一応の注意事項。
少女を乗せた馬車はそのまま動き出し部屋は静かになる。少女は馬車が迎えに来たところまで送り届けてくれた人達に手を振っていたがそれも姿が見えれば名残惜しそうにしながらやめて対面に座った俺に向き合う。
「改めて名乗らせてもらうわ。私はリリィ・ベルゼリュート。ベルゼリュート辺境伯の庶子よ」
「ハハァ!!生意気な口きいて申し訳ありませんでした!!!」
「えっ!?ちょちょちょっと!?なんでいきなり土下座するの!?」
「村人から外の事を聞いた時に一番注意しなきゃいけないのは人間の貴族だって言われてるから……!!モンスターや魔族はぶっ殺せばそれで済む分楽だけど貴族相手は柵とかあって我慢しないといけない事多いから気をつけろって……!!!」
「ああうん、言ってることは分かったし確かにそういう注意が必要になる時はあるけど口にしてる時点で台無しだと思うわよ……?」
貴族というのは恐ろしい生物で権力というもので気に入らない者を即座にギロチンに掛けてくるという。目をつけられたら終わりという恐ろしい生き方をしている人間だと村の人達は言っていた。つまり先程彼女の翅を妖精のようと言ったが、その答えが気に入られなかったら俺の人生はここで終わりになるかもしれないのだ。
「ダークエルフの村出身って言ってたわよね。外に出たことはないの?ああ、口調は喋りやすいようにでいいわ」
「そう言うなら……。近くの村との交易とかは行ったことあるけどそれ以外は特に。俺はずっと村で暮らしてたし近くの魔の山で修業は出来てたし」
「魔の山で修業って嘘でしょ」
本当のことを言ったらドン引きされた。本気でありえない存在を見ているような目で見られて居心地が悪い。俺、なんかしちゃいました?
「ま、まぁいいわ。そこらへんは詳しく聞きだしたら頭痛くなりそうだし……。一応簡単に教えておくけど私は貴族といっても庶子、つまり跡継ぎでも何でもないの。だから扱いとしては成人と同時に平民になる感じ。事情があって私は婚姻にも使えないし」
最後の言葉は聞こえなかったがどうやら身分的には俺と彼女にはあまり差がないらしい。それを完全に信じるのは危険かもしれないが生憎俺の判断基準は村人達と目の前の彼女しかいない。とりあえずはそれを信じることにしよう。
「ふぅーん……。貴族っていうのもなんだか面倒そうなんだな」
「ええ、面倒よ。死ぬほどね……。あとギロチンがどうのこうの言っていたけどそんな文化がまかり通っていたのは魔族との大戦、70年以上前の時期よ。それ以降は重罪人の公開処刑以外ではそんなことされた記録はないわ」
「70年前て」
人間の時間感覚ではかなりの大昔というか生きてる人の方が少なそうだ。逆にダークエルフみたいな長命種からしたら多分10年くらい前みたいな感覚だろう。やっぱり人間は早く生きるからか文化の成長が早いらしい。俺もついていけるようにしないと駄目だな。
「で、アンタもこの魔導車に乗ってるってことは『ノウブル魔法学園』に行くんでしょ?どこの寮に入る予定なの?」
「寮って?」
「……寮についても知らないの?魔法属性については?」
「俺、シスターに推薦状書いてもらってすぐに返事来たからこれに乗ってるだけであんまり事情とか詳しくないんだよ。属性については村での勉強で出てきてたから分かるけど後のことはこれに乗ってる間にこの案内書読んで勉強しようと思って」
「それじゃあ簡単に説明してあげるわ。感謝なさい」
「ハハァ!!ありがたき幸せ!!」
「だから!!土下座はやめてってば!!!」
この子、揶揄うといい反応してくれてとても楽しい。顔を上げた時に笑っていた俺を見て揶揄ってることが分かったからか拳骨落としてきたが。
「それじゃあ説明をするわ。ちゃんと聞いておくように」
「分かりましたリリィ先生」
「せ、先生……!!コホン。では生徒であるヨル君、魔法属性は幾つあるか分かりますか?」
先生と呼んだらなんか感動してる。リリィってもしかして誰かに頼られた経験が少なかったりするのかもしれない。だからこうやって誰かに頼られると嬉しくなっているのかも。彼女が闇堕ちするのはそこが関係あるのか?
とにかく分かっていることを答えていこう。人のフォローとか出来る気がしないし自分を取り繕うことも非常に苦手なのでこのままでいくしかないし。案内書を教科書にしながらリリィの特別授業を受けることにする。
「魔法は七つだよな?七大神と同じように「火・水・土・風・雷・光・闇」の属性って聞いてるけど」
「ええその通り。それで私達が今向かっている『ノウブル魔法学園』は属性ごとに寮、というより学舎が違うのよ。それぞれの学区域を持っていてるの。簡単に言うと貴族で言う領地みたいなものね」
「勝手に他の所に入ったらまずい、ってことか」
「そうね。許可を貰わないと他の学区に入るのは難しいわ。でも許可自体は簡単に手に入るらしいとは聞くけどね。無断侵入にはその分厳しいとも聞くけど」
手続きとかちょっと大変そうである。頑張って覚えないといけないとは思うが誰かやってくれる人がいれば大変助かるのだが……。
「で、この寮だけど自分の魔法属性によって入れるところが決まるわ。人は二つ以上属性持っているから選べる寮もその二つからってことね」
「なんてこった」
普通の人は大抵二つか三つの属性を持っているが俺は純粋なる闇である。つまり俺は闇寮以外に入ることは出来ないということだ。あの邪神は悉く俺から選択肢を奪っていくのだが、一度殴っても許されると本当に思う。
というかあの闇神と同じ闇の寮ってだけで嫌な予感がする。入学取り消しで今すぐ逃げ出したくなるもそれをしたら推薦状を書いてくれたシスターの顔に泥を塗ることになる。想像するだけで我慢することにしておく。
「ちなみに私は闇寮に入る予定よ。風とどちらか悩んだけど闇属性の方が適正は高かったから」
「リリィはもしかしたら俺にとって女神様だったのかもしれない」
「な、何よ急に!?ほ、褒めたってなにも出ないわよ!!?」
顔を真っ赤にして照れてる姿を見て癒しに思う。こんな美少女がいるなら闇寮も悪くはないのかもしれない。現金なことだと思われるかもしれないが年頃の男なんて美少女、美女がいればそこが天国だと思える馬鹿だと思う。ソースは俺。
「俺も入るのは闇寮だな。リリィみたいな子がいるならきっといい所だと思える」
「私が入るからって判断基準はどうかと思うけど、まぁいいわ」
「少なくても初対面の俺に対してまともに色々と教えてくれる子は優しいいい子だと思うが。その上美少女なんだからもっと自信もってよ!!!」
「なんで私が怒られてるの……?と、とにかくよ」
一度咳をして気を取り直した彼女は自分も持っていた案内書を開く。この案内書は分かりやすく可愛らしいイラストも乗っているので大変見やすい。作った人の優しさが出ていると思う。きっと分け隔てなく人に接することが出来る凄い人なんだろう。
「この学園は七つの学区に別れて独自の教育をしているの。寮とは言っているけど実際の所はそれぞれが独立した学校で、『ノウブル魔法学園』というのはその七つを纏める名称ってことね」
「じゃあ俺達の場合は闇寮で過ごして他の寮の生徒と交流することはあんまりないってことか?」
「ううん。私も人から聞いた話だけど時期によってイベントが開催されるからそこで交流することが多いって話よ。それに個人間でのやり取りも制限されてないから話せる機会は意外と多いと思うわ」
うーん、ちょっと複雑な関係かと思ったらそうでもない割とゆるゆるなのか?実際こういうのは体験してみない事には実感が湧かないから一度横に置いておこう。考えすぎても意味のないことは棚上げするのが俺の流儀である。
しかしこうして聞くと思った以上に色んな人達がいそうで楽しみだ。同年代と会う機会自体がなかった俺には何もかも新鮮に見える。そんな風にパラパラと案内書をめくっていた俺の目の中にイラスト同時にこれを書いた人間の怨念が見えるような文字が入ってきた。
『闇寮に入る闇属性の適性を強く持つ人は、変人か変態です』
急に学園に行くのが非常に怖くなってきた。