季節の巡りは早いものでもうすぐ夏になる。制服もすっかり夏用のものになっている。
一応教室内はクーラーが効いていたりするが…にしても暑い。俺の髪が大分伸びたのもあるがとにかく暑い、地球温暖化を許すな。
「あづいぃ…溶けるぅ…。」
髪をバサッと広げながら机に突っ伏している。教室はまだマシなのだが移動する時はマジで地獄、容赦なく夏の暑さと日差しに襲われる。
「あはは…確かに暑いよね。」
エマとユキはそんなに暑そうにはしていない。なぜ俺だけなんだ…。
「髪を結んだらどうですか?あなたの場合多少マシになりそうですが。」
……そう言えばユキも髪結んでたね。でも生憎俺は結び方を心得ていない。
「私自分じゃ結べないから…ユキが結んで。」
という訳でユキに任せた。慣れた手つきで俺の髪をまとめていく。
「できましたよ。」
そう言われ確認する。どうやらシンプルなポニーテールのようだ。少しすっきりした…気がする。よく分かんないけど…。
手で触ったりくるっと回ったりしてみたが崩れない。ユキにしてはちゃんとしていた。
「うん、バッチリ。ありがとね。」
二人共じっとこちらを見つめてくる……目怖いよ?
「我ながらいい仕事をしました。よくできましたね、私。」
急にどうした。
「ユーリィちゃんの…うなじ…。」
エマ?何で近づいてきてるの?エマ?
「ユキ、エマを止めてくれない?何か嫌な予感がする。」
「……ふふ。」
お前何わろとんねん。こちとら身の危険感じてるんだぞ。
嫌な予感は的中し、しばらくうなじを吸われた。
放課後、今日は割と早く皆と別れ帰っていた。ポニーテールを揺らしつつ歩いている。
家に着きドアを開けた。
「ただいまー。」
「お帰りなさい。」
マーゴが出迎えてくれる、この光景も大分見慣れてきた。
「あら?ユーリィちゃんったらいつもより可愛らしい髪型ね。」
流石マーゴ、目聡く変化を見逃さない。俺が何か隠し事してもいつも暴いてくるし…。
「ユキにやってもらったんだ、似合う?」
「ええ、とっても似合うわ。」
すごいニコニコしてる…絶対何か企んでる…。
「……良かったら次からは私がやりましょうか?ユーリィちゃんを私好みにできるチャンスでもあるし…♡」
……何か拍子抜けした。もっとこう…ヤバいこと考えてると思ってた。
「マーゴがしてくれるの?ありがとう。」
笑いかけながらそう言った。マーゴが固まっている。
「……ユーリィちゃん、その顔は反則よ。」
どの顔だよ。こちとら普通に笑ってるだけなんだけど?
疑問に感じつつも家の中へ上がり、いつも通り一緒にご飯を食べた。
ユーリィちゃんとの出会いは偶然だった。
その日はいつもより暴力がひどくて、少し嫌になって、家をこっそり抜け出していた。
行くあてもなくただフラフラしていた。ユーリィちゃんと出会ったのはその時だった。
初めは警戒していた。どうせこの優しさにも裏がある、そんな人はいくらでも見てきた。
でもユーリィちゃんは違った。
初対面なのに私のことを気にかけてくれて、家に招いて傷の手当もしてくれて、食事も出してくれた。
行動一つ一つから純粋に私を気遣う気持ちが伝わってきて…それが何より心に沁みた。
しかも私が求める限り何度でも助けるって、ここが君の新しい家だよって…ホント…馬鹿みたい…。
でも、その言葉が嬉しかった。
だからあなただけは信じてみたいと思えた。
……詐欺師にこんなこと思わせた責任は、しっかり取ってもらうわよ?私が唯一信頼する、私の本当の家族さん。