第一世界の根尾公園に侵攻してきた刺客・隼人を撃破したメイ。
しかし、敗者に課せられるルール通り、隼人は存在ごと消失。
残された刺客はウィリアムのみ、敵とはいえ唯一心を通わせることが出来た彼とのバトルの行方は――。
――根尾公園(第一世界)――
「王と隼人が負けて、最期は消えた……。ウィリアム……」
王と隼人の敗北とそれに伴う消失……。
その事実に対し、ソウタはウィリアムのことを憂う。
いつもは明るいはずの彼の表情がどこか曇っていた。
「何か呟いていたようだが、この世界にまだ刺客がいるのかね? ソウタ君」
そんな中、それを察知したのか、瀬際刑事が彼に話しかける。
「瀬際刑事……。はい、残る刺客の名前はウィリアム・ヒガシといいます。俺は彼と一度戦い、勝利しました」
「彼は今まで戦ってきた刺客の中で、ひときわ目立ったブレーダーでした」
「ひときわ目立った……? 君にそこまで言わせるとは中々興味深い」
メモ帳を取り出し、真剣に話を聞く態勢に入った。
「ウィリアムは病で視力を失った中、己の『武』をひたすら追求する武人のような性格のブレーダー。一言で言い表すのならそれに尽きます」
「敵とはいえ俺達の強さや技術を認めてくれました。俺はその姿に奇妙な友情や敬意さえも感じています」
ソウタはウィリアムの人物像を話し始めたが、その表情はいまだ硬かった。
「なるほど……。これから戦うことになるブレーダーは君にとって思い出深い存在というわけか……」
「はい。この戦いのルールを知った瞬間、彼との別れが来るんだな……と不安になってしまいました」
唯一心を通わせることが出来た存在、それでも立ち位置は敵であるという2つの事実が彼の心のなかに交錯した。
その直後、瀬際刑事はスーツの胸ポケットにメモ帳をしまい、口を開く。
「……ソウタ君、この場を後にする前に私から話がある。聞いてもらえるかな?」
「はい……」
「君の気持ちは分かる。バトルを通じて高め合える存在が居なくなるのは非常に辛い。しかし、想君の言う通り定められたルールに従うのはウィリアム君も心得ているはずだよ。『武を追求する』というポリシーを持っている彼にとって、君の持つ『武』で勝負をするのが礼儀だと思うよ」
瀬際刑事はソウタの気持ちを汲みつつも、ウィリアムのポリシーを考え、自身の取るべき行動について諭す。
(そうだ……。あの時、ウィリアムは俺達に自分の美学を説いた。あいつは自分自身の武を追求するために戦っていた……。負けたら消えてしまうことも承知の上。全力を尽くさないことがあいつにとって最も失礼なことじゃないか……!)
それを聞いて、ソウタは彼が話していた美学を思い返し、全力を尽くすことを誓う。
「瀬際刑事、ありがとうございます。俺……いや、俺達は彼との戦いで全力を尽くしてきます!」
「よく言ったソウタ君。それでこそ男だ」
彼の真っ直ぐな瞳を見て、瀬際刑事は安心したような表情を浮かべ、そっとソウタの肩に手を置く。
「さあ、扉を探しに行こうぜ」
しばらくした後、瀬際家の面々に見送られながら、根尾公園を後にした。
「想、ここから近くの扉はどこにあるか分かるか?」
「えーと……根尾中学校に反応があるわ。そこへ行ってみましょ」
想の持つ探知機が根尾中学校に反応を示した。
(待ってろよ、ウィリアム……!)
暫くして彼らは扉がある校庭にたどり着く。
ソウタが先頭に立ち、扉に手をかけた瞬間、眩しい光が差し込む。
――聖永学園(校庭)――
「ゴー……シュート!」
聖永学園ではある二人の少女が練習をしていた。
「!!」
開始早々、小突くような金属音が鳴った後、互いにベイが弾き出される。
「やっぱり強いなぁ、シオンは」
「マイも強くなってるよ」
その二人は風馬マイと天道シオン。
今や聖永学園のエースとなった二人は互いの実力を称え合う。
そんな中……。
「!!」
何かが地面に打ち付けられた音がし、思わず二人は振り返った。
(杖……? それはともかく)
「大丈夫ですか?」
シオンとマイは今すぐそこへ駆けつけ、手探りをしていた少年の手に杖を渡す。
「ああ、すまないな……。私の名はウィリアム・ヒガシ。病によって盲目となった身だ」
「君達の名前を聞かせてはくれないか?」
その少年はやはり、ウィリアムだった。
彼は自己紹介をした後、二人に名前を聞く。
「私は天道シオンです」
「風馬マイです」
「天道シオン……!?」
(ここに来て彼女と遭遇するとは……)
いきなりターゲットと遭遇したことに驚くが……。
「どうかしましたか?」
「そうか、君が天道シオンか。私は君に用事があってここへ来た」
「私にですか!?」
「その前にまだこの場所に客が来るはずだ。話はそれからだ」
ウィリアムはシオンに用事の内容を話す前にソウタ達が来るのを待つ。
「ここは……あっ!」
早速、彼らが聖永学園に辿り着いた。
「マイ、シオン、ウィリアム!」
「ソウタさん!? それにバンさん達も……!」
「あれ……? その人はもしかして」
そんな中、マイが想に気づく。
「私は蒼龍想。別世界のソウタ本人よ」
「あなたが想さん……! メイちゃんから話は伺っています。お会いできて光栄です」
「こちらこそ、会えて嬉しいわ」
「ところで皆さんがここへ来た理由は……」
少しだけ会話をし、すぐに聖永学園へ来た理由を聞く。
「実はな、俺もウィリアムに用事があってここへ来たんだ」
「ソウタさんも……!?」
「……!」
「その前にウィリアム、アンタも戦う相手がいるんだろ? 先ずはそれからだ」
「流石は蒼龍ソウタだ。いいだろう、私はDr.カインの命を受け、天道シオンと戦うに至った」
「天道シオン、君にはブレーダーとして強いエネルギーが秘められているとDr.カインが仰った」
今までの流れからするにウィリアムにも戦う相手がいるのは明確だった。
「エネルギー……!」
彼はシオンと戦うことになった経緯を語り、シオンも自身にエネルギーが秘められていたことに驚く。
「しかし、私はそれ目的に用事があったわけではない。私の目的は君との戦いを通じて、最後の武に到達することだ」
しかしながら、ウィリアムはエネルギーより自身のポリシーである「武の追求」を目的として、彼女に戦いを挑む。
「最後の武に……?」
「君は嘗て神世征二狼という男によって『支配』されたと聞いた。しかし、蒼龍ソウタ達と風馬マイ……そして友の手によって『誇り』を取り戻したとも聞いている」
「……!」
「どんな者にも手を差し伸べる心があったからこそ慕われている……。君の人物像を知って益々興味が湧いた。『徳』と『強さ』を持つ者こそ私の武を高めるに相応しい……」
事前にシオンのことはDr.カインとともに調べ上げており、彼女の経歴に対し、興味深そうにしていた。
「武を高める……素敵な姿勢ですね」
「そして……蒼龍ソウタ。先程お前は私に用があると言った。お前も私との戦いを望んでいるな?」
「そうさ。最初はこの世界に来たこと、そして最後の戦いになるかもしれないことに戸惑った。けど、アンタの美学を思い返した時、最初から最後まで全力を尽くすことがお前にとっての礼儀だと気づいたんだ。だから……俺も手は抜かない、アンタと戦わせてくれ!」
「やはりお前は面白い……。いいだろう、2人まとめて来い!」
「ソウタさん、あなたと一緒に戦うのは初めてですね」
「よろしくな、シオン!」
3・2・1 ゴーシュート!
ツヴァイオルトロスはアタックモードでシュートされ、スタジアム外周を旋回するアルティメットドラグニルとインペリアルワルキューレを追いかける。
「蒼龍ソウタのアルティメットドラグニル、天道シオンのインペリアルワルキューレ……どちらもアタックタイプか……」
聴覚を頼りにそれぞれのベイの軌道を読む。
「……見つけたぞ、そこにいるな?」
位置を特定し軌道を変えた後、インペリアルワルキューレと衝突。
偏重心故のブレた動きがかえって相手を弾き飛ばす強力な一撃へと昇華された。
アルティメットドラグニルと危うく激突しそうになるが間一髪それを免れる。
「危なかった……。でも、何故位置が特定されて……? まるで最初から私達の動きを読んでいたような……」
「ウィリアムは目が見えない代わりに鋭い聴覚を持ってるんだ。それはベイの軌道さえも……!」
「なるほど……。これは一筋縄ではいかない相手ですね」
ウィリアムの聴覚はベイの軌道も正確に捉え、確かな攻撃へと繋げていく。
「オルトロスは私の聴覚とともに相手を確実に狙い撃つ……。どこまで這い上がれるか楽しみにしているぞ」
(ウィリアムの聴覚は確かに強力な武器だ。このままではスタミナを削られちまう……)
(……待てよ? ドラグニルはスタミナをある程度消費した後に加速する……。もし、オルトロスにスタミナを削られるんじゃなくて、こっちの方でスタミナを削ったとしたら……? ……試してみるか)
迫りくる窮地の中、ソウタはあることを考えつく。
「依然私が優勢だが、蒼龍ソウタ。お前はどんな策を取る?」
「策か……。これからその『音』をアンタの耳に届けてみせる」
「ソウタさん、それで策とは一体……?」
「ワルキューレでドラグニルを弾いてくれないか?」
「!!」
「相手に勝つためじゃない……ドラグニルのパワーを引き出すのにワルキューレが必要なんだ」
「ソウタさん……!」
「分かりました、その先にあるものを私に見せてください」
彼の思わぬ作戦にその場にいた全員が驚かされたが、ソウタの澄んだ瞳を見て、何かを感じたのか直ぐにそれを決行。
スタジアムの縁に軸先を噛み合わせ、ワルキューレは加速。
高くも鋭い金属音とともにドラグニルが弾かれ、その影響でスタミナを一気に消費。
今にも回転が止まりそうな動きは「軸とスタジアムの接触音」という形としてウィリアムの耳に入る。
「……」
(奴の言った通り、ドラグニルは弾かれ、スタミナを大きく消費した……。蒼龍ソウタ、お前の策はこれからということか……)
慎重に状況を推察する中、遂に状況は動き出す。
「!!」
ドラグニルの軸先が格納し、一気に加速をしだした。
「これは加速か……!?」
「ああ、そうさ。アンタの聴覚はベイの軌道を確実に読み取り、スタミナを削って、必ず仕留める。一度経験したからこそ同じような戦法は通用しないと考えた」
「そして……逆に考えたんだ。俺のドラグニルはスタミナを削られてこそ本領発揮だが、相手頼みはリスキー。だから味方であるシオンのワルキューレに弾いてもらい、加速を発動させた!」
(自身のベイの特徴を把握し、それを利用したのか……。フッ……。蒼龍ソウタ、やはりお前は面白い奴だ……)
ソウタは自身のベイがどんな特徴だったかを思い返し、それを逆手に取って、加速へと繋げた。
その作戦にウィリアムは見事と言わんばかりの笑みを浮かべるのだった。
「これで決着をつけるぜ! タービュランスブレイク!!」
「……!!」
「バーストフィニッシュ……。お前達の勝利だ」
ドラグニルは止まることなくオルトロスに激突し、バーストフィニッシュをもぎ取る。
ウィリアムは武の追求者として静かにソウタとシオンの勝利を称えた。
「ありがとな、ウィリアム。けど、もう……」
「ああ。私は敗北した、この世界からはもうじき消える……。だが、既にそれは心得ている」
ソウタの言う通り、ウィリアムの身体は既に透け始めていた。
「蒼龍ソウタ、お前は清き心とともに数多の者を救い、知略と情熱でどんな戦いも制してきた。これまで様々な戦いへ身を投じてきたが、あの時、オルトロスを拾い上げ組み立て、私に渡したことを武だと称した者はお前が初めてだった……」
「私に訪れる運命は既に定められていたものだ。お前の姿を捉えることが出来なくともその輝きは伝わっている……。後悔はない……」
「……シオン」
「はい」
「ウィリアムさん、これで……」
「?」
ウィリアムが静かに己の消失を受け入れようとする中、ソウタはシオンに何かを頼む。
その直後、彼女は右目に付けていた片眼鏡を外し、ウィリアムの右目につける。
「目を開けてみてください」
「……!!」
その瞬間、彼の目には失われたはずの光が映し出された。
「蒼龍ソウタ、天道シオン……!」
片眼鏡を通じて2人の姿が彼の視界に映った。
「そうか……。これがお前達の姿だったのか……。光を失い、二度と見ることのなかった世界を再び見れるとはな……」
「感謝するぞ、お前達のような誇り高き者達《ブレーダー》と戦えたことに……」
彼は二度と見れることもないだろうと思っていた世界を見れたことに無意識のうちに涙を流し、2人に感謝の言葉を送る。
「ウィリアム……」
「蒼龍ソウタ、最後に私から伝えたいことがある。Dr.カインは失ったものを取り戻そうとしている……。だが、その等価としてこの世界が失われる可能性を秘めている。あのお方を止め、救うことが出来るのはお前……いや、お前達だけだ」
「……」
「最後にこれを託そう」
「!」
ウィリアムは意味深長な言葉をかけた後、ツヴァイオルトロスをソウタに譲り渡し、片眼鏡を彼の手に乗せる。
「これは私からお前に対する最後の敬意だ……。この世界ともう一つの世界が明るくなることを心から祈るよ。さらばだ……蒼龍ソウタ……!」
最後の敬意を払った後、ウィリアムはこの世界から消失。
武を追い求める戦士の儚くも美しい最期だった。
「ウィリアム……!」
ソウタは涙をこらえようとするが、それは次々と地面へこぼれていった。
共に戦ったシオン、戦いを見ていた仲間達も涙を抑えられなかった。
第一世界に侵攻した最後の刺客・ウィリアムに勝利したソウタとシオン。
誇り高き武人を失った悲しみは大きい、しかし、彼の思いを背負って戦うのもまた事実。
2つの世界の未来を守るために前に進んでいく。
__イメージCAST__
蒼龍ソウタ:小林千晃
蒼龍想:高橋李依
瀬際勝:玄田哲章
風馬マイ:水瀬いのり
天道シオン:悠木碧
ウィリアム・ヒガシ:KENN
ナレーション:森川智之