葦名城、天守望楼にて
「弦一郎様!敵襲です!」
「何?」
狼が来るより少し前、葦名一心の病状が発覚し、後継である葦名弦一郎の治世も安定を見せてきた頃。葦名城に1人の武者が押し入った。
「敵、内部より兵を薙ぎ倒しながら迫っております!もうじきここに」
「……ああ、そのようだ」
その武者、錆びつき、欠け落ち、まるで落武者のような姿。しかし、その手に握られている刀のみは、そのまばゆいばかりの輝きを保っている。
「く、曲者!」
「ふん!」ガン!
その武者、迫る兵の横を掠め、首筋に峯を打つ。ここに来るまでもそのように捌いていた。
武者は弦一郎の刃が届かない程度に近づくと、刀を置き、あぐらをかいて座った。
「突然の訪問を詫びる。我が名は桂馬、流浪の侍にござる」
「時に、年若き葦名の長に頼みがある」
「……申せ」
「我を、雇ってくれぬか」
「……は」
武者は両手を地面に付き、土下座の構えをした。
「どういうつもりだ」
「はて?」
「葦名城に押し入り、兵をすべて相手にしておいて、俺がお前を雇うと思っているのか」
「ふむ……」
武者は平然と語り始める。
「城に押し入ったのは、用立ててほしいと願うため。兵は、話を聞いてくれなかったからな、振りかかる火の粉を払ったまで」
「狂っているのか?」
弦一郎は深くため息を付き、武者に背を向ける。
「いずれにしても、俺はお前を雇わん。さっさと帰るんだな、俺もお前がやったことの後始末をつけねばならん」
「左様ですか……」
天守を降りようと、部屋への襖を開けようとする。
「……言葉では、足りぬか」ジャキィ
武者は立ち上がって静かに刀を抜き、静かに忍び寄る。やがて刃も目と鼻の先というところで走り始め、弦一郎に斬りかかった。
ギャァン!!
咄嗟の弦一郎の受けと弾きあって、鈍い金属の音が鳴る。
「一体、なんのつもりだ」
「ええ、ええ、このまま終わっても良いのですが」
「まだお主は我の全てを見ていない」
腰を少し落としてどんと構え、刀を頭の横に。仁王立ちで弦一郎に向かい合う。
「桂馬兜割術、ご覧に入れよう!」
「面倒な」
武者は軽く一歩を踏み出すと、二歩目は有らん限り力強く、天守の地面が沈むほどに力強く踏み締め、飛び立った。
「我が兜割!受けてみよ!」
そして流星のように一直線に切り掛かる。
ドガァン!
弦一郎は両手で刀を支えるが、あまりの衝撃に体勢が崩れる。
「ふん!」
咄嗟に左手の力を抜き、桂馬の刀を逸らした。そしてすかさずその首元に刃を振るう。
しかし、籠手で衝撃を逃すように滑らせられ、腹に蹴りを受け、吹き飛ぶ。
仕切り直しと、お互い刀を構え直し、向かい合う。
「そこまで!」
『?!』
朗々とした声が聞こえたかと思うと、いつのまにか天守の真ん中に老人が立っていた。
「お祖父様……」
「僅かではあるが、お前たちの立ち合い、しかと見せてもらった!」
「お前、桂馬と言ったか。面白い、合格じゃ!」
「お祖父様?!」
桂馬は手のひらを返すように納刀し、一心に跪いた。
「ありがたく存じます。一心様」
「しかし、お祖父様」
「内府の間者を疑っておるのだろう。心配するな、こんな阿呆が選ばれる訳ない」
「……は」
弦一郎は蔑みと憐れみの混じったよくわからない目で桂馬を見つめた。
「そして、桂馬よ。おぬし、我が孫に稽古をつけてやってくれぬか」
「お祖父様!!」
信じられないと言った感じで一心を見つめる。
「なぁに。お前、先の立ち合い、手加減しておっただろう」
「僅か、ではありますが。稽古の件も、問題ございません」
「よし!じゃあ頼んだぞ」
弦一郎は頭が痛くなった。
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兜割術
武者、桂馬の扱う剣術。
技は一つ。兜割、一撃で兜を叩き割る技のみ。
あまねく強者が至るところはいつも一緒。迷えば敗れる。そして、戦場において多くの技は迷いを生むのみだ。