冤罪で死んだ天才錬金術師は、500年後の滅びた世界で快適に暮らしています 作:黒おーじ
「錬金術師イカロス! 観念しろ!」
俺は塔の最上階に追い詰められていた。
周りには城の衛兵たちが10……いや20は集まっている。
「何度も言っているだろ! 俺は禁術になんて手を出してないって!」
「黙れ! 証言者がいるのだぞ!」
「デマだって! 誰がそんなこと言ってんだよ!」
そんな時だ。
兵の間からひとりの男があらわれた。
「私だ」
「レグルス……!?」
同じ錬金術師の同期である。
「思い返せば、キミは昔から忠義深い男だったね。とくに先王にはずいぶんと気に入られていた」
「そ、それがなんだよ」
「ククク、そんなキミが先王に死者蘇生の禁術を用いようとした気持ちはよくわかる」
「な……!」
「しかし、禁忌は禁忌だ。捕らえよ!」
レグルスが命じると、兵たちが一斉にかかってきた。
あんな言葉で動くところを見ると、裏から手が回っているな。
「ここまでか……」
俺はため息をついて、塔の手すりに足をかける。
そして、そのままひと思いに空へ身を投げ出した。
「なッ、バカを……!!」
レグルスが落下する俺を見下す。
しかし、俺はニヤリとほほ笑むと、背中のリュックに背負った飛行装置を起動させた。
――ビシューン……☆☆
飛行装置はけたたましく魔力を放出し、俺の身体はぐんと宙を昇っていく。
「レグルス! 錬金術師学校の時からオマエは2番、俺が1番だった。嫉妬するのはわかるが……このままで済むと思うな!」
「ぎッ……イカロス……!!」
俺はヤツを挑発しながら、逃走先を考えていた。
王都の兵はレグルスの息がかかっている。
とりあえず隣国へ逃れるか……
そう思って飛行を加速した時。
「あッ……」
塔からこちらを見上げているレグルスや兵たちが、一斉に口を開けて目を見開いた。
なんだ? 俺の背後を見ている?
振り返ると、ほぼ目の前に飛空艇があった。
「ヤバっ……!!」
あわてて避けようとしたが、次の瞬間には衝撃が起こり、落下する感覚だけを残して意識を手放してしまった。
……
…………
………………ん?
目を覚ますと、青い空が見えた。
あたりは荒野。
「どこだ、ここ?」
確か俺は飛空艇と衝突して落下を……
あれで生きていたのか?
それとも、ここは天国?
「あなたは死にました。しかし、天国ではありません」
ふと、背後でそんな声がして振り返る。
そこには女が一人立っていた。
長く美しい銀髪、ぞくぞくするような女性らしい肉体に、透明に近い羽衣を上品にまとっている。
「へえ、イイ女じゃん……ねえちゃん、ちょっと遊びに行かん?」
「……無礼者」
俺がいつもの調子で女の手へ触れようとすると、突如として全身に電撃のようなものが走った。
恋的なヤツじゃなくて、痛いのだ。
「ぎゃあああ!」
「よくお聞きなさい。あなたは飛空艇との激突の後、市街へ落下して絶命しました。しかし、私があなたを生き返らせたのです」
「ぎゃあああ!」
「……聞いているのですか?」
ようやく電撃が止まった。
「殺す気か!」
「一度死ぬのも、二度死ぬのも同じことです」
殺人犯みたいなこと言いやがる。
「つーか、生き返らせたっていったな? 死者蘇生は禁忌だぞ。バチが当たるぜ?」
「当たりません。私は神ですから」
神?
「あなたは神を信じますかって勧誘ならよくウチにも来たけど……」
「そんなまどろっこしいことは聞きません。私が神なので」
ど、どうやら本当らしい。
と言うのも、何故だか俺はこの女の言葉を疑えないからだ。
「なんで俺を復活させたんだ?」
「実は……あなたが死んでから、すでに五百年が経っています」
「ぎょッ!?」
……としたが、どうやら本当らしい。
「その五百年の間に、人類の文明は滅びました。世界は、あなたの知る頃とはまったく違う姿になっています」
ぎょぎょッ……!?
「い、嫌な予感がするんだけど。もしかして、世界の文明を再建しろとか、そういうこと?」
わざわざ500年前の天才錬金術師である俺を復活させたんだからなぁ。
「いいえ。そうは言いません。ただ、生きてくださればよい」
「生きるだけ……?」
俺は首をかしげる。
「文明再建の使命とか、そういうのはないの?」
「そう命じたら、あなたはそれをしますか?」
「……無理」
「でしょう?」
いくら天才錬金術師の俺でも一人で世界の文明を復活させるなんて大変すぎるし、そもそもモチベがわかない。
「あなたがあなた自身の望むように生きて、その結果何が起きるのか……それを私は見たいのです」
そう言うと女神は次第に姿を薄めていった。
「ちょ、ちょっと待て。神って、なんの神なん?」
「……私の名前はイレシア。我が子イカロスに幸あれ」
ウチの国の守り神だった。
◇
「荒野すぎるな……」
女神イレシアが消えると、俺は呆然とあたりを見渡した。
人類の文明は滅びているらしい。
ってことは、錬金術師のアトリエもなければ、素材を売ってくれる道具屋もないはず。
「よく考えたら、ただ生きるのも大変そうだわ」
とにかくこの土と砂ばかりの荒野ではどうしようもない。
素材や食料を採取できるような場所へ行かないと。
俺は歩き始めた。
服とクツは女神が用意してくれたのか転生前と同じものを履いているから、まあ探索には支障はない。
ただ、飛行装置は背負っていなかった。
あれがあれば素材探しは簡単なんだけどなあ。
「あ……森」
4、5時間くらい歩くと、ようやく木々が見えた。
森と思ったが規模は小さく林くらいなものだ。
しかし、そばに清浄そうな泉が湧いている。
「腹減ったぞ。なにか食わねえと……」
そうは思ったが、めぼしい食材はない。
仕方がないので、木の根や、草、そして明らかに毒キノコと思われるソレから分解錬金で毒を抜き、栄養素を抽出してサプリメント・カプセルを作り、水で流しこんだ。
ぐぅ……
満腹感はない。
だが栄養を取らないと魔力が回復しないからな。
魔力がなければ、さすがの俺だって錬金術を使えない。
そうなったら死ぬんだろうな。
「まあ、一度死のうが二度死のうが同じことか」
俺はイレシア様のようなことをつぶやきつつ、木を伐り始めた。
木材の硬さなら、なんとか素の魔力で加工できる。
スゲー時間がかかるけど。
それから木のシャベル、大木槌、木の杭と作って行き、気づけば辺りは暗くなり始めていた。
ーーわおーん……!
どこかで獣の遠吠えが響く。
ヤバ……
というのも、素手の俺はめちゃくちゃ弱えーからな。
あわてて薪を集め、ライタの魔法で火種を起こし、焚き火にする。
そして、手頃な土の崖の側面を木のシャベルで掘り、穴倉をこさえた。
広さはベッドふたつぶんくらい。
その小空間を木材で補強し、ついでに床、壁、天井、扉を取り付けた。
残念ながらベッドそのものを作る時間はなさそうだ。
やむをえん。
今日はとにかく一夜過ごせればいい。
穴倉の前の焚き火が獣を遠ざけるだろうが、念のために魔除けの結界を張るために石を土に埋めて魔法陣を描く。
疲れた、もう眠い……
「やれやれ、明日はもうちょっと良いところで寝たいもんだ」
そうため息をついて、穴倉に腰掛けた。
なんか原始人みてーだな。
500年後の未来だってのに。
「そういや、レグルスのヤツもさすがに死んでるってことだよな……」
ま、いいか。