ポケモンTS転生〜リーフは原作を忘れかけている   作:はらへりニャンコ

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第28話 悠情編Ⅹ/旅と虹と因縁の収束点

 

 

 

 

 

ライゼン山脈に足を踏み入れた瞬間――。

 

空気が変わった。

 

霧に包まれた山。

 

人の気配が一切ない登山道。

 

聞こえてくるのは、遠くから響くポケモンの鳴き声と、鳥ポケモンたちの羽音だけ。

 

けれど、その姿は私たちの前には現れない。

 

ただ、霧の向こうから静かにこちらを見つめている。

 

ニドキングやレアコイル。

 

森や山で見かけるはずのポケモンたちが、なぜか私たちを警戒するように見つめていた。

 

そして――。

 

しばらくすると、彼らは私たちから離れ、山の奥へと進んでいく。

 

まるで、登山家のように。

 

「……ニドォ」

 

「……コイッ」

 

彼らの進む先には、人間ならとても通れないような険しい崖や岩場がある。

 

けれど、野生のポケモンたちは軽々とそれを越えていく。

 

どうやら私たちとは違う道を使って、山頂を目指しているらしい。

 

「ねぇ、野生のポケモンたちが騒がしくない?」

 

マコトが周囲を見回す。

 

「ああ」

 

ソウジも耳を澄ませる。

 

「これまで僕らが見てきた騒動とは違う。まるでこれから起きることを、待っているみたいだ……」

 

「ホウオウじゃ」

 

「……え?」

 

霧の奥から、突然声が響いた。

 

「ホウオウじゃよ。あいつらはホウオウの力を分け与えてもらおうと、山頂を目指しておるんじゃ」

 

「誰だ?」

 

サトシが声のした方を見る。

 

霧の奥。

 

そこにあった大きな岩の上で、一人の老人が水筒からお茶を飲みながら休憩していた。

 

赤いキャップに、赤いジャケット。

 

小柄な体。

 

そして、年齢に似合わないほど元気そうな目。

 

「ソウジ、あの人……」

 

「あなたは……図書館の本に載っていた!?」

 

ソウジが驚きの声を上げる。

 

老人はニヤリと笑った。

 

「ボン爺。ホウオウを探して二十年。ただのしがない冒険者じゃよ」

 

ボン爺と名乗った小柄な老人は、愉快そうな掛け声とともに岩からひょいと飛び降りた。

 

「ホッ!」

 

スタッ。

 

見事に着地する。

 

……元気だな、このお爺ちゃん。

 

「ワシの調査結果によると、まもなくここ――ライゼン山脈の山頂にホウオウが現れる!」

 

ボン爺は胸を張った。

 

「君たちも見に行くか?」

 

「ああ!」

 

サトシが即答する。

 

「俺たち、虹色の羽に導かれてここまで来たんだ!」

 

サトシが胸元から虹色の羽を取り出す。

 

キラリ。

 

虹色の輝きが、霧の中で強く瞬いた。

 

「……!」

 

ボン爺の目が大きく見開かれる。

 

「なんと……!」

 

虹色の羽の輝きを見つめながら、ボン爺は興奮したように声を上げる。

 

「少年よ、君は虹の勇者であったか!ならば急げ、若人よ!」

 

ボン爺が山頂を指差す。

 

「虹の岩は、もう目と鼻の先じゃ!」

 

◆

 

「ホッホッホッ。エンテイとの邂逅に始まり、スイクン、ライコウにまで出会えるとは……」

 

登山を続けながら、ボン爺は私たちの旅の話を聞いていた。

 

「随分と、いろんな出会いを繰り返してきたんじゃな」

 

「まあ……色々ありました」

 

思い返せば、本当に色々あった。

 

伝説のポケモン達。

 

マコトとソウジ。

 

そして、バタフリー。

 

出会いと別れ。

 

この旅を始めて、まだそれほど経っていないはずなのに。

 

随分と長い旅をしてきたような気がする。

 

「山あり谷あり、試練あり……」

 

ボン爺が満足そうに頷く。

 

「きっとマーシャドーも、君たちをホウオウと会うに相応しい人間だと認めておるじゃろう」

 

「マーシャドー?」

 

サトシが首を傾げる。

 

「幻のポケモン、マーシャドーじゃ」

 

ボン爺の声が、少しだけ真剣になる。

 

「陰より導くもの。虹色が失われし時、すべてを壊し、すべてを正す」

 

「……」

 

「ホウオウ以上に謎の多いポケモンでな。なぜかアローラ地方にしか、まとまった文献が残っておらんかったのだ」

 

「アローラ地方は、古くからカントー地方との関係が深いですからね」

 

ソウジが考え込む。

 

「でも妙ですね。なぜカントーではマーシャドーについてほとんど記録が残っていないのでしょうか……」

 

「それが幻や伝説と言われる由縁じゃろうな」

 

ボン爺は霧の向こうを見つめる。

 

「人間と同じ世界に生きながら、空想の世界を飛び回る者たち」

 

ゆっくりと、言葉を続ける。

 

「強くて珍しいから、伝説と呼ばれるのではない」

 

「……」

 

「自然と共に生き、人智を超えた不可思議なあり方をしているからこそ――彼らは後世に伝えられておるのじゃ」

 

「なるほど……」

 

ソウジは完全に学者の顔になっている。

 

一方でサトシは、影の向こうにいるマーシャドーを探してキョロキョロしていた。

 

私も波動を探ってみるが、何も感じない。

 

……

 

気づけば、いつの間にか霧が晴れていた。

 

そして。

 

虹色の輝きが、ますます強くなっている。

 

「ついた!」

 

マコトが声を上げる。

 

「ここが、虹の麓!」

 

マコトが一番乗りで駆け出す。

 

そして――。

 

「わぁ……」

 

そのまま、言葉を失った。

 

私たちも後から追いつき。

 

同じように、言葉を失った。

 

黒く、ゴツゴツとした山肌。

 

そこには、この場所には似つかわしくないほどの輝きが溢れていた。

 

地表から浮き出るように、虹色の岩が露出している。

 

しかも一つや二つではない。

 

まるで巨大な血管のように、虹色の岩が山肌を縦横無尽に走り、山頂へと伸びている。

 

「すごい……」

 

ソウジが呟く。

 

「これが……虹の岩……」

 

「……」

 

ふと足元を見る。

 

山の下は、分厚い雲に覆われていた。

 

地上は何も見えない。

 

その上空から降り注ぐ太陽の光が、山頂一帯を照らしている。

 

そして、目の前には虹色の岩。

 

まるで――。

 

雲の海を渡る、虹の船だった。

 

「……あそこに虹色の羽を置けば……」

 

ソウジが呟いた。

 

その時。

 

「そうはさせない」

 

低い声が響いた。

 

「ホウオウに会うのは、この俺だ!」

 

「……!」

 

聞き覚えのある声。

 

私たちとは別の登山道から、一人の男が姿を現した。

 

その隣には――。

 

ガオガエン。

 

「クロス……!」

 

私は思わず声を上げる。

 

「ここは今、ポケモンリーグが一般客の登山を禁止しているはずよ!」

 

クロスを睨みつける。

 

「どうして指名手配中のあんたが、ここにいるの!?」

 

「簡単な話だ」

 

クロスは鼻で笑った。

 

「道中で、穴を掘ってる黒ずくめの怪しい連中を見つけてな、ふんじばって、ちょいと脅かしてやった」

 

悪びれる様子もなく、クロスは続ける。

 

「そいつらが言うには、ホウオウを狙って先に潜入してる仲間がいるって話じゃねえか」

 

「……」

 

「そいつを追って、ここまで登ってきたんだが……」

 

クロスが周囲を見回す。

 

「どうやら、いつの間にかすれ違ったみてえだな」

 

そして。

 

ニヤリ。

 

「俺、悪いことしてねえだろ?」

 

「どの口が言うのよ……」

 

私は呆れる。

 

けれど、クロスの顔からはすぐに笑みが消えた。

 

「俺も昔、ホウオウを見た」

 

「……!」

 

「だが、虹色の羽は手に入らなかった」

 

クロスが拳を握る。

 

「勇者伝説を知った時は愕然としたよ」

 

「……」

 

「ホウオウは、俺を認めてねえってことだろ?」

 

その目には、怒りと執念が宿っていた。

 

「だから俺がホウオウに会う。そして、俺の力を見せつけてやる」

 

クロスがサトシを見る。

 

「分かっても、分からなくてもいい」

 

そして――。

 

「その虹色の羽をよこせ、雑魚」

 

「そんなの、分かりたくもない!」

 

サトシが一歩前へ出る。

 

「お前なんかに、虹色の羽は渡さない!」

 

「グオウ!」

 

その隣に、リザードが立つ。

 

以前とは違う。

 

雨の中で捨てられた時の、怯えた姿ではない。

 

今度こそ。

 

自分の意思で、クロスとガオガエンを睨みつけている。

 

「……」

 

その姿を見て、クロスが鼻で笑う。

 

「まだ俺に勝てると思ってんのか?」

 

「勝つ!」

 

サトシが叫ぶ。

 

「今度こそ!」

 

「グオオッ!」

 

リザードも吠える。

 

その時だった。

 

「……って、サトシ!」

 

私は思わず声を上げる。

 

「足元、足元!」

 

「え?」

 

サトシが足元を見る。

 

そこには――。

 

黒い影が伸びていた。

 

「……?」

 

サトシが顔を上げる。

 

その影の主は。

 

いつの間にか、私たちとクロスの間にある岩の上に立っていた。

 

小さな身体。

 

黒い毛。

 

炎のような橙色の模様。

 

そして――。

 

「……あれが」

 

ソウジが息を呑む。

 

「陰より導くもの……」

 

「マーシャドー!」

 

ボン爺が叫ぶ。

 

「可愛いじゃない」

 

マコトが目を輝かせる。

 

「あれが幻のポケモンなのね」

 

「……」

 

マーシャドーは何も答えない。

 

ただ静かに、私たちを見つめる。

 

そして――。

 

クロスとサトシ。

 

二人の間に立つように、岩の上から戦いを見下ろしていた。

 

まるで。

 

これから始まる戦いが――。

 

何かを決めるものだと知っているかのように。

 

「ゼアアッ!」

 

「イアアー!」

 

次の瞬間。

 

リザードとガオガエン。

 

二匹の炎が、再び激しくぶつかり合った。

みんな誰が好きですか?

  • リオル
  • フシギソウ
  • バタフリー
  • マンキー
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