「お、終わった~~~!!」
ドテッとその場にへたり込むタウニー。彼女につられて俺もコルニも黙ってその場に崩れ落ちた。フーッと一息ついて空を見れば美しい満月が変わらずそこに存在し・・いや、僅かにだが端の方から消滅を始めていた。
(この空間も崩壊が始まった。でも今は・・・つ、疲れた。)
「もう限界だし~、一歩も動けないし~。」
「あはは・・でも本当に、疲れたね。」
「うむ、これで事件は収束に向かうだろう。この空間もじきに消える。」
「っ!・・・消える前にいくつか聞きたい事があります。AZさん。」
消えるという単語で思い出す。俺はこの人からどうしても知りたい事があったんだ。
「そうだろう。あのような別れ方で納得する者などいるはずが無い。」
「おや、今回はもったいぶらずに教えてくれるんですか?タワーの事を最後の最後まで隠したアンタが。」
「ふふ、全くもってその通り・・・だが、このまま消えれば私はあの世で永遠に後悔する事になる。それはさすがにな。」
「ははは・・残り時間はどれくらいです?」
「そうだな・・ダークライが捕獲され主を失ったこの空間は、ゆっくりと時間を掛けて消滅するだろう。君達を守っているフーパの力も僅かだが、それが切れたとしても数時間は大丈夫だ。安心しなさい。」
「本当ですか?次元の裂け目はとても不安定だと俺達は聞いていましたが。」
「通常の裂け目はそうだ。だがこの空間は暴走する前のダークライが仮の住処として創造した空間。主のいない弱い裂け目とは強度がまるで違うのだ。故に崩壊の危機に瀕しても数時間は持つ。・・さぁ、遠慮せず尋ねなさい。」
出会った頃と同じように、優しい声色で話すAZさん。そんな彼に・・俺はハッキリ言った。
「ではお聞きします。どうして2年前にタワーの暴走を止めなかったんですか。」
「・・キョウヤ?」
戦いの疲れから地面に座ってボーっとしていたタウニーとコルニだったが、俺とAZさんが真面目な話をしている事に気づいて口を挟んできた。
「二人には森に入ってすぐ話したけど、AZさんは2年前にフラエッテをメガ進化させてタワーの暴走を止める事が出来たと・・俺は思っています。」
「ふむ・・その根拠は?」
「貴方が約半年前に暴走メガピジョットに対処しようとした時。貴方はルカリオかフラエッテをメガ進化させてバトルで対処しようとした、そうですよね?」
「ああ、その通りだ。しかし私は見誤った。私の身体がまさかあそこまで衰えているなどと・・だからこそ、タウニーが来てくれて助かった。改めて感謝する、タウニー。」
「えっ!?いえいえそんな・・私こそ、AZさんには色々良くしてもらって・・本当にありがとうございました!」
地面に座りながら深々とお辞儀するタウニー。そんな彼女を見て嬉しそうに笑うAZさん。
「話を戻します。つまり!アンタは半年前でもメガ進化に耐えられるぐらいには体力が残っている・・と、自認していた訳ですよね?」
「そうだ。」
「それが俺の提示する根拠です。そこまで体力に自信があったアンタなら、2年前にフラエッテをメガ進化させてタワーの暴走を止める事なんて簡単だったはずだ!何故そうしなかったのですか!!」
大声でハッキリと指摘した。あの日、タワーの暴走を止めて皆が達成感に包まれた夜。俺はずーっとAZさんに問い詰めたくて仕方なかった。何故もっと早く手を打たなかったんだ!と。それをようやく本人に言えてちょっとスッキリした。
AZさんは俺の質問にすぐには答えず、一度空を仰いで思考を巡らせた。時間にして約1分・・ダークライと戦ってアドレナリンがドバドバ出まくっていた俺達には、かなり長く感じた。
・・沈黙のあと、AZさんが吐いた言葉は答えではなく確認だった。
「・・・その前に一つ確認したい。キョウヤ、君は仲間の為に命を懸けられるか?」
「仲間の定義によります。俺がミアレで仲間だと思っているのはコルニとタウニー、それとマチエールさんやアンシャぐらいのものです。彼女達の為なら俺は喜んで命を捧げますよ。」
正直に答えた。他の連中は人格面で不安があったり、ただのビジネスパートナーだったりでそこまで信用していない。
AZさんからして見れば、俺が自分の所属する団員すら信じていないと初めて知った訳だが・・この人は一切の動揺を見せずに話を続けた。
「・・始めて君を見た時、私は内心非常に驚いた。君の纏う雰囲気は、昔の私にそっくりだったんだ。」
「昔・・・かつてミアレを滅ぼした時の貴方とそっくりだと。そう言いたいんですか。」
「ああそうだ。そして今の答えで確信した。君はかつての私と同じように、愛する者を奪われる絶望に耐えられない。奪われたら奪い返さずにいられない・・愛する者を奪ったこの世界に破滅の幕を引ける、狂人の可能性を持った存在だ。」
「・・・」
黙って聞いていた二人が息を飲んで心配そうに俺を見つめる。俺が何も答えないので気まずい沈黙が流れるが、別に狂人と言われてショックを受けた訳ではない。
単純に分からないのだ。俺が狂人に近い存在な事と、この人が2年前に行動を起こさなかった事の繋がりが。
正直ものすごく馬鹿っぽいから言いたくないが、こればっかりは仕方ない。
「・・俺が昔のアンタみたいな狂人に成りかけている事と、アンタが2年前に行動を起こさなかった事。この二つがどう関係するんです?」
「非常に勝手な期待だが・・君なら2年前の私の行動を理解できると思ったのだ。」
「ふむ・・動機の理解ですか。」
納得と同時にいささか拍子抜けした。まさか狂人云々の話が自分の気持ちを理解してくれるかも、という感情的な事だったとは。どうりで話が繋がらない訳だ。
「そんなに怖いんですか?2年前に行動しなかった理由を話して、その時のアンタの気持ちが俺達に理解されずに一方的に糾弾される事が。」
「そうだ。私は怖いのだ。何も知らない者達からの非難の声は耐えられても、心を許した者達からの失望は・・いささか堪えるものがある。そんな心境に君が陥ってしまう事も含めて。」
「俺が仲間から糾弾されて苦しむ?ははは、糾弾される事はあっても、それで苦しめるほど俺は脆くありませんよ。」
「そうか、ならば言おう。私が2年前に行動しなかった理由、それはフラエッテ・・彼女を私の死後も任せるに相応しい人物をこの手で見つけ出したかったからだ。」
その言葉にハッとして理解したコルニとタウニー。AZさんは2年前の時点で自分の寿命が残り少ない事を察していた。このまま死んだらパートナーのフラエッテはまた一人になってしまう。そうなる前に彼女を任せられる人を自分で見つけたかった。いや、死ぬ前に自分の口から「あとを頼む。」と言いたかったのだ。その為にバトルロワイヤルまで開催させて、タワーが暴走するギリギリになってまで見極めたかったのか・・と。
でも俺は違った。その言い訳には穴がある。
「・・・いやいや、それは無理があるでしょ。」
「ちょ、ちょっとキョウヤ!?無理があるってどういう意味・・だし?」
タウニーがAZさんの代わりに尋ねる。
「フラエッテを任せられる程の実力があって、かつ立派な精神性も兼ね備えたトレーナーに任せたかった・・一見すると筋が通って見えるけど、その為に2年間費やしましたっていうのは嘘だね。というより、本当はもっと早くに目星を付けていたんじゃない?AZさんとフラエッテを再開させてあげた、かつてこの地方を救ったっていう伝説のトレーナー・・その人に。」
それを聞いて目をまん丸にして固まったコルニ。彼女の反応を見るに俺の予想は当たったようだ。
俺も詳しくは知らないが、かつてこの地方に破滅の危機が訪れた際に一人のトレーナーが仲間と共にフレア団に立ち向かい、その野望を打ち砕いた。そんな英雄達はこの地方の人々から危機を救ってくれたお礼にと、盛大なセレモニーで祀り上げられたらしい。その最中にAZさんは英雄とバトルして自身の行いを心から反省。彼の改心を見届けたフラエッテは空から舞い降りて感動の再開を果たし、誰がどう見てもな!ハッピーエンドで終わったと聞く。そんな英雄ならフラエッテを任せるに十二分に値すると誰もが納得するだろう!なのに2年前にタワーが暴走するってなった時に突然「フラエッテを任せられるトレーナーを探します。」だなんて、どう考えてもおかしいだろ!だったら2年前に英雄に連絡してタワーの暴走を鎮めるついでにフラエッテを任せれば良かっただろ!なんで新しく候補を探すんだよ!
「もちろんアンタが今言った事も本音なんでしょう。いくらフラエッテと再会させてくれた英雄だといってもまだ子供。数年経って以前とは全くの別人に成っている可能性だって十分あり得る。だから自分の目で改めて確認して決めたかったという部分には同意します。ただ・・だからこそ分からない。何故英雄を2年前に呼ばなかったんです?それとも実は呼んだりしてたんです?呼んだ上で「自分じゃなく別の人に頼んで。」と断られたとか?それなら納得なんですが・・そこのところ、どうなんです?」
俺の問いを聞いたAZさんは・・一度地面に目を伏せた後、真っすぐに俺の目を見て言いきった。
「・・・呼ばなかった。MZ団の君達と違い彼らと私には何の貸し借りも無い。呼ぶ道理が無いのだ。それに・・あれから数年、彼らは成長し自分の夢に向かって羽ばたいているはずだ。彼らの翼を奪いかねない道を・・私は選べなかった。」
彼の回答に一番に思った事は・・甘すぎる。
「・・なるほど、アンタは本当に身内に甘いんですね。一度でも助けてもらった恩人の邪魔になるような行動は絶対にしない。だから俺等MZ団とは持ちつ持たれつの関係でいたんですね。頼み事をする代わりに拠点を提供したり組織に融通利かせたり。」
「その通りだ。それに・・相応しくないと思ったのだ。」
「ん?何がです?」
「2年前、タワーの暴走を察知した時・・私がタワーを鎮める、という行動そのものを。」
「・・すいません、もう一度お聞きします。2年前、タワーの暴走を察知した時、誰が何をどうしましたって?」
「私が、タワーを鎮める事を、躊躇ったのだ。」
信じられなかった。AZさんが2年前にタワーの暴走を察知した際、止めようとすらしなかっただなんて・・
「止める気は最初から無かった・・と?」
「止める気はあった。しかしそれ以上に・・見たかったのだ。今の人々がどのような判断を下すのかを。」
俺は目を真ん丸にして納得した。その一言でピンと来たのだ・・・この人の老婆心を。
「なるほど・・・2年前、タワーをすぐに無力化する事は出来た。しかし、このままタワーを放置すれば、かつてのフレア団みたいな悪い連中が再びやって来てタワーを乗っ取ろうとするかもしれない。そいつらを叩く為にあえてタワーを放置したと。」
「その意味もある。しかし一番は、この事実を知った一部の者達が率先して行動しタワーを解体してくれる事を願っていた。死ぬ前に安心したかったのだ。私が世界に失望し過ちを犯したあの日から3000年、今の世界を創り上げた人類の元に彼女を、フラエッテを残しても大丈夫だと。」
その独白で完全に理解した。AZさんはさっきフラエッテを託す相手を見定めたかったと言ったが、本音はフラエッテに優しく接してくれる人がこの世界に溢れている・・そう思いたかったんだ。そう思いながらフラエッテを野生に返して・・・安心して逝きたかったんだ。
AZさんがフラエッテを預けたかった相手とは特定の誰かじゃない、この世界そのものだったんだ。でも結果は・・
「でもアンタはフラエッテを俺達に託して逝った。ということは、この世界はまだまだアンタの思い描く理想郷とは程遠いって事ですよね?」
「・・・否定したかったのだ。2年前にタワーが暴走しかけていると街の権力者達に伝えた。あとは彼らがすぐに解決してくれるはずだと・・しかし実際はそれぞれの思惑が重なり合い、互いの損得を勘定に電卓を叩き、中々足並みが揃わなかった。今の君のように、私がフラエッテをメガ進化させれば済む!と強制する者すら遂に現れなかったと理解した時は頭を抱えた。しかしそれでも・・大人の中にも誰か、損得関係なく無辜の民を守る為に立ち上がる者がいると待ち続け、気づけば1年半も経っていた。慌てて暴走したメガピジョットを救おうとしても満足に動けず・・・もはや私の力ではどうにも出来ないところまで、事態は悪化してしまっていた。」
・・・ああ、俺も今なら分かる。この人が俺と似ていると言った意味が。
この人は人の心に希望を見出した。そして今度こそ人々を信じようとしたんだ。信じて、彼ら大人達が自分達の力で乗り越えることを信じて・・・3000年前と同じ、期待は裏切られた。そして結局、俺達みたいなガキが命を懸ける事になって、きっと最後まで俺達がミアレを救う光景を複雑な感情で見守りながら逝ったのだろう。
分かる、俺もミアレに来てから何度も味わった。中途半端に実力を持ったヤツが仕事を請け負った結果、余計に事態を悪化させて面倒な事になって、その尻ぬぐいを何故か俺がやる事になって・・・手に入る報酬は雀の涙もいいところ。助けてもらった連中は軽く感謝してサヨナラ。その癖俺が頼った時はこれでもかと対価を要求してくる。本当にバカバカしくなってくる。
そんな世界に嫌気が差して、俺も同じように滅亡のスイッチに手を掛ける・・まではいかない、たぶん。
でもタウニーやコルニみたいな良い人がボロクソにされて殺されるなんて事があったら!俺は迷いなく滅亡のスイッチに拳を振り下ろすだろう。
「・・・よく分かりました。アンタが2年前に行動を起こさなかった理由も、その時の心情も。・・・アンタは悪くありません。」
俺はこの人を取り合えず許した。2年前に行動を起こさなかった方に関しては。それに反応したのはコルニだった。
「え?森に入った時はあんなに色々言ってたのに・・・いいの?」
「ああ、あの時はAZさんが何も言わずに死んで逃げたってイメージがあったからね。でも今は違う。この人はちゃんと俺に面と向かって想いを打ち明けてくれた。内容も同情出来る部分があった。だから俺は2年前のアレコレについては許すよ。」
「キョウヤ・・」
「でももう一つ!聞きたい事があります。」
その場に和やかな雰囲気が漂い始めたので、あえて語気を強めて強調する。まだ俺の怒りは収まっていない。
「どうしてタウニーである必要があったんです?」
「え?私?」
突然呼ばれて困惑するタウニー。彼女の為にも俺は分かりやすく説明する。
「半年前、タウニーはアンタを助けた。で、アンタはそこから彼女とフラエッテを近づけ仲を深めるよう、あれこれ融通を利かせた。それはつまり自分が死んだあとフラエッテをタウニーに任せようと考えていたからでしょう?何故タウニーに決めたんです?ミアレにはユカリを始めとした強者が沢山いた。フラエッテを守るなら彼らの方が適任だったはずだしフラエッテとの相性だって時間が解決する問題。あんなでも彼らだって一端のトレーナー、ポケモンと仲良くなるのはお手の物でしょう。」
「だから彼らに任せた方が良かったと、そう言いたいのか?」
「そうは言ってません。俺が言いたいのは!彼らとタウニーには明確な優劣があったはずだと言いたいんです!フラエッテを任せるにあたって絶対的なアドバンテージ!ポケモンでいう種族値の壁のようなものが!タウニーは飛びぬけていた!だからカラスバやユカリより未熟だったタウニーに半年前フラエッテを任せた!だから半年に渡ってタウニーをバトルロワイヤルに誘導し、フラエッテとの仲を深め、タワーを救う英雄になるのは君だと強迫観念じみた思想すら植え付けた!でなきゃ俺とのバトルで負けた彼女があそこまで食い下がる訳がない!教えて下さい!何故アンタは『タウニーがフラエッテと一緒にタワーを鎮める!』という結果にこだわったんですか!?タウニーに何を見出したんですか!?」
長々と思いをぶちまけた俺はゼーハーと息切れを整える。その間AZさんは空を見上げるばかりだったが、俺の息切れが収まったのを見て当然とばかりに言い放った。
「それはタウニー・・彼女とフラエッテの行動理念が非常によく似ているからだ。」
「は・・はぁ!?タウニーとフラエッテが似てる!?・・・・・そうなんですか?」
反射的に否定しようとして言葉に詰まった結果、情けなく尋ねてしまった。でもしょうがない、俺は今のフラエッテならともかく昔のフラエッテをそこまで知らない。3000年前の戦争でバチバチにやり合っていた頃の彼女の事までは分からない。
「そうとも。昔、彼女が戦争に参加していた頃の話だが・・・ふふ、あの頃の彼女はとても有名だったな。進化前のフラエッテでありながら並外れた体力と攻撃力を有し、小さい身体から不意に放たれるソーラービームは敵軍にとって脅威そのものだった。そんな彼女は戦場で死にかけているポケモンを敵味方関係なく守り救う・・優しい心を持った英雄として賞賛を受けていた。ちょうど今のタウニーのようにな。」
AZさんから英雄と呼ばれて照れくさそうにタウニーは笑った。そんなタウニーを見てAZさんもおじいちゃんのように微笑む。その顔を見て俺の疑念は核心へと変わっていく。
(フラエッテとタウニーは似ている。タウニーとフラエッテが一緒にいる事をAZさんは望んでいた。AZさんは半年前すでに死にかけ、ミアレを救う役目を二人に任せた、AZさんの孫を見るような優しい瞳・・・まさか、そんな!?)
「そして半年前のメガピジョットとタウニーの戦い、あの戦いを見て確信した。ミアレを救うのは彼女達以外にあり得ない。いや、そうでなければならないと!何故なら・・」
「・・・タウニーを本当の娘、いや孫のように思っていた。」
AZさんの言おうとしている事を先に言わせてもらった。AZさんの目が再び大きく見開く。
「アンタは残したかったんだ。自分の孫に、自分の遺産と呼べるものを全部。あのタワーだって、自分の孫に自分が創ったものをすごいと感じて欲しかった。だからタワーを任せたんだ。」
「・・・・・そうだ。」
「アンタは自分の孫の心に遺したかったんだ!自分が生きた証を!」
そこまで言って始めて、AZさんはこの森の地に座り込んだ。
その姿は普通のお爺ちゃんで、この人はやっと・・本音をぶちまける準備が出来たって訳だ。
だがその前に、タウニーが口を挟む。
「え?なに?私とフラエッテが似てる事が何で・・・孫がどうこうって話になるんだし?」
「簡単な事だよ。AZさんはタウニーにフラエッテの面影を感じた。というより、フラエッテが人間だったら君みたいな言動をしたんじゃないかって、最初は思ったんだと思う。で、そこから自分と君をお爺ちゃんと孫の関係に近いと時たま感じるようになった。君もそんなAZさんを受け入れていた。そしてメガピジョットとの戦いでフラエッテと君の姿を重ねたAZさんはこう思った。『自分が最後に出来る事はフラエッテと同じような高潔な精神を持った彼女に可能な限りの栄光と財を残す事。』ようするに、自分が死んだあともかつてのフラエッテのように、有名になって人を助け続けて欲しかったんだよ。タワーの暴走解決は君の英雄譚の記念すべき最初の1ページ!そのお膳立てをしたのは他でもない自分!これから先タウニーが活躍すればするほど、君を英雄へと変えたAZさんは君の中で輝き続ける!『自分は3000年前と違って今度は間違えなかった!消す事しか出来なかった自分が、やっと遺す事が出来た。』・・・そう思って死ぬ予定だった。AZさんは君の中に遺したかったんだよ。お爺ちゃんが孫の前でカッコつけたがる要領でね。」
「そ、そんな事・・・そ、そうなんですか?AZさん。」
片膝を立てて項垂れているAZさんは、コクンッと頷いて小さな声で・・そうだ、と呟いた。
「でも計画は失敗に終わった。タワーのエネルギーはフラエッテの処理限界を超えていて、フラエッテはタワーに取り込まれて暴走を始めた。まぁ、その甲斐あってジガルデが活躍できたって話だけど。でもなぁ、あれもジガルデの手の平の上って感じもしたしなぁ。」
ジガルデの手の平と聞いて、今まで静かに聞いていたコルニが声を上げた。
「ん?それってどういう意味?」
「ジガルデは自分が活躍する為にわざとあの状況になるまでミアレを放置したって事。Fさんの話では、ジガルデはタワーが暴走を始めた5年前から既に行動を開始して力を蓄えていたらしい。でもさ、それっておかしくない?タワーが暴走しているのに気づいたなら、すぐにミアレの誰かに警告しにいけば良かった話じゃない?それこそAZさんに言えば済む話でしょ?なのにジガルデは真っ先に自己強化に走った。5年間ずっと自分がミアレを救うって考えで、ひたすら自分を強くする手段を求めて行動していた。俺をパートナーに選んだのもその一環でしかない。だからジガルデの事も信頼できないねって俺は思ってるってだけで・・・えっと、何の話だったっけ?」
「・・・君の言う通りだキョウヤ。私は・・タウニーに覚えていて欲しかったのだ。」
俺とコルニが脱線している間に心の準備を整えたようだ。AZさんは座ったまま地面を見つめて話し始めた。
「私は遺りたかったのだ、タウニーの心に。」
そう呟いたAZさんは俯いたままで、表情は読めなかったが声色から悲しみが伝わって来た。
「・・・ここまでの話を纏めます。アンタは2年前にタワーの暴走を止めなかった。その理由は色々ありましたが、本音はタウニーとフラエッテの二人に事件を解決して欲しかったというもの。では何故タウニーでなければいけなかったのか?それはまぁ・・有り体に言ってしまえば、タウニーを自分の孫のように想っていたから。そしてフラエッテと思想や行動理念が一致していたから。だから他の強いトレーナーよりもタウニーを優先した。でも考えてみればそれも当然。当時のアンタはもうすぐそこまで死が迫っている事を感じてとても焦っていた。このままではフラエッテをまた独りにしてしまう・・それを避ける為に、自分の代わりにフラエッテを託せる人物を血眼になって探していた。そこで選ばれたのがタウニーだった。選んだあとの行動は早かった、彼女にバトルロワイヤルに参加させ、フラエッテと親睦を深めさせ、MZ団のリーダーとして自信を付けさせた。半年掛けてアンタはタウニーを英雄として申し分ないレベルにまで押し上げた。そして最後にタワーの暴走を華麗に鎮めるはずだったけど、そこまで上手く事は運ばなかった・・・まぁでも!そこはジガルデの思惑が上手くいって結果的にミアレは救われた!ミアレを救ったのはジガルデだったけど、タウニーはMZ団のリーダーとして事件解決に尽力した事で名を馳せた。それで良しとするか!・・そう思いながら永遠の眠りについた。俺達に何の説明も無しに。あってますよね?」
「・・・・・・すまなかった、キョウヤ!タウニー!コルニ!君達を私の我が儘に付き合わせてしまった!」
そう言ってAZさんは地に額を擦り付けて土下座した。それを見たタウニーが慌てて止める。
「ちょっ!?よして下さいAZさん!えっと・・私がここまで戦えるようになったのもAZさんのおかげだし!私を強くしてくれた切っ掛けは間違いなくAZさんだし!それがAZさんの思惑だったとしても・・そこまで嫌な思いしなかったし!結果良ければ全て良し!みたいな・・」
「だが・・・一歩間違えれば君は死んでいた。」
「それは本望だし!英雄みたいにカッコよく戦って死ぬのは、人助けする人間としては最高の・・」
「それを止めるのが大人である私の役目だったのだ!そして子供の代わりに戦うのも大人の・・・だが私は、君に英雄になって欲しかった。フラエッテのように輝く姿を見たかった。だから私は・・・君を止めなかった。それどころか、死地への行軍を見送った。家族として危険な事から遠ざけるべきだと思う私と、英雄として戦う君が観たい私。その間でずっと揺らいでいた・・・ミアレの中で覚悟が最も足りない半端者は、この私だったのだ。」
すまないと何度も謝りながら頭を上げようとしないAZさん。そんなAZさんの姿を見てとうとう何も言えなくなってしまったタウニー。彼女が黙って謝罪を受け入れて数分が経って・・ようやくAZさんは顔を上げた。
「すまなかったタウニー・・・そしてキョウヤ、君もだ。」
「俺ですか?俺はべつにアンタの指示に従っただけで思想までは・・・」
「そうではない。君は、タウニーに特別な感情を抱いているだろう。」
いきなり核心を突かれて目が点になってしまった。確かに俺はタウニーを病的なまでに愛している・・気がする。それこそ、タウニーが悪意に晒されて殺された場合は世界を滅ぼそうと即決するくらいに。
「もちろんです。それがなにか?」
冷静に、当たり前のように肯定した。そんな俺を見てタウニーの顔はみるみるうちに真っ赤に染まる。そんな俺達を見て心配そうにAZさんは呟いた。
「だからだ。・・・さっきも言った通り、君は私に非常に似ている。愛する者を失う痛みに耐えられない。失ったらすぐさま世界に向けて報復するつもりなのだろう?」
「そんなの当たり前で・・・ああ、そういう。アンタは心配なんですね。フラエッテを失ったアンタが世界に報復したように、いつかタウニーを失った俺が世界に報復する。そしていつか未来で、愛する者を失った誰かが世界に報復する。こうやって負の連鎖が繋がっていく。それが最後の心残りなんですね。」
3000年前に悲劇を起こしたAZさんは責任を感じているのだ。自身と関わった所為で俺達が同じように過ちを繰り返す可能性を。そして過ちが呪いとなって未来で繰り返される事を・・・呪いを創ってしまった張本人として。
「そうだ。そもそも私がタウニーにこだわらなければ、君とタウニーがここまで深い関係になる事は無かった。私の下らない未練の所為で君達に大いなる呪いを残す事になってしまった。本当にすまない・・・死んでしまった今となっては、あの世で呪いが断ち切られる事を祈る事しか出来ない。それだけが心残りだ。」
そう言ってもう一度土下座した。今度は静かに、祈るように・・・
そんな姿を見て、俺は思う。
(なるほど、それがAZさんの最後の未練。俺達が自身と同じ過ちを繰り返す事が怖いのか。となると、俺達・・というより、AZさんと似てる俺が過ちを繰り返さないって保証すればいいだけの話な気もするけど・・・でもなぁ、そんなの証明しようがないしな。仮に過ちを繰り返さない事を口約束したとしても、AZさんは絶対信じきれないだろうし。何かこう、タウニーが死んだあとに俺が暴走しないと保証できればいいんだけれど・・・でも絶対俺暴走するだろうしな~~。だってタウニー大好きだし。大好きなタウニーが誰かに裏切られて殺されたなんてなったら憎しみが・・・いや、待てよ?・・・そうか!そうすればいいのか!!)
ちょうどいい解決案が浮かんだ俺は、すぐにAZさんを安心させるべく行動を開始する。
「・・・AZさん、聞き届けてくれませんか。」
「聞き・・・届ける?」
発言の真意が分からず、思わず顔を上げたAZさん。そんな彼に俺は、安心してくれるように微笑みながら言った。
「この中でタウニーの親族と呼べそうなのはアンタだけですからね。さて・・・タウニー!」
「・・・なんだし、キョウヤ。」
タウニーも次に俺が何をする気か分からず緊張している。そんな彼女の手を取って俺は宣言した。
「あー・・その・・・私!MZ団所属キョウヤは!MZ団リーダーのタウニーと結婚し!彼女を生涯懸けて守る事を!ここに誓います!!!」
大きな声で堂々と言い切った。俺は彼女と運命を共にする。それを聞いて真っ先に驚きで声を漏らしたのはコルニの方だった。
「え・・えええ!!!???キョキョキョキョウヤ!?それ本気!?本気で言ってる!?」
「ああ本気だ。俺はタウニーと結婚する。たとえクエーサー社が許さなくても勝手に想い続ける!そしてもし・・もし!タウニーが非業の死を遂げた場合!俺は彼女の後を追います!!」
この宣言にAZさんは大いに驚いた。まさか俺がそこまでタウニーの事を想っているとは予想外だったようだ。
「ほ、本気かキョウヤ!?君は・・彼女とどこまでも運命を共にする気か!?」
「もちろん!でもそう易々とタウニーを殺させはしませんよ。全力で彼女を守る所存です。ねっ!タウニー!」
「え?・・うん?そうだね?」
いきなり告白されて混乱が止まらないタウニー。そんな彼女の手を引いて俺は優しく抱きしめる。抱きしめられたタウニーは頬を赤らめながら言った。
「あっ・・・わ、私も!キョウヤと家族になりたい!」
「んええっ!?タウニーまで!?えっ!えっ?・・・お、おめでとう?でいいのかなぁ?」
「祝福ありがとうコルニ!あはは・・・まぁ、そんな訳ですから。」
皆の同意を得た俺は抱きしめるのをやめてAZさんに向き直る。
「安心して下さいAZさん。貴方の心配はおそらく杞憂に終わります。だからどうか・・・後の事は任せて、今度こそ安らかに眠って下さい。」
そう言われたAZさんは俺達の方は少しの間見つめた後、最後の心配を零した。
「・・・よいのか?そのような覚悟はとても歪なもの。仲間から糾弾され失望されるかもしれんのだぞ?」
「構いませんよ。俺は昔から一人で突っ走るしか能が無いんです。仲間になりたいと集まって来る連中の為に歩みを遅くする気はありません。でも一部の・・俺より早い連中の誰かは、俺の為に走るのをやめてくれるかもしれません。そういった相手を邪見にしたりはしないので、そこは安心して下さい。」
「・・・えっと、たぶん大丈夫だし!キョウヤのサポートは私達がしっかりやってみせるから!だからその・・・安心して、天から見守っててね。お爺ちゃん!」
お爺ちゃん・・・その言葉を聞いたAZさんは数秒硬直したあと、ポタリ・・と一筋の涙を零した。そして・・・
「そうか、そうだな。・・3000年前、私は取り返しのつかない事をした。当時の彼らは私を絶対に許さないだろう。そんな私が、まさかこれほどまでに幸せな想いを抱えて逝けるとは、正直夢にも思わなかった。」
そう言うとAZさんの身体が再び光り始め、脚から消え始めた。それと同時にフラエッテが彼の胸から姿を現す。
「フラエッテ、君には最後まで世話になりっぱなしだったな。本当にありがとう。そしてコルニ、これからも健やかにな。最後にキョウヤとタウニー・・・人生とはどうにもならない事ばかりだが、君達がそれを乗り越えて、呪いを断ち切る未来を勝ち取る事を祈る。」
「・・安心して俺達を信じていて下さい。呪いは俺の代で終わらせてみせます。」
「そもそもキョウヤより先に死ぬつもりもないし!キョウヤと私、死ぬ時は一緒だし!だから・・ね!」
「うむ・・・ありがとう・・・・・!!」
感謝の言葉を伝えてニコッと笑顔で笑ったAZさん。その顔は憑き物が落ちた、とても良い笑顔だった。そしてそれを最後に、AZさんは光となって消えていった。
その後、異世界から脱出した俺達は、夜遅くまで俺達の帰還を待っていたみんなに事の顛末を報告した。もうミアレは大丈夫。それを理解した面々は、みんなそれぞれの日常に帰っていく。最後に残ったのは俺とタウニーの二人だけ。他の団員達はアンシャをホテルに送りながら寄り道していくとの事。互いに顔を見合わせながら俺達も元の日常に帰ろうとホテルに帰る途中、タウニーが言った。
「あのさ、キョウヤ・・・キョウヤってさ、私のどこが良いと思ってるの?」
「ん?全体的に好きだけど・・・」
「そうじゃなくて・・好きになった切っ掛けとかさ・・・全部知りたいな~って。」
そう言われて気づく。
(そう言えば、俺っていきなりプロポーズしたけど雰囲気とか段取りとか何も考えずにやったんだよな。そっか、タウニーからすれば何で?ってなるよなそりゃ。)
どこから話したものかと思考を巡らせていると、ヒュー・・・と、小さな風が背中を押した。
(・・今の風・・・いや、まさかな。)
孫を心配するお節介なお爺ちゃんを思い出しながら、俺達は二人・・・ホテルへ帰るのだった・・・足並みを揃えて。
END
ここまで読んで頂きありがとうございました。
このお話を書こうと思った理由として、本編でのAZさんの活躍をもっと見たかった、というのが一番にあります。
また、このお話で出て来た「波動は我にあり」という言葉は映画「波動の勇者ルカリオ」に登場するルカリオが使ったもので、このお話ではルカリオがメインにあったので、せっかくだから使おうと思った次第です。
ではまた、いつか。