「これより、人里の豊穣祭における主祭の座を懸け、博麗神社と守矢神社による弾幕勝負を執り行う」
八雲藍の声が、夜空へ響き渡った。
宴会場から離れた丘にいる俺たちにも、すぐ傍で話しているかのようにはっきりと聞こえる。
藍が掲げた魔道具によるものらしい。
遠くに見える宴会場の明かりが、少しずつ静まっていく。
先ほどまで微かに届いていた人々の声も消え、誰もが空に浮かぶ三人へ目を向けていた。
「この勝負は、見届け人たる我、八雲藍が取り仕切る。両者、名と使用するスペルカードの枚数を宣言せよ!」
藍の声に応じ、青と白の衣装をまとった少女が御幣を掲げた。
「東風谷早苗! 使用スペルカード六枚!」
続いて、霊夢が一歩前へ出る。
「博麗霊夢! 使用スペルカード三枚!」
その瞬間、地上から大きなどよめきが起こった。
「……三枚?」
俺が呟くと、隣に座っていたパチュリーが僅かに目を細めた。
「随分と思い切ったわね」
「早苗の半分しかない。枚数が多い方が有利なのではないか?」
攻撃の手段が多ければ、それだけ相手を追い詰める機会も増える。
単純に考えれば、三枚しか持たない霊夢の方が不利に思えた。
「ええ。有利よ。だから普通は六枚か七枚。自信がある者でも、五枚くらいは用意するわ」
「なら、なぜ霊夢は三枚しか持たない?」
「三枚しか持たないのではないわ」
パチュリーは空に浮かぶ霊夢を見つめた。
「三枚あれば十分だと、早苗にも観客にも宣言したのよ」
スペルカードの枚数は、単なる武器の数ではない。
自分がどれほど少ない攻撃で相手を倒せるか。
それを観客の前で示す、自信と技量の表明でもあるらしい。
「相変わらず生意気ね」
レミリアはそう言いながらも、どこか楽しそうに笑っていた。
「三枚とも避けられた場合はどうなる?」
「早苗がまだカードを残していれば、そのまま続行よ。霊夢はスペルカードを使わずに戦いながら、早苗の残りを避けなくてはならないわ」
それは相当に不利だ。
「双方がすべてのスペルカードを使い切った場合は?」
「見届け人の許可を受けて、一枚ずつ追加する延長戦になる。それでも決まらなければ引き分けよ」
つまり霊夢は、自ら攻撃の機会を減らしている。
三枚で決められなければ、その後は守りながら早苗の失敗を待つしかない。
そこまで考えたうえでの宣言なのだろう。
「三枚だけで大丈夫なの?」
俺の隣で膝を抱えていたフランが尋ねる。
「心配しているのか?」
「だって、向こうの方がいっぱい持ってるよ?」
「心配はいらないわ」
レミリアが即座に答えた。
「あいつは、あれくらいで負けるような巫女じゃないもの」
紅霧異変では、その霊夢に退治されたはずなのだが。
レミリアの声には、不思議な信頼が込められていた。
藍が二人の申告を確認し、再び魔道具を掲げる。
「宣言を確認した。両者、己が名に懸けて誓いを立てよ!」
早苗と霊夢が同時に口を開く。
「我、守矢の風祝の名に懸けて――」
「我、博麗の巫女の名に懸けて――」
二人の声が重なる。
「「正々堂々と勝負することを、ここに誓う!」」
藍の持つ魔道具が強い光を放った。
光は真っ直ぐ上空へ伸びた後、大きく広がり、半透明の膜となって会場一帯を覆っていく。
「あれが結界か」
「ええ。勝負中の弾幕が、外へ飛び出さないようにするものよ」
咲夜が答えた。
やがて結界が閉じ、淡い光が夜空へ溶け込んだ。
藍は二人から離れ、結界の端へ移動する。
「誓約を受理した。両者、構えよ!」
早苗が御幣を正面へ向け、僅かに腰を落とす。
その周囲には数枚の札が浮かび、淡い緑色の光を帯び始めた。
霊夢もお祓い棒を構える。
同時に、霊夢の両脇へ二つの球体が浮かび上がった。
紅白に塗り分けられた、不思議な模様の玉だった。
「あれは?」
「陰陽玉よ。博麗の巫女が使う武器の一つね」
パチュリーが答える。
「スペルカードではないのか?」
「ええ。普段使う札やお祓い棒と同じ。勝負の間、霊夢の動きに合わせて攻撃を補助するわ」
二つの陰陽玉は霊夢を守るようにゆっくりと回り、その表面へ赤い光を集めていく。
地上も、丘の上も静まり返った。
虫の声さえ、今だけは遠くなったように感じられた。
向かい合う二人が、同時に叫ぶ。
「「いざ、尋常に――勝負!」」
その声とともに、二人の姿が空へ飛び出した。
早苗が御幣を振る。
白い札が扇状に放たれ、その一枚一枚から緑色の光弾が生まれた。
霊夢も数枚の札を放つ。
さらに左右の陰陽玉が霊夢から離れ、それぞれ異なる角度から赤と白の光弾を撃ち出した。
霊夢本人の札と、二つの陰陽玉から放たれる光。
三方向からの攻撃が、早苗の進路で交差する。
早苗は大きく弧を描いて上昇し、光弾を引きつけてから急降下した。
行き場を失った札と光弾が互いにぶつかり、赤い光となって消える。
早苗も反撃する。
御幣から放たれた光弾が、列を作って霊夢へ迫った。
霊夢は正面から迫る光へ向かい、そのまま飛び込んでいく。
「何を――」
衝突する。
そう思った瞬間、霊夢の身体が僅かに横へずれた。
最初の光弾が袖の脇を通り過ぎる。
霊夢は続く二発の間へ身体を滑り込ませ、ほとんど速度を落とさずに弾幕を抜けていた。
「速い……」
美鈴やフランとの戦いで、空を飛ぶ者は見てきた。
だが、二人の動きはそれらとは何かが違う。
単純な速さだけではない。
無数の弾が交差する直前まで進路を変えず、必要最低限の動きだけで避けている。
特に霊夢の動きは異様だった。
空中で急停止しても、身体が揺れない。
次の瞬間にはまったく別の方向へ動いているのに、その身には風の抵抗を受けた様子すらなかった。
何より、魔力の流れが見えない。
「霊夢は、何を使って飛んでいる?」
俺が尋ねると、パチュリーが僅かに目を細めた。
「何も使っていないわ」
「何も?」
「私たちは魔力で身体を浮かせ、風や重力へ働きかけて飛ぶ。でも、霊夢は違う」
霊夢は横一列に並んだ光弾へ近づくと、身体を傾けることさえなく、その間をすり抜けた。
「空を飛ぶ程度の能力。あの子は、飛ぶと思えば飛べるのよ」
「それだけか?」
「それだけ。だから厄介なの」
理屈も、魔力も必要ない。
霊夢が飛ぶと思えば、飛ぶ。
空を進むというより、世界のどこに自分がいるかを自由に選んでいるような動きだった。
「行きますよ、霊夢さん!」
早苗が一枚のカードを取り出した。
周囲から歓声が上がる。
「秘術――『グレイソーマタージ』!」
カードが緑色に輝き、その正面へ五芒星を描いた魔法陣が現れる。
五つの頂点から、大きな星形の光弾が放たれた。
光弾は霊夢を狙わず、それぞれ別の方向へ飛んでいく。
外れたように見えた。
だが次の瞬間、五つの星が一斉に弾けた。
無数の小さな光弾が五芒星の線を描きながら広がり、別の場所で再び交差する。
一つの星の中に、また別の星が生まれる。
緑色の星々は重なりながら空を埋め、霊夢の逃げ道を少しずつ奪っていった。
「綺麗……」
フランが小さく呟いた。
俺も、同じことを考えていた。
これは攻撃だ。
一つでも触れれば、霊夢の敗北が決まる。
それなのに、夜空へ幾重にも描かれる星は、敵を傷つけるためのものには見えなかった。
霊夢は星の弾幕を前にしても、速度を緩めない。
光弾と光弾が交差する一瞬前、その僅かな隙間へ飛び込む。
一つ。
二つ。
三つ。
星の線を潜り抜けるたび、赤と白の衣装が緑の光に照らされた。
最後の一弾が背後を通り過ぎる。
霊夢は、すべて避け切った。
丘まで歓声が届く。
早苗は悔しそうに口元を引き結んだが、すぐに次の攻撃へ備えた。
対する霊夢が、一枚目のカードを取り出す。
「今度はこっちの番ね」
霊夢が札を掲げた。
「夢符――『二重結界』!」
白い光が広がり、霊夢の前後へ二つの結界が現れる。
一つは霊夢の近くで小さく回り、もう一つは早苗を囲むように大きく広がっていた。
霊夢が数枚の札を放つ。
札は内側の結界を通り抜けた瞬間に加速し、外側の結界へ触れると軌道を変えた。
正面へ飛んだはずの札が、早苗の背後から現れる。
右へ避ければ上から。
上へ逃げれば左から。
放たれた札の数は少ない。
だが、二つの結界を行き来するたびに進路を変え、何度も早苗へ迫っていく。
「同じ攻撃を使い回しているのか」
「言い方は悪いけれど、そうね」
パチュリーが答えた。
「少ない弾で、広い範囲を支配している。霊夢らしい弾幕だわ」
早苗は御幣から通常弾を放ち、迫る札の軌道を乱す。
その僅かな隙に身体を捻り、外側の結界を抜けた。
霊夢の一枚目も、早苗を捉えられないまま光となって消える。
互いに一枚ずつ。
それでも、どちらにも焦りは見えなかった。
「奇跡――『白昼の客星』!」
早苗の二枚目が発動する。
一筋の光が空へ昇り、巨大な星を作り出した。
星が輝いた瞬間、夜が消えた。
暗かった丘も、遠くの宴会場も、空に浮かぶ霊夢の姿も、白昼のような光に照らし出される。
続いて、星から幾本もの光線が降り注いだ。
太い光の柱の間には、無数の星弾が雨のように流れている。
霊夢は光線を避け、その影へ潜り込むように身体を滑らせる。
そこへ星弾が降る。
身体を横へずらす。
次の光線が進路を塞ぐ。
それでも霊夢は止まらない。
どの弾も、初めからそこにないかのように通り抜けていく。
「どうして当たらないの?」
フランが身を乗り出した。
「早苗の弾は、ちゃんと霊夢を狙ってるんでしょ?」
「狙っているわ」
レミリアが答える。
「あいつが、狙われた場所からいなくなるだけよ」
やがて客星が薄れ、夜の暗さが戻ってくる。
霊夢の身体には、光弾が触れた跡すらなかった。
早苗は間を置かず、三枚目を掲げる。
「開海――『海が割れる日』!」
青い魔法陣から溢れ出した光弾が、巨大な二つの波となった。
波は左右へ分かれ、霊夢を挟み込むように押し寄せる。
正面にだけ、海を割って作られた道のような空間が残されていた。
「あそこへ入れば避けられる」
フランが声を上げる。
「いいえ。あれは罠よ」
パチュリーが答えた。
霊夢は、迷わずその道へ飛び込んだ。
「入っちゃった!」
左右へ分かれていた波が大きく曲がり、霊夢の背後から閉じ始める。
青い光が重なり、逃げ道を呑み込んでいく。
それでも霊夢は振り返らない。
波が完全に閉じる直前、その身体が僅かに沈んだ。
次の瞬間には、重なる光弾の向こう側へ抜けていた。
二つの波が衝突し、青い光の飛沫が夜空いっぱいに散る。
その光景に、俺は息を呑んだ。
水遁で作られた本物の水ではない。
それでも、夜空に海が生まれ、割れ、再び閉じたように見えた。
戦場でこれほど多くの術が飛び交えば、地上には瓦礫と死体が残る。
だが、ここで光が消えた後に残るのは、観客の歓声だけだった。
「まだです!」
早苗が四枚目のカードを掲げる。
「準備――『サモンタケミナカタ』!」
幾重もの魔法陣が開き、そこから現れた緑色の光弾が、巨大な風の柱となって霊夢を取り囲む。
霊夢はその間を抜けながら、札と陰陽玉で早苗を牽制する。
早苗は自らの弾幕を操りながらも、三方向から放たれる光を避けなくてはならない。
攻める側にも、完全な安全はないらしい。
陰陽玉から放たれた一弾が早苗の進路を塞ぐ。
早苗は身体を翻し、紙一重でそれをかわした。
その先へ霊夢の札が迫る。
早苗は御幣を振り、風をまとって急上昇した。
札が足元を通過する。
風の柱が消えたとき、早苗は既に息を乱し始めていた。
対する霊夢は、変わらぬ表情で空に浮かんでいる。
「霊夢は、まだ一枚しか使っていないぞ」
「焦る必要がないもの」
レミリアが笑った。
「早苗の弾幕を見ながら、あの子がどう避けるかを調べているのよ」
「調べている?」
「そのうち分かるわ」
霊夢が二枚目のカードを取り出した。
「神技――『八方鬼縛陣』!」
八枚の札が空へ散る。
札は早苗を取り囲む八つの方角で静止し、それぞれを中心に赤い魔法陣を展開した。
八つの陣から、札と光弾が放たれる。
一方向から見れば、十分に避けられる隙間がある。
しかし、早苗が右へ逃げれば、左からの弾が追い立てる。
上へ飛べば、下方の陣が進路を変えさせる。
八方から迫る弾幕は、早苗を直接狙っているようには見えなかった。
「霊夢は、早苗をどこへ追い込もうとしている?」
俺が尋ねる。
「決まった場所ではないわ」
パチュリーは回転する八つの陣を見つめていた。
「早苗がどう逃げるかを見ているの。右へ避けるのか、左へ抜けるのか。上と下、どちらを選ぶのか」
早苗は迫る札の隙間を見つけ、左斜め上へ飛び込んだ。
魔法陣が回り、再び同じような弾幕を放つ。
今度の早苗は右下を選んだ。
それを繰り返し、少しずつ包囲の外へ近づいていく。
やがて早苗は八つの陣を抜け、開けた空へ飛び出した。
霊夢の二枚目も消える。
それでも霊夢の表情は変わらない。
「逃げられたのに、嬉しそうね」
咲夜が呟いた。
確かに、霊夢の口元には僅かな笑みが浮かんでいた。
早苗の避け方を知る。
そのために使った弾幕だったというのか。
早苗が五枚目のカードを掲げる。
「奇祭――『目処梃子乱舞』!」
細長い金色の光弾が束となり、幾本もの柱を作り上げた。
柱は傾き、回転し、互いに交差しながら空を進む。
その周囲では赤と緑の小さな魔弾が輪を作り、踊るように跳ね回っていた。
一度目と二度目で動きが違う。
無秩序に見えるが、完全な乱れではない。
音の聞こえない祭り囃子に合わせ、巨大な行列が空を練り歩いているようだった。
霊夢は僅かな隙間を見つけ、光の柱の間へ入る。
身体を傾け、回転する柱と一緒に円を描く。
小さな弾を紙一重でかわし、柱の動きが変わる直前に外へ抜けた。
最後の一弾が霊夢の髪を揺らして通り過ぎる。
またしても、早苗の弾幕は届かなかった。
残るスペルカードは、あと一枚。
早苗は大きく息を吸い、最後のカードを取り出した。
地上から、これまでで最も大きな歓声が上がる。
「霊夢さん。これで決めます!」
「ええ。来なさい」
霊夢も最後のカードへ手を掛けた。
早苗が札を胸元へ構える。
「大奇跡――『八坂の神風』!」
夜空を覆うほど巨大な魔法陣が開いた。
直後、風が爆発する。
早苗を中心に生まれた暴風が、無数の緑色の魔弾を巻き込みながら渦を作った。
渦は一つではない。
幾つもの風の輪が互いに逆方向へ回転し、魔弾を複雑な螺旋へ変えていく。
空も、丘も震えていた。
結界がなければ、地上の宴会場まで吹き飛ばされていただろう。
霊夢の姿が、緑色の光と暴風の中へ呑み込まれる。
「あっ、見えなくなっちゃった!」
フランが立ち上がった。
「座っていなさい」
レミリアの声は落ち着いていた。
その目は、渦の中心から離れていない。
俺も輪廻眼を凝らす。
幾重にも重なる風と魔弾。
その僅かな隙間に、赤と白の姿が見えた。
霊夢は弾幕へ逆らっていなかった。
風に流され、魔弾が通り過ぎる瞬間だけ僅かに位置を変えている。
避けようと力を込めるのではない。
自分を縛るものなど初めから存在しないかのように、暴風の中を漂っていた。
やがて霊夢が、最後のカードを掲げる。
「霊符――」
白い光が暴風を貫いた。
霊夢の背後に巨大な魔法陣が開き、その周囲へ七色の光球が現れる。
「『夢想封印』!」
光球が一斉に放たれた。
真っ直ぐ早苗へ向かうもの。
大きく上空へ回り込むもの。
一度地上近くまで降りてから、急角度で上昇するもの。
七色の光は別々の方向へ散りながら、最後には早苗のいる一点へ集まっていく。
早苗が右へ逃げる。
そこには既に、青い光球が回り込んでいた。
左へ進路を変える。
今度は赤と黄色の光が、その先を塞ぐ。
上へ。
下へ。
斜め後方へ。
早苗が進路を選ぶたび、七色の光が先回りする。
「追尾しているだけではないな」
「あら、気づいた?」
レミリアが笑う。
「あの光は、早苗がいる場所を追っているのではない。早苗が次に逃げる場所へ向かっている」
八方鬼縛陣で見せた、早苗の回避。
右へ追われたとき、どこへ逃げるのか。
上下を塞がれたとき、どの隙間を選ぶのか。
霊夢は、すべて覚えていた。
夢想封印は早苗を追いながら、その逃げ方に合わせて一つずつ道を消していく。
早苗は上空へ飛び出した。
そこだけが、最後に残された隙間だった。
だが、その先には霊夢がいた。
霊夢が一枚の御札を放つ。
何の変哲もない、通常の札。
早苗は進路を変えようとする。
背後からは七色の光。
左右にも逃げ場はない。
早苗の目が見開かれた。
御札が、その肩へ触れる。
白い光が小さく弾けた。
同時に、空を覆っていた暴風が消えた。
七色の光球も動きを止め、夜空へ溶けるように消えていく。
静寂。
藍が早苗の被弾を確認し、片手を掲げた。
「有効被弾を確認! 勝者――博麗霊夢!」
次の瞬間、地上から凄まじい歓声が上がった。
丘の上にまで届く声が、夜の空気を震わせる。
フランも両手を上げて跳びはねた。
「すごい! 本当に三枚で勝っちゃった!」
「だから言ったでしょう?」
レミリアも満足そうに笑っている。
空では早苗が悔しそうに肩を落としていた。
それでも霊夢へ向き直ると、素直に頭を下げる。
霊夢もそれに応じ、僅かに笑った。
血は流れていない。
倒れた者もいない。
地上には、人間も妖怪も神もいる。
その全員が、勝者と敗者の双方へ惜しみない拍手を送っていた。
俺は誰もいなくなった夜空を見上げる。
僅かに残った魔力の光が、星のように瞬いている。
戦いでありながら、誰かを傷つけるためのものではない。
勝敗を決めながら、憎しみを残すものでもない。
これが、幻想郷の弾幕勝負。
八雲紫が俺に見せようとしたものだった。
だが、まだ分からないことがある。
勝負が終わった後、勝者と敗者はどうなるのか。
遠くの宴会場では、再び賑やかな音が響き始めていた。