ある日、俺は咲夜に頼まれ、紅魔館の門前を掃除することになった。
箒を手に門へ向かうと、紅い長髪の女が門柱へ寄りかかっていた。
確か、
紅魔館の門番を務めていると聞いている。
だが――
「すぅ……すぅ……」
寝ていた。
随分と気持ちよさそうだ。
門番がこれでよいのだろうか。
そう思った次の瞬間、美鈴の頭に二つのこぶができた。
「痛ったぁ……!」
美鈴が頭を押さえ、その場にしゃがみ込む。
いつの間にか、隣には拳を握った咲夜が立っていた。
「まったく、少し目を離すとすぐこれなんだから」
「ち、違うんですよ、咲夜さん! これは目を閉じて、周りの気の流れをですね……」
「寝息まで立てて?」
「……少し、集中しすぎまして」
「次は三つにする?」
「申し訳ありませんでした!」
美鈴が勢いよく頭を下げる。
咲夜は小さくため息をつくと、俺へ顔を向けた。
「長門。掃除をお願いね」
「ああ」
館へ戻っていく咲夜を、美鈴は頭を押さえながら見送っていた。
「……今日は、戻ってくるのが早いですねえ」
「毎回こうなのか?」
「毎回ではありませんよ」
俺が二つのこぶへ目を向けると、美鈴はそっと帽子を被り直した。
それ以上は聞かず、俺も掃除を始める。
美鈴は背筋を伸ばして門の前に立っていたが、しばらくすると、時折こちらを見るようになった。
初めは気にせず箒を動かしていたものの、その視線はなかなか止まない。
「……何か用か?」
「ああ、すみません。長門さんでしたよね?」
「長門でいい」
「そうですか? じゃあ、長門」
美鈴はあっさりと呼び方を変え、俺の足元から肩までを眺めた。
「あなた、相当な使い手ですね」
「掃き掃除なら慣れている」
「そっちじゃありませんよ。武術です、武術!」
美鈴は笑いながら、俺の足元を指した。
「足の運びに無駄がないんです。手を動かしていても、重心はちゃんと残しているでしょう? それに、後ろにも気を配ってますよね」
そこまで見抜かれていたか。
眠っている姿ばかりが印象に残っていたが、よく見ている。
「ここへ来る前は、武人だったと聞きましたけど」
「忍だ」
「ああ、そうでした。忍って聞いたんでしたね」
美鈴は思い出したように頷き、それから首を傾げた。
「でも、具体的に何をするんです? 武人とは違うんですか?」
「戦うこともあるが、それだけではない。潜入や偵察もする」
「へえ。それで周りにも気を配っているんですね」
美鈴はもう一度、俺の足元へ目を向ける。
「まあ、呼び名はともかく。腕が立つのは確かでしょう?」
そう言って、少し身を乗り出した。
「どうです? 少し手合わせしませんか?」
「掃除の途中だぞ」
「ほんの少しですよ。身体を動かせば、掃除も捗りますって」
箒を動かすのも、身体を動かすうちに入ると思うが。
「お前も仕事中だろう」
「門の前なら、誰か来ても分かりますし」
「こぶが増えるぞ」
美鈴は一度だけ館の方を見た。
それから、口元へ手を添えた。
「……その前に終われば大丈夫です」
何一つ懲りていない。
俺は箒へ目を戻した。
だが、美鈴は引き下がる様子もなく、期待に満ちた顔でこちらを見ている。
「一度だけ。ね?」
小さく息を吐く。
その足運びを見て、俺にも少し興味が湧いていた。
「……少しだけだぞ」
「そうこなくっちゃ!」
美鈴の顔がぱっと明るくなる。
俺は箒を門柱へ立てかけ、門前の開けた場所へ移動した。
美鈴が少し離れたところで振り返る。
「それじゃ、まずは軽くいきましょう」
「ああ」
向かい合うと、美鈴が腰を落とし、ゆっくりと構えた。
先ほどまでの緩んだ雰囲気が消える。
重心は低く、足元は揺らがない。それでいて、全身のどこにも余計な力が入っていなかった。
隙がない。
俺も箒を握っていた手を開き、構えを取る。
「では、いきますよ」
美鈴が踏み込んだ。
速い。
だが、それ以上に滑らかだった。
大きく地面を蹴った様子もないまま、流れる水のように間合いへ入ってくる。
放たれた掌底を身体をひねってかわし、続く肘を腕で受け流す。
美鈴の眉が僅かに上がった。
「おお、今のも避けますか」
声が弾んでいる。
そのまま伸びてきた手を払い、こちらから踏み込んだ。
拳が届く寸前、美鈴の掌が俺の腕に触れた。
押された力は僅かだった。
それなのに、拳は狙いから外れ、その脇を美鈴の肩が抜けていく。
足を引く。
つい先ほどまで俺の足首があった場所を、美鈴の足先が払った。
「……なるほど」
「よそ見をしてると、転びますよ?」
「していない」
「なら、もう少し速くても大丈夫ですね」
言い終えるより先に、次の一撃が来た。
拳を受け、払う。
足払いを跳んでかわし、着地と同時に蹴りを返す。
美鈴は上体を反らしてそれを避けると、その勢いのまま身体を回転させた。しなるような蹴りが脇腹へ迫る。
腕を挟み込み、衝撃を受け止める。
軽く放たれたように見えた一撃が、予想以上に重かった。
美鈴の体術は柔らかい。
だが、決して軽くはない。
力を正面からぶつけるのではなく、全身を淀みなく連動させ、一点へ流し込んでいる。
俺の知る体術とは性質が異なる。
先ほどと同じように拳を放ち、途中で踏み込む足を変えた。
美鈴が笑う。
今度は受け流さず、俺の腕を押さえながら懐へ入ってきた。
近い。
肩をぶつけられる前に身を引き、追ってきた掌を外へ払う。
互いに離れ、再び間合いを詰める。
一度だけのつもりが、どちらも止まらなかった。
美鈴は終始、楽しそうだった。
俺も、次にどんな動きが来るのかを考えていた。
受けた腕の重さも、踏み込む足の感触も、妙にはっきりと感じられる。
いつの間にか、肩から余計な力が抜けていた。
そのときだった。
「――掃除はどうなったのかしら?」
俺と美鈴の動きが、同時に止まった。
振り返ると、咲夜が立っている。
怒鳴ってはいないが、笑ってもいなかった。
美鈴がそっと足を揃えた。
「……お帰りなさい、咲夜さん」
「ただいま。何をしていたの?」
「ええと、長門と少し、身体を動かしていまして」
「それは見れば分かるわ」
「ですよねえ……」
美鈴の視線が、門柱に立てかけた箒へ動く。
俺もそちらを見た。
落ち葉は集めかけのまま、風に吹かれて少しずつ散っている。
「私から誘ったんです。長門は、その……付き合ってくれただけで」
「断らなかったのは俺だ」
俺が言うと、咲夜はこちらへ目を向けた。
「それなら、二人で片づけられるわね」
「ああ」
「ついでに、門から玄関までの掃除もお願い」
美鈴の顔が引きつった。
「……全部ですか?」
「身体を動かすのが好きなんでしょう?」
返す言葉がなかった。
◇
「いやあ……少しだけのつもりだったんですけどねえ」
美鈴は持ってきた箒を動かしながら、館へ続く道を見渡していた。
俺も隣で落ち葉を集める。
門前だけなら、とっくに終わっていたはずだった。
「その前に終われば大丈夫、だったか」
「そこを言われると弱いですね」
美鈴が苦笑する。
だが、すぐにこちらを見て、口元を緩めた。
「でも、長門も途中から楽しんでいたでしょう?」
「気のせいだ」
「またまた。最後の方、そっちから踏み込んできたじゃないですか」
「お前が引かなかったからだ」
「私が引いたら、終わりにしてました?」
箒の先で、小枝を落ち葉の山へ押し込む。
少し間が空いた。
美鈴がくすりと笑う。
「ほら」
「……手が止まっているぞ」
「はいはい。今度はちゃんと働きますよ」
そう言いながら、美鈴はまた箒を動かし始めた。
しばらくすると、ふと背後から視線を感じた。
振り返り紅魔館を見上げたが、薄暗い窓の向こうには誰もいなかった。
「どうしました?」
「……いや。今、誰かに見られていた気がしたのだが」
美鈴も館を振り返ったが、やがて首を傾げた。
「妖精メイドの誰かですかね。さっきも、何人か覗いてましたし」
「そうかもしれないな」
俺は再び箒を動かし始めた。
それでも、先ほど感じた視線だけが、妙に記憶へ残った。
◇
それから数日後。
その日の霧の湖は、珍しく晴れていた。
空は青く澄み、草木に残った露が日の光を返している。
普段は湖面を覆っている霧も薄く、対岸の森まで見渡せそうだった。
日差しが強いためか、レミリアは館の奥から出てこない。
俺は静かな庭で、箒を動かしていた。
霧に包まれた景色も悪くはないが、やはり青空は気持ちがよい。
手を止めて空を見上げた、そのときだった。
「待ぁーてー! 泥棒ーっ!!」
館の中から、けたたましい叫び声が響いた。
穏やかな朝に、妙によく通る声だった。
何事かと窓へ目を向けると、小悪魔が何者かを追って廊下を全力疾走している。
「へへーん、捕まるもんかよ!」
白と黒の衣装をひらめかせ、黒い帽子を押さえながら、金髪の少女が箒に跨がって窓から飛び出してきた。
少女は霧の残る空気を切り裂きながら、笑い声とともに遠ざかっていく。
小悪魔は窓から身を乗り出し、手を伸ばしたが間に合わない。
絶望とも諦めとも取れる顔でうなだれた小悪魔だったが、下にいる俺に気がついた。
「長門さーん! そいつを捕まえてー!」
小悪魔の声を聞き、俺は逃げていく少女へ静かに手をかざす。
「――万象天引」
次の瞬間、少女が悲鳴を上げた。
「えっ!? な、なんだよコレ――っ!? 止まんねぇぇ!」
少女はみるみるうちに引き戻され、俺の手元まで飛んでくる。
俺が少女の首根っこを掴んだところで、小悪魔がやってきた。
「ありがとうございます! そいつ、魔導書泥棒の常習犯なんです!!」
「盗んでんじゃねえ! 死ぬまで借りてるだけだ!!」
「それを盗んでいると言うんですよ!!」
「ちくしょー!! っていうか何なんだお前ぇぇ!」
そんな抗議の声を残し、少女は小悪魔にずるずると連行されていった。
どうやら静かな一日とはいかないようだった。
◇
それから数日後、図書館で本の整理をしていたときのことだ。
乱雑に積み重なった本を一冊ずつ確認し、本棚へ戻していく。
そのとき、図書館の奥から騒がしい声が聞こえてきた。
この前の白黒衣装の少女だ。
数冊の本を手に、箒に跨がって飛び去ろうとしている。
俺は手をかざす。
「――万象天引」
「またかよー!」
少女を引き寄せ、そのまま小悪魔へ引き渡した。
さらに別の日。
咲夜とともに廊下を掃除していると、奥の方からまた騒がしい声が聞こえてきた。
白黒は俺に気づいたようで、即座に引き返す。
「――万象天引」
そのまま咲夜に連行されていった。
それからというもの、あの白黒は何度も紅魔館に現れた。
魔導書を盗もうとしては俺に引き寄せられ、叫びながら連行されていく。
「またかよー!」
その悲鳴も、今では館の日常の一部になりつつあった。
◇
そんなことを繰り返したある日、庭で修業の瞑想をしていると、静けさに溶けるように一つの気配が現れた。
気になって目を開けると、そこにはあの白黒が立っていた。
「よっ! 何やってんだ?」
その軽い声に、思わず眉をひそめる。
まるで、ずっと前からの知り合いだったかのような態度だ。
俺は見なかったことにして、瞑想を続けた。
「おいおい、無視すんなよ!」
「盗人と話すことなどない」
「そう言うなって。今日は本を盗りに来たんじゃねえ。お前に用があって来たんだ」
「帰れ」
「少しくらい話を聞いてくれてもいいだろ?」
帰る気はないらしい。
俺は息を吐き、目を開いた。
少女は満足そうに笑う。
「ようやくこっちを見たか。私は普通の魔法使い、
「……長門だ」
今までまともに話したこともなかったが、俺もつられるように名乗った。
「そうか、長門か!」
魔理沙は改めて俺の顔を覗き込む。
「へえ。近くで見ると、その目すごい色してるな。全部紫なのか?」
「顔が近い」
「いいじゃないか、減るもんでもなし」
そう言いながらも、魔理沙は少しだけ顔を離した。
「それで、俺に用とは何だ?」
「あっ、そうそう。お前、いつも私のこと、あの強い力で引っ張ってるだろ? あれがどうなっているのか知りたくてな~」
「あれは俺の能力だ。引力を操って、お前を捕まえている」
「引力って、重力みたいなもんか?」
「ああ。概ねそんなものだ」
魔理沙がにこりと笑う。
「ちょっと見せてみろよ」
「断る」
「そんなケチなこと言うなよ~。少しだけでいいからさ~。な!」
即座に断ったが、魔理沙はしつこく食い下がってくる。
俺はため息をつくと、手近な石を万象天引で引き寄せた。
「おー、スゲーな! ホントに引き寄せてる。見たところ魔法でもないようだし、どうなってるんだ?」
「パチュリーと調べているが、まだ分からないことが多い」
「パチュリーでも分からないのか……。俄然興味が湧いてきたぜ! ほかにもいろいろできるんだろ? 見せてみろよ!」
なぜお前に――と思いつつも、俺は神羅天征を使って、引き寄せた石を飛ばした。
「引き寄せるだけじゃなく、弾くこともできるのか。ますます面白いな!」
その後も魔理沙から根掘り葉掘り聞かれた。
すべてを話したわけではないが、気付けば普段より多くのことを答えていた。
「うーん。やっぱり、よく分からないな。私も何か分かったら教えてやるよ。その代わり、お前も面白いことが分かったら私に教えてくれ」
「勝手に決めるな」
「細かいことは気にするなって」
随分と一方的な取引だった。
◇
話に区切りがついたところで、魔理沙は辺りを見回した。
「ところで、さっきから何してたんだ?」
「魔法の修業をしていた」
「あ~、“外の魔力”を感じ取るっていうやつか……。あたしも苦労したわ」
魔理沙は腕を組み、俺の周囲をぐるりと歩きながら言った。
「で、どこまで出来たんだ?」
「魔力は感じられるようになってきた。だが……」
俺は肩をすくめた。
「どうやって身体を浮かせるのか、さっぱり分からん」
「はっはっは、そこが一番つまずくところだな!」
魔理沙が箒の柄をトン、と地面に突く。
にやりと笑って、子供に秘密を教えるような顔になる。
「いいか、長門。浮くってのはな――“魔力に乗る”んじゃなくて、“魔力に自分を預ける”んだ」
「……預ける?」
「そう。“支える”とか“押す”とかじゃなくて、もっとぼんやりした感覚さ」
魔理沙は自分の胸元を指さした。
「空気と自分の境目が曖昧になる、みたいな感じ。力むと逆にドスンと落ちる」
……力まずに、か。
俺の修業とは真逆の発想だった。
「試しにさ」
魔理沙は顎で俺を促した。
「足元に魔力を“敷く”ってイメージを持て。板か雲みたいなやつをだ」
「……ふむ」
その比喩は分かりやすい。
俺は静かに目を閉じ、外の魔力の流れを追った。
「そうそう、それでいい。でな――」
魔理沙の声がふわりと近づく。
「次に、“そいつに軽く押し上げられる”ってイメージを持て。自分で浮くんじゃなくて、“浮かされる”んだよ」
押し上げられる……預ける……。
輪廻眼で物を操るときの能動的な制御とは、まったく別だ。
自分から力を動かすのではなく、その流れに身を任せる感覚に近い。
「ほら長門、力みすぎ。眉間に皺が寄ってるぞ」
「……黙れ」
魔理沙がケラケラ笑う。
だが、その軽口が緊張をほどき、呼吸が自然に落ち着く。
力が、足元で揺れた。
――薄い膜。
――雲のような支え。
そんなイメージが掴めてくる。
「そのまま……そう、そのまま……」
魔理沙が、風を読むように囁いた。
「――浮いてみろ」
魔力が、足元で薄い波紋のように揺れた。
意識を落ち着け、身体の重さをその“雲”にそっと預ける。
――ふ、と。
地面との距離が、僅かに変わった。
「……ん?」
重心が、普段とは違う位置にある。
足裏の感触が薄れ、身体が軽くなる。
浮いている――のか?
「お、おおおおおっ!? おい、長門!!」
目を開けると、魔理沙が目をまん丸にしていた。
箒を握りしめ、飛び上がらんばかりの勢いで俺を指さしてくる。
「浮いてる! 浮いてるぞ、お前!!」
どうやら、本当に浮いているらしい。
「なるほど。これが――」
そう考えた瞬間、足元の流れが乱れた。
身体を支えていた感覚が消える。
「おい、待っ――」
地面へ落ちた。
高さは僅かだったため、転びはしなかった。
ただ、着地した拍子に土が小さく跳ねる。
「……意識を向けると崩れるな」
「最初はそんなもんだ。というか、いきなり浮けたなら上出来だぜ」
魔理沙は笑いながら、俺の肩を叩いた。
「あたしの初飛行より全然ましだって! あたしなんか、最初は転がりながら飛んでたし!」
魔理沙は心底嬉しそうに笑っていた
「……転がりながら飛ぶとは、意味が分からないが」
「細かいことは気にすんなって! とにかく今の感覚を忘れるなよ。力んだら駄目だ。“魔力に乗る”んじゃなくて――」
「“預ける”、だな」
「そう、それそれ! 言うじゃないか。吸収早いな、お前」
魔理沙は満足げに腕を組み、にかっと笑う。
不思議だ。
この白黒――近づかれると反射的に警戒してしまうのに、こうして距離を詰められることを不快には感じなかった。
「もう一回やってみるか?」
「……そうだな」
俺はもう一度、深く息を吸い込んだ。
外の魔力を感じ、足元に雲を描くように意識を置く。
魔理沙が、わくわくした目でこちらを見ていた。
まるで――仲間の成長を喜ぶような、そんな目だ。
随分と懐かしい感覚だった。
「よし、もう一度だ」
「おう! 今度は落ちても受け止めてやるよ!」
「いや、それは遠慮する」
魔理沙はケラケラ笑いながら、箒を肩に担いだ。
空気が軽い。
空も広い。
先ほどより、少しだけ“浮けそう”な気がした。
◇
しばらく練習しているうちに、少しずつ浮くことにも慣れてきた。
「お前、やっぱスゲーな! あたしのとき、こんなにすんなりできなかったぞ! 魔力の操作も安定してるし、この調子ならすぐに飛べるようになるだろうぜ!」
にかっと笑う魔理沙。
その声には、疑いも打算もなかった。
他人の成功を、自分のことのように喜んでいる。
その明るさに、何か懐かしいものを感じた。
だが、それが誰に似ているのかまでは考えなかった。
似ているようで、きっと違う。
今、目の前にいるのは魔理沙だ。
「……ふっ」
「どうした? いきなり笑って」
「いや、今日は助かった。お前がいなければ、まだ浮く感覚を掴めていなかっただろう」
「おう! どういたしまして! これで盗みも見逃してくれたら助かるんだけどな」
「それは断る」
◇
図書館。
本棚の影からパチュリーが顔を上げる。
「……浮けた?」
「ああ。数センチだが、確かに浮いた」
パチュリーは目を瞬かせた。
掛けていた眼鏡が僅かにずり落ちる。
「もう……? 外の魔力を感じ取れても、浮くまでにはもっと時間がかかるはずなのに……」
「魔理沙に少し助言をもらった。“預ける感覚が大事だ”と」
パチュリーの肩がぴくりと揺れる。
「…………魔理沙?」
「……ああ」
本を閉じる音が、いつもより強く響いた。
「……ふーん。あの子ね。なるほど。分かったわ、長門。次は――」
「……?」
パチュリーは指先で眼鏡を押し上げ、ふっと目を細めた。
「私のところに来なさい。貴方の魔法は、私が最後まで見るわ」
読んでいただきありがとうございます。
飛び去る魔理沙を万象天引で引き戻すというのは、書いてみたい場面でした