃねえ!」

 

 四往復。

 

 終わり。

 

「よし」

 

「助かった!」

 

「じゃあな」

 

「待て待て」

 

「まだあんのかよ!」

 

 親父が店の奥から剣を1本持ってきた。

 

「これ見てくれ」

 

「俺は鍛冶屋じゃねえぞ」

 

「客が値段高いってうるせえんだ」

 

「知らん!」

 

「お前、こういうの得意だろ」

 

「何でも俺に振るな!」

 

 そう言ったところで。

 

「高えよ!」

 

 店の中から怒鳴り声がした。

 

「ほら」

 

「ほらじゃねえ!」

 

 見ると、冒険者らしい男が剣を持っている。

 

「この程度で銀貨12枚はねえだろ!」

 

「12?」

 

 俺は剣を見る。

 

 親父を見る。

 

「鞘込み?」

 

「込み」

 

「手入れは?」

 

「1回つける」

 

「柄巻き直しは?」

 

「半年以内なら1回」

 

「なら12で普通だろ」

 

 客がこっちを見る。

 

「誰だよお前」

 

「通りすがり」

 

「通りすがりが何の用だよ」

 

「この店使ってるからな」

 

 剣を指差す。

 

「刃だけなら9か10。鞘2枚。手入れと柄巻きまでついて12なら別に高くねえ」

 

「……そうなのか?」

 

「嫌なら他行け。多分似たようなもんだ」

 

 男は少し考えた。

 

「じゃあ12で」

 

「毎度!」

 

 親父が笑った。

 

「助かった」

 

「俺は何しに来たんだよ!」

 

 時計を見る。

 

 まだ大丈夫。

 

「今度こそ行くぞ」

 

「おう。また頼むな!」

 

「頼むな!」

 

     ◇

 

 商会へ向かう。

 

 大通りを歩く。

 

 あと少し。

 

 あと二つ角を曲がれば――

 

「レオン!」

 

「今度はなんだ!」

 

 振り返る。

 

 青果商の女将だった。

 

「何よその顔」

 

「今日は忙しいんだよ」

 

「ちょっとだけ!」

 

「嫌な予感がする!」

 

「いいから来て!」

 

「俺の予定は!?」

 

 腕を掴まれた。

 

 なんでみんな俺を捕まえるんだ。

 

     ◇

 

「これ、どう思う?」

 

 店の裏。

 

 芋の袋が積んである。

 

「何が?」

 

「仕入れ値」

 

 紙を渡される。

 

 見る。

 

「高い」

 

「やっぱり?」

 

「去年より2割近く上がってんじゃねえか」

 

「向こうは不作だからって」

 

「西の産地?」

 

「そう」

 

「じゃあ南から取れよ」

 

「運賃がかかるのよ」

 

「これ払うより安いだろ」

 

「でも付き合いもあるし」

 

「全部切れなんて言ってねえよ。半分だけ南に振って、西には『この値段なら量減らす』って言え」

 

 女将が頷く。

 

「なるほどねえ」

 

「あとこの輸送費」

 

「何?」

 

「高い」

 

「最近上がったのよ」

 

「この商会ならもっと安い」

 

「紹介して」

 

 俺は近くの紙に名前を書いて渡した。

 

「ほらよ」

 

「さすがレオン!」

 

「じゃあ行くぞ」

 

「待って」

 

「今度は何だ!」

 

「昼食べてかない?」

 

「食わねえ!」

 

 そう言った瞬間。

 

 腹が鳴った。

 

 女将が笑った。

 

「食べてきな」

 

「金は?」

 

「今日はいいわよ」

 

「なら食う」

 

 ありがたくご馳走になる。

 

     ◇

 

 昼。

 

 予定では、もう一つ目の商会で話を聞き終わっているはずだった。

 

 現実。

 

 まだ一軒も行っていない。

 

「まずいな」

 

 午後は絶対寄り道しない。

 

 誰に呼ばれても無視する。

 

 俺は今日、仕事を探す。

 

「レオンさん!」

 

「聞こえない!」

 

「レオンさん!」

 

「俺はレオンじゃない!」

 

「何言ってるんですか!」

 

 捕まった。

 

     ◇

 

 今度は宿屋だった。

 

「いや、本当に助かったよ」

 

「まだ何もしてねえ!」

 

 宿屋の主人が拝むような顔をする。

 

「客が怒ってて」

 

「お前が何とかしろ!」

 

「言葉が通じにくいんだ」

 

「知らねえよ!」

 

 見る。

 

 受付前で、大柄な旅人が何か怒鳴っている。

 

 外国人らしい。

 

「部屋が違うって」

 

「分かってんじゃねえか」

 

「そこから先が分からない」

 

「……ったく」

 

 俺は旅人に近づいた。

 

「どうした?」

 

 共通語で聞く。

 

 男が早口で話し始める。

 

 半分くらい訛っている。

 

「ゆっくり喋れ。分かんねえ」

 

 もう一度。

 

「……ああ?」

 

 話を聞く。

 

 予約した部屋と違う。

 

 2人部屋を頼んだのに、1人部屋になっている。

 

 連れが今夜到着する。

 

 主人を見る。

 

「2人部屋取ったって言ってるぞ」

 

「え?」

 

「予約票」

 

 確認する。

 

「……あ」

 

「お前のミスじゃねえか!」

 

「いや、でも今日は満室で」

 

「じゃあ隣の宿に一部屋空いてるだろ」

 

「なんで知ってるんです?」

 

「いいから聞いてこい!」

 

 主人が走っていく。

 

 しばらくして戻ってきた。

 

「空いてました!」

 

「ならそっちを2人部屋で押さえろ。差額はこっち持ち。荷物運んで、晩飯一品つけろ」

 

「分かりました!」

 

 旅人に説明する。

 

 男の機嫌が少し直った。

 

 最後に俺の肩を叩いて何か言った。

 

「何て?」

 

 主人が聞く。

 

「また来るって」

 

「二度と予約間違えんなよ!」

 

「はい!」

 

「じゃあ俺行くから!」

 

「レオンさん!」

 

「もう何もねえだろ!」

 

「お礼に今度――」

 

「いらねえ!」

 

 逃げた。

 

     ◇

 

「よし」

 

 まだ間に合う。

 

 少し日は傾いている。

 

 だが商会なら夕方まで開いている。

 

 今度こそ。

 

 今度こそ――

 

「レオン!」

 

「無視!」

 

「おいレオン!」

 

「聞こえねえ!」

 

「財布落としたぞ!」

 

 止まった。

 

 振り返る。

 

 市場の肉屋だった。

 

 俺の財布を持っている。

 

「ほら」

 

「危ねえ……」

 

 受け取る。

 

「助かった」

 

「ところでさ」

 

「嫌な予感しかしねえ」

 

「今夜使う肉、いる?」

 

「……安い?」

 

「今日中に出したいのがある」

 

「見せろ」

 

     ◇

 

 気づけば。

 

 夕方だった。

 

 俺は肉の包みを抱えて立っていた。

 

「……」

 

 商会を見る。

 

 扉が閉まる。

 

 店員が札を裏返した。

 

 本日の営業終了。

 

「……」

 

 俺は空を見上げた。

 

 朝。

 

 俺は何をするつもりだった?

 

 仕事探し。

 

 そう。

 

 転職先を探すつもりだった。

 

 今日やったこと。

 

 鍛冶屋で鉄を運んで、クレーム客の相手をした。

 

 青果店の仕入れ相談に乗った。

 

 宿屋の客を仲裁した。

 

 肉を安く買った。これはいいか。

 

 etc...

 

 以上。

 

「俺の用事、1個も済んでねえじゃねえか!」

 

 通行人が驚いてこっちを見た。

 

 知るか。

 

「なんなんだよ!」

 

 俺は別に王都の便利屋ではない。

 

 転職希望者である。

 

     ◇

 

「ただいま」

 

「おかえり」

 

 家へ戻ると、セレナが本を読んでいた。

 

 フィアは何か縫っている。

 

 アルトは剣を磨いている。

 

「どうでした?」

 

 フィアが聞いた。

 

「何が?」

 

「お仕事探しです」

 

「……」

 

 3人が俺を見る。

 

「1軒も回れなかった」

 

「何してたの?」

 

「聞くな」

 

 持っていた肉を机に置く。

 

 アルトが見る。

 

「肉」

 

「うるせえ!」

 

「買ってきたの?」

 

「安かったからな!」

 

「じゃあ今夜は肉ね」

 

「お前ら嬉しそうにすんな!」

 

 上着を脱ぐ。

 

 くそ。

 

 今日は完全に無駄だった。

 

「レオン」

 

「今度は何だ」

 

 アルトが肉を見ながら言う。

 

「腹減った」

 

「自分で作れ!」

 

「待つ」

 

「作る前提で話すな!」

 

 そう言いながら。

 

 俺は台所へ向かった。

 

 明日だ。

 

 明日こそは。

 

 絶対に誰にも捕まらず。

 

 ちゃんと自分の転職先を探す。

 

 そう決めた。

 

 とりあえず

 

 「…夕飯を作るか」

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