学校も終わり放課後、ユキと二人で屋上に来ていた。目立っていないので一人になりやすいとのこと。
金網を越え、靴を脱いでギリギリの所に座り、足を空中に放り出したのにはヒヤヒヤさせられた。ユキぃ…、お前危なっかしすぎだろと思いつつ、俺も倣って裸足で隣に座る。
「今日は楽しかったです。こんなに人と話したのは久々です。」
ユキは笑いながらそう言う。夕日で照らされ顔が赤く、今にも消えそうな儚い雰囲気を醸し出していた。
「私は割と苦労したんだけど…。まぁでも、私も楽しかったよ。」
俺がそう言うとユキはおもむろに立ち上がる。屋上のギリギリに立っているので風に吹かれただけで落ちそうだ。
「……少し試してみたくなりました。」
嫌な予感がした。ユキは後ろに倒れ込んだ。世界がスローに見える。ゆっくり、ゆっくり、倒れ込んでいく。
すかさず俺も立ち上がり手を伸ばす。何とか間に合った、が今度は自分が落ちそうになった。
「……っ!」
手が空を切りバランスを保とうとする。危ない、危ない、危ない。洒落にならんぞ、転生初日で死にましたとか。
何とか耐えられた。安心したら急に脱力し、そのままへたっと座りこんだ。
「ふふっ、可愛いですね。」
こんな状況を作った当の本人はにっこり笑っていた。いい笑顔だ。殴りたい。
「ゆ、ユキ、おま、お前なぁっ!笑いごとじゃ済まんぞ!」
恐怖で瞳を潤わせながらユキを睨む。コイツ…まだ笑ってやがる…!
「貴方なら助けてくれると信じていましたから。」
「会って一日の信頼じゃない。」
俺がそう言うと少し肩を竦めた。顔も目に見えて落ち込んでいる。
「そうですよね。まだ初対面、ですもんね。」
意味ありげにそう言っている。俺は初対面だぞ、本当に。この体の奴何かやったんか?
「反省してるならよし。次からはしないこと。言ってくれればいくらでも助けるから。返事。」
「はーい。」
また笑顔を浮かべた。くっ……!顔がいい……!この顔で笑うのはもう兵器だろ。
会って一日と言うのにもう心を許していた。
そんなやり取りをしていると、屋上の扉が急に開いた。おいユキ一人になれるって話どこ行った?
クラスのいじめっ子共かと警戒したが、出てきたのは、毛先が桜色に染まっている白髪を揺らした、少し気弱そうな可愛らしい少女だった。
「…あ、あの!」
こちらに近づき声をかけてくる。な、何か全然いじめっ子とかじゃなさそう?勘違いか。
ホッとしているとその子が話を切り出してきた。
「ぼ、ボクと、友達になってください!」
「……へ?」
目が点になった。
今日はいつもと違う一日だった。普段は大人しくて、周りに興味もなさそうだった子が、クラスのいじめられていた子を助けた。
肩の辺りまで伸ばした茶髪、おっとりとした目、普段からは想像もつかないその子の姿に驚愕した。
昼休みにもその子はいじめられていたユキという子に声をかけていた。初対面なのにどこか無遠慮そうだったけど、気を許してしまいそうな笑顔、明るい声と雰囲気。
すっかりその子から目が離せなかった。
ずっと声をかけようと思ってたけど、クラスの雰囲気やボク自身の勇気のなさで足踏みをしていた。
だから放課後、屋上に向かったのを見てチャンスだと思った。
こっそり後ろを尾けて階段をのぼる。屋上の扉から覗いてみると二人で楽しそうに話していた。
タイミングを見計らって飛び出そうとした時、ユキという子の方がなぜか屋上から落ちようとしていた。
息が止まる。足が竦む。世界が止まったみたいに動けなかった。
ダメ、止めないと。心が叫んでいるのにできなかった。普段のいじめすら見て見ぬふりで傍観者のボクには無理だった。
でも、あの子は違った。
何の躊躇いもなくその子の手を掴む。グイッと引き寄せた。
その少女は無事だった。
代わりにバランスを崩しかけていたけど何とか無事みたいだった。
ボクと違って勇気があって、優しさに溢れたその行動に、心を撃ち抜かれた。
友達になりたい。そう思った。
だからボクも勇気を持って踏み出してみた。
「……へ?」
目の前の少女は困惑していた。何で自分?という顔だった。
「今日のこと全部見てました!カッコいいって、すごいって思いました!だからボクと友達になってください!」
早口でまくし立てた。言葉にはできていたけど全部月並みで、その子のことを表すには足りなかった。
けど、それを聞いて嬉しそうにしながら
「うん、よろしく。」
そう言って手を握ってくれた。温かさが、手を通して伝わってきた。
「私はユーリィ、齋藤ユーリィ。君は?」
「さ、桜羽エマです!よろしくお願いします!」
「敬語じゃなくていいよ。」
快く受け入れてくれた。勇気を出して良かったと思えた。笑顔が眩しくて直視できなかった。