ポケモンTS転生〜リーフは原作を忘れかけている   作:はらへりニャンコ

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本日はポケモンピカチュウ、HGSS発売記念日ということで試験的に12時と18時の2回投稿します。


第6話 うっかりジムバトル

 

 

 

 

 

その違和感に気づいたのは、一際大きな建物の中に入ってからだった。

 

……気づくのが遅すぎた。

 

ポケモンセンターなら明るくて、ジョーイさんやハピナスが働く気配があり、いろんな人やポケモンの波動を感じることができる。

 

でも、ここは違う。

 

広くて、暗い。

 

そして、人の気配が一人分しかない。

 

「おや。今日はチャレンジャーが来ないから、もう閉めようと思っていたのだが……意外にも客が来たものだ」

 

その一人が、こちらへ歩いてくる。

 

ゆっくりと、しかし堂々とした佇まい。

 

威圧的な波動を漂わせる、黒スーツの男。

 

間違いない。

 

彼は――。

 

「とりあえず、タオルはいるかな?」

 

トキワジムのジムリーダー。

 

そして、ロケット団団長。

 

サカキだ。

 

「あ、はい。ください」

 

 

さて、どうしようか。

 

私はもらったタオルで、びしょ濡れになった身体とフシギダネを拭きながら考える。

 

実のところ、昨日の時点では、ここでサカキとバトルする予定だった。

 

まず、このサカキ。

 

ロケット団団長を務め、カントー地方最後のジムリーダーなだけあって、実力はとんでもなく高い。

 

ニドキングにサイドンといった高レベルの地面タイプを使いこなす強敵。

 

下手をしたら、ミュウツーをすでに持っている可能性すらある。

 

おまけにロケット団の運営や、表向きの名義であるロケット・コンツェルンの会長業務なんかで、滅多にジムにはいないらしい。

 

つまり――。

 

戦えるうちに、戦っておきたい相手なのだ。

 

ここで役に立つのが、カントー地方のポケモンリーグが配っているジムリーダーカレンダー。

 

ジムリーダーがジムにいる予定の日を、誰でも確認できる便利な道具である。

 

そのカレンダーによれば、サカキは今日まではジムリーダーの仕事を行い、明日からしばらく社長の仕事で不在。

 

つまり――。

 

今日を逃せば、しばらくこのジムには挑めない。

 

だが、幸いにも今の私はバッジ0個。

 

いくらサカキでも、バッジを一個も持ってない新人相手なら手加減してくれるだろう。

 

そして手持ちのフシギダネは、じめんタイプに有利なくさタイプだ。

 

そう考えれば、今のうちなら勝機は十分にある。

 

だからこそ当初の予定では、初日のうちにトキワシティまで辿り着いて、ジム戦をするつもりだったのだ。

 

問題は――フシギダネ。

 

オニスズメとの戦いでは、大したダメージを負っていない。

 

雨の中をずぶ濡れになって走ってきたが、それも木の実を食べながら休んだ。

 

体力的には問題ない。

 

しかし――。

 

本人のやる気は。

 

「ねえ、フシギダネ」

 

「ダネ?」

 

「私、バトルしたいんだけど……フシギダネは戦いたい?」

 

「……」

 

フシギダネは私を見る。

 

そして――。

 

「ダネッ! ダネッ!」

 

蔓をブンブン振り回した。

 

「……!」

 

どうやら、やる気になってくれたらしい。

 

私の気持ちが、ちゃんと伝わったのかもしれない。

 

「よし」

 

私は笑った。

 

「じゃあ、頑張ろう」

 

「ダネ!」

 

 

「タオル、ありがとうございました」

 

「礼儀正しいトレーナーだ。今日はもうジムを閉めるが……その前に、チャレンジするかい?」

 

「はい、お願いします!」

 

「ダネ!」

 

サカキは少しだけ目を細める。

 

「時間がない。1対1で済ませよう」

 

そして、1つのモンスターボールを取り出した。

 

「仕事だ。サイホーン」

 

「ウオォーン!」

 

ボールから飛び出したのは、鈍色の重戦車。

 

額の一本角が、照明を受けてキラリと輝く。

 

「……!」

 

やっぱり大きい。

 

ゲームで見るのとは違う。

 

目の前にすると、迫力が段違いだ。

 

サカキはサイホーンを見据える。

 

「業務開始だ。サイホーン、こわいかお」

 

「ウオォ!」

 

サイホーンが顔を歪め、こちらを威圧する。

 

「リーフ、負けるな……!」

 

私は一度深呼吸して、フシギダネを見る。

 

「大丈夫。なきごえ!」

 

「ダネ!」

 

フシギダネが鳴き声を上げる。

 

サイホーンの攻撃力を下げる。

 

まずは、お互いに様子を見る。

 

サイホーンは威圧でフシギダネの動きを鈍らせ、フシギダネは鳴き声でサイホーンの攻撃を抑える。

 

「なるほど。基本は抑えているようだな」

 

サカキが静かに言う。

 

「だが、それだけでサイホーンの攻撃を抑えられると思わないことだ」

 

「サイホーン、うちおとす」

 

「フシギダネ、やどりぎのたね!」

 

サイホーンが前脚を振り上げる。

 

その瞬間――。

 

岩が飛んだ。

 

同時に、フシギダネから放たれた種が飛び出す。

 

「ダネッ!」

 

岩と種が空中で激突する。

 

砕けた岩の破片が周囲に飛び散り、その一部がフシギダネにも降り注いだ。

 

「フシギダネ!」

 

フシギダネが痛みに顔をしかめる。

 

だが――。

 

「よし……!」

 

やどりぎのたねがサイホーンに絡みついている。

 

そこから伸びた蔓が、少しずつサイホーンの体力を吸い取っていく。

 

そして、その力がフシギダネへと戻ってくる。

 

「これでダメージレースは私が有利!いっぱい、なきごえよ!」

 

「ダネ!」

 

フシギダネが再び鳴き声を上げる。

 

サカキは即座に指示を出した。

 

「サイホーン、じならしで振りほどけ!」

 

「ウオォォン!」

 

サイホーンが地面を踏み鳴らす。

 

ドンッ!

 

地面が揺れ、絡みついた蔓が激しく震える。

 

しかし――。

 

「……有効では無いか」

 

攻撃力を下げられたサイホーンでは、やどりぎのたねを完全に振りほどくことができない。

 

むしろ、もがけばもがくほど体力を吸われていく。

 

「このまま行ける……!」

 

フシギダネを見る。

 

その後ろ姿には、初めて会った時とは違うものがあった。

 

迷いがない。

 

私の指示を信じて、まっすぐにサイホーンを見ている。

 

「フシギダネ!」

 

「ダネ!」

 

私は右手を前へ突き出した。

 

「つるのムチ!」

 

「ダネェッ!」

 

フシギダネから飛び出した緑色の鞭が、サイホーンを連続で叩く。

 

「ウオォ……!」

 

サイホーンが大きくよろめき――。

 

ドォン!

 

地面に倒れた。

 

サカキが静かに告げる。

 

「サイホーン、戦闘不能」

 

そして、片手を上げた。

 

「そこまで」

 

「……」

 

フシギダネは状況が理解できていないのか、つるのムチを出したままポカンとしている。

 

私はそんなフシギダネに駆け寄った。

 

そして、その身体を優しく抱きかかえる。

 

「フシギダネ」

 

「……ダネ?」

 

「おめでとう」

 

フシギダネの顔を見ながら、笑う。

 

「あなたの勝ちよ」

 

「……!」

 

一瞬、固まる。

 

そして――。

 

「ダネ!? ダネダーネ!」

 

ようやく自分が勝ったことに気づいたらしい。

 

フシギダネは大喜びで手足を振り回した。

 

「ふふっ」

 

私も思わず笑ってしまう。

 

研究所でのバトルでは、何もできずに負けた。

 

でも今回は違う。

 

フシギダネと一緒に考えて。

 

一緒に戦って。

 

一緒に勝った。

 

「良い采配だった」

 

サカキがこちらへ歩いてくる。

 

「君は、フシギダネの特徴をよく理解しているようだな」

 

「……!」

 

思わずフシギダネを見る。

 

そうだ。

 

最初は、私はこの子のことを何も知らなかった。

 

でも今は――。

 

何が好きなのか。

 

どういう時に動くのか。

 

そして、どうすればこの子と一緒に戦えるのか。

 

ほんの少しだけ分かった気がする。

 

「これを受け取りたまえ」

 

サカキが差し出したのは、一枚のバッジ。

 

緑色に輝く、ジムバッジ。

 

「グリーンバッジだ」

 

「……!」

 

私は両手で受け取った。

 

「ありがとうございます!」

 

初めての勝利。

 

そして――。

 

初めてのバッジ。

 

「グリーンバッジ、ゲット!」

 

思わずバッジを掲げる。

 

隣ではフシギダネが嬉しそうに、

 

「ダネ!」

 

と鳴いた。

 

こうして――。

 

私とフシギダネの、最初のジム戦は終わった。

 

 

今度こそポケモンセンターに着いた私たちは、受付を済ませる。

 

ジョーイさんにフシギダネを預けて、回復してもらう。

 

「お疲れさまでした」

 

「ダネ……」

 

フシギダネは少し疲れた様子だった。

 

「今日は頑張ったもんね」

 

私は頭を撫でる。

 

フシギダネは少しだけ目を細めた。

 

……出会ったままだったなら、こんなこともできなかったかもしれない。

 

ほんの少し。

 

本当にほんの少しだけど。

 

私たちはレベルアップしている。

 

回復を終えたフシギダネを連れて、私はポケモンセンター内の宿へ向かった。

 

部屋に入る。

 

荷物を置く。

 

靴を脱ぐ。

 

ベッドを見る。

 

「……」

 

フシギダネを見る。

 

「……」

 

フシギダネもベッドを見る。

 

「……疲れたね」

 

「ダネ……」

 

二人そろって、ベッドへ倒れ込んだ。

 

ふかふかだ。

 

「……もう動きたくない」

 

「ダネ……」

 

このまま眠ってしまいたい。

 

……でも。

 

「――いけない」

 

私は顔を上げた。

 

日課のレポートをつけなければ。

 

旅立つ前から続けている、大切な記録だ。

 

重たい身体を動かして、ベッドに入ったまま鞄から日記帳を取り出す。

 

ペンを持つ。

 

今日あったことを思い出す。

 

トキワジム。

 

サカキ。

 

サイホーン。

 

フシギダネとの初めてのジム戦。

 

グリーンバッジ。

 

……書くことは、いくらでもある。

 

あるのだが。

 

眠い。

 

ものすごく眠い。

 

「……明日、ちゃんと書こう」

 

いや。

 

それはダメだ。

 

最低でも今日の分だけは書かなければ。

 

私は眠気と戦いながら、日記帳を開いた。

 

そして――。

 

数秒後。

 

ペンを走らせる。

 

今日、ポケモントレーナーになった。

 

少し考える。

 

もう一行。

 

フシギダネは可愛い。

 

「……よし」

 

今日の記録、終了。

 

「おやすみなさい」

 

「ダネ……」

 

私は日記帳を閉じる。

 

そのまま枕へ倒れ込んだ。

 

隣ではフシギダネも丸くなっている。

 

私はその姿を見ながら、目を閉じる。

 

リオルは今頃、どこにいるだろう。

 

きっと、お姉ちゃんと一緒に頑張っている。

 

私も頑張らなければ。

 

でも――。

 

今日は、ちゃんと一歩進めた。

 

フシギダネと一緒に。

 

「……明日もよろしくね」

 

「……ダネ」

 

小さな返事が聞こえた。

 

それを最後に。

 

私とフシギダネは、静かに夢の世界へと潜っていった。




ジムリーダーとして働いているサカキってどんなんだろうかと妄想した結果、ポケモンは道具だって思考が滲み出ている悪いアオキが出来上がりました。

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