約束のネバーランドの世界に転生したのでノーマンの出荷を回避する 作:M1tarash1
レイが手元の本に視線を戻し、足早に去っていく。
完全に疑いが晴れたわけではないだろう。
だが、ひとまずは危機を脱した。俺は大きく息を吐き出し、ベンチの背もたれに体を預けた。
遠くでは、エマが元気に走り回り、ノーマンがそれを優しく見守っている。
あの平和な光景の裏で、レイはすでにコニーの出荷を利用した計画を進めている。
そして、ママであるイザベラもまた、冷徹に俺たちを管理している。
天才たちのチェス盤の上で、平凡なサラリーマンだった俺に何ができる?
(……いや、やるんだよ。結末を知っていて、何もせずにコニーを見殺しにするなんて、俺には耐えられない)
タイムリミットは、あと3日。10月12日の夜だ。
原作のタイムラインを必死に脳内で引き出す。
あの夜、コニーは人形の「リトルバーニー」を食堂に忘れたまま出荷される。
それを届けようとしたエマとノーマンが門へ向かい、世界の真実を知る──。
もし、コニーが忘れなかったら?
いや、それではエマたちが真実を知る機会を失い、脱獄計画そのものが始まらない。
レイのこれまでの仕込みも無駄になり、最悪の場合、俺が真っ先に切り捨てられる可能性すらある。
レイの計画を潰さず、エマたちに真実を知らせ、なおかつコニーを救う。
そんな都合のいい『第4の選択肢』が、一つだけあった。
(コニーの出荷自体を、偽装するんだ)
それからの3日間、俺は文字通り命を削って動いた。
ハウスの目を盗み、自由時間や就寝前の僅かな隙を突いて裏工作を進める。
昼食後の時間、ママの監視がないのを確認しコニーに接触する。
「里親のところへ行く前、誰もいないところでこの手紙を読んで」
コニーは不思議に思ったが
「うん!わかった!」と元気よく答えた。
やっぱり見殺しになんてできない。俺はもう1度固く決心した
『門へ行ってはならない。そこには鬼がいる。この手紙を読んだら、すぐに中庭の古木の根元に隠れて息を潜めていろ。大丈夫、必ず俺が助ける。 ──ソラ』
コニーが人前で読んでしまうリスクもある。
だが、コニーの命を繋ぐための唯一の賭けだった。
さらに、俺は食堂の裏口の鍵に細工を施し、夜間でも内側から音を立てずに開けられるように工作した。
天才児たちやママの視線を誘導するため、わざと普段通りに振る舞い、小テストでもいつも通りの平均的な点数を維持し続けた。
頭をフル回転させ、胃がキリキリと痛むようなプレッシャーに耐える日々。
サラリーマン時代のデスマーチなんて生ぬるいと思えるほどの、本当の地獄だった。
そして、あっという間に運命の10月12日がやってきた。
外は、冷たい雨が降っている。食堂では、新しい里親の元へ向かうコニーの歓送迎会が開かれていた。
「みんな、今までありがとう! 私、お外に行っても頑張るね!」
無邪気に笑うコニーの姿に、胸が締め付けられる。
「さあ、行きましょうか、コニー」
ママが優しくコニーの手を引く。食堂の扉が開き、二人の姿が雨の夜へと消えていった。
(始まる……)
俺は食堂の隅で、拳を血がにじむほど強く握りしめた。冷や汗を拭い、俺は静かに立ち上がる。
ここからが、一般人転生者である俺の、本当の戦いだ。