「おぉ~~~~!!これが馬車かぁ!!テンション上がるなぁ!!!馬がいねぇけど!!!」
あの黒髪性悪光神マニアの貧相シスターが紹介状を書いてくれて一週間後、例の『ノウブル魔法学園』への入学を認められた俺はこうして生まれて初めての馬車に乗っていた。椅子は柔らかく、なんともまぁ居心地がいい。硬すぎて腰が痛くなる教会の椅子とは比較できない程だ。あの椅子は硬すぎる、そうあの肉の付いていないシスターの胸のように。
「今だけはこの馬車独り占めなんだよなぁー。今のうちに満喫しておこっ」
途中で俺と同じように魔法学園に向かう生徒達を連れて行くらしい。なんでも俺の住んでいた村が一番遠かったから真っ先に来てくれたとのこと。数日はこの馬車の中で過ごさなければならないがその間にシスターから渡された案内書や常識の内容を確認しなければいけないから暇ではない。
自慢ではないが俺はこうして村の外に出ることすら珍しい生粋の田舎者だ。今回の入学だってそれはもう滅茶苦茶反対された。村人全員からだ。村唯一の人間だからと言って心配性すぎる。俺だってもう竜種くらい一人で狩れるのに。特に俺のことを弟のように可愛がってくれていた人は最後の最後まで反対していた。
「嫌じゃ嫌じゃ!!我らが折角ここまで育ててきた可愛い子をあんな所に連れていかれてたまるか!!魔拳のカスが教師してるところに行って汚染されたらどうするんじゃボケェ!!!というかヨルの入浴シーン見れなくなるとk」
とか隣の家のルーマ姉さん(推定年齢200歳)が言ってた。あの優しくいつも俺を見守ってくれていたルーマ姉がそこまで言うとか今から不安になりそうだが。最後の所は俺を育ててくれた婆ちゃんが耳を塞いだせいで良く聞こえなかったがなんだったんだろうか。爺さんがボディーブローして黙らせてたところを見るにいつもの変態性を発揮していた可能性が高いが。最終的には俺のシャツを渡してきたから大丈夫だろう。
「さて、それじゃあ魔法学園ってのがどんななのか確認をしていきますか」
シスターから渡された魔法学園の案内書を鞄から取り出して読みだす。ここには基本的な魔法属性についても書かれているので勉強にもなるだろう。うちの村人はダークエルフばかりで闇属性以外についてはあまり知れなかったから新鮮でもある。
『魔法属性について』
魔法は七つの属性に別れています。「火・水・土・風・雷・光・闇」のいずれかです。人は基本的にこの七つの属性の内2つ以上を持って生まれます。ただし自分が最も得意とする属性魔法以外は鍛えなければ使えないことが多いです。
ごく稀に一つの属性にしか適性を持たない人もいます。彼らの事は完全適合者と呼び、適合した属性以外の魔法は使えませんが逆に適合した魔法に関しては他者の追随を許さぬ強さを持ちます。その在りようから七大神の生まれ変わりとも言われてます。
「…………俺、闇以外に適正ないとか言われたばかりなんだけど」
シスターに闇神と異常に相性がいいと不吉なことを言われた時から嫌な予感はしていたがそれがこんな形で当たるなんて予想外も良い所だ。あの邪神の生まれ変わりとかそれこそ死んでもごめんなのだがクレームはどこに出せばいいのだろう。闇神を信仰している教会とかでいいのだろうか?熱心な信者がいたら闇討ちされそうだけど。
「っと、なんだ?」
腕を組んで悩んでいる所を馬なし馬車が止まり扉が開く。そういえばシスターが学園に着くまでの間に何回か停車して生徒を乗せると言っていた。やけに広い上に二段ベッドが四つくらい用意されていたりトイレまで用意されていたのはここで寝泊まりする為だ。しかし外から見た時はこんな広いとは思わなかった。魔法で空間を弄って広くしていたりするのだろうか。その場合俺の想像以上に魔法の可能性というのはすごいのかもしれない。
「あら、私が最初だと思ってたけどまさかもう乗ってるのがいるなんて。どこの田舎出身なのかしら?」
「――――――――」
停車した馬車の扉が開きそこから一人の少女が乗車してくる。癖のある金髪を肩辺りで切っている美少女。村の女性陣はシスター除き胸やら尻やらがデカかったがそれとは異なる、なんというか芸術品のようなスレンダーなボディをしていた。なにより特徴的なのはその背から生えているのであろう透明な羽根だ。鳥の羽根とは違う、本で読んだ妖精に近いだろう。
正直初めて見たタイプの少女であり、それだけで見惚れてしまった理由にはなるのだが残念ながら目を離せなかった理由はそれだけではない。
このまま辿る少女の未来が闇神の加護により俺の脳内に流される。
『ああ、お腹が減った。肉も魚も野菜も穀物も、まるで歯ごたえがなさすぎる』
そこにいたのは声以外、目の前の少女とはまるで違う化け物だった。人である姿を捨てて醜悪な巨大な蠅に不出来な人の手足をつけたような姿。昆虫の複眼で獲物を逃がさないように周囲を見て、背中の翅を震わせて声を出している。
『満ちない、満ち足りない、飢える!!!ああだから!!モンスターも!!魔族も!!人も!!全部全部全部全部食って喰らって貪り尽くして飲み込んで!!!私を満たす糧になれッ!!!』
飢餓感に身を任せて周囲を飛び回るその姿は何故か憐れさを感じさせる。だがそんなことは逃げ惑う人々には関係ない。周囲から火や雷をぶつけられて痛みの叫び声をあげる。やがて燃えた身体を支えることも出来なくなりその身は地面に落ちた。
『ああ―――なんで―――いつから、わたしは――――』
そう言って少女は絶命する。周囲には何一つない。荒廃した大地と彼女の死体だけが残って終わりになる。そこまで見て俺は現実へと引き戻された。
「ちょっと、どうしたの?も、もしかして田舎者って言ったの怒ったの?いや違うのよ?私、辺境伯の娘で国境近くだからまさかもう人が乗ってるなんて思ってなくてつい……」
「あ、えと……いやなんでもない。ちょっと初めて同年代の女の子見たから……」
「え?いやそれはそれでどうなの?どこの限界集落出身なのよ」
黙って彼女を見ていた俺の混濁する意識を心配そうにする少女の声が正しくした。これが闇神のアホが俺にくれたという加護(余計なお世話)である。例の十人の闇堕ち美少女に最初に出会った時、彼女達の最悪の末路が無理矢理俺に流れ込むのだ。いわゆる存在しない記憶だという奴。しかし確かに最悪だった。直感で何故か分かったが目の前の美少女の変わり果てた姿と末路がああとか何とかしたいと思うのも当然である。
っと、いかんいかん。自分の世界に入ったままでは友好的なコミュニケーションはとれないと聞く。それに折角心配してくれたのだ、早く安心させてあげないと駄目だというのは人付き合い初心者の俺にも分かる。
「ダークエルフの村出身だよ。捨て子だから俺自身は人間だけど……。いやでも村の外の人とかほとんど見たことなかったけど翅とか生えてるんだな」
「――――……私の翅を、どう思ったのかしら?」
翅について言及したらなんか凄く睨まれた。もしかしたら触れたらダメな部分だったのかもしれない。虚偽を一切許さないと言わんばかりの鋭い眼光に俺は思わず思っていたことを口にしてしまう。ここで誉め言葉とかを咄嗟に出せる奴がモテ男になれるのだろうが、そんな余裕は俺になかった。初めて出会った同世代に美少女に睨まれるとか抵抗できるはずもない。
「妖精みたいで綺麗だなって思いました!!!」
「……………………へ?妖精?蠅とかじゃ、なくて?」
「透明で、キラキラしててとっても綺麗で!!見ててすみませんでした!!!」
土下座する勢いで頭を下げるもこれが正解なのか分からない。それでも誠意を見せる為にはこうするしかない。しばらく無言の空気が流れ、馬なし馬車が動き出す。少女の気配は椅子に座ったようでもう動いてはいない。恐る恐る顔を上げて見ればほんのり顔を赤く染めている少女の姿がそこにはあった。
「あ、ありがと……」
「へ?」
「な、何でもない!!何でもないからこっち見ない!!」
「わ、分かった」
なんだか分からないが少女の機嫌は直ったらしい。俺は胸を撫で下ろして深い溜息を吐いたのだった。なんで最初のエンカウントが闇堕ち美少女なんだ。闇神を呪う言葉は虚空に消えていった。
地雷原のど真ん中でタップダンスしてるのに上手いこと地雷を躱す系男子。俺でなくちゃ見逃しちゃうね