前後編に分けたわりに長い前編ですが後編はまだ一切書いてない。
たぶんそんなに長くはならないと思うけど…
ちっとは戦争っぽくなったかな?戦争ではないかな?そんな感じの実質オリ回です。
四方に青白い炎が揺らめく中、相羽六は今一番人気の占い師に対峙している。
「何を占いますか?」
目深に被ったローブの奥で女は不敵に微笑んでいる。
「…兄を。私の兄を探してほしいの」
相羽六の願いにまだ若い占い師は鋭い眼光を向ける。
「いいでしょう」
弧を描くように開かれたトランプに占い師は手をかざす。
かざした手は光だし魔法を発動させて占う。
「あなたのお兄さんがどこにいるかを占って差し上げます」
占い師はこれが一つの賽になることを知っている。
例えその結末が自身の予想に、あるいは占いに反しているとしても。
賽は投げられた。
「ふんぬぅー!」
伊田一三は握りこぶしに炎を灯し、七瀬武に頼まれた弾に魔力を込める。込めようとしている。
「ぬ〜…っ。あーしんど。ほんまにこんなもんに魔力を込めることなんてできるか?」
握っていた手で弾を弄ぶ。
「魔力を完璧にコントロールできりゃ余裕らしいぞ」
と魔力を完璧にコントロールできない七瀬武こと俺が頼んだ。
自分にできないことを他人に頼む。
良くないことのようで、その実当たり前のことだ。要因はなんであれ、自分にできないから頼むのだ。できることなら頼むな。自分でやれ。
「どうせ俺はノーコンやっちゅうねん」
「はっはっは。安心しろ俺もノーコンだ」
肩が弱くてストライクゾーンまで届かない。
脈ゼロじゃん。修行あるのみ。
カートリッジの方の成功率は、よく見積もって五分くらいは増えた。いい傾向だ。例えゼロからでも20回繰り返せば100%だ。勘弁してくれ。
デイブレークの方はかなりいい。
成功率は100%。…ただし距離が離れるほど維持できなくなるためナイフ程度の長さにしかならない。擬似飛ぶ斬撃?俺は三刀流じゃないしまだまだ無理。ほぼ点でならたまにいけるくらい。
基本魔法の方はさらにいい。練習してるのは【防護】【弾く】【飛ばす】【集中】。集中以外はだいたい形になってる。【やる気】(防護、集中、増強の合わせ技)?そんな子知りませんねぇ。集中一つまともにできないのに合わせ技とかできるに決まってるんだよなぁ。
他にもトワイライトとデイブレークで基本魔法の特徴が違うこともわかった。たぶん化身の機能とか性格とかそういうのだろう。
印象としてはトワイライトよりもデイブレークの方がじゃじゃ馬だ。おそらくはこれが『能力者の力を最大限に引き出す』ということの所以だろう。
分かりやすく射撃の【飛ばす】で比較したところ、より魔力を持ってく分火力は出るが纏まりがなくて距離がない。
…ただし、俺が下手なのもあいまってどっちもバカみたいに魔力を持ってかれる。
但し書きがうるさいなまったく…
得意魔法は直感回避と【防護】。【防護】に関してはクラス二位で堅い。…相羽ってやっぱスゲーよ。
「なら、うまいこといくまでみっちり特訓や!つきおうたるで!」
「おぅ」
拳と拳を軽くぶつけ合った。
野郎同士は気が楽でいい。
「武!」
「五十島、どったの?」
「なんや。また遅刻か」
慌てた様子で走ってきたのは五十島くるみだ。
最近改めて告白されたが、偽りなく付き合ってるのかよく分からなかったりする。
何かしら変えるべきかとも思ったが、向こうも思ったより変わらなくてそのままずるずるとしてしまった。
今さら変えるのもなんか恥ずい。
「六が…六がいないの」
甘いことを考えていたのが一瞬で消えた。
「昨日寮に戻って来なかったの。で、気になってそしたら机の上にこれが…!」
渡された紙は地図のようだ。幾つかの街にマルやその上にバツをつけられている。残っているのは恵比寿だけだ。
たしか昨日も夜練を蹴られて俺は一人でやっていた。
それはここ最近ずっとだ。
…つまり、そういうことなのだろう。
「アホかあいつ…」
「もしかして…六一人で…」
「とりあえず先生に報告だな」
あまり気乗りはしないが打てる布石は打っておくべきだ。
他の二人も頷いてくれた。
運良く担任の一氏誠先生はすぐに見つかった。
「…そうですか。このことは慎重に対処します」
「そんな余裕あんの?幸か不幸か残りは一ヶ所。まず間違いなく相羽は…六は十に接触するぞ」
六と言ったところで五十島が少し反応した。
いやだって二人とも相羽じゃん。
「…今、崩壊世界では大規模な戦闘が行われています。
あいにく学院長も不在ですし、我々の判断だけで決めるわけにはいかないのです」
…正論だな。そもそも一人で勝手に突っ走った相羽が悪い。
俺は最後に「早めになんとかしてくれよ」とだけ言って二人と先生から離れた。
相羽の行動は単なるわがままで、その結果は自己責任だ。
他人にそのケツを持たせるのはおかしい。だから、持たされるんじゃなくて、持ちたいやつが持つ。自分勝手なわがままには自己満足のお節介や余計なお世話がちょうどいい。
だいたいCクラスの問題児の座は俺のもんだ。相羽ごとき真面目ちゃんにくれてやるもんか。
「つうことで、俺は勝手に行くことにするわ」
ひと気のない中庭で俺は二人に宣言をした。
「え、武っ!?」
「正気か七瀬ぇ!?」
二人ともかなり驚いている。
基本魔法を覚えきってもない半人前が言うのだからある意味当然だろう。
「もともと正気だったらここに来てねぇよ」
そもそも俺はここ魔法世界に戦いに来たのだ。
そのうち抜けだそうととは思っていたし、予定が少し早まっただけで何も問題はない。
「せやかて、外がどうなっとるかも分からんのやで?」
伊田にしては考えた物いいだ。
「あぁ、だからこそもともと初めて校外に出るのはここの人間に連れられずにするつもりだった」
俺はどうにもこの学院の思想に納得がいかない。
善い悪いの問題ではなく、どうにも人間に都合が良すぎて魔法使いに都合が悪すぎる。
いろいろクラスメートにも聞いたが、学院長の派閥であるウィザードブレスがその際たる例だ。
人間なぞ家畜だと言うくらいが主流でいいくらいだ。
だからそういった手の入らないところで外へ出るべきだと思っていた。
相羽には悪いが今回のは隠れ蓑にうってつけ。
しかも学院長不在で一氏誠も手をこまねいているときた。
俺の成長を除けばこれ以上ない好条件だ。逃す手はない。
「そんな、危ないわよ…」
「うん。だから五十島は学内で待っててくれ」
言い返しはしなかったが、それでもまだ納得できないでいるようだ。
「…本気なんか?」
そう問う伊田の目は本気のものだ。
「おう。お前はどうする?別に来なくてもいいぜ?」
「アホぬかせや。親友を一人でそんな危ないとこ行かせられるかっ!…ワイも行くで」
「伊田くん…武、本当に行くの?外って戦争してるんでしょ?二人がが行ったって死にに行くようなものじゃないっ?!」
「くどいな…俺の意志は変わらねぇよ」
この後に及んでまだ言うか。
「そういうことや。七瀬が行く以上はワイも行く」
「行っても何もできないかもしれないわ」
「何もできないことはねぇよ。何かはする」
最悪でも呼吸くらい余裕だ。小学生かよ。
「私が一緒に行ってもどうせ足手まといにしかならないと思う…だから、私は一緒に行かないわ」
この場で冷静に『行かない』と言うのはなかなか難しい。
自分の弱さを認めるのも、周囲の雰囲気に流されないのもそう誰もができることじゃない。
今の五十島くるみはそうした強さを持っている。
少なくとも前者は、俺にはない強さだ。
「おう。それでいい」
「…だから。だからお願い。帰ってきて。何もできなくていいから、絶対にここに帰ってきて」
「魔法が下手くそだからって俺のことを舐めすぎだぜ。
伊田と相羽含めて、確約してやんよ」
「ワイからも約束したる。七瀬と相羽連れて必ず戻ったる!」
お前に連れられなくたって余裕だっつの。…たぶん伊田も同じこと考えたんだろうけど。
「約束よっ!」
いくつか事前に打ち合わせをして、学外への出入口になっている部屋の近くで伊田と息を殺して潜む。
直近の打ち合わせ内容としては二つだ。
近くにいた魔法使いが通って行くのを確認してから再度周囲を確認する。
「いまだっ」
小さく叫んで器用に抜き足で走る。
運良く前の奴に気どられなかったようだ。
ぐにゃぐにゃとしたいかにもな異次元路を通って外へ出た。
幸いにして先に通った二人は見受けられない。
「あなたたちは…学院生?こんなところで何をしているの」
そう声をかけてきたのは白いローブで顔を隠した女魔法使いだ。
通った先では門番というか、衛兵がいることは想像できた。確か授業でもコンシェルジュとフランス風の言い回しをしていた。座学には気まぐれな俺はもちろん、不真面目な伊田はうろ覚えだ。
…たしか崩壊世界と現存世界の通用口の一切を任されていたはずだ。たしか。
考えてみれば当たり前だ。作戦をするにもそうでないにしても、出入口を守らない手はあり得ない。もし敵にそこを抑えられでもしたらことだ。撤退ができず、補給もできず、さらに奇襲をかけられたい放題だ。それはもはや急襲か。
とにかくそんなわけで予想できていたというか知ってたというか。
だが予想外にいい。コンシェルジュはどうやら一人で行うもののようだ。
おそらくはこのシャボン玉のような結界が有能なのだろう。いまほども人が空から叩きつけられそれを焼き尽くすほどの火を放たれても、この結界はびくともしなかった。
殺したのだろう魔法使いが近くによるが目は合わなかったし、すぐに立ち去った。ともすると仲間なのかもしれない。
人が死ぬ光景はくるものがある。隣の伊田を見るがやはり動揺している。だがここまできて覚悟を問うたりはしない。俺たちは戦場に来たのだ。ここでは人の命はトカゲの尻尾だ。
ここの受け答えは俺に任せてもらうことが打ち合わせの一つ目だった。
「あぁ、俺たちは学院の生徒だ。相羽六の捜索にきた」
「相羽六…?
彼女はここを通ってはいないわ。悪いことは言わない。大人しく学院に帰りなさい」
「そう言われて帰るくらいならここに来ないって」
そう茶化すように言ってから敬礼をして雰囲気を一転させる。
「今作戦の概要を説明します。今作戦第一目標は相羽六の保護・帰還。第二目標は相羽十の奪還であります。
探索地域は恵比寿周辺。
作戦時間は最長で約3時間。交戦がなければ最速1時間強で帰還できるものと思われます。以上。ではっ」
作戦概要ってだいたいこんなイメージ。体言止めが乱用されるあたりが特にそう。咄嗟であまり使えてなかった気もする。
コンシェルジュもそうだが、伊田の目も点になってる。意表はつけたようで何よりだ。
伊田を引っ張ってスタコラと結界の外へ向かう。
伊田が出て行くのを見て外へ出られるのを確認すると、
「なお、本作戦は諸事情により四条桃花学院長、ひいてはすばる魔法学院の教職員のあずかり知らぬところとなっておりますので悪しからず。…じゃーなコンシェルジュ!」
「なっ…ちょっ、待ちなさい!」
言い逃げに決まってるだろーが。
キャラ崩れてんぜオバサン。
などと結界の外で悪態をつくつもりだったがやめておいた。驚いたことに結界は外からは全く見えない。
だとしたら外であの結界を気どられる行為は避けておくべきだ。
念のため俺たちが捕捉された時を考慮して一直線に進むのを避ける。焼石に水だったり、杞憂だったりするかもしれないが、こうすることで大まかな位置も知られにくくなるだろう。
打ち合わせていた内容の二つ目だが、戦争というものを直で見ておくことを決めていた。
俺も伊田もケンカ慣れこそしてるが実戦なぞやったことはない。
魔法使い同士の戦いのイロハも当たり前に気をつけておくことも知らないのだ。
もちろん教科書的には幾つかある。
例えば回避魔法定番は増強を使うことだとか、それぞれの系統魔法の化身の傾向だとか。相羽十に限っていうならあの…ランスロットだったか…は化身ではないだとか。
だが逆に言えばその程度だ。知らないことの方が多いに決まってる。見ておけば何かは得られるだろうし、逆に何も得られないようであれば勝ち目などほぼない。
そこまで覚悟した上で、ここへ来たのだ。
せめて足は止めないで双眼鏡片手に見ておこうと決めたのは、相羽のことも時間との勝負であることを鑑みてだ。
「死ねぇっ!」
「ぐあ"ぁぁっ!!!」
多少道をずらしたことで予想以上に近くで魔法使いの戦いを見ることができた。
派手なのはやはり破壊魔法だ。
攻撃力が他と比べて頭一つ抜けている。
だが他の系統が劣っているというわけでもないようだ。
俺と同じ回避魔法の使い手も地味ではあるがなかなかどうして生き残り易い分功も多い。それにあくどい。回避というのは広義的で因果律に干渉するものが多いようだ。
かのワイズマンのギフトも回避魔法の一種だというのだからなるほど分からん。たしか支配回避とか言ったはず。なんでもアリだな。あと俺の弱い。
そしてこうして見ると基本魔法を使っていない魔法使いはいない。
【浮遊】にせよ【防護】にせよ、何かしらは使っているしおそらくは全て使える上で自分の系統魔法との折り合いで取捨選択を行っているのだろう。
授業でも聞いていたがやはり百聞は一見に如かずだ。納得せざるを得ない。
だが俺だって何も考えずに練習する基本魔法を選んだわけじゃない。【集中】は間に合わなかったが【防護】と【飛ばす】は他の基本魔法よりずっと有用だ。【増強】まで手が回らなかったのは痛いがそもそも【集中】もできないのにねって話。
みんな【やる気】を使ってるあたりにやる気をなくすがこれはいかに。
そして系統魔法の発展と言うべきか応用と言うべきか、もうほとんど別物の系統魔法が見られる。
なんで雷の破壊魔法が槍を作るんだよ。
まぁいい。魔法が下手なら武器に頼るだけだ。使いこなせてない。…死ぬんじゃなかろうか。
戦場近くを隠れながら走っていると先ほど結界の中から見た男が吹き飛んで来た。なんて偶然、奇縁だ。
即座に瓦礫の影に隠れる。
「あ、あいつ…さっきの奴ちゃうんか?」
遠目にも数多の切り傷を負っている。満身創痍といった体だ。
腹の裂傷が酷い。
治癒魔法で応急処置を施したからか、それなりに動けるようだが、血を流しすぎた。それもそう長くは持たないだろう。
「あいつは…もうダメだろうな」
「た、助けなぁ………ッ!」
飛び出そうとする伊田の口を抑えて引き戻す。
「落ち着け。近くに敵がいる。今いっても無駄だ」
治癒魔法のおかげで見た目の割に傷は問題なさそうだが、あれだけのものを負わせた敵が問題だ。
本当なら相羽のこともあるからすぐにでも離れたいが空中にいる魔法使いに気どられる。なんにせよ、当座は隠れているしかないだろう。
「…助けへんのか?」
「……さぁな。少なくとも今行っても無駄だ。
だけど場合によっちゃあいつの敵、あの空にいるやつはは殺そう。そうすりゃ勝手に生き残るだろ」
それでも五分五分だろう。
治癒魔法は治るのが早まるだけだ。失った血は戻らない。
途中で貧血を起こしたら終わりだ。生きているうちに誰か味方に気づかれなければそのまま終わりだ。
「…七瀬、人を、殺すっちゅうんか?」
「あいつはさっき、俺たちの前で魔法使いを殺していた。
忘れるなよ伊田。ここは戦場だ」
驚くことにここは日本だ。だけど、何かが崩れたあとなんだ。俺たちが知る、俺たちの住んでた日本じゃない。
伊田は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
俺とは違って、根がまともで善人なのだ。
「分かった。けどあの空の奴を倒した上で余裕があったら介抱くらいはするで。見たとこあいつは仲間や。それくらいはええやろ?」
さり気なく殺すを倒すに言い換えていた。
だが仲間割れを起こしている場合じゃない。互いに譲歩し合うべきだろう。
当たり前の話だが、俺たちがこうして話し合ってる間もあいつらは戦っている。もちろん俺たちも見学し警戒している。
満身創痍の破壊魔法使いはやはり前に見たとき同様炎の魔法を使っている。もしかするとあいつの魔法も伊田と同じ『爆炎』かもしれない。
彼は【浮遊】と【防護】、【やる気】を主軸にまるで移動砲台のように戦っているが、動きの一つ一つに熟達したものを感じる。
だがおかしい。怪我を込みで、見た感じあの破壊魔法使いの方が強い。
だがそれが結果になっていない。
実力だけで決まるとは言わない。だがそれならそれで何かしらの要因があるはずだ。
「なんや動きがおかしくないか?変なとこで迂回したり…
せやから変なとこであの剣をうけとる」
「…そうか幻術か!
喜べ伊田。俺たちはあいつを倒せるしあの魔法使いを助けられるかもしれない」
相羽もあの魔法使いも時間はない。
だがチャンスは一度だ。できるだけよく様子を見て作戦を決めたい。
あの魔法使いが回避ではなく破壊魔法使いな以上、十中八九敵は幻術魔法使いだ。
奴はなんらかの幻覚で相手の行動を制限し、【浮遊】と【弾く】を利用して四本の剣を操り攻撃するのだろう。一本は常に近くにおいてるあたり抜け目ない。
おそらくは極近距離まで気づかれないものを一つ混ぜている。俺はともかく伊田がかかればひとたまりもないだろう。
あの破壊魔法使いはその極近距離から対処している。【やる気】の力だろう。
ここまで分析したがやることはやはり変わらなそうだ。
コントロール系は運用素に弱いと相場が決まってる。
予想外の状況に弱いのだ。
俺たちというイレギュラーは間違いなく予想外のものだろう。…不意打ちだ。
急かす伊田に手早く作戦を告げると即座に行動に移した。
「ひ、ひぃっ!」
情けない俺の声に二人の魔法使いの注意がこちらに向く。
「学院の生徒?!なぜこんなところに!」
狼狽したのは満身創痍の破壊魔法使いだ。
そこまで心配はしていなかったが、やはりこっちがウィザードブレスで間違いないようだ。
「あっ…いやっ…その…」
「チッ!ガキかよめんどくせェな……うおっ!」
破壊魔法使いの反対側から爆炎が飛びこむ。
「くそっ!不意打ちかよ…つかどうやって狙いやがった…!」
破壊魔法使いはポーカーフェースを貫いている。予想通りだが助かる。
炎を【防護】で防ぐ間に走り込んで距離を詰める。
「なっ!こいつも幻術魔法使いだったのか?!」
なるほど、その発想はなかった。
確かに伊田の炎は見た目だけで軽いし奴の高性能な【防護】が熱も完璧に遮断したのだとすれば、俺一人なら幻術ってのが妥当か。
俺の中ではもう一人いるってバレるとこだったけど、嬉しい誤算だ。
視界が変わる。霧の濃い樹海の中のようになる。
なるほど、地形が変わって見えたのか。
だがそれも折り込み済みだ。目を瞑って木々の中へ迷いなく突っ込む。
「うおぉぉぉっ!」
直感が走る。勇気を持って目を見開く。真正面から剣が一本。方向的に近くにおいていた奴だろう。
目を瞑った瞬間、即座にきた。テンプレートなのだろう。
居合の要領で弾く。
「なにっ?!」
驚きこそすれ弾かれたのを見るや【飛ばす】を放つ。
さすがにこれだけではいかないか。
【飛ばす】の弾は三発。いくら視えていても無傷じゃかわせない。
トワイライトを盾にしてある程度は甘んじて受けようと覚悟するが、突如現れた破壊魔法使いの炎がそれらを燃やし尽くした。
「ちくしょう!」
近接に覚えはないのだろう。
トワイライトを振り抜くが【浮遊】で空へと逃げられる。
空はマズい…!
だが同時に幻術が崩れかかっている。あいにく幻術魔法には…にも詳しくないから分からないが好都合だ。
そしてそれで気づいたがあの破壊魔法使いはわりと近くまで来ていた。
「よくやった少年!」
破壊魔法使いは【浮遊】ではなく【防護】を使った。
そしてそれを足場に高く飛び上がる。この方がずっと鋭角的で初速がある。…上手い!
一緒に引き連れてきた三本の剣のうち一番早かった一本を弾いて後ろの二本にぶつける。
「ぐっ!」
呻くのも無理はない。なんせだまし討ちに不意打ち、しかも三対一だ。
炎の魔法使いはその手にかなりの熱量を込めて【防護】の上から奴を殴りつける。
満身創痍の拳は、しかし充分な威力を持ってるように見えた。
「ガァッ!!」
最後の力を振り絞っていたのか、ドサリと炎の魔法使いは倒れた。
崩れかかった樹海はそれでもなお残っている。
ハッと幻術師を見るがすでにいない。
幻術が戻り出す。
パチンッ!と俺は指を鳴らす。
「ははっ!なかなか頑張ったようだがこれで……また幻術か…」
斜線上、俺と奴とを同時に燃やす炎が俺には視える。
そちらへ向かって全力で駆け出す。
「なっ!熱っ!」
炎が近づいたことで確かな熱量に気づいたのだろう。
それによって反撃が致命的に遅れる。
すでに【やる気】も解けている。咄嗟に振り返るという判断ミスが致命的だった。
「死ね」
トワイライトで首を切り落とした。
相変わらず熱いだけの伊田の炎を、初めて痛いと思った。
俺は人を殺した。
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