約束のネバーランドの世界に転生したのでノーマンの出荷を回避する 作:M1tarash1
「──全員、救うだと?」
レイが吐き捨てるように言った。
その瞳には、俺に対する激しい怒りと、制御不能なイレギュラーへの強い警戒が混ざり合っている。
「ソラ、お前は何も分かっちゃいねぇ。ママは化け物だ。コニーの発信機が消えた時点で、ハウス内に『裏切り者』がいると確信してる。明日には抜き打ちの身体検査が始まって出荷されるぞ!」
「じゃなきゃコニーは死ぬんだ!」
俺が声を荒らげた、その時だった。
「……待って」
暗闇から、カサリと音がした。
振り返ると、そこにはいつの間にか部屋のドアを開けて立っていたエマと、その背後に佇むノーマンの姿があった。
二人の顔はまだ青白く、門で見た絶望の余韻が残っている。
だが、エマの目は、俺たちの会話を聞いて大きく見開かれていた。
「ソラ……レイ……? 今、なんて言ったの? コニーが……生きてるの?」
「エマ……」
俺が息を呑むと、エマは弾かれたように俺の胸ぐらを掴んできた。
その手はガタガタと震えている。
「教えてソラ! コニーは鬼に食べられてないの!? 無事なの!?」
「ああ、無事だ。ハウスの物置の奥に隠してある。傷の手当てもしたし、水も食料も渡してある」
その瞬間、エマの瞳に一気に光が戻った。
「よかった……! よかったぁ……!!」
涙をボロボロとこぼしながら崩れ落ちるエマ。
しかし、その安堵も束の間、レイが冷酷な声を突き刺した。
「よくねぇよ。エマ、目を覚ませ。ソラがやったのは、ただの自殺志願だ」
レイはエマの肩を掴み、現実を突きつける。
「今すぐコニーをママに返せ。そうしなきゃ、俺たちの脱獄計画が始まる前に、全員ここで殺される。コニー一人のために、残りの数十人の兄弟を巻き添えにする気か!?」
「そんなの嫌だ!!」
エマが叫んだ。悲痛な、だけど決して折れない叫びだった。
「コニーを返すなんて絶対にダメ! 生きてるなら、コニーも一緒に、みんなで一緒にここから逃げるの!」
「できるわけねぇだろ! 人数が増えればそれだけ足がつく! そもそもコニーをどこに隠し通すつもりだ!? 明日ママはハウス中を徹底的に捜索するぞ!」
レイとエマの意見が真っ向から激突する。
切り捨てる現実主義のレイと、全員救いたい理想主義のエマ。
俺はサラリーマン時代のディベートを思い出しながら、その間に割って入ろうとした。
だが、それよりも早く、ずっと沈黙を守っていたもう一人の天才が口を開いた。
「……二人とも、落ち着いて」
ノーマンだった。
彼は静かに俺たちの中心へ歩み寄ると、冷徹なまでに澄んだ瞳で俺を見つめた。
「ソラ。君がコニーを救ってくれたことには感謝する。だけど、レイの言う通りコニーがいない』という事実は変えられない。ママの捜索をすり抜ける具体的な算段は、君の頭の中にあるのかい?」
さすがはノーマンだ。
感情に流されず、一番のボトルネックを突いてくる。
「ある」
俺は頷き、懐から一枚のメモを取り出した。
原作の知識と、この3日間で死ぬ気で考え抜いた『偽装工作』のプランだ。
「ママは発信機の動きから、門にいた二人と、コニーを連れ去った一人が『別々のグループ』だと考えているはずだ。そして、コニーの発信機は森の奥で消えた。なら、ママにこう思わせればいい」
俺は3人の天才たちの顔を見回した。
「──『コニーを連れ去った外部の侵入者』がハウスの敷地内に潜伏し、今もコニーを人質にしてどこかに隠れている、と。
ママの警戒の矛先を、ハウスの子供たちではなく『外部の敵』に向けさせるんだ」
ノーマンが細い指を顎に当て、急速に脳内でシミュレーションを始める。
「なるほど……。ハウスの内側に裏切り者がいると疑われるより、外からの侵入者がいると思わせる方が、僕たちの身の安全は確保しやすい。ママは子供たちを守るために、一時的にハウスの監視を強めるだろうけど、内側への疑いは薄れる……」
「馬鹿言え! そんな綱渡りが成功するかよ!」
レイが机を叩く。
「もし失敗したらどうする!? 確実に逃げられるのは、予定通りエマとノーマンの2人だけだ。これ以上のイレギュラーは認めねぇ!」
「レイ」
ノーマンが静かに、だけど重い声でレイを制した。
「僕は、エマの願いを叶えたい。全員で逃げる。コニーが生きてるなら、なおさら置いていく選択肢はないよ」
「ノーマン、お前まで……!」
「ただし」
ノーマンは俺に視線を戻した。その笑顔の裏にある、ゾッとするほどの知性が俺を射抜く。
「ソラ。君の作戦に乗るよ。だけど、もし明日、君の偽装がママに見破られそうになったら──その時は、
僕が君とコニーを切り捨てる。残りの兄弟たちを守るためにね」
ゴクリ、と喉が鳴った。
これが特上、ノーマンの覚悟。
優しいエマの味方でありながら、そのためなら悪魔にでもなる男。
「……上等だ。サラリーマンの泥縄、舐めるなよ」
俺は不敵に笑ってみせた。
エマの優しさ、レイの冷徹さ、ノーマンの覚悟、そして俺の原作知識。四人の思惑が複雑に絡み合いながら、ハウスの運命を決める、嵐の朝が訪れようとしていた。