卍解までは転生者の嗜み。   作:点差惨敗

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13.念願成就

星の浮かぶ空

命の浮かぶ海

屍の浮かぶ陸

 


 

 調査記録から敵の正体が判明&制定された。

 まず、虚。

 

「大蛇のような虚の名は、『バヴァ・アナンタ』。自らそう名乗っていたそうじゃな」

「ああ、そうだ。そんでもって妙な事を言っていた。──俺こそが最初の人造中級大虚(アジューカス)だ、ってな」

「中級大虚(アジューカス)。……大虚の詳細な区分か」

 

 中級大虚(アジューカス)。それを……虚自らが名乗った、か。

 どうなっている、本当に。……こんな早くから、いたものなのか。しかも……そこまでの知性を持つ虚が。

 

「『バヴァ・アナンタ』は攻撃を受けると攻撃者の霊圧を解析・模倣し、短時間だけ保つ死神の模倣体を生み出す。この模倣体は十分と保たないが、始解、並びに卍解まで使用してくる。無論攻撃者が卍解を習得していれば、じゃが」

「じゃあ……どうやって倒すんだ」

「一度の攻撃で全てを消し飛ばしてやればよいようじゃな。鋸歯文」

「ハァイ。エエ、その通り。単体攻撃では攻撃されていないところからサイセイし、模倣体の生産をしてしまうようですが、総隊長の炎、尾花さんの獄炎などで全体を消し飛ばしてしまえば、模倣体を作る暇もなく消滅するようで」

「……もう倒した虚の話をなんでしてんだい。そいつは強かったのかもしれないが、終わったんなら時間を使うことでもないだろ」

「二体目が観測されたのデスよ。いいえ、四体目というべきでしょうか」

「な……」

 

 そう、今度は斥候として向かった隠密機動……刑軍の死神たちが、別々の場所で三体の『バヴァ・アナンタ』を観測している。

 交戦することなく戻ってきた彼らであるため大事は無いけど、成程人造虚。元手さえあればいくらでも作れるということだろうか。

 

「とはいえ巨大な虚にはそれだけの共食いが必要じゃ。最上級大虚(ヴァストローデ)などには図体の大きさはあてにならぬというが、その話は別とする。……暫定として、元十番隊三良坂二十席の引き起こした『魂魄模倣事件』における、大量の虚の供給元をこの『バヴァ・アナンタ』の製作者と同一として見る。なお、この暫定は、『バヴァ・アナンタ』ほどの巨体を生み出す・維持するのには無数の虚が必要になるはずであるというところに起因するものであり、確定事項ではないことを留意せよ」

 

 綱彌代家だけが巨悪、元凶、というようなイメージがあったけど、どうして綱彌代家が大量の虚なんてものを用意できたか、についてはあまり考えていなかった。

 恐らくだけど──もう、いる。

 鰤世界における、虚側のさまざまな事件の元凶──変態錬金術師が。

 

 確か彼は生前そういう職に就いていて、沢山の命を奪い、その恨みで殺されてうんぬんかんぬん。

 十一世紀から十二世紀、十三世紀と……まさに錬金術師が活躍していた時代だ。

 その彼が死して虚となり、確かお兄さんを食べてうんたらかんたら。

 

 考えてみれば、この一連の事件は彼の能力と密接にかかわっている気がする。こういう虚・死神を相手にしてその能力を解析、ないしは取り込んできた可能性がある。アルルエリ君の喰虚じゃないけど、ね。

 これが実験の一環であり、そのための協力者が綱彌代家、というのは……大いにあり得る気がしてきてしまっている。

 そしてそうなってくると、綱彌代家の狙いが気になる。もしや霊王の欠片が既にどこかにあって、それを探すための利害の一致、とか。

 可能性としてありそうなのは、鹿取さんだろうか。

 日本刀なんか存在自体無かったはずの倭国から受け継いでいるらしい妖刀「抜雲」。これはなんかありそう……じゃない?

 逆骨さんや善定寺さんも何か受け継いでそうではあるよなぁとか考えたり。特に逆骨さんはミミハギ様と関連しそうなわけで。

 霊王の欠片の回収、ってさ。

 殺すのかな。

 

「次に、僧兵。これの戦闘能力は気にするほどでもないが、槍を投擲してくる。また、全ての個体が視界を共有している可能性が高い、とのことじゃ」

「鬱陶しいが、特段気にするべき相手には感じなかった。あのヒトガタと大して変わらねえ役割……監視や観測のための看守って感じだな」

「ならばそれは、隊長格以外が的確に対処すればよさそうだね」

「うむ」

「カカカ、雑兵の話はどうでもよい。──山本。どのようにして死神が二十席と虚が取引をするに至ったか、というのは、どう睨んでいる?」

 

 逆骨さんが問いをかける。

 核心を突く問いだ。それは。

 

「手引きをした者がいるのじゃろう。じゃが、それがどこの誰であるか、というのは言(・)え(・)ぬ(・)」

 

 わからぬ、ではなく。

 言えない。

 その一言で、この場にいる全員が全てを理解したらしかった。

 

「なら、どうする気じゃ。カカカ……内通者の元を断てぬのならば、さて、山本。貴様は如何とする」

「虚を撃滅する。これしかあるまい」

「カカカッ! 己が背を狙う毒矢に気付いていながら、前を向かねばならぬか。……ここ最近で標的とされた四楓院と王途川も、関連性を疑ってしまうなぁ」

「不用意な発言は止せ、逆骨の大翁。四楓院の怪我は滅却師に因るものじゃ。……王途川については、狙われたも同然じゃが」

「というより、その理屈でいうならあちきが狙われない理由がないだろう」

「なんじゃ、カカ、儂ともあろうものが気を遣ぉてやったというのに、自ら明かすのか。……それと、貴様が狙われん理由は簡単であろう。発言力、あるのか?」

「ぐっ……無いに等しい、けど」

 

 齋藤何某。

 もし綱彌代家がそういう……「他の五大貴族を失脚させるため」にやっているのだとすれば、朽木の現当主を狙う必要はない、という結論になるのは理解できなくもない。

 ただ、四楓院さんが……四楓院千日さんが怪我によってドロップアウトしようが、変わらず二番隊は四楓院家が務めるし、仮にあれで千日さんが亡くなっていたとしても、四楓院家の力を削げるか、というと微妙な気がする。王途川家もそうだ。

 この両家はそれぞれに特化した役割を持っている。綱彌代家がそうであるように。志波家と朽木家は、言ってしまえば没落しても然したる問題が無い……瀞霊廷の機能としての問題が生じないけれど、四楓院家、王途川家、綱彌代家はそうではない。

 だからそこを狙うことをメインターゲットにするかと言ったら微妙だ。ただし、他の目的のサブ目的で、ということは大いにあり得ると思う。

 

「なんにせよ、バヴァ・アナンタを作っている虚とやらを殺しちまえば終わりだろう。バヴァ・アナンタは生産できなくなり、内通者だかなんだかも思うように動けなくなる」

「じゃからその殺しに際して毒矢が背に刺さるやもしれんという話をしておるぞ、尾花の」

「なんだ、逆骨の爺。背後から吹き付けられた毒矢程度を切り捨てることもできねェくらい老いたか? ハ、俺達は護廷十三隊だろう。身内に裏切り者がいた程度のことでその歩みが止まるのか?」

「おめぇの根性論は聞き飽きたぜ、尾花。実際に被害が出たからこうして話してんだろ」

「それで言うなら俺も、お前の臆病風にはほとほと呆れたぜ。慎重なのは良いが、歩みを止めちまうのだけはいけねェな」

 

 騒がしくなってきた隊首室。

 そこに、ゴン、と。山本総隊長の杖が突きつけられた。

 

「静かにせよ。……事態を鑑みて、これより精鋭部隊を結集する。目標はバヴァ・アナンタの撃滅及び生産元である虚の撃滅。この結集にあたり、隊士一人一人に特殊な精神鑑定をかける。内通者を洗うためじゃ」

「それ以外は、尸魂界で不(・)穏(・)な(・)動きが無いかの監視、かの」

「そうじゃ。さらに鬼道衆の力を借り、『隔界結柱(かっかいけっちゅう)』というものを敷いてもらう。仔細は精鋭部隊に結集された者のみに伝えよう」

 

 隔界結柱。まだ試作段階だから、精神鑑定とやらを終えるまでに完成させきらないと。

 ……前回の圧縮砲塔はつまり、あの犠牲鬼道の経路に流刃若火を流(・)し(・)込(・)む(・)ことで圧縮を……流入量を爆上げして勢いを増す鬼道版ベルヌーイの法則をやったわけだけど、あれは黒腔の長さに依存しすぎるので安定しない。

 だからこっちはつまり、長さを関係なくするための仕込み、だ。

 

 そうして隊首会は解散の運びになる。

 ……考えることばかりだ。けれど。

 

 少しだけ、預けさせてもらおう。

 

 

 決行の日である。

 精鋭部隊。その中に、僕はいた。

 内訳は、以下の通り。

 一番隊は不参加。

 二番隊から第一分隊・刑軍より斥候及び尖兵を務める五名。名前は教えてくれなかった、というか、故意につけられなかった五人らしい。刑軍怖いよね、色々……。

 三番隊よりは、今回の任務に必要な鬼道を唯一扱えるという四席の人のみが参加。

 五番隊からは隊長、副隊長、精鋭隊士六名の計八名。

 六、七番隊は不参加。瀞霊廷の警邏にあたる。

 八番隊からは隊長、副隊長、精鋭隊士六名の計八名。五番隊と大体同じ構成。

 九番隊は流魂街周辺の警邏を、十番隊は隊長不在であるため伝達に齟齬が生まれる可能性を考えて不参加。また、意外なことに──というか精神鑑定から団体行動に向かないと判断され、十一番隊も不参加である。それでいいのか組織。

 十二番隊、十三番隊は不参加ではあるが、もしもの時のバックアップとして待機。

 鬼道衆からは大鬼道長、副鬼道長共に待機……というか、大鬼道長が乗っ取り対策を仕上げてくれたので、この二人に黒腔を開いてもらう次第になったわけだ。

 ……そして、四番隊からは二人の隊士と……四楓院さんが出る。

 

 この、合計人数二十六人で、今回の事件に取り組む次第である。

 

 精鋭部隊は『実行隊』に名を改め、鹿取さんが特に主張をしなかったため、隊長は尾花さんということになった。

 僕が行く理由は探知ね。五十里の円形範囲を精密探査できる、というのが大きいとのことで。

 

「それでは、開きますよ。──佑(たす)かば並べ、異界の境紋。十つを縦に、八つを平たに。宿世の妙旧業(くごう)の罪。過去不可得の理を脅かすもの」

「佐(たす)かば揃え、異条の銀刃。一つを横に、三つを奥に。而今の灯、新業の懺。当下不可得の定を打ち砕くもの」

「いざ尽未来際の道を作れ! 黒代過客(こくたいかかく)・撥腔瞻風(はっくうせんぷう)」

 

 開く。上下に開く空間の孔。グネグネ、ウネウネとした内部。

 

「行くぜぇ! あ、一尺八寸、自分の任務忘れんなよ!」

「わかっているわ。それでは行きましょ、滑川君」

「はぁい」

 

 続々と進む面々の、最後尾で、僕と一尺八寸さんが行く。

 その。黒腔に入る、直前で。

 

「ナメカワ」

「……はぁい?」

「進退窮まった時は、君が、やるべきだと感じたことをやりなさい。ワタシたちは、その尻拭いができるくらいの力を有していますよ」

「……。……はい。ありがとうございます」

 

 さて、行こうか。

 

 

 黒腔内部に"いくつかの仕込み"をして、虚圏に入る。

 そこでは既に戦闘が始まっていた。バヴァ・アナンタ、ではない。普通の虚だ。

 

 思ったよりも高空に繋がったので、そのままもう少し高いところに行って、感知機材を並べていく。

 また『霊比集石』の底部に取り付けられた鬼道の紐──這縄亜種──が地上に下ろされている。こうすることで、いちいち機材を片付け・出してをせずとも超広域を観測し続けられるわけだ。

 一尺八寸さんは変わらず僕の護衛。

 

「──春の木馬、夏の洞窟、秋の誘惑、冬の大弓。焔(ほむら)裂いて滞とどまり、雷(いかずち)踊りて騒げ。縛道の五十九・把鉤狩獅(はこうしゅし)。続けて、喜びの盗っ人、怒りの百目鬼、哀れな案内人、楽(ごう)ずる夢想者。大地轟きて飛び立ち、雪積もりて護れ。縛道の五十七・執蹄獲舟(しっていかくしゅう)」

 

 完全詠唱でソナー鬼道を使いつつ、伝令神機の元となっているのだろう鬼道、縛道の五十七・執蹄獲舟(しっていかくしゅう)を使い、三番隊第四席の多紀(たき)さんに繋げる。

 

「《聞こえますかぁ?》」

「《あぁ、問題ない。繋げたままでも大丈夫だ。必要霊力を削減してくれてあるおかげで、私でも十時間以上は繋げていられる》」

「《それは良かったです》」

 

 同じ鬼道を使う者同士でしか通信できないけど、天挺空羅みたいに霊力ドカ喰い鬼道じゃないので繋げっぱなしにできる。

 これをこの音質・安定度で使える人が一人は必要だったんだけど、五十番台の鬼道というそこそこな難度をしているせいで該当者が少なかった。唯一の該当者がこの人だった、と。

 

 ……始解する。その上で、もう少し広げる。七十五。百。百五十。三百……。

 目を瞑っているから、世界にはまるで僕だけしかいないんじゃないかってくらいの感覚……全能感に近いものが湧きかけるけど、全て均されて。

 

「《す……凄いな。情報の処理は君がやっているのだろう? この距離……この範囲を、人間が感知し得るものなのか》」

「《え。……あ、なんか……伝わっていましたかぁ?》」

「《ああ、故意ではないのか。……君が処理し終えた情報が、なんと言えば良いか、脳裏に幻影として浮かんできた。この周囲に何があるか、それが執蹄獲舟を通じて流れ込んでくる》」

 

 ……知らなかった。そんな副作用があったのか。

 まぁ……有用、か? つまりあれか、伝令神機の画面表示はそれでやっているのかも。

 

「《もし続けてくれるのであれば、尾花隊長には私が言葉を伝えるが、どうする》」

「《その仕組みで行きましょうかぁ。僕は徹底して周囲の感知をしますねぇ》」

「《ああ、頼んだ》」

 

 ……なんだろうな。

 一度……頼ったからか。

 こうやってお願いするのさえ、ちょっと楽になった気がする。今は始解しているから本当のところはわからないけど……。

 

 深呼吸をする。

 

「一尺八寸さん。今から……避けて、とか。防いで、とか。全ての指示が聞こえなくなりますけどぉ、任せても……良いですかぁ?」

「勿論よぉ。私はそのためにいるんだもの。君への攻撃は、一切を通さないわ」

 

 任せる。任せよう。

 たとえ彼女が怪我をしても……気付けなくなるけれど。

 それでも、今は敵を感知することの方が大切だと思うから。

 

 もう一度、深呼吸をして。

 目を、瞑る。

 

 三百里。五百里。七百里。千里……。

 周囲、約4,000kmの球形範囲を感知範囲に収める。虚圏という世界を、まるでスノードームでも見下ろすかのように把握する。

 その範囲における──すべて。ありとあらゆるものの動き、大きさ、強さや密度を波として捉え、処理ではなく映像だけを多紀さんの脳裏に流し込む。

 

 地中にいる虚。虎視眈々と狙っているモノも、勝てないことを悟って逃げているモノも。

 遠くにいる巨大な虚。しかし霊子密度的にハリボテだ。その近くにいるワニのような虚。小型だけど密度が高い。強敵の可能性あり。

 そして……いた。これがバヴァ・アナンタか。霊子密度はそこまで高くないが、確かに長大だ。それが、四……五、六、七……十体いる。しかし、これが中級大虚(アジューカス)? 正直嘘吐け、って密度だけど。

 それと。それと。それと。

 

 い・た。

 ──異常を感知したのか、おもむろに顔を上げる彼に──わざと、目を、合わせる。

 見つけたぞ。

 

「《こいつか! 人型にほど近い虚だな!》」

「《……》」

「《ああ!》」

 

 言語を吐き出す能力も感知範囲に使っているから、面倒なので映像の形で「気を付けてください。霊子密度が他の虚の比じゃない」ということを伝えた。

 あとは……範囲を縮小し、決して逃がさないように見つめ続ける。無論バヴァ・アナンタなどを検知しておくのは忘れないけれど。

 

「……ふぅ」

「凄い集中力ね。本当に音が聞こえていなかったわ」

「……お怪我は」

「掠り傷程度よ、大丈夫」

 

 そう言って右手を隠す一尺八寸さん。

 じゅるり、と滑歩で背後を取る。

 

「きゃ!?」

「いやあのぉ、強がりとか、気を遣って、とかじゃなくてぇ。あなたは僕の護衛なんですからぁ、怪我をしたら言ってください、ね? いざという時に怪我が、とか……笑えないんでぇ」

「う……ごめんなさい。右腕に何か、酸のようなものを食らってしまったわ」

「……これくらいなら、僕の回道でも大丈夫ですねぇ。大けがの場合はすぐに四番隊に言ってください、ね? 彼らはそのためにいるんですか、ら」

「ぬぐ……そうね。そのためにいる、かぁ。私が……吐いた言葉、だものねぇ」

 

 部隊というのは「機能」だ。

 心情や感情を挟まなければ、「機能不全」に陥った、陥りかけているパーツがあれば、修復するのは当然だろう。

 それを隠して、どこかのタイミングで全部が崩壊、とか……目も当てられないし。

 

「……とりあえず、一息は吐きました。僕らは戦闘には参加しませんからぁ、しばらくは待機、ですねぇ」

「周辺探知はしているのかしらぁ?」

「ええ、言語とは別軸に働かせているのでぇ、問題ないです、よ」

「さすが鬼道衆、と言ったところかしらねぇ」

 

 ……別に関係ないと思うけど。

 あ、いや。だから。

 

「鬼道、苦手なんです、か?」

「……ええ。自分から離れた霊子を扱う、っていう感覚がわからなくて」

 

 降妖宝杖、だったか。彼女の始解は。

 言ってしまえば武器が伸びるだけの始解。強度も上がっているっぽいけど。

 鬼道系にはとことん疎い、って感じかな。

 

「はい、治療終わりましたぁ」

「ありがと。……あなたは、凄いわよね」

「はい? いきなりなんですかぁ?」

「三番隊の厳原隊長とよく組手をしているんでしょう? 美津島ちゃんと仲が良いから、そこそこ話を聞くのよぉ。斬魄刀戦闘以外は隊長格に負けず劣らずな七席のお話」

 

 ……いやぁ? あれは組手っていう枠組み内部だからどうにかなっているだけで、真剣勝負になったら全敗も良いところだと思うけれど。

 僕の人体破壊術は現世……っていうか前世の現代基準だ。霊子も無ければ刃物を持っている奴もいない。そんな世界の独学格闘技が本気の戦闘で使えるものか。

 まぁ、言いたいのはそこじゃないだろうから、話を合わせるけれど。

 

「なんだか過分な評価を頂いています、ね」

「白打がそれほどできて、鬼道衆においては神童、天才なんて言われていて、新しい瞬歩……滑歩の開発者で。そこまでできるならぁ、斬魄刀戦闘なんて不要よ、不要」

「……うぅん。順序が逆、なんですよねぇ」

「逆?」

「斬魄刀戦闘が欠片もできなかったから、必死でその穴を埋めた、というだけですよぉ。僕は……統学院時代の死神ですから、ね。速力も鬼道も評価されない、単純な斬魄刀戦闘と激しい乱打の白打が評価されるあの時代においてはぁ、如何に他で穴を埋めるか、が大事だったのでぇ」

「ああ……そっか。確かに、私も在院中に『百年浪人』先輩の噂は聞いたことがあったかもねぇ。一部じゃ卒業しないためにわざと斬魄刀戦闘の成績を落している、なんて言われているのを聞いたこともあったっけ」

 

 ギク。

 ソ……ソンナコトハナカッタデスヨ。

 

「でも……滑川君の仕事ぶりを見る限り、それは根も葉もない噂だったのねぇ」

「そ……そう、オモイマス、かぁ?」

「だってあなた真面目だし、仕事中毒ってくらい仕事してたんでしょう? 今は研究所? だっけ。それの所長になって落ち着いたらしいけど、一時期噂になっていたわよぉ。『不眠の七席』とか『仕事をすることで気力を回復している怪物』とか」

 

 何だその噂は。……っていうか『百年浪人』もだけど、噂するの好きね君達ね。

 ……他にどんな噂があるんだろう。今度、忙しさの関係で年二になっている鬼道勉強会の雑談で聞いてみようかなぁ。

 

「……正面切って、前線で斬った張ったができるのは、羨ましいと思います、よ」

「まぁ……基本は、それに憧れて、死神になるものねぇ」

「攻撃力の高い……始解するだけで戦局を一変できるような能力ならば、とか。夢想したこともあります、ね」

「それは私もだけど……今となっては、おかしな鬼道系とかじゃなく、降妖宝杖で良かったって思っているわ。扱いやすいし、直感的だし。卍解というのには、どうしたら辿り着けるのかわからないけれどねぇ」

 

 そうだよなぁ。同じ悩みを抱えている人はいっぱいいるだろう。まぁ僕はそこに含まれないんだけど。

 むしろ戦闘特化の斬魄刀じゃなくて良かったとさえ思っている。いやまぁ卍解が言ってしまえば「全員を直接攻撃のみしかできないようにする」ものである以上、言ってしまえば戦闘特化の斬魄刀なのやもしれないけど。

 こう……なんだろう、直接他者を傷つけるようなものは、やっぱり僕の精神から出てくるべきじゃない。……人体破壊術がどうのって言っていた奴がなにを、というのはそれはそう。

 

 そういう人たち向けに鬼道を改良して習得難度を下げているのだけど、既に隊士である人達にとっては苦手意識も消えないだろう。

 この層への普及が目下の課題なんだよなぁ。だから……その現状をまざまざと見せつけられて、目標を再確認したというか。

 

 と。……指(・)定(・)ポ(・)イ(・)ン(・)ト(・)に『隔界結柱(かっかいけっちゅう)』の一本目を設置し終えたと、多紀さんから報告が来た。

 よし、じゃああと三本だ。二番隊の人達には苦労をかける。

 

「姐さん! 鬼道衆の方! そろそろ離れすぎるんで、移動します!! 振り落とされないでください!!!」

「ええ、大丈夫よぉ!」

 

 先日王途川さんを無事四番隊に送り届けた鼬野さんがこの拠点に繋がる紐を有している。その彼が爆走を始めると、この拠点も爆走を始める。

 瞬歩……ではない。単純な走力もとんでもないな、彼。

 

「鼬野なんかは、それこそあなたと似ているかもしれないわぁ」

「というと斬拳走鬼のうち、走にだけ長けた存在、ということですかぁ?」

「えぇ、その通り。斬魄刀戦闘、白打、鬼道はそこまででもないけど、厳原隊長の速度に憧れて、霊術院時代一生走っていたんですって。その結果、十一席という席次にもなって、こうして運搬や伝令役として信頼されている。ま、厳原隊長の隊には入れなかったんだけどねぇ」

 

 まぁ、隊士がどこに入るか、っていうのは割と運だからなぁ。

 第三希望くらいまで書いた後、ドラフト形式に取られる、というか。その順番は斬拳走鬼をそれぞれ百点とした四百点満点のランキングという残酷なものなので、何かが激しく劣ると、必然的に希望の隊には行き難くなる。四番隊と十一番隊だけは希望が通りやすいんだけど。

 ドラフトをするのは隊長や副隊長ではなく、人事権を持つその隊の人。一番隊は人事権が山本総隊長にあるから、ドラフト会場に毎度毎度現れる山本総隊長に新人隊士ズは身が引き締まる思いなんだとか。

 僕は鬼道衆からの一番隊入隊なので、それを経験していないから又聞きだけど。

 

 移動が収まる。

 僕らの安全性の問題で、実行隊本体には近付きすぎないように厳命されているのだ。慣性で少し進んでしまうけれど、鼬野君はブレーキまでしっかり考えて爆走していたらしい。丁度いい場所で止まった。

 

 ……さて、ここまで近付けば……色々、できるねぇ?

 

*

 

 一面の砂漠に似つかわしくない真白の建造物。幾つかの角柱を組み合わせてつくられたらしきそこに、ソレはいた。

 ヒトガタにほど近い虚。周囲を暴れまわるバヴァ・アナンタの引(・)き(・)つ(・)け(・)を担う隊士らの無事を祈りつつ、それに相対するは隊長格二人。

 

「……流石死神。風情が無いね」

「オウ、何分無学なもんでな。……で? お前が元凶ってことでいいのか?」

「元凶。それは──君達死神の貴族との繋がりを持ち、幾人かの死神に戦う珍妙不可思議なチカラを分け与えた、僕のことを言っているのかな?」

「……やっぱりか。おう、そのお前のことを言ってんだよ」

「そうか、そうか。それはなんともおめでたい連中だ。どう考えても諸悪の根源は死神の貴族だろうに、それを断てぬからと、僕を断ちにきて……僕を殺すことで、一連の事件に終止符を打とうと、そういう腹積もりなわけだね」

 

 と、そこまで会話をしたあたりで、ふらり、と。

 鹿取が人型の虚へ近付く。

 

「なんだ、何か──」

「掻き暗せ、抜雲(ぬきぐも)」

「な──」

 

 抜刀、そして、逆袈裟斬り。

 呼吸をするかのような──斬撃。

 

「鹿取! もう少し情報を取ってからだなぁ」

「無駄ですよ、尾花さん。これ、偽物です。囮……さっき喋ったことすら、真偽はわかりません」

 

 鹿取がそう言うが早いか、両断された死体はその皮のようなものを弾けさせ、別の虚の死骸になった。

 三良坂二十席の始解。その能力と、ほぼ同一。

 否。その事実に思い至り、すぐにその場を退避しようとする二人。だが。

 

「今更気付いたのかい? まったく君達というやつは、虚には知能の低い奴しかいないと油断をする。自分たち死神が、神を名乗り、尸魂界と虚圏という死後の世界を統べるものだとでも言いたげに」

「ガぁ、ぐ、ぶ……!?」

「げほっ……う……」

 

 突然込み上げたものを吐き出せば、吐き出されるは黒き痰、ではなく──赤い液体。己が血潮。

 それを、ニヤニヤと眺めながら……先程と寸分違わぬカタチをした虚が出てきた。その手に、赤い靄のような球体を浮かべて。

 

「中々良い能力を持っていたにも拘らず、本人の実力不足でそれを活かせなかった憐れな斬魄刀。与えられたチカラの根源を何の疑いもなく取り入れ、僕がデータを取っているとも知らずに使いまくって、結局バレて投獄されて。ク、愚かだね。全く以て愚かだよ、死神。……そら、どうかな。黒痰咳と呼んでいたか……吐くものを黒い痰なんて生易しいものでなく、自身の内臓の内壁細胞に変更してみたわけだけれど、お味の程は?」

 

 吐けば吐くほど。何かを喋ろうとするだけで──弱り、損耗していく。

 

「病、というのはなかなかどうして使い勝手が良い。ここら一帯に散布して、僕には抗体を投与しておくだけで……不可視のままに地獄が形成できる。君達も、バヴァ・アナンタと戦っている死神たちもだ。──愉快だろう?」

 

 一歩、また一歩と隊長二人に近付いていく虚。

 その片方……鹿取抜雲斎の前に屈み込み。

 

「女は、良い声で、悲鳴を上げるんだ」

 

 その首を、捩じ切るように──。

 

 己が右腕を、斬り落とされた。

 

「は……?」

「……。どうですか、尾花さん。不安がっていましたが、中々やれたほうでしょう、わたしも」

「あぁ、思ったより堂に入っていたな」

 

 口の中に溜まっていたのだろう血反吐を吐き出しつつ、なんでもなかったかのように立ち上がる二人。

 

「あ゛ー。……喉がいがいがしやがる。読みが当たっていたのは褒められるべきだが、使用感が最悪だなコリャ」

「使用感については、現場の意見を重ねるしか、ないのではないでしょうか」

「そりゃその通りだがよ」

「な……なぜ立てる。君達が血反吐を吐いた回数は十を超えていた。その数だけ、内臓に孔が空いていたはずだ」

「こりゃ本物の血じゃねぇからな。坊……じゃねえ、死神の鬼道衆って連中が作った血糊ってモンだ。喉の絞りや息の吐き方で、幾らか回数分けして血を吐き出せる」

「尾花さん、どうして敵に説明をするのでしょうか。効いているはずなのに効果が無かったように見える、という方が、後々楽だと思うのですが」

「む。……全く以てその通りだ。すまねぇ、あんまりにも的確だったから、楽しくなっちまってよ」

 

 敵にわざわざ自身の能力を説明してやる必要はない──。

 こんな簡単で当たり前のことができない死神が多すぎると、鹿取は知っている。毎度毎度、それを疑問に思っているとか。

 

「そして──」

 

 斬、と。

 虚の身体に、右下から左上にかけての逆袈裟の斬撃が走る。

 

「なに──?」

「説明は、しません」

 

 斫鑿(ザクザク)、削斬(ザクザク)、錯截(ザクザク)炸索(ザクザク)。

 斬って斬って、斬って斬って斬って。

 刀が振られる音がしない。風を切る音が無い。どころか、「刀を抜いて振る」という動作の一切が見えない。

 気付けば振り抜いた姿勢になっている。

 とんでもなく速いのか、「刀を振っている最中の動作を不可視にする」という始解か。

 

 そのままどしゃぁ、と崩れ落ちる虚。……しかし、鹿取は大きくバックステップを取る。

 直後、その死体が爆発した。

 

「流石。戦闘の嗅覚に関しちゃ右に出る奴がいねぇな」

「……卯ノ花さんが、いなくなりましたからね。……繰り上げの最強に、どれほどの意味が、あるのか」

「良いだろ、今役に立ってんだから。……卍解しなけりゃ普通に話せんのになぁ。卍解中のお前さんは、なんというか怖すぎてなぁ」

「どちらかといえば、素は卍解中の方ですよ。普段は……抜雲の制御に思考や感情を、割いているので。無感情と言われたり、呑気と言われたり、話を聞いていないと、言われてしまいますが」

 

 その身の全てが妖刀のための棺なれば。

 卍解時は酔っていたんじゃなかったのかよ、とは突っ込まない尾花である。そういう揚げ足は取らない男だ。

 

「で? 何かを観察するみてぇに背後を取ったお前は、なんだ、戦意喪失か?」

「……黒痰咳。この能力が……まさか乗っ取られたとでも? ……誰が。いや、僕の改造はセキュリティホールも潰している。それを解析した、とでも言うのかい」

「さぁ、どうだかな。あるいは虚が裏切ったのかもしれねェぞ。バヴァ・アナンタとかいうのが、従順に、な」

「これも偽物ですね。本物がどこにいるかは──」

 

 二人の脳裏に、天挺空羅による声が響く。

 

「《今から掘り起こすから、縫い付けてくださぁい》」

 

 見れば、この付近の建造物……高台の上に陣取った幾人かの隊士が、一斉にそれ……縛道の四・這縄を使ったことがわかった。

 それは一点、床になっている角柱の隙間の砂の中へと潜り込み──ソレを、引き摺り上げる。

 

「な……なぜわかっ──」

「卍解、寸寸八裂抜雲斎(ずたずたやつざきばつうんさい)」

 

 こと戦闘というものにおいて、鹿取抜雲斎と卯ノ花八千流は並べて語られることの多い二人だ。

 あるいは各人を一つのまとまりとしてみた時、単体性能では卯ノ花八千流が大きく勝る。なれば、鹿取抜雲斎が卯ノ花八千流よりも優れる場所がどこか、といえば。

 

「く、この女……さっきから、余韻というものを知らないのか!?」

「余韻? 風情? 流れ? ……すべて、戦いには無用でしょう? ふふふっ……戦いに必要なのは、敵が何をしてくるかの嗅ぎ分けと──それに的確に対処をして、潰して、最短効率でその命を奪う。ただそれだけ……そんなこともわからないの? ああ、おかしなことね。あはははっ!」

 

 命を奪う。戦いに優れるではなく、命を奪うということにおいて──その能力を構築する速度において、鹿取抜雲斎は卯ノ花八千流を大きく上回る。

 

「縛道の三十・嘴突三閃」

「く、」

「破道の五十四・廃炎。──さぁ、あなたは、焼かれながら斬り刻まれたことは、ありますかぁ?」

 

 ……そして、卯ノ花よりもずっと残虐になるんだよなぁ、というのを付け足す尾花である。

 命を奪う最短効率は、しかし再生力の高い相手であれば、その再生能力に必要な体力を奪うためにこれをしている、とは本人談だが、どう考えても趣味が入っているような、とも。

 

 ……しかし、この虚も中々死なない。その外皮が硬い、というのもあるやもしれないが、超速再生の速度が一切落ちない。

 

 出立前、滑川に言われていたことの一つ。

 人造の中級大虚(アジューカス)を作り得るのであれば、作っている存在は最上級大虚(ヴァストローデ)である可能性が高い、と。

 尸魂界に残っている公的な記録。その中で、大虚・最上級大虚(ヴァストローデ)の討滅記録は驚くほどに少ない。

 そしてそのほとんどが王属特務案件……王属特務が出張った、というだけで、詳細な戦闘記録の残されていないものばかりだった。

 

 果たして、この虚は。

 

「──なんだ、卍解というの、想定していたものよりずっと弱いな」

「っ、鹿取!?」

 

 バチンと弾かれ、角柱に突き刺さる鹿取。

 虚は。

 

「チカラを与えた隊士からは、卍解のデータが取れなかったからね。バヴァ・アナンタでは耐久度が足りないことを受けて、僕自身が受けてみたんだが……この程度なら、備えるまでもなかったか」

「……てめぇ、それだけ強いのに、なんで搦め手なんか使ってんだ。死神と取引なんざせずとも、お前はお前ってだけで虚圏の王にでもなれそうなもんだが」

「ハ、王? 王だって? いやまったく、僕を笑い死にさせたいのかい。……虚圏の王。そう名乗る枯れ木みたいな老人はいるけど、ああなりたいとは決して思わないね。……僕は完璧な生命に憧れている。バヴァ・アナンタを作ったのはその一環さ。ウロボロスの蛇。西洋に疎い君達死神も、名前くらいは聞いたことがあるだろう?」

 

 尾を食う蛇。生命の循環を表すそれ。

 

「バヴァ・アナンタは、元は掌に収まるほどの霊虫でね。ただ、類稀なる超速再生……それも、斬られた部位を補ってあまりある血肉を再生する……ともすれば自身の肉を押しつぶしてしまう、とかいう欠陥生命だった。ただしそれは、本体が小さいあまりに発生する欠陥だ。こうして大きくしてやれば、霊力の全てを血肉に変換し、大きく大きくなり続ける。あるいはいつか、世界を巻き込むほどに」

「……完璧な生命への憧れ、ってのは、自分がなる必要ねぇのか。そのクソでけぇ虚にてめぇが磨り潰されることもあるだろ」

「ハ、これだから凡俗は。……自身の作品に殺されるなんて、研究者として最高の出来事だろう。科した枷を打ち砕き得る時点で。……そして、その上で僕が死(・)な(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)、それでいい。そうだろう?」

「矛盾してるぜ、色々」

「最初からわかってもらえるとは思っていないよ。……それで、あちらの仲間を助けに行かなくていいのかい。頭から行ったからね、頭蓋がへこんでいるか、首が折れているか」

 

 ──その。

 首元に、斬撃が。

 

「もう慣れたよ」

 

 弾かれる。くるくると戻ってくるは、吹き飛ばされてから動かなかったはずの鹿取である。

 卍解は解除されていない。だというのに普段の高揚した感じは鳴りを潜め、注意深く敵を見つめている。

 

「……尾花さん。私、一度彼(・)のところに治療してもらいに行っていいですか」

「あ、ああ。構わねえが。どうした」

「……先程吹き飛ばされた時、何(・)か(・)仕(・)込(・)ま(・)れ(・)ま(・)し(・)た(・)。体内におかしな霊子があります。……私の卍解は、言ってしまえば私の体を抜雲に使わせることに等しいので、抜雲の持つ霊力以外が体内にあれば、すぐに気付けます」

 

 冷静だ。冷静に、目をかっぴらいて、瞬きの一切をせずに言葉を操る。

 

「接触はしないようにしてください。感染も模倣も、あれの本来の能力じゃないと思います」

「オウ、すぐに診てもらいな」

「ありがとうございます」

 

 瞬歩で消える鹿取。

 

「ふむ。意外に繊細な感覚を持っているじゃないか。……まだ実験中の能力なんだけどね。上手く行けば、僕はまた完璧な生命に一歩近付くところだったのに。……尤も、死神に治療ができるかは、わからないけれどね」

「そいつに関しちゃ大丈夫だ。俺はあそこまで繊細に霊子を見ることができるやつは、他に見たことがない」

「……さっき言っていた鬼道衆というやつかい」

「そうさ。そんで、もうわかっていると思うが、黒痰咳を無害化してんのもそいつだ。元凶ならば使ってくるかもしれねぇと、わざわざ血糊の仕込みまでしたのもな」

「……幾らかは使える奴がいるわけだ。いや、僕も安心したよ。尸魂界に住まうバランサーたる死神が、護廷とは名ばかりの殺戮特化集団だった、なんて……そんな奴らに神を名乗らせるわけにはいかないからね」

「ははっ、そりゃおもしれぇな。確か滅却師の王も似たような評価をしていたよ。虚と滅却師。相容れねぇはずの二つから同じ評価を受けるなんざ、いやまったく、俺達十三隊はその言葉の通りなのかもしれねェなぁ」

 

 ゆっくりと刀を抜く尾花。

 その余裕そうな態度に、虚もまた臨戦態勢になる。

 

「──卍解」

 

 ああ、けれど。

 虚の身体は──大きく、穿たれることになる。

 

「大車海尊青龍(たいきょかいそんせいりゅう)──」

 

 背後より飛来した、四楓院千日。その卍解によって、であるが。

 胴体のほとんどを穿たれて、そのまま吹き飛ばされる虚。

 

「よぉ。なんでも苦戦中だとか。オマエ一人じゃ心許ねーから、四番隊が一般隊士、四楓院千日様が助けにきてやったぜ、尾(・)花(・)隊(・)長(・)」

「おゥ助かったぜ、四楓院。別に苦戦しちゃいねェがな。俺はまだ刀を振ってねェし」

「なんだそうだったのか。……しかし、なんだありゃ。ここまで硬い虚は初めてだぜ」

「やっぱり硬いのか」

「あぁ、とんでもなくな。普通に打撃するつもりだったんだが、オレの腕がひしゃげかねねぇから卍解した」

 

 一切のツッコミを入れない尾花である。

 そして飛来した一般隊士こと四楓院は、ケラケラ笑いながらソレを見せつける。

 若干の粘性のようなものを持つ、緑色の光。

 

「おお。ほら、すげーだろ。回道だ」

「ああ、すげぇよ。俺には適性がないからな。素直に羨ましい」

「自分で治せるってつえーよな単純に。志島とかまさにそうだろ。自分を治しながら戦う。卯ノ花もすげぇ。そんで……あいつもだ。……いやぁ楽しいぜ、一般隊士! 世界にはこんなにも学ぶことに溢れている。くぅ、もちっと早く知りたかったぜ」

「……言葉や計算を初めて習った子供のようなことを言うんだね、死神。まったく……今の今まで無知でいることができた……それに甘んじることができていたことが理解できない。無知でいる己というのは、吐き気がするほどに気色の悪いものだろうに」

 

 霊子を階段に見立ててあがってくる虚。

 その腹に穿たれた孔は、既に消えている。

 

「おー、超速再生か。いいね、殴り甲斐がある」

「……新しい死神。斬撃ではなく打撃なら通じるとでも思ったのかな」

「おっと、その前に。──オレは四番隊見習い隊士の四楓院千日ってモンさ。よろしくな、虚」

「……ザエルアポロ・グランツだ」

「おお? 尾花、こいつ名乗り返してくれたぞ。もしかしたらいい奴の可能性がある!」

「無いだろ。アホか。隊長辞めたからって言葉に責任を持たなくてよくなったわけじゃねェよ適当言い続けるのやめろ」

「元隊長。……怪我か何かで引退した、ということかな」

「その通り。ちっと身体を千切られかけてな。なんとか死の淵から戻ってきたわけだ。とはいえあんまり舐めてくれんなよ、ザエルなんたら」

 

 ザエルアポロだ、と……訂正を入れようとした彼の背後に、四楓院がいた。

 眼前にいるのは、なれば、残像か。

 

「さっきは身体を穿って悪かった。──オレの得意分野は速力でさ。打撃力はそんなでもねーんだが、それで穿たれるとは夢にも思わなかったんでよ」

 

 残像は──眼前と、背後。

 声が聞こえた方向は、下。

 

「今度は確実に、頭蓋を潰すぜ」

 

 そして攻撃は──とんでもない威力の打撃は、上から。

 人体から出て良い音ではない音がして、ザエルアポロはその首から上を千切り飛ばされ──。

 

「はぁ、野蛮だね」

 

 トルソーとなった首元から、超(・)速(・)再(・)生(・)し(・)た(・)。

 

「おや。何か驚いているようだけど、僕ら虚に備わった超速再生が、頭部や臓器を消し飛ばされた場合は適用されない、とでも思っていたのかな。だとしたら甘い、というか、情報が古いよ」

 

 ザエルアポロは己の肉体を──己で引きちぎり。

 そして、再生し。

 

「研究の成果から、身体の全部位の超速再生を可能にしてみた。完璧な生命の取り組みとしては浅瀬も浅瀬だけど、君達に絶望を与えられたのなら何よりだ」

 

 芝居がかった動きで、言う。

 

「さぁて、ようやくもって、殺し合いを始めようか」

 

 そう、凄惨に笑って。

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