約束のネバーランドの世界に転生したのでノーマンの出荷を回避する 作:M1tarash1
「あ! コニー、リトを忘れてる!」
エマのその声を聞いた瞬間、俺の身体は無意識に動いていた。
食堂が「どうしよう」とざわつき始め、エマとノーマンがリトルバーニーを手に持って裏口へ走り出す。
よし、原作通りだ。レイが裏で糸を引いた『真実への誘導』が始まった。
俺はその喧騒に紛れ、二人とは別のルート──事前に細工しておいた食堂の勝手口から、音もなく雨の夜へと滑り出した。
冷たい雨が全身を濡らし、体温を奪っていく。
だが、緊張で沸騰しそうな俺の脳内には、冷たい雨の感覚すら心地よかった。
(猶予は数分。エマたちが門に着くより早く、ママがコニーを『トラック』に乗せて引き返す一瞬の隙を突くしかない!)
息を切らしながら、俺は深い闇に包まれた森を突っ切る。
目指すは、ハウスの敷地と外の世界を隔てる、あの巨大な「門」だ。
普段なら絶対に近づかない場所に、今、俺は命を懸けて足を踏み入れようとしていた。
やがて、前方にぼんやりとした明かりが見えてくる。門の内部だ。
すでにそこには、原作で見たあの忌々しいトラックが停まっていた。物陰に身を潜め、荒い呼吸を必死に抑える。
心臓の音がうるさくて、周囲の雨音が遠く聞こえる。
カツ、カツ、と静かな足音が響いた。ママだ。
彼女はコニーをトラックの荷台へと促すと、
「ここで待っていなさいね」
と優しく声をかけ、書類の確認か何かのために一度、奥の管理人室へと戻っていった。
今だ。
鬼が来る前、そしてママが戻ってくる前の、わずか数十秒の空白地帯。
「……コニー!」俺は物陰から飛び出し、トラックの荷台へと駆け寄った。
暗い荷台の奥で、膝を抱えて座っていたコニーが、驚いて丸い目をさらに大きくする。
「そ、ソラ……? どうしてここに……」
「静かに! 声を出さないでくれ」
俺は必死の形相でコニーの口を手で覆った。
コニーの身体は小刻みに震えている。
俺の手紙を読んだのだろう。
その証拠に、彼女の目にはハウスの大人たちへの強い不信感と恐怖が浮かんでいた。
「ソラ、手紙、読んだよ……。ここに、お化けがいるの……?」
「ああ。だから今すぐここを出るんだ。俺を信じて、一緒に来てくれ」
コニーを荷台から抱き起こす。
11歳の俺の身体にとって、6歳の子供の体重は決して軽くはない。
サラリーマン時代の運動不足が今更祟りそうになりながらも、火事場の馬鹿力でコニーを地面へと降ろした。
その時、門の奥から不気味な地響きのような足音が聞こえてきた。
(──鬼が来た!)
全身の毛穴が逆立つような恐怖。
本物の『捕食者』の気配だ。捕まれば即、死。
俺はコニーの手を強く引き、トラックの影から、門のすぐ脇にある中庭の古木の根元へと滑り込んだ。
あらかじめ下見をしておいた、夜間なら完全に死角になる、生い茂った茂みの奥だ。
「ここに隠れて、絶対に息を殺しててくれ。何が見えても、絶対に声を出しちゃダメだ」
「……うん、がんばる」コニーは涙目を流しながらも、健気にこくりと頷いた。
その直後だった。
門の奥から、エマとノーマンの足音が近づいてくるのが聞こえた。
そして──トラックの荷台を覗き込んだ二人の、息を呑む気配。
(ごめん、エマ、ノーマン。コニーの死体はない。だけど、そこにある『何か』で、世界の真実を知ってくれ……!)
俺はコニーを背中に庇いながら、暗闇の中で激しく鳴り響く心臓を必死に押さえつけていた。