ポケモンTS転生〜リーフは原作を忘れかけている 作:はらへりニャンコ
「……フ、リ……」
……なぜ……
「……リーフ!!」
「……マコト……ソウジ……」
いつの間にか、私はベッドにいた。
ぼんやりとした視界に映るのは、泣き腫らした目のマコトと、青ざめた顔のソウジ。
二人とも、ひどく心配そうに私を見つめている。
……どうして?
確か私は、サトシとクロスのバトルを応援していて。
クロスが技を八つも使う反則を犯して、それで――
「ぶぁかぁ!」
「ひでふっ!?」
突然、頬に衝撃が走った。
マコトの目覚ましビンタが、朧げだった私の意識を再び吹き飛ばす。
「お馬鹿馬鹿馬鹿、リーフの大馬鹿ァ! ヒック……ウェッ……」
「全くだぞ、この糞阿呆大馬鹿命知らず! 自分が何をしたのか分かっているのか!」
泣きながら怒鳴るマコト。
顔を真っ青にして怒鳴るソウジ。
二人の様子を見ているうちに、少しずつ記憶が戻ってくる。
……そうだ。
死にかけたリザードを助けようとして、バトルの間に割って入って。
そして――ガオガエンの一撃を受けた。
「……あれ?」
自分の身体を見下ろす。
どこも痛くない。
動かせる。
息もできる。
「ということはつまり……ここは天国?」
「なわけないでしょ、勝手に死ぬな、このお馬鹿ァ!!」
パシーン!
「っ痛ッタァ!」
また頬に良い音が響いた。
マコトの目からは、まだ涙が止まっていない。
怒っているのに、泣いている。
その顔を見ていると、胸の奥が少しだけ痛くなった。
「どういうわけか生きてるに決まってるでしょう! ホント、サイテー! 信じらんない!」
「このど変態め! 勝手に死にかけて、勝手に蘇った挙句、ふたたび倒れたと思ったらグースカ寝ているだけだとは! お前には他人を思いやる心というものがないのか!!」
「ピカ……ピカチュウ……」
……何を言っているのか、全く分からない。
なぜ私は生きているんだ。
蘇ったって何?
あのバトルから、いったい何日経ったの?
なんでサトシはいないのにピカチュウだけがいるの?
そもそも私は変態なんかじゃない。
次から次へと疑問が押し寄せてくる。
まるで、頭の中に情報量のギガインパクトを叩き込まれているようだ。
私は何も言えなかった。
……
あの後の話をまとめると、こうだ。
吹っ飛ばされた私は、再び起き上がった。
そして、ガオガエンを止め、クロスを追い払った――らしい。
「らしい」というのは、その時の記憶が一切合切、私にはないのだ。
その後、もう一度倒れた私はジョーイさんに運ばれ、緊急手術を受けようとしていた。
……なのに。
どこを調べても、傷なんて一つもなかったそうだ。
服は血まみれでボロボロ。
もう着ることができない状態だったというのに。
ぶっ倒れたように見えたのも、気絶したわけではなく、ただ寝ているだけだったらしい。
いや、本当にわけが分からない。
片手でガオガエンを止めた?
クロスを追い払った?
そんな技、私は知らない。
そもそも、そんなことができるなら、なんで私は何も覚えていないんだ。
……怖い。
ほんの少しだけ、そんな感情が胸の奥をよぎった。
けれど、考えても答えなんて出てこない。
今は、それよりも――。
「それで、サトシは?」
マコトの表情が少し曇る。
「さっきまで、あんたのそばでずっと待ってたんだけど……ついさっき病室を出て行って……」
「そういえば、帰ってくるのが遅いな……」
「ピカピ……」
ピカチュウが心配そうに鳴いた。
……サトシ。
胸の奥がざわついた。
「サトシの波動……」
集中する。
……見つかった。
あっさりと。
今、クロスと戦ったバトルコートにいる。
「ちょっと様子を見てくる!」
「リーフ!?」
考えるより先に、身体が動いていた。
窓を開ける。
そのまま、勢いよく外へ飛び出す。
「って、ここ三階よ!?」
「……本当に怪我したのか、アイツ?」
◆
「サトシ!」
「ピカピ!」
「リーフ……ピカチュウ……」
冷たい夜の中。
サトシは、まだ燃えカスだらけのバトルコートにいた。
周囲には、あの戦いの爪痕が残っている。
焦げた地面。
崩れた場所。
そして、あの時の光景が頭をよぎる。
リザードが倒れて。
ガオガエンが迫って。
私は――。
「サトシ、心配かけてごめん。もう私は大丈夫だから……」
サトシは、こちらを見ない。
「気にするな。悪いのは全部、勝てなかった俺のせいなんだから」
「……サトシ?」
何かがおかしい。
いつものサトシなら、そんなことは言わない。
負けたなら悔しがる。
でも、決して自分だけを責めたりはしない。
「……ピカチュウだったら勝てていたかもな」
「サトシ!?」
「ピカピ!?」
胸がざわつく。
そんなことを言うサトシを、私は知らない。
「コラ! サトシ、そんなこと言わない!」
「リザードを見捨てる気か! あのバトルは間違いなくサトシとリザードの勝ちだ! 君自ら、それを否定するというのか!?」
「……ッ!」
サトシは何も答えなかった。
ただ、拳を握りしめる。
そして――。
私たちを置いて、森の中へと走り去っていった。
「サトシ!?」
速い。
とんでもない速度だ。
必死に追いかける。
足がもつれそうになる。
それでも追いかける。
「サトシ! サトシー!」
◆
森の奥。
……見失った。
いつの間にか、サトシの姿はどこにもない。
「リオル、サトシの波動は……」
そう言いかけて、気づく。
……モンスターボールを持っていない。
「……何やってるんだろう、私」
自分でも呆れてしまう。
勝手に飛び出して。
勝手に追いかけて。
そして――。
サトシを傷つけた。
みんなをバラバラにして。
こんなことになるなんて、思っていなかった。
私はただ、リザードを守りたくて……。
「……っていうか、ここはどこ?」
周囲を見渡す。
いつの間にか、森には深い霧が出ていた。
白い霧が木々の間を埋め尽くしている。
一寸先も見えない。
それどころか――。
何の波動も感じられない。
ポケモンの気配も。
人の気配も。
何もない。
「……」
静かすぎる。
さっきまで、あんなに騒がしかったのに。
今は、世界から自分だけが切り離されたような感覚だった。
今のサトシの心の中を表すのなら……きっと、こんな雰囲気なのだろう。
「……立ち止まっていても、しょうがないか」
不安を振り払うように、私は歩き出した。
とりあえず一本道をまっすぐ引き返す。
元来た道を辿れば、ポケモンセンターに――。
そう思っていた。
……なのに。
「……なに、あれ?」
霧の奥に、何かが見える。
少しずつ近づいていく。
◆
それは、見たこともない城だった。
赤い屋根。
白い壁。
西洋風の立派な城。
豪華絢爛にして、質実剛健という言葉が似合う。
豪華さもさることながら、実際に人が過ごすことを考えて作られたのであろう、どこか城塞を思わせる建物だった。
「このお城、どこかで……?」
■■■■■城。
……城の名前が、ふと頭に浮かんだ気がした。
けれど、掴もうとした瞬間、それは霧に溶けるように消えてしまった。
なんだったんだろう、思い出せない。
左右対称の美しい庭。
澄み切った池。
けれど、水面に映った私の姿は、なぜかぼやけている。
……おかしい。
夢でも見ているのだろうか。
それなのに、足は止まらなかった。
何かに導かれるように、私は城へ近づいていく。
けれど、向かったのは城の中心ではない。
庭の奥。
立派な城の一部に溶け込むように存在していた、一つの扉。
そこに扉がありますよと、教えて貰わないと気づけないくらい周囲の華やかさの影に隠れていた地味な扉である。
私は迷うことなくその扉を開けた。
中には、何もない。
一見すれば、ただの空倉庫。
家具もない。
人の姿もない。
それなのに――。
そこには、人とポケモンが暮らしていた跡だけが残っていた。
「誰?」
闇の奥へ向けて呼びかける。
返事はない。
白い霧が視界を埋め尽くしていく。
その向こうから、声のようなものだけが響いた。
「自分の……を、信じるのだぞ……」
若い、しかし堂々とした男の声だった。
◆
「リーフ……」
「クオン……」
……どうやら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。
目を開ける。
そこには、マコトがいた。
そして、その隣には――。
マコトが連れてきてくれたのだろう。
黄色いリオルが、心配そうにこちらを見つめている。
「マコト……リオル……」
声を出した瞬間。
突然、マコトが私に抱きついてきた。
「リーフ……私、心配だよ……」
その声は震えていた。
「さっきの霧の中、走っても走ってもリーフに追いつけなかった。いつかリーフが……ふとした瞬間に溶けて無くなっちゃいそうで……」
ぎゅっと抱きしめる腕に力が入る。
「お願い、リーフ……もう無茶しないで……」
「……」
「リオルを置いていかれても、私じゃお世話できないよ……」
胸が締めつけられる。
……そうだ。
私が無茶をすれば。
私がいなくなれば。
悲しむ人がいる。
心配してくれる人がいる。
一緒に旅をしてくれる人がいる。
「マコト……ごめんなさい。心配かけた……」
「ごめんなさいじゃ、許さないんだから……」
怒っている。
それでも、離してくれない。
「……心配してくれて、ありがと」
「オォン」
隣でリオルも声を上げる。
「リオルもね……」
私は黄色いリオルの頭を撫でた。
「これからは、あなたの側にいるから」
「オウ」
その声を聞いた瞬間。
張り詰めていたものが、少しだけほどけた気がした。
霧の晴れた森の中。
私たちは、しばらく抱き合っていた。
……これでいい。
今は、これでいい。
そんな気がした。
ドドドドドド……。
「……ねぇ、なんか揺れてない?」
「地震かな?」
支え合って立ち上がる。
一本道の奥。
そこから聞こえてくる、猛烈な足音。
「「うわああああ!!」」
「ピカピカ~!」
猛ダッシュで走ってくるサトシとピカチュウ、ソウジ。
そして、そのさらに向こうから――。
「キー! キー! キー!」
大量のオコリザルたち!
「「ちょ、連れてくるなー!」」
私たち四人は、仲良く一本道を疾走する。
「怒らないでよ、オコリザル~!」
「サトシ、なんとかして~!」
「バタフリー、ねむりごな!」
「フリフリィ!」
サトシが咄嗟に繰り出したバタフリーが、オコリザルたちに眠り粉を振りかけていく。
次々と眠りに落ちていくオコリザルたち。
「何、このオコリザルたち……?ていうか、まさかこいつら……」
「リーフのマンキーが従えたオコリザルたちだろう……。まさか、ここまで追いかけてくるとは……」
「え、何? これから私、こいつらにずっと付きまとわれるってこと?」
「それは流石にないんじゃないか……多分……」
「ピカチュウ……」
いつもの旅のように。
不思議な生き物に驚かされる私たち。
さっきまでの重苦しい空気が嘘のように、すっかり元のテンションへ戻っていた。
……きっと、こういうのが私たちの旅なんだ。
怖いこともある。
辛いこともある。
時には、取り返しのつかないことをしてしまうかもしれない。
それでも。
こうして、またみんなで笑える。
それだけで――。
今は十分だった。
「リーフ、マコト、ソウジ」
「どうしたの?」
「サトシ?」
「なんだ?」
サトシは、少しだけ照れくさそうに笑った。
「ありがとな」
「「「「……アハハハッ!」」」」
私たち四人の笑い声は、霧も雲もない夜空へ溶けていった。
みんな誰が好きですか?
-
リオル
-
フシギソウ
-
バタフリー
-
マンキー