ポケモンTS転生〜リーフは原作を忘れかけている 作:はらへりニャンコ
「うひゃあ! 濡れる濡れる!」
私とサトシ、そしてポッチャマを連れたマコトという少女は、森の中を全速力で走っていた。
――濡れながら。
エンテイとの戦闘後。
ソウジの忠告を無視してバトルを始めた二人だったが、予想を遥かに上回る規模の嵐が来たことで、早々に中断。
その後、めちゃくちゃになったエリアの片付けをしていた私とリオルも、その嵐に巻き込まれたのだ。
すっかり暗くなった森の中を、私たちはかれこれ数十分は走り続けている。
森へ入る時に通った道を戻ればすぐなのだが、いつの間にか架かっていた橋が壊れており、通ることができなかった。
仕方なく迂回路を進んでいるのだが、なかなかタマムシシティへ辿り着かない。
「ハァ、ハァ……なんでタマムシシティにまで辿り着けないのよ……」
「さっきの看板では、ここを通ればすぐ辿り着くはずなのに……」
「あの看板ボロボロだったからな。もしかして迷っちまったか、俺たち?」
うん。
これは俗に言う――。
迷子とか遭難ってやつだろう。
いつもなら落ち着いてダウジングマップを開くのだが、雨の中ではそうも言っていられない。
雨に打たれながら、崖の側にあるぬかるんだ道とも呼べないような場所を、ひたすら走り続ける私たち。
すると突然、サトシが足を止めた。
「あれは!?」
「え?」
見ると、そこには一人のトレーナーとヒトカゲがいた。
ツンツンしたオレンジ色の髪。
目つきの悪い男。
そして、その足にしがみついているヒトカゲ。
男は――。
そのヒトカゲを、まるで空き缶でも蹴るかのように蹴飛ばした。
「邪魔だ! テメェはもう俺のポケモンじゃねぇ!」
「カァー……!」
「何するんだ!」
サトシがヒトカゲへ駆け寄ろうとする。
「駄目! そこから先に進んだらいけない!」
「ガァ!」
私の制止も間に合わない。
男の隣に立っていた、狼のような赤いポケモン――まよなかのルガルガンが動いた。
鋭い爪が閃く。
「ぐあっ!」
「サトシ!」
サトシの身体に爪が走り、その場に崩れ落ちる。
「あなた、何してるのよ!?」
「何って、ヒトカゲが使えないから捨てたんだよ」
男は何でもないことのように言った。
そして――。
「それでもこうして足元に寄ってくるから……なっ!」
再びヒトカゲを蹴飛ばす。
「カァッ……!」
泥と傷にまみれたヒトカゲは地面を滑っていく。
そして――。
ピクリとも動かなくなった。
「おい……」
サトシが立ち上がる。
自分の傷など気にしていない。
その視線は、倒れたヒトカゲだけを見ていた。
「ヒトカゲは、まだあんたのことを自分のトレーナーだと思ってるんだ……」
声が震えている。
「それをこんなにあっさり捨てて、傷つけるなんて……。お前はポケモントレーナー失格だ!」
「失格?」
男は鼻で笑った。
「俺は何も悪いことはしてねぇ。悪いのはいつだって弱い奴、弱いポケモンだ。お前らみたいにな」
――イラッ。
私の中で、何かが切れる音がした。
「弱い奴が悪い……?」
気づけば、私は男を睨みつけていた。
「ふざけるな。誰だって最初はレベル1で生まれてくるんだ。それを育てて、守り抜くのがポケモントレーナーじゃないのか!」
「生まれた時からポケモンの能力値は決まっているんだ」
男は冷たく言い放つ。
「そんなことも知らないでトレーナーをやっているのか? アンタに育てられているポケモンが可哀想だぜ」
「……」
その言葉に、私の後ろでモンスターボールが揺れた。
「オオオウ!」
ボールから飛び出したリオルが、私の前に立つ。
ファイティングポーズ。
その赤い瞳は、男を真っ直ぐに睨みつけている。
よりにもよって――。
私のリオルまで侮辱するなんて。
絶対に許さない。
「命を踏みにじって、ヒトカゲの心まで傷つけた罪……その身で償え!」
私は拳を握る。
「リオル、しんくうは!」
「ウオオオオオッ!」
真空の衝撃波が一直線に飛ぶ。
「なんだ、雑魚がこの俺に歯向かうのか?」
男は笑った。
「ルガルガン、世界の真理を教えてやれ!サイコファングだ!」
「ガルッ!」
ルガルガンが駆ける。
リオルのしんくうはを真正面から突破し、その鋭い牙をリオルの胴体へ叩き込んだ。
「キャイン!」
「リオル!」
「そのまま引き裂いてやれ!」
「負けるなリオル! カウンター!」
リオルが身体を捻る。
怒りを込めた反撃の頭突きが、ルガルガンの脳天へ突き刺さった。
「ガッ!」
しかし、ルガルガンも負けない。
噛みつく力をさらに強める。
このままでは――。
そう思った瞬間。
地面が、大きく揺れた。
「ルオッ!?」
「チッ、ルガルガン、戻れ!」
男が慌ててモンスターボールを投げる。
ルガルガンが光に包まれ、リオルを解放する。
「リオルー!」
私は落ちてくるリオルを何とか受け止めた。
だが――。
「きゃあっ!」
足元の地面が崩れた。
「リーフ!」
「リーフー!」
サトシとマコトの叫び声を聞きながら、私たちはそのまま崖下へと落ちていった。
◆
「……オン……ルオオォン……」
「……リオル……」
リオルの声が、遠くに聞こえる。
頭がぼんやりする。
全身に力が入らない。
この感覚を――。
私は、俺は知っている。
雨に打たれて。
全身が冷えて。
身体の感覚が、少しずつ薄くなっていく。
そうか。
今回も、こうやって――。
突然。
世界が、ふわっと軽くなった。
「……え?」
「オオン?」
いや。
違う。
私が何かに持ち上げられたんだ。
首が締まって苦しい。
乱暴に私を持ち上げた不審者に文句を言おうと、後ろを振り向く。
「グオッ」
「……え?」
白い髭。
赤と黄色の鬣。
そして――。
先ほど、私たちが木々の下敷きにしたポケモン。
「……え?」
エンテイ。
伝説のポケモンが、私を咥えていた。
◆
「それで、そのままエンテイに咥えられて、借りてきたニャースのように洞窟まで運ばれてきたと」
「うん……」
「良かったな。エンテイに咥えられた人間は、多分お前が史上初だぞ」
「あはは……」
「先程スマホロトムが自動で写真を撮っていたが、要るか?」
「要らないよ!?」
風雨を凌げる暗い洞窟。
そこには、暖かな焚き火と三人の先客。
そして――。
一命を取り留めたヒトカゲがいた。
「リーフ……無事で本当に良かったよ……」
「崖から飛び出して、本当に心配したんだからね……! ……ヒック……」
「心配かけてごめんなさい……」
あの後。
サトシは、自分がルガルガンに切り裂かれたことなど気にせず、ヒトカゲを抱きかかえてここまで走ってきたらしい。
先に洞窟へ避難していたソウジは、血まみれのヒトカゲ。
血を吐きながら雨の中を走ってくるサトシ。
そして、今にも死にそうな顔をしたマコトを見て、目を剥いたとか。
幸いなことに、ソウジは医学の知識と十分な量の治療道具を持っていた。
体温が下がっていたヒトカゲの尻尾の火も、ソウジの適切な治療によって、今では赤々と燃えている。
腹を切り裂かれたサトシ。
全身打撲の私とリオル。
私たちは現在、絶賛包帯でグルグル巻きにされていた。
「はぁ……忠告しておくぞ、愚患者ども」
ソウジが深いため息をつく。
「傷ついたポケモンを助けるのはいい。それがポケモントレーナーの責務だからな」
そこで、ソウジは一度言葉を区切った。
「しかし、それで自分が死んでは元も子もない。残されたポケモンはどうする気だ」
ぐうの音も出ない。
「これからは、少しは先のことを考えて動くことだ」
「「はい……ごめんなさい……」」
医者の諫言、耳に痛し。
確かに今回は――。
あのクソ野郎。
後からサトシたちにクロスと名乗ったらしい男の挑発に乗り、考えなしにバトルを仕掛けた私が悪い。
あのまま続いていたら、リオルは負けていた可能性が高い。
これからは、もう少し慎重に行動しなければ。
「とにかく、雨が晴れたらタマムシシティまで戻るぞ。ポケモンたちはともかく、お前らはベッドの上で絶対安静だ」
「はーい……」
「はい……」
その時。
「そうだ、サトシ。ここに来る途中で落としてたよ。ポッチャマが拾ってくれてたんだ」
「ポチャ!」
マコトの隣にいたポッチャマが、一枚の羽を差し出した。
「それにしても綺麗な羽だねぇ。サトシ、次は落としちゃ駄目だよ」
雨に濡れていたとは思えない。
虹色の羽は、焚き火の光を受けて神秘的に輝いていた。
「それは……ホウオウの虹色の羽!?」
ソウジが驚きの声を上げる。
「まさか、それをサトシが持っていたのか!?」
「ああ。マサラタウンをピカチュウと一緒に旅立った日に、ホウオウと出会ったんだ」
「確か、ホウオウを探しに東へ向かったんだよね。あの後、ホウオウとは出会えた?」
「いや、誰もそんなポケモン見てないって言うんだよ……。マコトとソウジは何か知っているか?」
「ホウオウ……」
ソウジが羽を見つめる。
「カネの塔に住んでいたとされているポケモンだ。遥か昔、塔が落雷で焼け落ちた際、死んだポケモンたちに力を分け与え、ライコウ、エンテイ、スイクンとして蘇らせたそうだ」
「虹色の羽に導かれ、ホウオウに会う者が虹の勇者になる……だっけ」
私は少し考える。
「どこに巣を作っているとか、そういう情報は知らない?」
「分からない」
ソウジは答えた。
だが――。
「……でも」
しばらく考え込んだ後。
ソウジはサトシを真っ直ぐに見た。
「ここから少し東へ行ったところに、僕がエンテイたちについて調べた図書館があるんだ」
「図書館?」
「ああ。エンテイ、ライコウ、スイクン。そして、ホウオウについても何か分かるかもしれない」
ソウジは穏やかに続ける。
「傷が癒えたら、そこへ案内するよ」
「本当か、ソウジ!? ありがとな!」
「ああ、僕は将来伝説のポケモンについて調べるポケモン博士になりたくてね。虹色の羽を持つ君とならホウオウに会えそうだ」
サトシとソウジは顔を合わせると嬉しそうに笑った。
「なら、私も一緒に行こうかな」
「マコトも?」
「特に行きたい場所もないまま、カントー地方をさすらっていただけだからね」
マコトは笑顔で私とリオルを見つめる。
「良かったら、リーフも一緒に来る?」
「私?」
これまで私は、気の向くままに一人旅をしてきた。
別に集団で行動するのが嫌なわけではない。
ただ、自由にやるのが性に合っているのだ。
でも――。
私を心配してくれる人。
私を助けてくれた人。
そして、私の友達。
その誘いを断るほどの理由は、今の私にはない。
それに――。
この三人と一緒なら、なんだか面白いことが待っていそうだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
私は笑う。
「これからよろしくね」
「おう!」
「もちろん!」
「よろしく」
こうして――。
私たちは四人で、ホウオウを追う旅へ向かうことになった。
残酷な描写タグを足したけど、この位でも必要かな?
みんな誰が好きですか?
-
リオル
-
フシギソウ
-
バタフリー
-
マンキー