一話の方も変えるかもしれません。
「なんやここは…!」
鏡の向こう側の世界。
七瀬武を背負う伊田一三はそうこぼした。
眼下には数多の朽ちたビル群。
ゴキブリの一匹もいそうにないほどに死んでいる。
「ここは時間が歪められた特別な場所。東京であって東京ではない崩壊する世界」
「…んっ」
「武起きたの?」
「あぁ、五十島か。えーと、あー…」
気絶する前のことを少しずつ思い出してくる。
そうだ、魔法使いを殺して回ったんだっけ。結局二人しかやれなかったけど。
「先生!武が起きました!
武、私はみんなも呼んでくるね」
「あ、おい五十島!」
静止も効かず、五十島は行ってしまった。
「あら、起きたのね。打撲数カ所に切り傷多数。聞いた話だと最後の系統魔法が不味かったわね。毒が入ってたわ」
メガネの女が傷の説明をくれた。誰だか知らないけど相羽は学生らしいし、保険医かなんかだろう。
「へー。あれ痛かったもんなぁ…」
「あら、思ったより動揺しないのね。面白くない」
「俺は殺す気で戦ったからな。殺されたって文句は言えねぇよ。それに、もうほとんど治ってる」
「分かるのね。魔法で治療したおかげよ?普通じゃこんなに速くは治らないわ」
「へー、超便利?」
「そうでもないわ。治る期間が短縮されるだけで痛みも残るし、無茶な戦闘はアホのすることだよ」
なるほど。つまり俺はアホなのか。わりと知ってた。
五十島達も戻ってきたようだ。
「へへー、七瀬怒られとるやんけ」
「うっせ。伊田なにがしよりはマシだっつの」
「なんやてー!」
うむ。バカと冗談を言い合うのは楽しい。いつも通りだ。
「ハイハイ、じゃれてる元気があるなら充分。さっさと出てく。モモたんに呼ばれてんだろ」
「…モモたん?」
「モモたんて誰や?」
移動がてらに尋ねた伊田に「学院長のことよ」と応えてくれたのは相羽だ。
そもそも言った本人と別れた今、分かるの相羽しかいない。
「学院長ねぇ…」
愛称モモたんか。俺的には禿げたクソジジイのほうが学院長!って感じはするんだけどな。そんなモモたんはさすがにみたくない。
「武テンション高くない?」
「ん?そうか?…うん、そうかも」
そうだな確かに俺は今気分がいい。
なんせ異世界だ。どうあってもあいつに出くわすことはないだろう。
加えて魔法なんてものがあって、それを使って争っている真っ最中。なんていうかこう、滾る。
こういうことを気づかせてくれるのはいつも五十島だ。きっと俺よりも俺をみている。さすが月光とは大違いだ。正反対と言ってもいい。
「ここよ」
相羽が指したのはいかにもな部屋だ。扉からそれっぽい。
ノックをして「失礼します」と中へ入っていく。
俺たちもそれに続いて入っていく。
「君たちを襲ったゴーストトレイラーの三人は連行しました」
突然かけたのは想像よりずいぶん可愛らしい声だ。声の主はもしかしたら年下かもしれない。
「学院長ってどこにおるんや?」
「まぁ座ってください」
「は、はぁ…」
「モモたんっていうくらいだし、この子なんじゃねぇの?」
「いやいや学院長やで?もっとこう、歳のいったオジちゃオバちゃんやろ」
ひそひそと話す俺と伊田の代わりに五十島が応えた。
お言葉に甘えて、と四人並んでソファに腰掛ける。
奥の机。その大きな椅子の背もたれの影から、小さな女の子が現れた。
「七瀬武くん、五十島くるみくん、伊田一三くんですね。
はじめまして、すばる魔法学院へようこそ。ぼくが学院長の四条桃花です」
「えっ…!」
予想していても驚くものは驚く。だいたい金髪つり目ツインテとかあんたいくつだよ。
…聞かないけど。女性に名前を聞くほどマナーがないわけじゃない。
「で、あんた何歳?学院長ってガキでもなれるもんなの?」
「ちょっと武!」
五十島が諌めてくる。
だってむこうも常識の埒外じゃない。ここは学院長を見習って、こっちも常識を壊していくべきだと思いましたまる
「フフ、女の子に年齢を聞くのはいけないなあ。でもそうだね。少なくとも君たちよりは年上だよ」
…なるほど見た目のわりに強そうなわけだ。風格がある。自信なくしちゃいそうだったぜ。
目の前の椅子に座って居住まいを正した。
それだけで場が仕切り直されるようだ。
「我が校の生徒が君たちを巻き込んでしまって本当に申し訳なく思っています」
「すみません。本当にごめんなさい」
相羽六も合わせて謝る。
「突然こんな場所に連れてこられて困惑していることでしょう」
「なにがなにやらさっぱりや」
「ぼくから説明しておきましょう。君たちの知らないところで一体なにが起こっているのかを」
要約すると、俺たちが生まれる一年前、ゴーストトレイラーとその他の魔法使いが交戦状態にあった。
その中で一際強いゴーストトレイラーのリーダー、竜泉寺和馬がラストレクイエムとやらで全人類を消滅させようと目論んだ。
それに対抗して、世界を二分するという手段をとった。十五人の主な魔法使いとその他で成したそうだ。そのうち無事だったのが俺たちの、一度全員を消滅させたのがこっちの世界らしい。結果こちらの崩壊世界にはほぼ東京しかない。
戦争はこちら側のみでやることという協定が組まれ、ワイズマンによってギフトが発動された。
なんでも普通の魔法は使っても問題ないらしい。
十の氷やメガネの虫は系統魔法というダメな類だそうだ。
いろいろと釈然としない。
「相羽くん。六種の系統魔法とはなんですか?」
相羽が、はい、と立ち上がって答える。
「まずは回避魔法、幻術魔法に破壊魔法。そして、闇黒魔法に神速魔法と生物魔法の六種。そして特異魔法です」
「よく覚えましたね。偉い偉い」
「学院長!これは初心者が覚えることです!」
「ふーん。初心者は学院の外が危険だということも知っているはずなんですけどね」
「うっ…」
「ここは戦場なんですよ」
ごもっともだ。単身で戦場に赴いて何ができるというのか。
あと基本魔法とやらが使えることを話さなかったのもポイント低い。使われてたら負けてたかもしれないし。
ションボリとして席についたのを見送った。
「で、そのリーダーなにがしさんは今どこに?」
「行方不明です」
「は?」
「ラストレクイエムのあとその余波でずっと眠ったままという噂もあれば死んだという噂もあります。その真相は確認されていません」
「んな重大事、確認されてませんじゃすまないだろ。死んだなら良し。
だが生きて眠ったままだというなら早急に手を打って殺すべきだ。
目覚めたらまた同様の、いやそれ以上の被害がでるぞ」
「もちろん分かっています。ですがここには魔法があります。
それが重要であればあるほど、確信するに足るものが得にくいのです」
「………」
魔法と言われると弱い。なにせ明るくないどころかイロハさえも知らないから黙らざるをえない。
それに、普通知ってても簡単には言わないだろうとも思った。
「あの、コミュニティってなんですか」
「コミュニティとは個々の思想によって作られた集団のことです。魔法使い至上主義のゴーストトレイラー魔法使いと人間は共存すべきという僕たちウィザードブレス。中立の立場をとる者達もいますが、ほとんど僕たちと同じ立場です」
そこまでいってこちらを見渡してくる。どうやらみんなは他に質問はないようだ。
「さて簡単ですが説明は以上です。そして、君たちは選択しなければいけません」
「選択…」
「君たちの道は二つこのすばる魔法学院に残って魔法使いとしての勉強をするか、魔力をすべて失って現存世界に戻るか、です。魔力に目覚めた君たちをそのまま現存世界に返すのは危険ですから」
ここに残るか元どおりの生活をするか、ね。
「五十島はどうすんの?」
「……」
だんまり。考えてることはだいたい分かるんだけどさ。
「帰っとけよ。俺に合わせる必要なんて一つもないだろ」
「やっぱり、武は残るんだ…」
「当然だな。むしろ帰る理由がない」
「こんなわけわかんないとこ、絶対危ないよ」
「それも当然だな。だからお前は帰っとけ」
「………」
「………」
じっと目を合わせる。見つめあってるのか睨み合ってるのか分からない。
「私も残るわ。そう決めていたもの」
「やめとけよ。戦争だの魔法だの、五十島には似合わない」
「でも、私だけ残ったらもう会えないかもしれないのよ?」
「お前よりも戦争とった大馬鹿野郎だ。振っとけよそんなクズ」
「それを決めるのは私よ。残るか帰るか決めるのも」
「……っ!」
決めるのは五十島くるみだ。違いない。
「やっぱり言い負かされたんやな、七瀬。二人とも残るっちゅうんやったら、ワイも残るで」
「へー、そう」
「扱いに差がありすぎるやろ!」
いや、だって、そりゃ、ねぇ。
「…未練があるならやめといたほうがいいんじゃねぇの?」
「なんや写真見てたの気づいてたんかいな。…でもかまへん。それに、帰る理由があるほうが、強いもんやろ」
なにそれ俺へのあてつけですかね。違うんだろうな。こいつはそういう嫌味は言わないから。
「これで決まりですね。戦う仲間は一人でも多い方がいい。君たちはこれからこの学院の一年生として通ってもらいます。
ただ、魔法使いとしては初級の初歩からということになりますから、一年Cクラスということになります。相羽くん、君も明日から彼らと同じCクラスへ移ってください」
あまり学校には興味ないんだけどな。口ぶりからして結構安全らしいし。どっちかっていうと竜泉寺和馬につきたい。
「えっ…」
「君は魔法使いとしてはすでに上級者。クラスの選抜のSクラスですが、明日から彼らと同じCクラスに移ってください」
「待ってください!そんな…私…」
一番上から一番下にクラス替えか。確かに学生的にはキツイだろう。風聞もよくない。お、俺たちの噂が半減してラッキーとか思ってないぞ!半減、しないかなぁ…
「ウィザードブレスは必ず相羽十を取り戻します。最初にそう言った筈です。僕は学院長として、君の身勝手な行動を戒める必要があります。さ、相羽くん。彼らを寮へ案内してください」
「…はい。学院長」
話が終わって寮の談話室。みんなで手続ききやらなにやら話し合ってる。
「荷物とか、お前らどうすんの?俺はお泊まりカバン持参だし問題ないけど」
「なんでそんなもの持ち歩いてるのよ…」
「あれ?五十島知らなかったっけ?俺ほとんど家に帰ってないから」
「は?!なにそれ聞いてないわよ!?」
言ってなかったっけか。こんなこという機会もないか。
「前にも言ったけどあんなやつの近くにはいたくないからな。朝帰りして着替えと風呂だけ入ってまた学校へ…」
「夜は!どこで寝てたの?!」
「深夜バイトか友達の家に泊めてもらうか…だいたいバイト入れてるけど、今日は島田の家に行く予定だったな」
「何よそれ!信じられないっ!
伊田くんも知ってたの?!」
怒髪天を衝くとはこのことか。五十島さん怖い…
「わ、ワイも初めて聞いたわ…ウチに泊まりに来たこともないしな…」
あー、うん。伊田って髪に似合わず結構お兄ちゃんしてるらしいからな。弟嫌いで家でてるのに行けるわけないだろ。眩しすぎる。
…ヤンキーは家族思いの方が比率高いのだろうか。いやバカやってる時点でバカなんだが、こうツンデレ的なあれで。
「とにかく!いきなり編入することになったんだから、一回ちゃんと家族と会ってちゃんと話さないとダメよ?」
「わ、分かったよ。ちゃんと会ってくるよ…あいつにも」
なら良し。と五十島に納得してもらえた。
これ以上五十島の怒りを買わないうちに書類を書き進める。黙々とするのがベターだ。
…なんか尻に敷かれてないか?
その日はそのままつつがなく終えた。