約束のネバーランドの世界に転生したのでノーマンの出荷を回避する 作:M1tarash1
出荷前日
「明日、お前1人で逃げたふりをしろ」
レイが冷静に告げる。
「ごめん、できな…」
『却下。』
エマとレイ、2人の声が重なる。
「ソラが言ってたよ。必要な犠牲なんてないって。一緒に生きよう、ノーマン」
「うんっ…!」
ついに来てしまった出荷当日。
ノーマンは時間通りにママの隣にいた。
「なんでっ…一緒に生きるって約束したのにっ…」
「クソッ……チクショウ…!!」
絶望するエマとレイ。
「元気でね。風邪ひかないようにね」
「うん。みんなもね」
食堂の入り口で、ノーマンがみんなと最後の言葉を交わしている。
いつも通りの優しい、だけどどこか覚悟を決めたノーマンの笑顔。
その姿に、エマが弾かれたように叫びながら飛び出していった。
「ノーマン! ダメ、行かないで!!」
エマはノーマンの衣服を掴み、涙をボロボロと流しながら必死に引き留める。
「逃げて。私がママの目を引きつける。」
捨て身で飛びつくエマ。
「馬鹿!!いまエマがすべきことはこんなことじゃないだろ!」
「うるさい!」
「なんでっ…!!僕はこんなこと…これっぽっちも望んじゃいないのに…!」
「ノーマンはいつだって正しいし優しい。でもその気持ち(生きたいのに犠牲になる)だけは尊重できない!」
そのやり取りを見ていたレイは唇を血が出るほど強く噛み締め、悔しさに拳を震わせていた。
自分が何年もかけて練り上げてきた計画が、最悪の形で崩壊したのだ。
その背中には、言葉にできない絶望が張り付いていた。
ハウス全体が、一人の天才の「死」を前にして、深い悲しみと絶望に包まれている。
──そして、俺は。エマとレイのすぐ後ろで、両手で顔を覆い、肩を激しく揺らして「泣いていた」。
「うっ、うう……ノーマン……ッ!!」
ボロボロと目から涙が溢れ落ちる。
周りの子供たちから見れば、それは大好きな最年長の兄弟を失う、哀れな子供の涙そのものだったろう。
だが、この涙の半分は「演技」だ。俺の脳内は、エマたちとは全く違う温度で、冷徹に回転していた。
(よし……ママの目は完全にエマたちに向いている。俺への不審な視線はない)
前世のサラリーマン時代、理不尽な減給や、絶対に勝てないコンペの後、心の中では「クソ喰らえ」と毒づきながら、上司の前で「申し訳ありません」と今にも泣きそうな顔を作った。
あの時の、卑屈で、だけど完璧な『大人の処世術』が、今の俺の涙を作っている。
本当は知っているのだ。
昨日、グランマとの極秘交渉は成立した。ノーマンはここで鬼に食われて死ぬんじゃない。
別の研究施設『ラムダ』へと極秘裏に移送され、命を繋ぐ。
(エマ、レイ。ごめん。本当にごめん……)
胸を切り裂くような罪悪感が、俺の涙をさらに本物へと変えていく。
二人の本物の絶望、本物の涙があるからこそ、ママの疑いの目は完全に逸れる。
もしここで俺が二人に真実を伝えてしまえば、二人の「演技」はどこかでママに見破られていた。
二人を、ハウスの全員を本当に救うためには、この絶望の夜を絶対に乗り越えさせなければならなかった。
「ありがとう、エマ。レイ。……そして、ソラも」
門へと連れ出される直前。
ノーマンが振り返り、俺の目を真っ直ぐに見つめた。
その瞳の奥には、すべてを察したような、深い感謝の光が宿っていた。
ノーマンは、俺が裏で何かを動かしたことに気づいている。
だけど、それをエマたちには決して言わず、俺の「嘘」に完璧に乗ってくれたのだ。
「エマ、あと(脱獄)を頼む」
食堂の重い扉が閉まり、ノーマンの姿が消えた。
エマの悲痛な泣き声が、冷たい廊下に響き渡る。レイは、ぽつりと呟いた。
「終わった……。もう、終わりだ……」
その言葉に、俺は顔を覆っていた手を静かに下ろした。
涙を袖で乱暴に拭い去り、俯くレイの肩を強く掴む。
「終わってねぇよ、レイ」
「……あ?」
レイが信じられないものを見るような目で、俺を睨む。
「ノーマンは死なない。あいつの命は、俺が絶対に繋ぎ止める。だからお前は、エマを支えてろ」
「お前、何を言って──」
「いいから俺を信じろ、天才」
俺はレイの胸元を強く叩き、自分の部屋へと歩き出した。ノーマンは行った。
だが、生きている。そしてカレンダーの針は、ついに脱獄の決行日、1月15日へと進み始める。
味方すら騙しきった嘘つきの転生者は、暗闇の中で、静かに最後の火蓋を切る準備を始めた。