卍解までは転生者の嗜み。   作:点差惨敗

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1.因果応報

 

 犠牲を強いるか 悔いるか

 ぼくらは勝手に どちらかになろうとする。

 


 

 転生した。自我が芽生えた時に聞いた言葉から、その事実を全て理解した。

 北流魂街25区──。

 うわぁ鰤世界。しかも非貴族スタートです、か。爆速理解は転生者の嗜み。

 幸いにして霊体。餓死が存在しないということが如何にありがたいか。人間が働くのは結局快適に眠りたいからであり、空腹を満たしたいからであり、病が恐ろしいからである。

 ……だから野山荒れ地で植物みたいに生きるのもアリかな、とか思っていたんだけど、腹が減るでやないですか。こーれ霊力持ちです。

 となってくれば目指すは死神っきゃない。が、斬った張ったは正直面倒臭い。いややろうと思えばできるんだろうけど、考えることが多い、というのは面倒臭い。

 であれば理想は死神且つ文官的ポジション。あるいは四番隊か。えー、でも戦術を考えればヒーラーから真っ先に潰すのが定石だし、十番隊とか十三番隊でのらりくらりと生きて実は回道もそこそこ行けまっせ、の方が良くない? あ、でも下手にワンオペアピールするとワンオペ部署が与えられそう。

 適度に生きたい。適度に見せ場は欲しいけど、一線級だと疲れる。京楽春水ムーブが一番良い。でもあの人は有能さを見せつけ過ぎたからあのポジションになったわけで。

 つまるところ理想像は……故に侘助くらいの陰気シゴデキで、山田花太郎くらいの感じか。ぶっちゃけ山田花太郎って性格が災いしているだけで結構エリートっていうか上澄みだよね。七席→三席→上級救護班班長でしょ。うわぁ、そう考えるとあれはやりすぎだな。十一番隊のアフロくらいが良いか。

 

 とか。

 捕らぬ狸の皮算用の体現者みたいなことを考えながら──十年くらいを経た。

 

 霊力・霊圧ともにそれほどでもないけれど、まぁ、死神統学院に入ることを許される程度にはなんとかなった。

 そこからのんべんだらりと生活。ぶっちゃけ死神になってしまえば寮住まいになるので衣食住が保障され、しかも学生でいるだけで働かなくて良いので素晴らしいスローライフが送れる。

 浅打も貰ったし、始解もしたし、卍解もした。卍解までは転生者の嗜み。

 

 死神統学院に入ってわかったのは、どうやら原作の1000年前あたりのようだ、ということ。統学院が霊術院呼びになっていないことや、死神のメンバーからしてね。

 こーれは余計なことをすると歴戦の死神扱いされます。護廷十三隊も出来たばっかりだし、余計な頭角は現さないに限る。

 なので現世遠征に行ってもおかしなことはしない。まずそうだったら真っ先に逃げるし、なんとかできそうな虚が味方を食らっていてもノータッチ。ああいうのは強い奴が倒せばええねん。

 

 そんなことを繰り返していたら──見事に留年した。あっ、留年制度あるんですねぇ。

 とはいえそれはありがたいことである。この時期の尸魂界、どこもかしこもに人手不足で、卒業と同時に第五席に、とか、学生の内から〇番隊の人にコナをかけられていて、という話がちらほらどころじゃなく存在する。

 嫌だねぇ、それ。こっから1000年間働き詰めになるってことでしょう? 僕、あと50年くらいは学生が良いなぁ、なんて。

 

「次、1016期イの組、滑川平良。……またお前か」

「はぁい、僕です。今年もよろしくお願いします、ね」

「戦闘能力に秀でないことは、才能の問題もある。だから理解できる。だが、せめて字くらい綺麗に書けないか。潰れていて読み難いだろう」

「善処しまぁす」

「去年も同じことを言われたような……。はぁ、まぁ良い。行け」

「はぁい」

 

 というわけで今年も留年者として顔を覚えられるところから始める。

 死神統学院における育成項目は今のところ戦闘に偏重していて、鬼道・隠密機動に関する育成項目が無い。そのため単純な戦闘能力ばかりが評価される。

 ここを逆手に取り、「戦闘能力は正直言って低いけど、破道・縛道・回道には長けている……から足切りはできないけど卒業もさせられない」をずっと漂っている。

 ビバ学生ライフ。同期はみんな隊士となって忙しそうだ。嫌だねぇ、あんな生活は。

 

 ……という生活を五十年くらい続けたある日である。

 学習科目に歩法や隠密性という項目が加わった。仲良くなった試験官さんに詳しい話を聞けば、近々隠密機動育成のためのコースができるんだとか。

 正面張っての斬った張ったが無理でも、隠密機動ならなれるかもしれないね、なんて期待をかけてくる教師にはごめんなさいだけど、絶対に嫌である。あんな命が数として扱われる現場はノーサンキューだ。よって日々の素行にドジっ子属性を足してみることにした。

 ドジっ子は隠密とか無理。そう相場が決まっているんだから。

 

 案の定、そっちの評価点が激減。ただやりすぎて足切りラインまで行きかけたので色々調整して、さらに五十年。

 

 とうとうその科目──鬼道が追加されてしまう。

 死神統学院は真央霊術院に名を改め、そして僕は当然、その項目で高い評価を得て、卒業までが決定してしまうのである。

 あ、あと900年あるんだけどぉ~?

 

「滑川。よくぞこの百年、腐らずに勉学に励んだ。お前の力を評価する制度の設立……時代がお前に追いついた、というやつだ。先生は嬉しく思う」

「それはぁ、ありがとうございまぁす」

「威力を気にしなければ、三十番台までは詠唱破棄できる。この実力は必ず護廷十三隊の役に立つ。胸を張れ」

 

 という感じで、就職まで決まってしまった。

 就職先は鬼道衆。設立されたばかりの……つまり初代鬼道衆とかいうヤバ気メンバーになったわけである。

 

 とはいえ。

 百年付き合ってくれた教師の言う通り、僕の鬼道の実力は、「威力を気にしなければ三十番台までは詠唱破棄可能」という微妙なもの。

 破道・縛道・回道の全てを均等に扱えるため、いわゆる補充要員というか雑用というか、責任のあるポジションには行けないけどいると便利、くらいのものに収まっている。

 ワンオペ感あって忙しそうに聞こえるやもしれないが、治療の質が現場を左右する場面では四番隊に劣るし、虚をどうこうする威力は無い、ということで、僕の役割は専ら「三十番台以下の鬼道の改良・使いやすさ向上」という研究職。

 それができるかどうか自体があやふやであるため、これといって厳しいノルマがあるわけでもなし。狙い通りのスローライフにありつけたと考えるべきだろう。

 

 鬼道衆の良いところは、表舞台に上がる機会が五十年に一回あるかないかレベルである、というところ。

 基本は裏方である。破壊された瀞霊廷を修復するなどの後始末をしたり、上述の通り鬼道の改良・改案を出したり。

 儀礼系に出張ることがあるみたいだけど、そういうのは実力者や貴族が出ていくもので、僕にお鉢が回ることはない。穿界門の維持とかには駆り出されるけど、直接戦闘するわけじゃないし楽なものだ。

 数年に一つ改良案を出せればそれだけで仕事をしたことになるとかいう安楽クリエイターライフ。

 

 僕の斬魄刀自体鬼道系であるためそっちの模索もできて一石二鳥だし、改良された鬼道を死神が使っているのを見ると仕事した感も得られる。

 初代隊長ズは正直スーパー殺し屋集団で、弱い鬼道を効率よく使う、みたいな発想と関わる部分が一切無いため、僕自身と関わる機会も一切無い。最初から仲良くなるつもりもないから良いんだけど、ね。

 

 でも、それでも、というべきか。

 人手不足であることに変わりは非ず、斬魄刀を有している、というだけで現世に駆り出されることも無くはない。

 滅却師の問題が解決していない時期──返り討ちにはしたけど残党が山ほどいる──だから細心の注意を払いつつ、適度に見捨て、適度に救い、適度に逃げてのらりくらり。

 逃げたことを糾弾されてもどこ吹く風だ。いやだって、鬼道衆を前線に立たせる方がどうかしていますよ、と。

 

 ちなみに鬼道衆の仲間はそんな僕を擁護してくれる。彼らも斬拳走鬼の中で鬼道だけが突出していた存在。そんな彼らに他の死神を救って前線で戦え、というのは死ねと言っているのと同義であるのだから。

 

 ──しかし。

 悪いことをしていると、なんだかんだでバチというのは当たるらしく。

 

「……ここは、虚圏(ウェコムンド)か」

「……そのようですねぇ、はぁい」

 

 少しばかり大規模な作戦があった。現世で戦争があったかなんかで整(プラス)と虚が大量発生し、あらゆる死神・鬼道衆が出張らなくてはいけない、みたいなことが。

 僕は鬼道衆で、戦闘能力こそ無いものの、穿界門を開くことができる。一応単独で。

 だから、力の強い死神のサポートをする形で付き添いが命ぜられ……その時はなんと山本総隊長付きだった。

 

 対峙していた虚の能力は総隊長が撃破してしまった以上推測になるけど、恐らく「死の間際に自身を中心とした一定範囲内の全存在を黒腔(ガルガンタ)に引き込む」とかいうスーパー迷惑なもの。どこに使い道があるんだよそれは。

 それにより、山本総隊長と僕が黒腔に引き摺り込まれ……山本総隊長に首根を引っ掴まれて霊子の道を駆け、出てきた先がここ、と。

 

 尸魂界より密度の濃い霊子のおかげで空腹感が限りなく抑えられている点が非常に良いけれど、それ以外は非常にbadだ。

 見渡す限りの白い砂丘。石英の枝。まさしく『亡霊の世界(レムリア)』。

 遠くには巨大な虚も見える。

 

「おぬし、名はなんと言う?」

「はぁい、鬼道衆下番研究担当・滑川平良と言いまぁす」

「……ほう。これは重畳か。統学院の百年浪人が供とは」

「うわぁ、嫌なあだ名を覚えておいでですねぇ」

 

 百年浪人──字面そのまんま。百年間留年し続けた僕についたあだ名である。

 鬼道衆に入ってから知ったんだけど、そこそこ有名人にはなってしまっていたらしい。そりゃそう。

 

「統学院の教師から噂は聞いておる。曰く、戦闘以外の面における究極の器用貧乏。戦闘以外の万事に対し浅く広い知識と実力を有する、凡そ死神とは呼べぬ裏方の申し子、であると」

「正しい評価ぁ、ですねぇ。戦いはぁ、苦手ですけれど。まぁ、三十番台以下の鬼道であれば、自己流含めて、大鬼道長に匹敵するくらいの手札は持ってますよォ。……威力は統学院の学生にも負けちゃいますけど」

「ならば、黒腔に対する有効な手段も期待して良いのか?」

「うぅん。ここで頷けたらぁ、僕は鬼道長になってますねぇ」

 

 死神は黒腔を開けない。……ということになっている。

 が、虚を封じた斬魄刀だの、はたまた改造分野の天才二人だの、どうにもやり方というものはあるみたいで。

 

 やれないことは、無いと思う。……成功した場合の評価が気になるところだけど。

 

「まずはぁ、安定した霊子の場が欲しいですねぇ。こうも密度が高くて乱雑だとぉ、できるものもできない、というかぁ」

 

 虚圏で霊子の薄い場所を探す、というのは非常に難しいことだ。

 虚夜宮みたいな場所でも別に霊子は普通に濃い。メノスの森なんかは最高に濃いはず。

 そう考えると……そして一般の霊子が重力に従うことを考えると。

 

「高空か」

「はぁい。ただし黒腔の開き方を理解したあとで行きたいですねぇ。じゃないと虚が寄ってきて面倒臭そうですしぃ」

 

 とかなんとか言いながら、どうするべきかを考える。

 鬼道を成り立たせるに必要であるとされている詠唱。

 あれはイメージの補完+言霊+霊子の統御を担う言葉であり、だからこそ詠唱破棄はダメージが劣ったり暴走・失敗しやすい。

 つまり、鬼道はある程度の内容を詠唱から逆算できる。

 未来にて改造の天才が使っていた詠唱は、「我が右手に界境を繋ぐ石 我が左手に実存を縛る刃 黒髪の羊飼い 縛り首の椅子 叢雲来たりて 我・鴇を打つ」だった。

 界境を繋ぐ石とはつまり関守石のことだろうし、実在を縛る刃というのは守り刀のことだろう。サルナスの黒髪の羊飼いは古代を、縛り首の木の椅子は過去を表し、叢雲が移ろいゆくものとして現在を、鴇を打つが鴇色の空で朝焼け、つまり未来を指す。

 現代語訳するのなら、「右手に関守石を持って対象を境界に絞り、左手に守り刀を持って境界にあの世とこの世の性質を付与。古代、過去、現在を後方に、未来を前方に」という意味かな。ただの境界に対して時間軸を設定することで、「進めば先に辿り着く」という概念を付与しているわけだ。

 

 構造が分かればあとは──ひたすらに、どの霊子、どの霊圧が期待通りの振る舞いをするか、というのを確かめる作業である。

 ぴったりこれ、っていうのはかなり難しい。それができる死神がいたら、普通に総隊長クラスになっているんじゃないかな。

 

 ……そんな感じで。

 戦闘は全て山本総隊長に任せ、ひたすら目的の鬼道を作り続けること二年ちょい。

 

 まぁ、なんとか、形になった。……なってしまった。

 ど……っちかと言えば、鬼道長あたりに迎えに来てほしかったんですけどねぇ。……まぁノー知識でやったら千年は余裕で行きそうだったけど、僕は答え知っててのこれだからねぇ。

 

「山本総隊長」

「どうした、滑川」

「恐らくは完成しましたぁ。大分粗削りですけ、ど」

「……真か」

「恒常的に開けるものじゃないですけどねぇ。可能なら、現世か尸魂界にアンカー役をやってくれる鬼道衆が最低十人は欲しいかなぁ。虚圏側には高空にビーコンみたいなものを立てて……ってやらないとぉ、直接行き来するのはだぁいぶ厳しいですねぇ」

「今使用できるというのならそれでよい。……鬼道衆は天職であったか」

「まぁ、専門家ですからねぇ」

 

 というわけで。

 一応警戒していたバラガン・ルイゼンバーンあたりに襲撃される、ということもなく、虚圏は遥か高空にて、それが始められる。

 

 十字に縄を結んだ石を右手に持ち、僕の浅打を左手に持つ。

 

「始めまぁす」

「うむ。虚の襲撃の一切を気にするな。儂が守ろう」

 

 そーれは心強いとさせていただくとして。

 

「我が右手に界境を繋ぐ石。我が左手に実存を縛る刃。黒髪の羊飼い、縛り首の椅子、彼方の門にて、我・夢現つ」

 

 詠唱を行い──空間へ強制的に境界面を打ち込む。

 強く上下に引き裂かれるようにして開く黒腔。ちなみに行先は知らない。本来の鬼道なら多分行先を決めないと色々無理なんだけど、僕のアレンジで行先をランダム化した。この方が結界難易度が下がるし、安定するから。

 現世に出てしまえば穿界門を開けばいいだけだし、尸魂界に出られたら最高、ということで。

 

「行くぞ」

 

 首根が掴まれる。事前に伝えてあったのだ。こちら側……虚圏側で黒腔を維持する存在がいなくなる以上、いつ閉じてもおかしくないものにしか仕上げられない、と。

 だから、スピード勝負である。山本総隊長は僕を引っ掴んだまま、行きよりもさらに高速で霊子の道を形成・突っ走り──。

 

「黒腔、開きます! 総員戦闘準備……って、え……」

「山本総隊長!?」

 

 という、尸魂界に開いてくれてラッキー☆ ってな感じで、僕らは帰還を果たしたのである。

 ──これにより。

 

 僕、滑川平良の一番隊への出向が決定した。

 

 い……嫌ですぅ……。

 

*

 

 一応、まぁ、鬼道衆所属ではある。ただ、今後も黒腔を軸とした能力を有する虚が出ないとも限らないわけで。

 戦闘能力の低さから一番隊務めであっても基本は書類仕事の文官であり、その点は非常にありがたい。が、激務。So bad.

 また、万一隊長・副隊長格がまた黒腔に飲み込まれるなどあった場合はすぐに向かわなきゃいけない。

 

 席次は十九席。ちなみに一番隊の「常に向上心を持って精進する者」みたいなノリの対極にいるため隊士とはそんなに仲良くない。……もっというと、百年浪人の僕を追い抜いていった子たちがわんさか入っているのでそういう意味でも舐められている。

 が、流石は一番隊。腐敗が無い。陰湿ないじめとか一切無い。過ごしやすい職場です。同調圧力はあるから勝手に気まずくはなるんだけれど、ね。

 

 雀部さんがまぁ一番仲良いかな。次点で総隊長。

 せめて一人で戦えるくらいまで、という特訓もやってもらっているけれど伸びしろゼロが早いところ伝わってほしい。やる気が無いんだよ基本的に。

 

 黒腔発生装置については鬼道衆預かりになったから研究もできないし、本当にトホホのホである。

 また、黒腔発生の鬼道は装置なしの場合普通に九十番台級の鬼道であるという評価を受け、仕事内容の「三十番台以下」の部分が「三十番以上八十番台以下」に変わった。えー、これは非常にまずいです。五十番以降なんて覚えている人さえ少ないレベルの領域なのに、そこを改良とか……。

 

 無論のことを言うなれば、元々無いに等しかったノルマは完全に取っ払われている。書類仕事しながら研究とか結構厳しいからね。鬼道衆は無理を実現する部隊だけど、ハードワーク的な無理は言ってこないホワイト環境である。

 さて、そんな職場環境の一番隊だけど、困り事が一つ。

 

「滑川。来い」

「はぁい」

 

 これ──時折やってくるイベント、総隊長からの呼び出し、である。

 

 大抵の場合は鬼道に関する相談で、「全体に波及させるほどではないけれど、山本総隊長的に使いやすくしたい」みたいな鬼道改良依頼や、未来の技術開発局がやっているような細々とした装置の開発が多い。

 次点で多いのは雀部さんみたいに稽古をつけようとしてくるパターンで、その次に多いのが今回の話のようなこと。

 

「万象一切灰燼と為せ──流刃若火」

 

 山本総隊長の始解。燃え盛る業火は暗闇を照らす。

 ──ここなるは地下。駄菓子屋店長の「修行部屋」を真似て一番隊隊舎の地下に作り上げた、総隊長を含む卍解が天相従臨になってしまう人専用の修行場。こういう場所を作り上げるのは転生者の嗜み。

 本来瀞霊廷、ひいては尸魂界全体に波及するはずの影響をなんとかして抑え込み、限定的な状況ながらも彼らが全力で修行できるような場所を作り上げる。

 未来の零番隊のあれそれまで封じ込めるとは言えないんだけど、どうにも天相従臨まで至っている隊長格の勝ち星の無さ……もとい四方三里に影響を及ぼすせいでマトモな訓練ができない、という点を解消するための場であり、まだまだ強くなりたいらしい山本総隊長の稽古に引っ張り出されている現状。

 霊圧が外に検知されるのも防げるので安心して全力を出してほしい。卍解もまぁ短時間なら構いませんよぉ、とは言ってある。

 それが……禍したか。今日は珍しく同伴者がいた。

 

「滑川。わかっておると思うが、ここで見聞きしたことの一切の口外を禁ずる」

「わかってまぁす、よ。僕が口外したら、そもそものコンセプトが崩れますし、ね」

「そういう具合じゃ、長次郎。おぬしの卍解も、ここでならば外に気取られることはない。安心して試し、腕を磨け」

 

 一応死神たちは自己の中の精神世界での修行、みたいなこともできるらしいんだけど、やっぱり精神世界と現実とでは色々勝手も違う。

 そのため、諸々の事情があって卍解習得を秘匿したい者にとっても良い修行場であると言える。……なお、卍解も封じ込める結界を張ることができるのか、という勘違いは山本総隊長にもされたけど、そうじゃない。それなりの時間・準備を労して卍解の影響が外部へ伝わるのをカットする施設を作ることができるだけで、この施設を破壊する目的で卍解を使われたら呆気なく崩壊する。

 そう説明しても、「余波だけでも封じ込めるのならば讃えられるべき技術」とか「重宝する隊長格も多い」とか、見当違いな評価が増える増える。

 嫌だねぇ、これは。有能になると忙しくなるじゃない、か。

 

 ということで、この部屋を使用した後は内部での使用斬魄刀・時間に問わず僕が激しく疲弊する設定にしてみた。これならば乱用もされまい。

 ……と思っていたのだけど、戦闘能力の欠如から前線に放り出すには憚られる僕の霊力増幅修行を効率良く……一石二鳥でできるとして、結局こうして結構な頻度で駆り出される羽目になっているのだけど。

 総隊長と関わってから僕の行動裏目に出すぎじゃないですか、ね?

 

 さて、眼前では業火と厳雷が激しく鎬を削っている。片や始解、片や卍解なれど、その攻撃能力は一級品。というか山本総隊長の卍解は攻撃力が高すぎるので、個人修行ならともかく対人訓練には向かない。卯ノ花さんがいればワンチャンだったかもだけど、あんな怖い人そばに置きたくない。

 

 と、二つが収まる。これは終わりの流れですかね、なんて呑気に考えていたら、瞬歩でやってきた山本総隊長に首根を掴まれて、ぼて、と雀部さんの前に置かれた。

 

 えっと。

 

「百年浪人──特筆すべきは究極の器用貧乏であることだけでなく、数多の虚との邂逅において逃げ、生き延びたことでもある。長次郎、おぬしは落雷の精密な操作の訓練を、滑川は回避の訓練をするが良い」

「あぁ、いえぇ、僕この結界の操作で疲れていましてぇ、ねぇ?」

「なに、瞬歩に霊力は使うまい」

「ご安心を、滑川君。細心の注意を払います故」

 

 雷は……嫌だ、ね?

 からまぁ逃げるけど、どこまで回避していいものなのか、な? 評価軸がわからないと平均以下の取りようがないんだけれど。

 

「あぁ、えっとぉ……山本総隊長、始解って……してもいいものですかぁ?」

「無論。……言われてみれば、おぬしの始解を見たことがないの」

「ええ、まぁ、見せる機会もほぼ無いのでぇ」

 

 久方振りに斬魄刀を抜く。解号は言わなければならない。卍解の習得段階は実は解号の有無では決まらないんだけど、それでも指針の一つになりつつあるから。

 

「均せ、野箆坊(のっぺらぼう)」

 

 解放と同時に刃の形が変化する。長さは脇差くらいに。刀身は丸みを帯びて、刃は潰れ、武器として役に立たない……っていうか、左官作業に使うコテみたいな形に。

 僕の前線に出たくない欲をこれでもかと体現した素晴らしい斬魄刀である。なお変化はこれだけだ。

 

「……それが、君の始解か。……その、なんと言えば良いか」

「刃を潰し、刀身を減らし……。これは、成程、戦闘に向かぬというのも納得がいくのぅ」

「しかし、このために始解をしたというからには、鬼道系の能力があると見ました。こちらも相応の敬意を持ってお相手させていただくことにしましょう」

 

 ゆらゆらと……重心も体幹も存在しないのではないかと思われるほど、風に揺られる柳の葉のように立ち上がる。

 

「──始め」

 

 雷撃。兆候なんてほぼ存在しないソレを、ふらりふわりと避ける。

 

「む……!」

 

 続けて二連。さらに逃げ先に一撃。

 けれど関係ない。倒木よりも掻き分けられる空気に飲まれて回避する落ち葉のように。吹けば飛ぶような軽さで、暖簾に腕押しを体現する。

 

「ほう。……霊圧の兆候を感知しておるのかの?」

「いえぇ……鬼道系の斬魄刀は、言ってしまえば詠唱の無い鬼道を人体でない部分から放出しているようなものなのでぇ、鬼道を避ける時とおんなぁじやり方を使えばぁ、割と簡単に避けられると言いますかぁ」

「鬼道の避け方とな。そんなものが体系化されていると?」

「あぁ、書物としてある、ってわけじゃないですけどねぇ。こういう破道系の鬼道は霊子を統御するための滑走路を無意識に作っているのでぇ、その照射先から逃げればいいだけと言いますかぁ。縛道系はまた違うんですけど、ね?」

 

 大気中に満ちた霊子に対し、普通に力を込めて放出するだけだと、拡散しやすい。火の玉を発射する、なんて言ったって、火を火の玉として形成し、それが術者の手を離れても火の玉でありつづけるようにするためには、無意識領域が予め作った霊子の通り道に火の玉を流し、その抵抗の薄さを用いて維持する、という手法を取る必要がある。

 超近距離で使われる鬼道系であれば話はまた別なんだけど、少なくともこういう完全遠距離系の鬼道は必ずそういう「霊子を整えた道」が存在するため、避けるのは簡単なのである。

 

 ゆらゆらとしているのは僕独自の歩法だ。一応名前は『滑歩(かっぽ)』にしている。瞬歩は疲れすぎるので、基本こっちを使う。隠密機動の歩法にも似ているけれど、その場からはそこまでの距離を移動しないので間違われることも少ないと思う。独自歩法を編み出すのは転生者の嗜み。

 参考にしたのはペッシェ君。あのヌメヌメには無限の可能性がある、よ。知らないけど。

 

「物理現象として、雷の速度はそれ以上上がらないわけだからぁ、完全に同時撃ちしたものを除外してぇ、必ず安全地帯の軌跡のようなものが出来上がるわけでぇ。あとは歩法でそこに滑り込めばぁ、遠距離鬼道系は完封できると思いますよぉ。……あ、刀で攻撃されるとぉ、この言葉ぜぇんぶ無かったことになるんですけどねぇ?」

 

 原理としては霊絡の視認と同じだ。

 この世に溢れた霊子。それの感知。つまり、現世で言うところの酸素原子や二酸化炭素分子なんかを視認できる、ということに近い。現世は霊子が薄いからアレだけど、尸魂界と虚圏においては霊子の動きが全てを教えてくれるといって過言ではなく、それによって形作られる鬼道・鬼道系の斬魄刀も多分に漏れない。

 

 ──半歩下がる。

 その、寸前まで僕がいたところを掠めていくは、業火の斬撃。

 

「なんですかぁ、総隊長。危ないじゃないですかぁ」

「ほう、言葉に偽りは無いらしい。──これよりは儂も放出に限って参加しよう。滑川、おぬしの言う理論がどこまで通ずるか、見せてみよ」

「……いやだからぁ、僕疲れてて……」

「笑止。戦場において疲弊は言い訳にはならん。長次郎、おぬしも加減は忘れよ。遠隔鬼道系の斬魄刀の一切が効かぬと豪語する童(わっぱ)に、目に物を見せてやれぃ」

「は。心を鬼にして事に当たります」

 

 そんな豪語した覚えが無いんだけどぉ?

 ──六本同時。四方の逃げ道が封じられていて、水平方向と上空に対して炎が来ている。

 いきなり逃げ場全部潰してくるのはぁ、酷すぎるというかぁ。

 

「破道の十二・伏火。縛道の四・這縄」

 

 歩法で逃げ切れる全ルートを潰されたので、蜘蛛の巣状に飛ばした霊力線に牽引効果のある縛道を絡め、自分を引っ張り上げる。

 間一髪のところで逃げ切った包囲網に安堵したのも束の間、自身を貫く滑走路と照準が無数に生成されたことを受け、破道の二・突と縛道の十九・滄抵蝋で「まるで攻撃がクリーンヒットして弾かれ、動かなくなった」みたいな挙動をする分身を作り出し、縛道の二十六・曲光と破道の五・赤陽、破道の六・黄麗、破道の七・蒼槍の同座標並行発動で作り出した霊子の乱流を用い、安全地帯を作りつつ二人の向いているスペースから距離を取る。

 鬼道の低い番台は霊力をそのまま、ないしは元素をそのまま操る術がほとんどであるため、こういう荒業による防御手段がいくらでもある。

 

 ──ふらりと一歩を踏み出し、つんのめるように頭を下げる。

 そこを、総隊長の刀が通りすぎた。……あ、まず。通り過ぎる前に頭を戻し、流刃若火の腹にバックヘッドバットをかます。

 

「ほう。やはり、鬼道しか避けられぬ、というのは偽りか、滑川」

「あつぅいあつぅい。……まぁ、はい。そうです、よ。込められている霊圧が高ければ高いほど、鬼道と同じ原理で避けることができまぁす」

「──今日はこれで終いにしてやるが、あまり儂らに偽りを見せるでないぞ。……それと、鬼道の避け方、あるいはその回避方法の封じ手についての指南書のため、筆を執れ。虚の虚閃も鬼道といえば鬼道。これを読むことで、霊術院の者達から少しでも被害を失くせるのならば儲けもの」

「それと、君の歩法についても指南書の形で纏めてもらいましょう。君と同じように斬魄刀が戦闘系でない死神は数多くいる。その寄る辺になり得ます」

 

 名前が……残るのは、よろしくないんじゃ。

 しかもそれって真央霊術院の教本にするってことで、しょ? うわぁ、嫌だなぁ、雛森ちゃんとかが弟子入りしてきたらどうしよう。真面目な子で面倒臭いっていうのもあるけど、間接的にオサレの伝道師との繋がりができちゃうのはbadでは……。

 ……せめていつもの潰れた字にして、原作は僕でも訳が有名人な感じに……それこそ雀部さんとかになればいいなぁ、みたいな、ね?

 

 まぁ、死亡率が下がるのは良い話だ。それだけ忙しさが減るのだから、ね。

 

「しかし……終ぞ君の始解の能力はわかりませんでしたね」

「まぁ、簡単に言うとぉ、霊圧知覚と霊子知覚能力の著しい向上ってところですかねぇ。普段の僕はあんなに鬼道を避けることはできないしぃ、同じく剣を避けることもできませんよぉ」

「それは、"範囲"か? "精度"か?」

「一応、どちらもですねぇ。範囲は天相従臨と同じくらいの範囲でぇ、精度は精密機械と同等ほどになりますよぉ。実は黒腔を作る時も時々始解してましたぁ。じゃないと装置なしに黒腔を開くのは厳しかったでしょうねぇ」

 

 嘘である。僕の始解はそういう能力じゃない。

 ……解号と斬魄刀の名前は言霊である。だから雀部さんも総隊長も気付いているはずだ。そういう能力も確かにあるのやもしれないが、それが本質ではないだろう、ということくらい。

 けれど、同時に……これを含めて、僕が色々隠したがりである、というのは伝わってくれたと思う。その理解の有無で今後の人生色々変わりますからね、はい。

 

 ……とか。

 舐め腐ったことを考えていたのが悪かったのかもしれない。

 

「長次郎、『全力部屋』の外に出ておれ」

「は。──滑川君。君に、一つ助言をしておきます。ことこれほどまでに秘匿された空間においてまで元柳斎殿へ隠し事をしようという姿勢は、その裡に企て有と見做されておかしくありません。全てを見せなさい。それでは、努(ゆめ)、精進を怠らないように」

 

 いやぁな予感。雀部さんが退室したことを皮切りに、この部屋の室温が急激なまでに上がり始める。

 

「汗の一つも滲まぬか。もしその斬魄刀の能力が真に霊圧知覚の向上を能うというのなら、儂が放つ霊圧の前に地へ伏し倒れて然るべきであろう」

「いやぁ、まぁ、二年の虚圏でぇ、総隊長の霊圧には慣れましたからねぇ」

「儂の怒気も殺気も、届いておらぬわけではあるまい。それでいて、よくもまぁ囀り、ほざく。滑川──さて、おぬしはその胸の裡に、何を潜ませている」

 

 音が、結ぶ。

 

「──卍解」

 

 今まで激しく荒れ狂っていた炎。その一切が消える。

 跡形もなく。あるいは、影もなく。

 

 残されたのは……燃え尽きた浅打としか表現できないものだけ。

 

「残火の太刀」

「いやだなぁ、総隊長。鬼道衆を相手に、十九席を相手に卍解だなんて。そんなものを使われたら僕、消し飛んでしまいますよ、ね?」

「囀る言の葉には芯もなく、紡ぎ出す意味さえ真とは言えぬ。滑川──何を隠す。何を恐れる。何を秘し抱けば、そうなる」

 

 眼球を斬るようなコースの斬撃を回避する。これ、普通の人だったら避けられたとしても眼球の水分蒸発コースなんじゃないかな。

 振り下ろし、からの逆袈裟。山本総隊長の剣は素直だ。片手で扱う日本刀というトリッキーさはあれど、奇襲や不意打ちが少ない。無いわけではないのは戦場に長くいたから、かな。

 

「む!」

 

 故に、後ろに倒れながらのハイキックで肘を狙う、とか。

 膝を折り曲げ、足首を回して手首を狙い、無理な方向に逸らさせる、とか。

 ソードブレイク、そして剣vs拳の基本戦術──握力に対してダメージを与える攻撃、みたいなのが結構効く。

 

「足技……斬拳走鬼の鬼以外を母の胎へと置いてきたと噂されておったが、これは」

「まぁ、こんな技術、虚にはなぁんの効果もありませんから、ね」

 

 そう、死神の技術とは究極虚を斬るための技術である。基本的に巨躯。基本的に人体構造を無視した存在に対しての技ばかりであり、対人特化の死神、というのは隠密機動くらいのもの。

 巨大な虚を相手にするなら巨大な剣が有効だ。特異な能力を有する虚には同じく特異な能力を有する斬魄刀で攻めるべきだ。

 けれど、何も持たない人間相手には、大は小を兼ねる理論を用いた鏖殺くらいしか手札が無い。

 

「霊子で構成されている死神ですけれどぉ、普通に、人体と同じ弱点がわんさかありますから、ね」

 

 蹴りが山本総隊長の手首の骨を掠める。

 ──たったそれだけで、眉の皺を深める総隊長。

 

「尺骨突起に衝撃。正中神経の麻痺。手根関節の歪み」

 

 足技を弄して狙い続けるは、ひたすらに右手。胴体への攻撃の一切を捨てて行う連続攻撃。

 当たれば即死の剣はゆらゆらと避け、時折刀身を掌で往なし、押し出し、あるいは引っ張ってズラす。

 

「おぬし……なにゆえ火傷一つ負わぬ。この儂の太刀を、まるで棒切れ同然に……」

「まぁ、だからぁ、お察しの通りですよぉ。──僕の斬魄刀の能力は、至ってシンプルなんです。即ち──」

 

 野箆坊。その能力は──持ち主における全状態異常の無効化。

 鬼道系の全てを封殺し、直接攻撃系の全てに負ける、完全特化型の斬魄刀。

 

「故に、野箆坊。表情変化を求めないでくださぁい。あ、霊圧知覚や霊子知覚に関してはぁ、まぁ、素の能力ですよぉ」

 

 僕は火傷を負わない。僕は渇水に陥らない。僕は脱水状態にならないし、酸欠にもならない。

 斬魄刀から発せられた状態異常であるかどうか、というのを区別しない。僕に起こる状態異常は全て無効化される。

 故に避け続け、故に無力化をし続ける限り──僕に死が訪れることは、無い。

 

「──否。すべての斬魄刀の能力は、霊圧によって上下関係を変える。儂の炎が届かぬということは」

「それはぁ、一概には言えないかなぁ? 斬魄刀と虚の能力にはぁ、明確に相性がありますよぉ。物質世界の相転移だけでは説明のつかなぁい相性が。呪い系や認識支配系は霊圧で封殺できますけれどぉ、こういう特化型は何物にも遮られない強みがある。なんというかぁ、恐らく総合力のような数値が存在してぇ、戦闘行動や鬼道の複雑さといった項目に割り振りが行われている印象を受けます、ね。そこに縛りやできないことがあればあるほど、求める能力が純化されて強くなる感じぃかなぁ」

 

 野箆坊は攻撃能力の一切を捨てている。始解も、卍解も。

 故に状態異常無効化能力に極めて優れる。山本総隊長の炎熱も──オサレの伝道師の催眠も。

 

「あとは、ここ」

 

 詰めに、今までの攻撃速度の七倍ほどの速度で蹴りを繰り出し、総隊長の腕の真ん中、総指伸筋に強い衝撃を与えれば。

 

「カ……」

 

 からぁん、ではなく、地面をどかんと焼滅させながら落ちる残火の太刀。

 

「刃を使うことのない人体破壊ならぁ、僕に一日の長があるかなぁ、なぁんて。……無論ですけど、左手を使われたらまた同じだけの時間をかけて無力化しないといけないしぃ、戦いながら回道を使える人には片方を休ませている間に片方で戦うとかされてしまいますからぁ、やっぱり斬拳走鬼の評価項目では評価されないんですよ、ね」

 

 それに、破壊とは名ばかりで、要は疲れさせる程度の力しかない。

 大事な時に剣を取り落とすかもしれない、というだけで十二分のリターンではあるけれど、格上相手に毎回これをやるのはリスクリターンが釣り合わない。

 

 護身用、対人特化、短期決戦用、味方に強い人がいて、その人のための時間稼ぎをする専用……って感じの体術。

 そりゃぁ、虚を倒すための統学院で評価されるわけもなし。

 

「成程……統学院の評価条目その全て。一より改めねばならぬようじゃな」

「いやぁ、どうでしょう、ね。これができるからといってなんだという話ではありますし」

「──ならば、試してみるとしよう。我が到達し得る最高の熱。それが果たして、真におぬしの肌を焼かぬかどうか」

 

 音が消える。黒炭が赤熱する。

 迅い。目では追い切れるけど身体が追いつかない。

 

 熱──久しく感じていなかった温度変化による痛みを感じた、その瞬間。

 

「卍解」

 

 本気で首を断ち切るコースだったそれを止める。

 

「彼方此方能面野箆坊(あちらもこちらものっぺりのっぺら)──」

「……やはり至っておったか。……儂の卍解が解けたわけではない。だというのに、浅打に戻っているようにみえる。この卍解の真髄は如何にか」

 

 僕の首に突きつけられているのは──白銀色の刃。つまるところの、浅打。

 焼け焦げた太刀、ではない。

 

「彼方此方能面野箆坊……僕の卍解は、四方三里における霊子状態の異常を封殺し、通常通りに振る舞わせます。簡単に言えば、特異な能力の全てを封じ、この卍解の影響下にある存在は、僕を含めて素の斬拳走で戦わなくてはならない、ということです」

「どこまでも……おぬしが強くなければ意味がない能力。卍解に至っては味方の妨害にさえなる、と」

「ええ。僕を戦場に出す理由がないと、わかってくれましたか、ね」

 

 ちなみに始解状態だと回道も無効化する。曲光は霊圧のカーテンを纏っているだけだから関係ないけど、僕自身を透明化する、みたいな鬼道・能力は味方からのものであっても無効。チーム戦に向かない能力である。大好き。

 また、封じるのは霊子状態の異常でしかない。そのため虚の膂力や最初から伸びる舌、みたいなのは一切防げない上味方の特殊能力のすべてを封じてしまうため、まぁ無能力虚を浅打で倒せますか、という話になってくるよ、ね。

 未来の零番隊さんならともかくとして、僕らには厳しい、と。

 

「とはいえ、悪事を企てるあらゆる者に対して鬼札になるのも事実。使いどころは、総隊長に任せます、よ」

「ふむ……正しく懐刀。やはり一番隊に招聘したことに間違いは無かったようじゃな」

 

 総隊長が残火の太刀を引いて、卍解を解除する。

 僕も卍解を解除すれば──。

 

「改めて感じてみれば、この空間自体、おぬしの卍解能力の応用か」

「ええ、鬼道系である以上は鬼道で再現できるだろうと、寄せてみました、よ。粗は目立ちますから、今後も改良・整備していくつもりですけど、ね」

「卍解も始解も封じられた状態での戦闘。想定として、あるやもしれぬ戦いであるのならば、有用であろう」

 

 ……そうですねぇ。

 あなたが卍解を奪われて尚強ければ。

 あるいは──そういう未来にも、手を出せるのかなぁ、なんて。

 

 

 ──この修練の翌週。

 僕の昇格が決定した。十九席から──七席へ。大抜擢がすぎるよぉ。

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