「ど、どうぞ。散らかってますが……」
今日は小々枝さんと編み物をする約束をしていたので、お部屋に連れてきちゃいました……!
「……片付いてるよ……?」
「慌てて片付けました……」
急に決まったのでクローゼットに詰め込んだだけですが……。
「……じゃあ……気にしないよ……」
「そそっ、そうですよね! すみません……」
「……ふふっ……緊張しちゃって変なの……」
小々枝さんは対照的にリラックスして部屋に入っていくと、振り返って微笑みをこぼしました。か……可愛い……。こんなのドキドキするなって言う方が無理ですよ……。
「……ちょっと……寒い……」
「あっ。それでしたらクッションの上に膝掛けを置いたので使ってください」
「……もしかして愛々が……?」
「はい。私が編んだものです」
「……ありがと……。……はぁぁ……あったかい……」
見る人の心をも温めてしまうような幸せそうなとろけ顔に思わず顔が緩んでしまいます。
「……愛々も……入って……」
「えっ! でも一人分なので窮屈になっちゃいますよ?」
「……? ……今日は手繋げないから……」
「そ、それはそうですが……」
いつもは小々枝さんを温めるために手を握っていますが、さすがに編み物をしている間はそうはいきません。そのための膝掛けだったのですが、まだ暖かさが足りなかったんでしょうか?
「それじゃあお邪魔します……」
「……愛々の部屋なのに変なの……ふふ……」
「うう……」
暖かいどころか顔が熱くなってしまいました。恥ずかしくてミスディレクションしちゃいそう……。で、でも堪えるのよ愛々……! 小々枝さんがこんなに上機嫌に編み物を教えてもらうのを楽しみにしてくれてるんだから!
「……あれ……歪んできちゃった……」
「私も始めたばかりはよくこうなってました。新しい段に移る時に立ち上がりを確認して、最初の1目がズレないようにするのが大事ですよ」
「……立ち上がりを抑えればあとは万全……?」
「拾い間違いや編み残しもありますが、ここさえ抑えれば目数が格段に狂いにくくなるのでほぼ万全ですね」
「……分かった……。……やってみる……!」
上手くいかずしょんぼりしていた小々枝さんでしたが、下げていた目尻をキリッと上げて、パステルカラーの編み棒を懸命に動かし始めました。真横から見る切れ長の目はいつもより凛々しくて、普段とのギャップでドキッとしてしまいます。これだけ近くにいるのならキスしてもいいかな……って、何を考えているの愛々!!
「……愛々……?」
「ひゃっ」
小々枝さんが振り向いて危うくキスしそうになってしまい、とっさにミスディレクションしてしまいました。部屋の入り口から覗き込むと、小々枝さんが寂しそうに見つめていました。
「ごご、ごめんなさい。一旦お手洗いに……」
「……うん……」
このままじゃいつもあみぐるみにやってるやつ出ちゃいます……。一度離れて何回か深呼吸を挟んで。温かい飲み物を用意して部屋に戻ってきた時でした。——ガタッ、という音を皮切りに何かがなだれ込むような物音がしたのは。
「だ、大丈夫ですか小々枝さんっ!」
嫌な予感と共に部屋に駆け込むと……
「……愛々……これは……っ?」
あ、あああ……! 終わりました……。小々枝さんは無事でしたが、クローゼットに詰め込んだ小々枝さんの等身大あみぐるみが白日のもとに晒されてしまっています。
「そ、そのいつも一緒に過ごしてて……うう。いっそのこと殺してください……」
「……なんで……?」
「だって……付き合い始めたばかりで、こんな恥ずかしすぎる真似を……ッ」
「……アタシは……嬉しいよ……? ……それだけアタシと……過ごしたいってことだから……」
「ほ、本当ですか……!?」
「……うん……。……ちょっぴりこの子に妬けちゃうけど……」
「えっ!?」
小々枝さん×小々枝さん!?
「……普段はどんなことしてるの……?」
「ええと。隣に座ってテレビを見たり、恋太郎君あみぐるみと並べて間に挟まったり……」
「……それだけ……?」
「他にはその。うう……」
「……言えないようなこと……してるんだ……?」
「そそっ、それは……っ」
頬を染めながら上目遣いで見つめられて、こんなの恥ずかしすぎます……!
「ひゃああ——!?」
ミスディレクションの立ち上がりを押さえられた……!?
「……
「えっ。ええっ」
そのままベッドに押し倒されてしまいました。妄想が現実に……? 心臓がうるさいくらい高鳴って、どうにかなってしまいそう。
「……いつもアピールしてるのに……全然くっついてくれないから……
あれってぽかぽかになりたいだけじゃなくて、イチャイチャしたいってことだったんですか……!?
「い、嫌ではない……です。ただ恥ずかしすぎて……」
「……あみぐるみにしてるようなこと……してほしいな……?」
「……は、はい……」
ちょっと意外でした。小々枝さんがこういったことに乗り気とは思わなくて。普段の可愛さや格好良さとはまた違って、興奮で上気したお顔が妖艶で、思わず言う通りにしてしまいます。添い寝して、腕枕してもらって……
「……えいっ」
「……えへへ……」
横から思い切り抱きついて、顔を見合わせて……
「ん……」
「………愛々……好き……」
「わ、私も好きです小々枝さん……」
触れるか触れないかの距離で見つめ合って、どちらが前に出たのかも分からないまま唇を重ね合って。もう一方の腕が腰まで回されて、逃げ場を失って。お互いの体温がこれ以上なく伝わってしまって、それがなんだか心地良い……。
「……あったかいね……」
「はい……。ずっとこうしていたいです」
「……アタシも……。…………」
「小々枝さん……?」
真っ直ぐ見つめられたかと思うと、視線がきょろきょろと揺れて、もにょもにょとした口がおもむろに開かれました。
「……アタシ……生まれつき目つきが悪いから……人を
「は、はい。恋太郎君から聞きました。ファミリーに入る前に前髪を切ったって……」
「……うん……。……だから愛々が
「あ……」
そっか……。こんなに近くに顔があっても、小々枝さんからは私が見えていないんだ。私は小々枝さんの色んな素顔を見せてもらっているのに。
「私……人の視線を感じるのが苦手なんです。恥ずかしくなってしまって……」
「……ん……そうだったよね……」
「で、でもっ! 小々枝さんには等身大あみぐるみまで見られてしまって……。私の恥ずかしいところも受け止めてくれて。だから……」
「……あ……」
前髪に手を掛けて一気に上げました。自分の手で人前で素顔を露わにするなんて、人生で初めての経験です。けれど不思議と手は震えませんでした。きっと……小々枝さんが温めてくれたからですね。
「……かわいい……」
「えっ。そ、そんな——」
小々枝さんが目を見張って、ぽつりと一言漏らしました。私からもはっきりと表情が見えるからこそ、見惚れているのが伝わってしまいます。至近距離ってこんなに視線の逃げ場が無いんだ……!? こんなの恥ずかしくて——えっ?
「……愛々……消えないね……」
「じ、自分でもビックリです……」
無意識にミスディレクションしちゃわないなんて……。恥ずかしいと消えちゃう性分だから、恋なんて出来ないって思っていたのに。これって……
「ありがとうございます。こんな私のことを……好きって言ってくれて」
「……それは……お互い様だよ……」
自分が思っている以上に、小々枝さんに気を許しているってことですよね。引き寄せられるように抱きしめられて、そんな小々枝さんが愛おしくて。上げた手を腰に回そうとした——瞬間でした。胸を小さく見せる下着のホックが外れたのは。
「……!? ……愛々……
「い、嫌ああ——!」
「……あっ……」
小々枝さんがミスディレクションの立ち上がりを押さえようとしてきましたが、さすがに恥ずかしすぎて身を捩ってかわしてしまいました。
「……拾い損ねた……」
「うう。ごめんなさい」
「……ん……いいよ……。……ほら……続きしよ……?」
「そ、それって——!?」
そのままベッドイン——かと思いきや、小々枝さんはクッションに座り直して、横をぽんぽんと叩きました。
「……編み物……教えて……? ……愛々の好きなこと……もっと知りたいから……」
「は、はいっ……!」
私ってばどうしていつも、そういう方向で受け取っちゃうの……! 隣に戻ったのを見て、小々枝さんが膝掛けを載せてくれました。気を取り直して編み棒を手に取ると——
「……続きは……大人になったら……ね?」
「えっ。えええっ!? それって——」
不意打ちで耳元で囁かれて、勢いよく振り返ったら、続きを遮るようにキスで塞がれてしまいました。