ただまぁ根本設定から色々と変わっている上に登場人物も変わっているからネタバレにはなりませんのでご安心ください。
あとこの主人公の能力値はダイスで決まった物です。ヤバい奴になってました。
リリィ・ベルゼリュートと一緒に馬のいない馬車(リリィ曰く魔導車)に乗った日から既に三日が経った。案内書で闇属性魔法使いの評価を見てしまった為それ以上読み進める気がなくなってしまったが、その分彼女と交流を続けられたのでこれはこれで問題ないだろう。
寝食を共にした結果分かったのは彼女が親切な上世間知らずの俺の常識の勉強をみようとしてくれるくらいに面倒見がよかったことだ。村人達ではどうしても不足する部分を教えてくれるので大分今の社会について理解が進んできた。ああ、寝食を共にすると言っても個室はあったので安心してほしい。
正直あの邪神の言う事を素直に聞くつもりはなかったがあの一瞬だけ見えた未来へこのいい子を送るのは拒絶したくなる。俺に出来ることならばやって、助けたい。何をすればいいかは全くもって分からないが。あの邪神ももう少し分かりやすい加護をくれればいいのに。「試練を与えれば人間の価値は輝くのだ!!万歳!!」とか言ってたので多分この扱いは全人類変わらないのだろうが。あんなのが七大神の一柱でいいのか……?
「で、魔導車が止まったかと思えばこの道を真っ直ぐ行ってくださいって立札が立てかけてあるわけだが」
「もしかして、この先歩きなの……?まだ寮も校舎も見えないんだけど……」
「残念ながらその通りです。お二方、このまま真っ直ぐお進みください。それでは私はこれで」
ずっといたが描写されることなかった魔導車の運転手がそう言うとそのまま走り去ってしまった。まともでいい人のように見えていたが一刻も早くここから去りたいという気持ちが見え隠れしていた。それだけでここでの生活が今から不安になっている。
「行くしかないみたいだな。俺が先行するからついてきてくれ」
「え、ええ……。なんというか、想像とは違ったわね」
リリィの言う通り俺もイメージとは違った。学校というからには人が多いというか、もう少しこう人工的な物に囲まれていると思っていたのだが目の前に広がるのは鬱蒼とした森だ。まるで故郷の近くにある魔の山を思い出させる。あそこはモンスターが跋扈しているから鍛えるのにちょうどよかったのだが。
「道もこれ、しっかり整備された奴じゃないな。何十年も同じ所を人が歩いた結果出来た奴を少し広げた感じだ」
「というかここ、モンスターとか出てきそうじゃないかしら?凄くそれっぽい雰囲気があるんだけど……」
「いや出てきそうというか多分普通に生息してるぞ。あそこにあるのとか角うさぎの糞だし。あっちにあるのはオクトパスベアの足跡だからな。あと煎じるといい薬になる角を持ってるマッスルディアもいるみたいだな。うん、結構なモンスターの宝庫じゃないか?」
「今すぐ帰りたくなってきたわ。なんでこんな所に闇寮はあるの……?」
恐怖を感じている様子のリリィはげんなりしながら呟いた。彼女のおかげで普通の学校というのは決してこんな所にあるわけではないというのが分かる。俺一人だったら「こんなもんか」で流していたかもしれない。というかこんな所にあるからあの案内書に『闇寮に入る闇属性の適性を強く持つ人は、変人か変態です』なんて書かれてるんじゃなかろうか?
明らかに森の中での歩きに慣れていない貴族令嬢のリリィに合わせて速度を合わせる。慣れていない人間は結構無理して早く歩こうとして余計に疲れてしまうので先導する俺がゆったりと歩かなければならない。立札がいたる所に設置されているので道に迷う心配はないのだが。リリィみたいな生徒の場合一人でここを歩くのは結構危険なんじゃないかと思う。
「あっ、角うさぎだ。先制攻撃仕掛けたろ」
「えっ」
角うさぎはその名前の通り角を持つうさぎだ。うさぎなので草食なのだが凶暴性が物凄く高い。どれくらい高いかというと天敵であるはずのオクトパスベアとかに自分から仕掛けるくらいには高い。当然の結果として勝てるわけなくその身体はどこかに連れていかれて消えるのだが。
見つかって襲い掛かられるのも面倒なので見えた瞬間に処理してしまう。俺の影から出てきた謎生物である“オバケ”が即座に襲い掛かって角うさぎの生命線である角をへし折る。何故か知らないがコイツは角を折るとその瞬間絶命するのだ。角は武器に使える為よく売れるので影の中にしまっておくことにする。
「マッスルディアまでいるじゃん。モンスターの宝庫かよ。でも傷薬とか作りたいし欲しいしやっちまうか」
「えっ」
マッスルディア、簡単に言うと物凄い筋肉を持った鹿である。こいつらは鹿の癖に四足歩行ではなく二足歩行をしている。鍛え上げられた筋肉を持つのは雄のマッスルディアだけであり、ポージングをすることで雌へのアピールをしていると興奮しながらルーマ姉が鼻息荒く説明していたのを覚えている。ルーマ姉の変態っぽい顔と共に。
モンスターなので当然人類種に対する敵意が物凄くある。見つかったら即座にその鍛えてきた肉体を躍動させて飛び掛かってくるのだ。何が嫌かってアイツら常に鍛えている為に筋トレしているせいか近接戦闘だと汗が飛び散って汚い。目に入ると染みるどころか適切な処置をしないと失明する可能性すらあるという。それを何とかする為の目薬はアイツらの角から作れるわけだが。
オバケとは別の鳥型の謎生物である“トットリ”俺の影から出てきて飛び立ちマッスルディアの上空を飛び回る。マッスルディアはトットリに気を取られてそちらにばかり意識を向けているので影の中に入って静かに近付き背後から組みついてその首をへし折る。コイツは肉も骨も毛皮も角も捨てる部分がないのでこうして損傷少なくして倒す方がいい値段になる。
「いやしかし本当に邪魔だな。角うさぎだけならともかくマッスルディアもここまでいるとかここの森を管理してる奴どうなってんだ」
「私としてはアンタの方がどうなってるのか聞きたいんだけど……?その、影から出てきたモンスターっぽいのは何なの?」
「えっ、あれ闇属性の魔法の産物じゃねぇの?闇属性だったらみんな使えるとかじゃ……?」
「闇属性は混沌で使える魔法に個人差があるのは確かだけど生物を作り出すなんてこと出来るわけないでしょうが」
「マジで?シスターは全く気にしなくていいとか言ってたのに?」
「生物作り出す魔法とか聞いたことないし、絶対気にした方がいいと思うわ」
あの胸が板のようにまっ平で壁のように硬かった光神マニアの闇シスターめ、俺の異常性を知ってて黙ったやがったな。道理で村人達は謎生物を作っていなかったわけだ。誰も自分の作った謎生物を使役してなかったからずっと不思議に思ってたんだよ。
「というか本当にモンスター退治の手際がいいわね。正直驚いたわ」
「だから言ったろ、魔の山で修業したって」
故郷の近くにある山は魔の山と呼ばれているようでその名の通りモンスターが跋扈しているアホのような山だ。一番アホだと思うのはその近くに集落をつくった俺の村の初代村長だと思うけど。モンスターの発見率はここ以上に混沌としている上にしょっちゅう生態系が変わるので定期的に見に行かないと危険という場所で軽く入るならともかく奥まで行くなら俺でも気合いを入れなければならない。初心者絶対お断りの危険地帯であることは間違いないだろう。
「ま、この程度のモンスターだったら俺が即座に処理できるから安心してくれ!!」
「ええそうね。見る目が正直変わったわ」
「なんでヤバい奴を見る目で見るんです???」
「気にしないでくださいヨルさん」
「距離が空いてるように見えるんですけど???」
「冗談よ」
揶揄われてもクスクス笑っている表情だけで許せるので美少女って本当に凄いなって思う。守りたい子の可愛い笑顔。
そうして森を歩く事10分ほどした頃、真っ直ぐ歩いた地点に木々はなく大きな木造の建築物が見えた。アレが俺達がこれから生活することになる学び舎なのだろう。見ているだけで壮大で、ここからの生活がワクワクしてくる。
「死ねやボケェ!!!!」
「テメェが死ね狐目ェ!!!!」
目の前で校舎が破壊された。なんか言いあってる奴らが魔法打ち合って暴れてた。やっぱり闇寮ってヤバい奴の宝庫なんじゃ……?