ポケモンTS転生〜リーフは原作を忘れかけている   作:はらへりニャンコ

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第33話 悠情編XV/旅のはじまり

 

 

 

 

 

うう……頭が痛い……。

 

思い返してみれば、旅を始めてからずっと頭にダメージを受けている気がする。

 

というか、私、何してたんだろう……

 

野生ポケモンとの乱戦に巻き込まれてからの記憶がないんだけど……

 

そろそろヘルメットの購入と常時装備を、真剣に考えるべきなのかもしれない。

 

そんなくだらないことを、ぼんやりとした頭で考えていると――。

 

「……行ってくる」

 

サトシが、色を取り戻した虹色の羽を虹の岩へ置こうとしていた。

 

その瞬間だった。

 

虹の岩から、七色の光が一気に空へと駆け上がった。

 

そして――。

 

空を、虹が塗りつぶした。

 

前世でも今世でも、虹が空に架かる光景は何度も見てきた。

 

けれど。

 

虹の岩から生まれたそれは、これまで見てきたどんな虹とも違っていた。

 

光が透けることすらない。

 

まるで誰かがクレヨンで空そのものを塗りつぶしたかのような、鮮やかすぎる七色。

 

その光景を前に、私たちは言葉を失った。

 

そして――。

 

その虹の彼方から、何かがやってくる。

 

バサァァァァァッ!!

 

空の彼方からでも聞こえるほど、大きな羽ばたき。

 

空を飛んだ後に残される光の軌跡は、北極に現れるというオーロラのようだった。

 

金に、赤に。

 

幾重にも重なる光が、その身体を彩っている。

 

これまで見た、どんなポケモンよりも美しい。

 

いや――。

 

美しいなんて言葉では、到底足りない。

 

「……ホウオウ……」

 

誰かが、そう呟いた。

 

七色の虹を纏いながら、ホウオウがゆっくりと虹の岩の周囲を旋回する。

 

そして。

 

光のシャワーが、私たちへ降り注いだ。

 

キラキラと舞い落ちる光が、身体の傷を癒していく。

 

痛みが消えていく。

 

疲労さえも、嘘のように消えていく。

 

「野生のポケモンたちも元気になった!」

 

マコトが叫ぶ。

 

「これがホウオウの……命を司る伝説のポケモンの力か……!」

 

ソウジが、驚きに目を見開く。

 

やがて。

 

ホウオウは虹の岩へと降り立った。

 

そして、サトシとピカチュウを見つめる。

 

サトシは、その視線を真正面から受け止めた。

 

「ホウオウ! バトルしようぜ!」

 

「ピカピィーカァ!」

 

ボルテッカーはその威力の高さ故に、使用者へ少なくない反動をもたらす技。

 

それによって負った傷さえ、今はもう消えている。

 

だからだろうか。

 

サトシとピカチュウは、まるで道を歩いているトレーナーへ気軽にバトルを申し込むかのように、神話に語られるポケモンへ挑もうとしていた。

 

「ショオオオーーー!!」

 

ホウオウは大きく鳴き声を響かせる。

 

そして――。

 

一度だけ、ゆっくりと頷いた。

 

サトシの挑戦を受け入れたのだ。

 

ホウオウは虹の岩から飛び立ち、開けた場所へと移動する。

 

そして、山頂付近を大きく旋回し始めた。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

人も。

 

ポケモンも。

 

誰も言葉を発しなかった。

 

今、この瞬間。

 

神話に語られる存在と、一人の少年。

 

そして、一匹のポケモンによる戦いが始まろうとしていた。

 

「ピカチュウ、キミに決めた!」

 

「ピカッチュ!」

 

「10万ボルト!」

 

「ピィーカァーチュー!!」

 

飛び出したピカチュウが、渾身の電撃を放つ。

 

轟音とともに、黄金色の雷がホウオウへと迫る。

 

しかし――。

 

ホウオウの羽ばたきは、止まらない。

 

「……!」

 

ホウオウが、その身に虹色の焔を纏った。

 

次の瞬間。

 

大地が燃え上がる。

 

「ピカッ……!」

 

七色に輝く炎が地面を走り、岩陰に隠れたピカチュウさえも巻き込もうとする。

 

ゴォォォォォォッ!!

 

大地そのものを包み込む、せいなるほのお。

 

「くっ……!」

 

サトシが顔を覆う。

 

「熱い! ここまで熱気が届くなんて!」

 

マコトが叫ぶ。

 

「なんて不思議な炎なんだ……! まるでホウオウの身体の一部のようだ!」

 

ソウジが驚愕する。

 

「そもそも……これ、本当に炎なの!?」

 

私も思わず声を上げる。

 

エンテイの炎だって、火山そのもののように熱く、勢いよく、凄かった。

 

でも、これは違う。

 

人間の言葉で表現できるものじゃない。

 

七色の炎。

 

その中心は、太陽よりも赤い。

 

そして炎は生き物のように大地を駆け抜け、まるで意思を持って獲物を追うようにうねっている。

 

「ショオオーーー!!」

 

旋回したホウオウが、再びせいなるほのおを全身から放つ。

 

「ピィーカァーチュー!!」

 

あまりにもスケールが違いすぎる。

 

これが、伝説のポケモン。

 

だけど――。

 

ピカチュウは、怯まない。

 

「ピカチュウ!」

 

サトシの声に応えるように、ピカチュウが電撃を放つ。

 

バチィィィィッ!!

 

黄金の雷が炎を弾き飛ばし、進路を切り開いた。

 

「でんこうせっか!」

 

サトシも炎の勢いに負けない声で指示を飛ばす。

 

「ピカッ!」

 

ピカチュウが駆け出した。

 

その前方へ、ホウオウがげんしのちからを放つ。

 

ドォン!!

 

大地から無数の岩が浮かび上がった。

 

「ピカチュウ、飛べ!」

 

ピカチュウは岩から岩へと飛び移っていく。

 

一つ。

 

二つ。

 

三つ。

 

次々と飛来する岩を紙一重で足場にしながら、ホウオウへと光の速さ接近していく。

 

「そのまま、アイアンテール!」

 

「ピッカァ!」

 

ピカチュウの尻尾が、黄金色の光を帯びる。

 

渾身の一撃。

 

しかし――。

 

ホウオウは大翼を大きく広げた。

 

「ショオオオオ!!」

 

バサァァァァァッ!!

 

無数のエアカッターが放たれる。

 

ピカチュウは、真正面からそれを迎え撃った。

 

ギィィィィン!!

 

鉄の尾と風の刃がぶつかり合う。

 

「サトシ、凄い……」

 

マコトが呟く。

 

「ホウオウと真っ向からぶつかってる……」

 

「ピカチュウは、心の底からサトシを信じているんだ……」

 

ソウジが続ける。

 

「じゃなきゃ、あんなバトルはできない……」

 

私は、その光景をじっと見つめていた。

 

サトシとピカチュウ。

 

二人の間にあるもの。

 

それは、単純な友情なんかじゃない。

 

「……サトシの強さは、二人で一つなんだ」

 

気づけば、そんな言葉が口から漏れていた。

 

「サトシにポケモンがいる限り。

 

ポケモンにサトシがついている限り……」

 

ピカチュウが、再び立ち上がる。

 

サトシが、その姿を見て笑う。

 

「その力は、無限に増幅されるんだ……!」

 

「ピカチュウ!」

 

サトシが拳を握る。

 

「ボルテッカー!!」

 

「ピカピカピカピィカァァァー!!」

 

ピカチュウの身体が、黄金の稲妻へと変わっていく。

 

「ショオオオオオーーー!!」

 

ホウオウもまた、全身から虹色の焔を噴き上げた。

 

黄金の稲妻と、生きた聖火。

 

二つの力が、真正面から激突する。

 

ドォォォォォォォォン!!

 

山々を揺らす轟音。

 

空を染める七色。

 

そして――。

 

神話の戦いは、日が沈むまで続いた。

 

◆

 

私たちがライゼン山脈を降りたのは、翌日のことだった。

 

ボン爺はいつの間にかいなくなっていた。

 

……特にボン爺。

 

さては面倒事の気配を察して、逃げやがったな。

 

下山してからというもの、マスコミやトレーナー、挙げ句の果てにはワタルさんまでやって来て、今回の騒動について説明する羽目になった。

 

正直、説明責めにされて殺されるかと思ったぞ。

 

最後まで手伝ってくれよ、ボン爺……。

 

クロスはあの後総出で探したが、どこにも見つからなかった。

 

あれだけの致命傷だ。恐らく一人で下山することはできずに……

 

……この話はこれ以上やめておこう。

 

アイツが選んだ選択の結末だ。もう二度と会うこともないだろうから。

 

ソウジがスマホで自動撮影してくれていた、ライゼン山脈での一部始終。

 

そして、マーシャドーとホウオウのデータ。

 

それらはすでに、ネットの海へと流れ、多くの人々へと届いていた。

 

今、世界で何が起きているのか。

 

知るのが怖いので、私はまだPCを触っていない。

 

そして。

 

私たちの旅もまた、一度ここで終わりを迎える。

 

トキワシティの近く。

 

そこには一本の大きな木が立っていた。

 

その木の下から、四本の道がそれぞれ違う方向へ伸びている。

 

私たちは、その分かれ道に立っていた。

 

「私は、一度シンオウ地方へ帰るね。ママに会いたくなっちゃった」

 

マコトが言う。

 

「僕は、次なる伝説のポケモンたちについて調べるために、マサラタウンのオーキド研究所へ向かうよ」

 

ソウジも、自分の進む道を語る。

 

「俺は、ポケモンマスターを目指すためにニビジムへ挑戦する!」

 

サトシは、いつものように真っ直ぐだった。

 

そして。

 

三人の視線が、私へ向く。

 

「リーフは?」

 

「そうだね」

 

私は、少しだけ考えた。

 

「……私も、一度家に帰ろうかな」

 

今回の冒険は、レポートに書き切れないことが多すぎた。

 

マーシャドー。

 

虹の岩。

 

ホウオウ。

 

そして――。

 

サトシたちとの旅。

 

一度、ヤマブキシティの家へ帰ろう。

 

そこで今回の思い出を、ゆっくりとまとめよう。

 

その後で――。

 

また、新しい旅に出ればいい。

 

「そっか」

 

ソウジが頷く。

 

しばらくの沈黙。

 

誰も、別れを口にしようとはしなかった。

 

けれど。

 

四人とも分かっている。

 

ここで、それぞれの道へ進まなければならない。

 

「……旅の何処かで、また会えたなら」

 

ソウジが、静かに笑った。

 

「……うん!」

 

マコトが笑う。

 

「ああ、決まってる!」

 

サトシが笑った。

 

私も笑う。

 

「私たちは、ポケモントレーナーだもんね!」

 

そして。

 

四人が、それぞれの道へ向かって歩き出そうとした、その時――。

 

「「「「バトルしようぜ!」」」」

 

四つの声が重なった。

 

思わず、みんなで顔を見合わせる。

 

そして。

 

笑った。

 

空は快晴。旅日和。

 

道はまっすぐ。時に曲がり道。

 

人とポケモンは、今日もどこかを旅している。

 

それぞれの道を。

 

それぞれの仲間と。

 

そして――。

 

いつかまた、どこかで交わるその日まで。




・キミに決めた、ようやく完結
投稿当時から必ず書こうと思っていた長編ストーリーでしたが、いざ書いてみると難しく、改めて読み直してみると自分でも納得いかないところも多かったシリーズでした。
それでも一本丸ごと映画を小説化したのはいい刺激になりました。
全十五話、読んでいただきありがとうございました。

・実はまだおまけが残ってます
おまけは本SS初の完全オリジナルシナリオです。
そしてリオルがいよいよ覚醒!?お楽しみに。

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