田舎少年が行く学園青春狂騒曲 厄ネタを添えて 作:ビスマルク
炎寮の代表、エンリとの決闘の約束が交わされた後俺達は闇寮へと戻った。既に放課後であり日も落ちているため誰も校舎には残っておらず全員宿舎に帰ったりモンスター討伐に出掛けている。うん、まぁここら辺のモンスターならば入学して一週間もすれば全員危なげなく対処できるから問題はないだろう。
「おや坊主達、今日はやけに遅いじゃないか」
「うーっすおばちゃん。飯用意できる?無理そうだったら外でモンスター狩って焼肉するけど」
「その場合焼肉に使えるタレとかもらえると助かるけどな」
というわけで俺とテニアの二人は夕食を食うために食堂に来たのだった。他の寮がどうなっているのかは知らないが我らが闇寮は1年2年3年それぞれ暮らしている場所も校舎も違う。闇寮の敷地の奥に行けば奥に行くほど放し飼いにされているモンスターが強くなる為、そいつらの対処を高学年がすることになっている。
つまり俺達も来年になれば更に敷地の奥にある二年校舎に移動し、更に強いモンスター共とやり合わないといけないという事である。なんなんだこの人外魔境生産学園は。俺達学生というより闇寮の人間を何だと思っているのだろうか。と思ったが寮ごとに特色が違い過ぎて学園側も把握しきれてないのではないかと感じる。なのでやはり闇寮成立当初からいてこの状況を作り出したあのクソジジイが悪いことになる。
「安心しな!!深夜までやってるし好きなだけ食ってけばいいよ!!もちろん材料の持ち込みも可だからね!!!」
「さっすがおばちゃん!!頼りになるぅ!!」
「んじゃさっさと決めようぜ。食堂に残ってるのなんて俺達くらいしか……んあ?なんだあれ?」
恰幅のいい気持ちいいおばちゃんに注文を告げて席に座ろうと食堂内を見渡せば一人で物凄い量を食べているリリィの姿が見えた。馬車内で数日共にしただけあって俺はその姿をもう見慣れているのだがそうでもなかったテニアは怪訝そうな顔をしていた。まぁ明らかにリリィの体積以上の食事があるから仕方ないかもしれないが。
「よっ、リリィ。正面座っていい?」
「へ?え、あ、なんでアンタ達!?」
彼女の元に料理を持って歩いていく。リリィは常にだれもいなくなっているこの時間に食べるくらいには自分の食事を見られたくないらしい。まぁこの量を食べてるところを見られたら気にされるからしょうがないかもしれないけど。
急に声を掛けられて驚いた彼女はスパゲッティを絡めとったフォークを落としそうになるくらい驚いたが、咄嗟に手を伸ばしてキャッチしてそのまま手渡す。許しは出てないけどまぁいいだろうということでそのまま相席することにした。
「……なんでこの時間に来てんのよ。普段もっと早いでしょ」
「炎寮との話しが続いてたんだよ。あと移動に結構時間かかったし」
「本校敷地に行くのに移動手段とか欲しいよなぁ。あるいはあるけどジジイ教師がわざと隠してるかだけど」
「ルグ先生がかぁ?そんな無駄なことなんですんだよ。あの人面倒なこと一切手を付けないタイプだろ」
「歩いた方が修行になるじゃろとか言い出すだろ」
「…………反論出来ねぇな」
まぁ俺は魔法生物の背に乗って移動したし、テニアは魔法で作った翼で空を飛んでいたから徒歩じゃなかったんだが。しかし本校敷地に色々と宿泊施設があったのはもしかして移動に時間がかかるから他寮の生徒もよくあそこに泊まるからか?まだまだ謎が多いというか、知らないことが多いな俺達は。
「んで、なんでお前そんなに食ってんだ?というかどこに入ってんだその量……?」
「う、うっさいわね!!どこでもいいでしょ別に。どれだけ食べてもどうせ太らないし」
「それは最早何らかの呪いじゃねぇか?」
「…………そっちの方がまだマシだったかもね」
「いや呪われることにマシもクソもないと思うぞ。俺とか闇神に加護という名の呪いかけられてるし」
マジで百害あって一利くらいあるかないかくらいだ。阻止しようにも過程が分からず結果だけ教えられてもどうしようもない。例えるのならばだ、推理小説の犯人を教えられたとしてもそいつがいつ犯行を行うのか、動機は何なのか、トリックは何なのかを知らなければ止めようがないということだ。そこらへん分かってないのか分かっててやってるのか、どちらにせよ闇神は性格がクッソ悪いことに違いない。完全適合者とか言うのもただの嫌がらせなのではないかと俺は疑っている。思わず大きい溜息を吐き出した。
「アンタも苦労してそうね。完全適合者も思った以上に大変なのかも」
「他の属性を持ってない分その属性に特化してるから他に出来ない事も出来るけど。逆に出来ることも限られてるんだよなぁ」
「魔法生物作り出すのはお前だけの特権みたいなもんだしな。他の奴じゃ絶対出来ねぇわ」
詳細なことはまた授業で教わることになるが属性魔法はその属性の物(闇属性だったら影など)を操るだけでなく、それぞれ特性がある。闇属性の特性は“
例で言うならばテリアの翼が分かりやすいだろう。コイツは土属性の魔法で作り上げた石の翼に「軽量化」と「浮力」の二つを付与することで空を飛んでいる。その上で風の魔法で速度を出している。まぁはっきり言って燃費が馬鹿みたいにヤバい上に強風の時は使えなさそうな翼だが。
ちなみにだがどれだけ凄い魔法使いであっても一番適正のある属性の魔法の特性しか引き出せない。テニアの場合は闇属性の“付与”は出来ても土属性や風属性の特性は使えないということになる。だがまぁ土を集めたり風を出したりできるだけ便利だと思うが。
ちなみに俺は自分の影や他の木々やら雲やらドラゴンやらの影を引っ張り出して「生命」を“付与”することで魔法生物を作り出してる。それ言った時はクラスメイト全員どころかジジイ教師さえも絶句していた。俺なんかやっちゃいました?やっちゃってるね。出来るだけ出さないようにした方がいいかな……。
「ま、要するに人にはそれぞれ悩みがあるってこったな。他人から見れば下らない事でも当人からしたら深刻な問題ってのもよくあること……ってルーマ姉が言ってた」
「おいなんだよそのルーマ姉ってのは。テメェまさか美人の近所のお姉さんとかいたんじゃねぇだろうな。おいテメェふざけんじゃねぇぞ」
「俺、ルーマ姉のことは異性として見てねぇから。まぁ美人ではあるけど……紹介してやろうか?弟分として行き遅れ感があるのどうにかしてやりたいし」
「永劫の忠誠を誓います。どうか俺にその役目をお与えください我が王よ」
「一瞬で手のひら返したわねコイツ……」
即座に地面に膝をつき臣下のポーズをとってくるテニアを呆れた表情で見るリリィ。最早この程度の手のひら返しでは俺は驚かない。昨日の敵が今日の友になるどころか一分前まで肩を組みあっていた連中が突如殴り合いを始めるのももう見飽きたのでそういうものだと認識している。
ちなみにルーマ姉は村の中でもよくモテてるのでこの馬鹿を紹介したところで村人たち総出で邪魔しに行くことだろう。そもそもあんまりハーフとか推奨されてないしな、うちの村。なので商会はするとは言ったがそれ以上するとは言ってない。言葉って大切だね!!!
「それにリリィが大食いってのは俺にとってはあんまり悪いことじゃないしなぁ」
「はぁ?私がおおぐ……こんなに食べててなんでアンタが笑うのよ」
「だって俺リリィが食べてるところ見るの好きだし。特に甘いもんとかを美味そうに食ってるリリィが一番かわいいしな」
「……………………」
これは紛れもない本心だ。ごく短い時間ではあったが共に旅した時から思っていた。美味しそうに食べてるリリィを見るのはとても好きだ。満たされてる感じがするふにゃっとした笑顔がとてもいい。
そう言っただけなのに何故か彼女は顔を赤くした後凄い勢いで残った物を全て平らげた。別にそこまで急がなくてもいいと思うのだが用事でも思い出したのだろうか。
「…………帰るわ」
「おう、おやすみ。いい夢をな」
口数少なく去っていった彼女の背中を俺は見送ったのだった。なおその間ずっとテニアの馬鹿は膝を地面につけたままだった。
ヨル君はクソボケです。鈍感です。
同年代がいなかったから人の機微にも疎いです。
でも戦闘経験は豊富だから人の顔色とか動きの癖とか好き嫌いとかはよく見てます。