ベイブレードNEO・4 第11話 愛する『もの』
第一世界に侵攻した最後の刺客・ウィリアムに勝利したソウタとシオン。
ウィリアムは定められた運命を受け入れようとした最中、シオンの片眼鏡を通じて2人の姿を見れたことに感謝し、ソウタにオルトロスと自身の願いを託してこの世界から消失。
誇り高き武人の儚くも美しい最期の瞬間だった。
「ウィリアム……ありがとな。お前の思い、確かに受け取ったぜ……」
「ソウタさん……」
オルトロスを受け取った手を強く握りしめ、託された思いをベイを通じて感じ取る。
「シオン、協力してくれてありがとな。マイも久しぶりに会えて嬉しかったぜ」
「いえいえ、また何かあったらいつでも来てください」
「これからの戦い、大変になると思いますが頑張ってください」
「また会おうな!」
ソウタ達は2人と軽い会話を交わした後、その場を後にした。
――根尾中学校(校庭)――
「すっかり遅くなっちまった。もうそろそろ帰らないとだな、お互いに」
「そうね、また明日別世界で落ち合いましょ」
「またな! 想」
気づけば空は真っ黒に染まり、満月がそこへ浮かび上がっていた。
互いに明日落ち合うことを誓い、一旦はそれぞれの世界へ帰っていった。
――根尾第一研究所――
「Dr.カイン。とうとうウィリアムまで消失しました」
「黒澤とソフィアは完全に精神が崩壊し、一人の人間として機能はしなくなったと言っていいでしょう」
「根尾中ベイブレード部め、やはりお前達は排除せねばなるまい……。私の願いを邪魔する者は誰一人としてあってはならぬのだ……!」
「19年前のあの日から私の日常は『無』と化した……」
――
(19年前、私とアベルはロボットエンジニアを目指して大学に通っていた……)
Dr.カインは実弟のアベルとともに将来の夢に向かって大学に通う生活を送っていた。
『兄さん、また新しいのが作れたんだ。見てくれないかな?』
『ほう、中々興味深い……。やはりお前は優秀だ』
『兄さんのロボットもクールなデザインだよ』
(互いに夢を語り合う……そんな日常こそが私にとって幸せの形だった。しかし……)
弟との何気ない会話……しかしそれは後に「二度と戻ることのない時間」となる。
『そうだ、学科内でベイバトルの約束があるんだった。兄さんはまだ準備中?』
『ああ、それが出来次第すぐに向かう』
『そっか、じゃあ行ってくるよ』
(これが弟との最後の会話になるとは夢にも思わなかった)
『ようやく終わった……。早速公園へ向かうとしよう』
ベイを手に取り、根尾公園に向かおうとした直後だった。
『!!』
突如として講義室内が上下左右に揺れ始め、あちこちから道具をはじめとする様々なものが一斉に落下していった。
『こんなにも激しく揺れるとは……。今まで体験したことがない大地震だ……!』
幸いにも揺れはすぐに収まったが、後に最大の悪夢が襲いかかってくるということを彼は知る由もなかった。
その直後、目の前のビルが崩落し、その一部が根尾公園に向かって降り注いでいった。
『まさか……!』
講義室から階段と駆け抜け、外へ出る中……。
『大変だァーーーーッ!! 人が押し潰されている!!』
『何だって……!?』
町民の叫びを聞き、カインは直ぐに現場へ直行。
しかしながら、人混みをかき分けながら進んだ先の「悪夢」に彼は思わず絶句した。
『……! アベル……!』
瓦礫から僅かに出ていたアベルの服の袖とそれに覆われていた手。
それは動くことなく、ベイを握りしめたまま止まっていた。
『聞こえるか? アベル! 私だ……!』
『返事がない……バカな……! 嘘だ……お前がここで死ぬはずが……!』
至近距離で声を届けるも返事がない、彼の顔は更に白くなっていく。
『心臓の鼓動音は……?』
『……』
『……聞こえない……。もうお前は帰ってこないのか……!』
彼の心臓が動いているか、それに希望を託すも、直ぐにそれは打ち砕かれる。
完全に心停止し、アベルが「死んだ」という事実だけが残った。
それから月日は流れ……。
(私はロボットエンジニアとなり、自身の研究所を立ち上げ、成功者となった……。だが……)
『アベル……私は夢を掴み取った。だが、お前とともにこの道を歩んでいくのが目標だった……』
アベルの遺影を手に取り、亡き弟に語りかける。
『お前を奪ったのは誰かではない、自然だ……。もしお前を奪ったのが誰かだったとしたら、泥をすすってでもそいつを始末しただろう。だが、自然相手に復讐することは出来ない……私は今、それに対する悔しさで満ち溢れている』
アベルは誰かによって殺されたのではない、地震という自然がもたらす不条理のもとで殺された。
いくら時間が経とうともその時の悔しさは消えることはない。
『どんなに精巧なロボットを造ろうとも、結局はお前と造っていた少し粗悪なものが私にとっての幸せだった……』
『お前を模した人造人間も造ってはいるが、その性格・クセは完全には再現できない……』
カプセルを見つめ、そう語りかけた瞬間……。
『!』
そこが一瞬だけ発光し、アベルを模した人造人間の指が動き出す。
『兄……さん』
『アベル……! いや……お前はまだそれには満た――』
『兄さん……』
(このトーンは……! 間違いない、生前のアベルと同じだ……! だが、何故急に……?)
カプセルに入っていたそれは生前のアベルと同じトーンで話し始めた。
『プログラムはどうなって……?』
『これは……! 「エネルギー吸収プログラム」……』
『このプログラムは確か、ロボットにエネルギーを込めることで本物に近づけるためのもの……。作って長らくは使っていなかったはずだが、誤って起動したのか……?』
モニターのキーボードの辺りにあった「エネルギー吸収プログラム」。
誤って起動してしまったと直ぐに察知した瞬間、彼の頭にある考えが閃光のように駆け巡った。
『……』
『……もしこのプログラムがアベルに影響を与えたとしたら? それが完全に遂行されればアベルは人間として再びこの世に……!』
『……ハハハハ……! 良いだろう、これはチャンスだ……! 奪われた未来を取り戻すために手段は選ばん! これが「奪われた者」は「奪う者」へと変貌する……か。よく言ったものだ……』
地震により肉親を失った一人の男。
思わず巡ってきたチャンスにしがみつき、更にはその瞳に狂気と決意を宿す。
――
「兄さん」
「……どうした? アベル」
自身のこれまでの歩みを思い返した直後、アベルから話しかけられる。
「明日、外へ行きたいです。刺客らを破った者達が私に及ぶのかを調べたいです」
(自ら、奴らのことを調べたいと望むとは……。だが、それをさせるのも悪くない)
「良いだろう、お前の力を『イーヴィルウラヌス』とともに奴らに示してこい」
「かしこまりました……」
アベルはベイブレード部達に興味を持ち、外に出たいと申し出る。
Dr.カインはそれに若干驚きつつも、直ぐに了承し、明日の外出を許可する。
――根尾公園(パラレルワールド)――
「たまには一人で練習でもしてようかしら」
「3・2・1 ゴー……」
翌日、想は一人で根尾公園にベイの練習をしに来た。
早速練習をしようとしたその時――。
「きゃー! ひったくりよ!」
「!!」
女性の悲鳴が聞こえ、その先にはチャラチャラとした風貌の男がバッグを持ちながら逃走していた。
「待ちなさい!」
「おいおい、俺はかなり速えんだぜ? 正義の味方ぶりたいんなら他所でやりな」
(速い……! このままじゃ逃げられちゃう……!)
想は男を追いかけるが、逃げ足がかなり速くどんどん距離をつけられてしまう。
そんな中――。
「ん?」
「ぶほぉ!?」
手らしきものが勢いよく男の顔に迫り、見事クリーンヒット。
体勢を崩し、バッグが彼の腕から離れる。
「……」
分離した手らしきものが青年(?)の方に戻り、彼は男を睨みつける。
「テメェ! このガキ!」
男は容赦なく振りかぶるが……。
「フンッ……!」
「ごべっ……!」
青年(?)が超スピードでのアッパーカットを彼の顎にぶつけ、逆方向へ飛ばされた。
「これ……」
「ありがとね、あんちゃん。それに姉ちゃんも」
「いえいえ」
女性も2人にお礼をした後、そこを後にする。
「あなた何者なの? さっきの手といい、普通の人間ではないようだけど……」
「僕の名前はアベル。Dr.カインが造った『人造人間』だ」
「Dr.カインが造った人造人間……!?」
「あなたも私達のことを狙って……?」
想が名前を聞くと、彼はアベルと言い、「Dr.カインが造った人造人間」だと打ち明ける。
すぐさま敵であると察知し、身構えるが……。
「僕は別にそんなつもりじゃない。ただ戦いたいだけ」
「戦いたい……?」
「僕はずっとDr.カインの亡き弟・アベルとして生きるよう言われてきた。だから、ベイバトルがどんなものかイマイチよく分からないんだ」
「彼が今まで放ってきた刺客を全て倒したという話を聞いて、より一層興味が湧いたんだ。だから……教えてくれると嬉しい」
(機械的だけど純粋……。でも、どこか幼い。そんな雰囲気だわ……)
「分かったわ、今は立場というのを忘れてあなたにベイバトルを教えてあげる」
「先ずはベイにランチャーをセットして」
「……」
「互いに『3・2・1 ゴーシュート!』って掛け声を」
3・2・1 ゴーシュート!
「!」
(何て正確なシュートなの……! ランチャーの紐を引く力に無駄がない……!)
アベルが使用するベイ・イーヴィルウラヌスは想の評すように正確なシュートともに放たれ、スタジアムを駆け巡る。
その直後、互いに接触を繰り返した末、回転が止まった。
「……」
「一応、これがベイバトルの流れ。後はどうしたいかはあなた次第よ」
ベイバトルの流れを一通り教え、その後のことはアベルの判断に委ねる。
「……あと1回だけいいかな?」
彼はそう言うと、ウラヌスのブレード外周を捻り、その高さを変える。
(高さが変わった……!?)
その証拠に内部のプラパーツが出っ張っていた。
「何かあった?」
「いや、何でもないわ。始めましょ」
3・2・1 ゴーシュート!
「やっぱりブレードの背が低くなってる……!」
「僕に与えられたこのベイは本物のアベルが持っていた……いわゆる『遺品』だ。ブレードの外周を捻ることで高さを切り替えられる。兄さんからギミックは説明されてたけど、実際に使うのは今回が初めてだよ」
「背が低くなった分、攻撃力が上がってるわね……」
イーヴィルウラヌスのブレードはサイバードラグニルのディスクフレームに潜り込み、どんどんそのスタミナを削っていく。
「けど、背が低いということは一つの弱点があるわ」
「弱点……?」
「!」
アベルがウラヌスの弱点は何なのかという顔をした直後、ブレードの底面がスタジアムに擦れる。
「これは……」
「背が低いということは少しでも傾くとスタジアムに接触するリスクは高まるわ」
「私はあえてその攻撃を受け止めつつ反撃し、体勢を崩した。このまま終わらせてもらうわ」
「……」
想の作戦により、ウラヌスは失速。
そのままスピンフィニッシュとなり、彼女の勝利となった。
「それで、バトルはどうだったかしら?」
「分からない……。僕は負けた。でも、そうなんだとしか今は言えない。もし勝ったとしても、どうすればいいのか……」
「……あなたはまだベイブレードの世界に入ったばかり、知らないことはまだまだ沢山あるわ。でも、興味を持ってくれたことがいつしかあなたにとっての『救い』となるはずよ」
アベルはやはりベイバトルのことをあまり分かっていない様子だった。
それでも想は彼を見捨てることなく、温かい言葉を送る。
「救い……」
「ありがとう、最後に君の名前を聞きたい」
「蒼龍想……これが私の名前」
「想……覚えておくよ。それじゃあ」
――根尾第一研究所――
「ただいま戻りました、兄さん」
「アベル。それでどうだった?」
「蒼龍想……とベイバトルをしました。結果はスピンフィニッシュ負けでした」
「そうか……」
(蒼龍想……! 根尾中ベイブレード部含め、やはりお前を始末せねばなるまい……!)
Dr.カインはアベルとの会話では淡々としていたが、心の中では想に対し、嫉妬心を向けていた。
最大の敵である科学者に秘められた壮絶な過去、彼の弟して生きるように言われてきた人造人間アベル。
想とアベルのベイバトルは奇妙な繋がりを成すのだった。
__イメージCAST__
蒼龍ソウタ:小林千晃
蒼龍想:高橋李依
風馬マイ:水瀬いのり
天道シオン:悠木碧
Dr.カイン:加瀬康之
アベル:神谷浩史
吉良賢司:戸谷菊之介
ナレーション:森川智之
ベイブレード
イーヴィルウラヌス.Pr4.M
(パラドックスフォー・マージ)
(ウラヌスモチーフのバランスタイプ。)