ゾンビさんは、攻略できないキャラたちを堕としたい! 作:霧夢龍人
腐卵臭が鼻を通り抜けて、気持ち悪さに目が覚める。周りは洞窟のような場所で、暗がりに居るにも関わらずハッキリと辺りが見渡せた。
ゆっくりと起き上がれば、周りには肉がへばりついたなんの部位かも分からない骨が幾つも散らばっている。五感の全てがここに居ることを拒否するように、見ていても何も感じない。
なんでこんな場所にいるんだ……?
夢でも見てるのかと思ったが、肌で感じるこの気持ち悪さは本物だ。力を入れて起き上がろうとしてみても、肉が削ぎ落とされた腕には殆ど力が入らない。
足元は齧られたように肉が無くなっているし、ぺたぺた自分の顔を触れば自慢のご尊顔が見事に穴ぼこだらけのじゃがいものような、ちょっと人とは言えない顔になっているのが分かる。
「……一旦状況整理しよう、じゃないと冷静に居られんぞこれは」
オレは昨日、いつも通り店の閉店作業をしていたはずだ。十八歳の時に就職したキャバクラのボーイとして、文句の一つも言わず仕事をこなしていた。
流石に同僚のドッキリで下水道にぶち込まれるようなヤンチャは働いていないと思うが、事実今は何処とも分からない場所で目覚めている。しかも腕も足も顔も無事とは言えない。
この見た目じゃまるで──ゾンビじゃないか。
現実とは思えない光景に、最近買ったVRゲームの可能性を考えた。しかし、ゲームにしてはやはりリアルすぎる。
「め、メニュー!」
震える声でそう叫んだ。もしここがゲームなら、酔っ払った勢いで買ったかなりリアル志向の作品なんだと納得できるからだ。ジャンルもホラーとかそこら辺だろう。
そうでしかない。むしろそうあってくれというオレの想いは、果たしてどうやら叶ってしまったらしい。
──『メニュー』
メイン目標:この世界を踏破せよ
○クリア条件
・『黒山羊』を抱く
・『生命源』を骨抜きにする
・『渾沌』に夜這いをする
・『全一』を腹上死させる
・『???』を???する
《種族》徘徊型腐敗死体:ゾンビ
進化段階:未定
所持技能:なし
「……なんだよこれ」
目の前に浮き出た文字の羅列は、どうやらこの世界がゲームたると判断するのに十分なモノだ。
だが、ログアウトの文字が見当たらない。カスタマーサービスに電話しようと思っても、その文字も見つけることが出来なかった。表示されているメニューは、残酷にクリア条件を表示することだけ。
「黒山羊……生命源……いや待て、これってリバースか?」
──『Re:BIRTH』
新しくモンスターとして生まれ変わり、他の敵対モンスターを己の持つ力で攻略していくといった内容の狩猟ゲームだ。
レベルやステータスといった画面はなく、種族ごとに決まった技能だけを駆使していくため、かなり評判が良かった。かくいう俺もこのゲームの面白さにドバっと嵌り、仕事が終われば即帰宅してリバースをやり込んでいたものだ。
とはいえ、である。
「もっとほのぼのゲーとか、育成ゲーとか色々あっただろ……なんでリバースなんだよ」
評判高いリバースだが、評価に反して難易度が高いという欠点がある。ストーリーもジメジメして陰鬱だし、出てくるモンスターも見た目や設定が煮込んだ灰汁を舐めるように苦味が強い。
誰だよ、妊婦のお腹から出てきた赤子を序盤のボスにしようって言ったやつは。臍の緒で攻撃して来た時点で、そん時食ってたソーセージ吐きそうになったわ。
とまぁこんな具合で、ぐちゃぐちゃになった人の四肢を貼り付けてるモンスターだとか、不定形の肉塊スライムだとか、SAN値をゴリゴリに削ってくるモンスターが登場してくるのがこのゲームの特徴だ。
そして、オレの種族であるゾンビ。初心者がなるのにオススメなモンスターランキングでは、堂々の一位である。
勿論、下から数えて“一位”だ。
動きが遅い、攻撃力も低い、防御力も紙、その上見た目が良くない。という四大LOWを兼ね備えているゾンビは、不遇過ぎて逆張り野郎たちにどんどん開発されていった。
その働きは発売当初から五年ほど続き、先駆者であるプレイヤーが叩き出したセリフ──「ゾンビだけは使うな、時間の無駄だ」はあまりにも有名だ。
つまりLOWな上にRAW、それがゾンビさんである。
「全く笑えないんだけど」