ポケモンTS転生〜リーフは原作を忘れかけている 作:はらへりニャンコ
マサラタウンを出て、一番道路を歩く。
今日から――私とフシギダネ、二人の旅が始まった。
「……」
「……ダネ」
気まずい。
ものすごく気まずい。
隣を歩くフシギダネは、私から少し距離を取っている。
無理もない。
先ほど、初めて一緒に戦って、そして負けた。
しかも私の指示に迷いがあったせいで、最後には何もできずに倒されてしまった。
……うん。
改めて考えると、かなり印象が悪い。
「えっと……フシギダネ」
「ダネ?」
「今日はいい天気だね」
「……ダネ」
会話終了。
早い。
「……」
私は空を見上げた。
雲ひとつない青空。
旅立ちの日としては申し分ない。
だけど、隣にいるポケモンとの距離は、空よりも遠い気がする。
――昨日までは、ずっとリオルが隣にいた。
「リオルなら、今頃……」
思わず口にしてしまう。
けれど、私は言葉の続きを飲み込んだ。
今頃、ニビシティへ向かっている頃だろう。
お姉ちゃんと一緒に旅をしながら、もっと強くなっているはずだ。
「……」
寂しい。
当然だ。
キャンプの日からずっと一緒だった。
私が最初に抱き上げて、私が初めて名前を呼んで、私と一緒に強くなってきた。
そんなリオルが、今日は隣にいない。
私は思わず、自分の右隣を見る。
そこにはフシギダネがいる。
「……ごめん」
「ダネ?」
「いや……なんでもない」
今の私がリオルを恋しがっていることくらい、フシギダネだって分かっているのかもしれない。
だからこそ。
私は頭を振った。
今、私の隣にいるのはフシギダネだ。
だったら――。
「ねえ、フシギダネ」
「ダネ」
「今日は、ゆっくり行こうか」
フシギダネが少しだけ私を見る。
「急いでトキワシティに行かなくてもいいよね」
「……ダネ」
小さく頷いた。
……ほんの少しだけ、距離が縮まった気がした。
◆
一番道路をしばらく歩いていると、草むらが揺れた。
「……!」
私は反射的に身構える。
草むらから飛び出してきたのは、一匹のポッポだった。
「ポッポ!」
「フシギダネ、構えて!」
「……ダネ」
フシギダネが前へ出る。
私はモンスターボールへ手を伸ばした。
そして――止まる。
お姉ちゃんの言葉が頭に浮かんだ。
『まずはポケモンを好きになる。それが、トレーナーに必要なことだよ』
私はフシギダネを見る。
「……どうする?」
「ダネ?」
「戦う?」
フシギダネはポッポを見る。
そして、私を見る。
「……ダネ」
どうにも乗り気ではないらしい。
「そっか」
私はボールから手を離した。
「じゃあ、戦わなくてもいいよ」
フシギダネが驚いたように目を瞬かせる。
ポッポもこちらを警戒している。
しばらくすると、ポッポは興味を失ったように羽ばたき、草むらの向こうへ飛んでいった。
「行っちゃったね」
「……ダネ」
「フシギダネ、ポッポが怖かった?」
「ダネ」
「それとも、さっき負けたのが気になってる?」
「……」
返事はない。
でも、少しだけ俯いたように見えた。
「そっか」
私は笑った。
「じゃあ、今日は無理しないことにしよう」
フシギダネは何も言わなかった。
ただ――。
さっきより、ほんの少しだけ私との距離が近くなっていた。
◆
歩きながら、私はフシギダネを観察することにした。
リオルなら、もう何を考えているのか大体分かる。
波動を通じて感情が伝わってくるし、長い時間を一緒に過ごしてきた。
でも、フシギダネは違う。
「……何が好きなんだろう」
「ダネ?」
「フシギダネって、何が好き?」
「……」
フシギダネは答えない。
そりゃそうか。
ポケモンと会話ができるわけじゃない。
……いや、リオルとは普通に意思疎通していたから、感覚が麻痺していた。
「じゃあ、まずは食べ物かな」
私はリュックから木の実を取り出した。
「これ、食べる?」
フシギダネが近づいてくる。
鼻をひくひくさせた。
「おっ?」
少し興味があるみたいだ。
木の実を地面に置く。
フシギダネは慎重に近づいて――。
ぱくっ。
「……!」
食べた。
「おいしい?」
「ダネ」
今度は少しだけ元気な声だった。
「そっか!」
私は嬉しくなった。
「これ、好きなんだね」
「……ダネ」
もう一個、木の実を差し出す。
フシギダネは今度は迷わず食べた。
……なるほど。
木の実は好き、と。
頭の中にメモする。
リオルの好きなものは結構分かっているけど、フシギダネについては何も知らない。
だったら、これから知っていけばいい。
「ねえ、フシギダネ」
「ダネ?」
「もっと色んなこと、教えてね」
フシギダネは首を傾げた。
「私も、あなたのことを知りたいから」
「……」
フシギダネは少しだけ目を細めた。
そして、また木の実を食べ始めた。
◆
昼を過ぎた頃。
私は一番道路の脇にある木陰で休憩することにした。
「疲れたねぇ」
「ダネ……」
フシギダネも疲れているらしい。
私はリュックからお弁当を取り出した。
「お昼にしようか」
「ダネ」
フシギダネにもポケモン用の食事を用意する。
最初は少し離れた場所で食べていたフシギダネだったが、私が自分のお弁当を食べ始めると、ちらちらこちらを見るようになった。
「……欲しいの?」
「ダネ!?」
ものすごい勢いで顔を背けた。
分かりやすい。
「ふふっ」
私は笑いながら、少しだけ自分のお弁当を見せる。
「これは私のだから駄目」
「……ダネ」
「でも、こっちならいいよ」
ポケモン用の食事を少し近づける。
フシギダネは恐る恐る近づいてきた。
そして――。
ぱくっ。
「……」
もぐもぐ。
「どう?」
「……ダネ」
さっきよりも、少しだけ機嫌が良さそうだ。
「よかった」
私は笑った。
なんだか、それだけで嬉しい。
さっきまでなら、勝てるかどうかばかり考えていた。
技は何が使える。
相性はどうだ。
レベルは。
弱点は。
そんなことばかり。
でも、今は違う。
この子が何を食べるのか。
何が好きなのか。
どんなことを考えているのか。
そういうことを知るのも、トレーナーの仕事なのかもしれない。
「……お姉ちゃんが言ってたこと、少し分かったかも」
「ダネ?」
「まずは、あなたのことを好きになる」
フシギダネがこちらを見る。
「そのためには、あなたのことを知らないとね」
「……ダネ」
ほんの少しだけ。
フシギダネが私の方へ近づいた。
◆
昼食を終えて、再び歩き始めてしばらくすると――。
「……?」
前方の草むらが大きく揺れた。
「今度は何?」
草むらから飛び出してきたのは――。
「オニスズメ!?」
「ギャア!」
オニスズメが鋭い鳴き声を上げる。
私は思わず一歩後ずさった。
「フシギダネ、下がって!」
「ダネ!」
オニスズメが空へ舞い上がる。
そのまま急降下してきた。
「来る!」
「ダネッ!」
フシギダネが体当たりを受け止める。
「フシギダネ!」
オニスズメはそのまま再び空へ。
速い。
やっぱり一番道路とはいえ、野生のポケモンは侮れない。
「フシギダネ、どうする!?」
「……ダネ!」
フシギダネが前へ出る。
「え?」
オニスズメが再びこちらへ向かってくる。
その進路上には――私。
「フシギダネ!?」
フシギダネが私の前に飛び出した。
「ダネェ!」
そして、オニスズメに向かって体当たりを繰り出す。
「ギャッ!」
オニスズメが弾き飛ばされる。
「今だ!」
思わず叫びかけた。
でも――。
「……違う」
私は拳を握った。
「フシギダネ、逃げよう!」
「ダネ?」
「無理して戦わなくていい!」
フシギダネと一緒に走る。
後ろからオニスズメが追いかけてくる。
「もう少し!」
私はフシギダネの速度に合わせて走った。
やがてオニスズメは諦めたのか、空へ舞い上がって遠ざかっていく。
「……はぁ、はぁ……」
私は息を整えながら、その場にしゃがみ込んだ。
そして――。
「フシギダネ」
「……ダネ」
「ありがとう」
フシギダネは何も言わない。
「私を守ってくれたんだよね」
「……」
フシギダネが顔を背ける。
「照れてる?」
「ダネッ!」
怒ったように鳴いた。
「あはは、ごめんごめん」
思わず笑ってしまう。
だけど。
胸の奥が、少しだけ温かかった。
その声は、ほんの少しだけ優しかった。
――その時。
ぽつっ。
「……ん?」
頬に冷たいものが落ちた。
空を見上げる。
さっきまで晴れていた空に、いつの間にか黒い雲が広がっていた。
「……雨?」
ぽつ。
ぽつ。
そして――。
ザアアアアアアッ!!
「うわあああああ!?」
突然の土砂降り。
「ちょ、待って! いきなりすぎない!?」
一瞬で服が濡れていく。
「フシギダネ! こっち!」
私はリュックからタオルを取り出し、フシギダネの身体を拭く。
「大丈夫?」
「ダネ……」
フシギダネはずぶ濡れになっている。
「よし。急いでトキワシティまで行こう!」
「ダネ!」
私たちは雨の中を走り始めた。
◆
雨は一向に止まなかった。
むしろ、時間が経つほど激しくなっていく。
「前が見えない……!」
視界を雨が覆う。
靴の中まで水が入ってくる。
髪も服もびしょ濡れ。
「フシギダネ、まだ大丈夫?」
「……ダネ!」
返事はする。
でも、明らかに疲れている。
「もう少しだからね!」
私はフシギダネの走る速度に合わせる。
はっきりいってボールに閉まって私が走った方が速い。
急ぎたい。
早く屋根のある場所へ行きたい。
でも――。
フシギダネを置いていくわけにはいかない。
「一緒に行こう」
「……ダネ」
雨の中。
私たちは並んでゆっくりと歩いていった。
◆
程なくして
「……あ」
雨の向こうに、街の明かりが見えた。
「トキワシティだ!」
思わず声が大きくなる。
まだ夕方前だというのに、空はすっかり暗い。
でも、街が見えた。
「着いた……」
フシギダネも顔を上げる。
「ダネ……」
「頑張ったね」
私は笑う。
今日一日。
私たちはまだ、完璧なパートナーじゃない。
信頼関係を築くのは、これからだ。
それでも――。
一緒に歩いた。
一緒に食べた。
一緒に逃げた。
そして、一緒にここまで来た。
それだけで十分だった。
「行こう、フシギダネ」
「ダネ!」
私たちは土砂降りの雨の中を、トキワシティへ向かって歩いていった。
今日が――。
私たち二人の、最初の旅の日だ。
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