約束のネバーランドの世界に転生したのでノーマンの出荷を回避する 作:M1tarash1
ここは、優しくて、温かくて、残酷な檻だ。
自分が前世で狂信していた漫画『約束のネバーランド』の世界に転生したと気づいた時、俺──ソラが抱いたのは、吐き気を催すほどの恐怖だった。番号の刻まれた首を触るたび、心臓が嫌な音を立てて跳ねる。
ここは、人間が鬼に食われるための農園だ。
だが、絶望に押し潰されそうになっていた俺の視界に、彼らが映った。太陽のように笑うエマ。
全てを包み込むような微笑みを浮かべるノーマン。
そして、どこか達観した目で本をめくるレイ。
「ソラ、どうしたの? 顔色悪いよ、熱でもある?」
小さな手を俺の額に当てて、本気で心配そうに覗き込んでくるエマの顔が、信じられないくらい近い。その瞬間、恐怖がどこかへ吹き飛んだ。
──ああ、神様。地獄みたいな世界に落としてくれて、本当にありがとう。
推したちが生きている。喋っている。俺を心配してくれている。
ならば、答えは一つだ。ノーマンが死ぬ未来なんて、俺が絶対に認めない。ハウスの秘密? 鬼の脅威? 知るかそんなこと。原作知識の全てを動員してでも、この愛しい家族を、俺の推しを絶対に救ってみせる。
──と覚悟を決めたのはいいが何をすればいいのか。なんせ俺は彼らのように天才児ではなく平凡なサラリーマンだ。
わかっていることと言えば自分はフルスコア組と同じ最年長の11歳ってことくらいだ。前世での年齢は聞くな。
ついでにハウスのカレンダーで誕生日を調べたところ俺は幸いにも2月8日だ。12歳の満期出荷まで随分時間がある。
そして現在10月9日。この3日後はコニーの出荷日だ。結末を知りながら見送るなんて…俺にはできない。
だがレイがコニーの出荷を利用してエマとノーマンにハウスの真実を伝えるというのが原作の流れだ。
これは必要な犠牲なのだろうか?
そうだ!レイに俺の状況を伝えて何とか……いやレイが何年もかけて練った計画だ。
いや、いきなりポッと出の転生者が「実はここ漫画の世界でさ、コニーを助けたくて」なんて言ったところで、あのリアリストなレイが信じるわけがない。
計画の邪魔だと判断されてスルーされるのがオチだ。
なにより、コニーの命がかかっている。タイムリミットはあと3日。
「くそ、どうすれば……!」頭を抱えてベンチでうめいていた、その時。
「何がどうすればなんだ? ソラ」
──心臓が跳ね上がるほど冷たい声が、すぐ耳元で聞こえた。
恐る恐る顔を上げると、そこには本を片手に、前髪の間から鋭い黒眼を覗かせる──レイが立っていた。
「……レ、レイ」
「さっきからブツブツ言って。お前、体調でも悪いのか?」
嘘だろ、ここで現れるか!?
まるで俺の思考を見透かすような冷徹な視線。さすが作中屈指の頭脳を持つ男。
一般人サラリーマンのポーカーフェイスなんて、コイツの前では一瞬で見破られそうだ。
だけど、冷や汗を流す俺の横を通り過ぎる時、レイはフッと不器用な笑みを浮かべた。
「……まあいい。無理すんな。ほら、エマとノーマンが呼んでるぞ」
レイが指差した先では、満面の笑みで大きく手を振るエマと、それに釣られて優しく微笑むノーマンの姿があった。
(ああ、やっぱり、この3人を失いたくない。コニーだって死なせたくない!)
迫り来る10月12日。レイの計画を壊さず、コニーも救い、ノーマンの未来を変える。
そのためには、俺がレイの裏をかく『第4の選択肢』を、この3日間で絶対にひねり出してやる──!
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