卍解までは転生者の嗜み。 作:点差惨敗
花札もだけど、将棋の成立時期も実は遅い*1……にも拘らず、僕が統学院に入った時にはすでにあった。
流魂街には各時代から色んな人が流れ着くらしいし、その辺は割とごっちゃなんだろうな、と思いつつ、無い遊び方もやっぱりあるわけで。
「ほう、ほうほうほう。……カカカ、成程、暇潰しとしては面白い」
逆骨さん。
初めて会った時でさえかなりの老齢だったのに、さらに成長して完璧にぬらりひょんになっているお爺さんに、詰将棋を教えてみた。
将棋を指せる人が少なくて退屈らしい。最近入ってきた浮竹さんが唯一指せるけど、まだまだ新米なので仕事が多く、遊んではいられない、とか。……だからといって僕の勤務時間中に研究所へ来るのはやめていただきたいんだけど。
「こういうのは、現世じゃなんて言うんだ?」
「別に現世でも詰将棋ですけどぉ、恐らく聞きたいのはパズルの方ですよ、ね」
「ぱずる。ぱずる。……カカカ、不思議な響きだ。のぅ滑川。ぱずるというの、他に知らぬか。儂はそろそろ隠居するが、老後の楽しみが欲しくての」
「でしたらぁ、最近鋳金技術が上がってきてぇ、こぉいうのとか、作れるようになったんですよ、ね」
カウンター下から取り出すのは、試作品の知恵の輪である。
こいつの起源は九連環なのでありそうだと思ってたんだけど、案外無い。ので、作ってみた。
「ほう。力で引きちぎる、というのは当然ナシか」
「はぁい、当然ナシです」
アリなわけないだろう。
そうしてカチャカチャやること五分くらい。
「お、外れたわい」
「はぁい。それが初段一番でぇ、初・中・上それぞれに百番ずつ形がありまぁす」
「……カカ。……ム? なんだ貴様、本職か?」
「あとはぁ、数独というパズルもあってぇ、こちらは……やろうと思えば本にできるくらいの問題量があります、ね」
「カカカ。なんだ貴様、業者か?」
いやぁ。
鬼道の改良において大事なのは実はチューニング部分で、それをやるのは半自動というか、ダイヤル式金庫のパスワード100桁を当てる、という行為を無意識領域で展開している感じ。
だからまぁ、暇なのだ。
一番隊の文官仕事は激務すぎるなぁと思っていたけど、研究所所長になってからはマー暇。月の半分は文官に戻ろうかなーとか思っているくらい。
その暇な時間に新しい飴を考案したり、久面井さんから定期的に欲しがられる遊戯盤のシナリオを考えたりして、思い付きでパズルも生まれていく。
ソリティア系がねー。個人的には好きなんだけど、トランプの概念が無さすぎてネー。
「滑川、貴様確か、鋸歯文のところの料亭に飯の知恵を提供していたか」
「あ、はぁい。原案くらいですけど、ね」
「どうだ、これら遊戯、儂に販売権を譲らんか。利益は、儂が二で貴様が八。破格だろう」
「逆ならいいですよぉ」
「……なんだ、算術ができぬわけでもないだろうに」
「お仕事で使うお金は経費で落とせますか、ら。趣味のお金は十二分に頂いています、し。折角"お掃除"された瀞霊廷で、突然印税周りの流れが太くなる、とか……不要な勘繰りを呼びますってぇ」
「それは……確かに。……フン、山本よりもその辺の鼻が良いな、まったく」
そうでなくとも僕と志島さんは行動を共にしていたことを知られている部分が大きい。あの五十年間ではほとんどいなかったとはいえ、勘繰る人にとっては絶好の餌だ。
今は大人しくしている必要がある。だから余計な収入は増やさない方が良い。
「……良いだろう、百年だ。百年後にはせめて五対五にまで戻すぜ」
「そこまで生きているおつもりなんですかぁ?」
「カカカッ、あと八百年は生きてやるわい。……山本の先に逝くと、妙に引き摺りそうであろう」
「ああ。……そうですねぇ」
結局トッキーが改心しなくて、執行さんとは茶番とはいえ刃を交える結果となったこと。
それが……顔にも態度にも出さないけど、そこそこキているようで。
そこに逆骨さんの訃報なんて重なろうものなら、かな。
色々丁度いいし、お誘いしようか。
というわけで、やってきました大鬼道長こと鋸歯文さんの作った料亭『方丈』。
僕がレシピを提供した現代料理の一部が並ぶ──尤も、考えついておかしくないもの程度までしか無いが──他、日替わりメニューの「辛党一膳」、「甘党一膳」、「濃味一膳」などといった特定味覚特化メニューが存在する。言わずもがな、一部の人向けメニューである。
なお『秋風』に提供した焼きそばの方はレシピが買い取られているのでここでは出していない。というか粉モンは全部あっちに渡す感じにした。つまりこっちにあるのは粉モン以外の濃い味である、ということだ。
で、そこの一角を借り──元から個室にできるような作りになっている──そこに山本総隊長と雀部さん、そして二人を誘った場になぜかいて、なんだよ仲間外れかよー、とか言ってついてきた四楓院さんを置いて、厨房の一部を借りて作るはさっぱり料理。
「へぇいお待ち、豚しゃぶ梅シソさっぱりおろし丼でぇす。副菜はキュウリと塩昆布の和え物でぇ、馴染み無いとは思いますけどぉ、卵と豆腐の清澄極味汁になりまぁす」
ちなみに現世だとまだ肉食文化が無かったりするんだけど、尸魂界では少なくとも千年くらい前から「知らねえ! 行こう!!」で食べられている。海らしい海が無い……"漂流"と瀞霊廷の西の湖など、ちらほらしかない水場からしか海産物が手に入らない以上は肉禁止とか言ってらんなかったんだろうな、って。
やだやだ、どうして死後の世界でまで食事を気にしなくちゃいけないのか、とは思うけど、お腹が空くからご飯が美味しいのも事実なわけで。
「ほう……圓悠が意外な才能と言っておったが、これは、確かに」
「うわぁ。肉と卵以外は四楓院家でも見るものばっかなのに……おいオレ毎日の食事こっちがいいよぉ」
「梅の香りが素晴らしいですね」
「はぁい、いただきましょう、ね」
では──実食!!
……うむ。酸味が際立って美味しい。疲労回復やスタミナアップを狙った料理だ。年配者向けの優しい料理とかもあるにはあったけど、山本総隊長は別に歯も全部揃ってるし胃も強いから大丈夫だと思う。
「うむ……うむ。美味。儂の舌にも良く合うわい」
「ええ、卵といえば医療品に使う印象がありましたが、これは……合いますな」
「ウメー。ウメー。ウメー」
貴族の食事。
あの時の約束から、先日──と言っても何十年前だけど──厳原さんたちと四楓院家の食事を与ったのだけど、確かに薄味というか。塩分もビタミンも足りていない食事だった。そりゃ権謀術数以外にも苛立ちやら焦りやらが募りますよこれは。人間の思考なんて大体食事から来てんだから。
「……くぁー。なぁ、オレに料理教えてくれよ。もうそろ我慢ならねえ。四楓院家でオレがこういうの作っちまえばいいんだ。出てくる料理を待っているから悪いわけで。そうだよ、オレもう当主じゃねーんだし……」
「おぬしはいつまで経っても落ち着かんな……若作りは滑川もじゃが、おぬしに至ってはそろそろ六百を超えるじゃろうに」
「オマエらが老けすぎなだけだって。いやまぁオマエらオレの二倍くらい生きてんだっけ? なら納得ではあるんだけどさ。にしたって長次郎とか、最初会った頃はまだまだ目の輝いたガキだったってのに……年老いちゃってまぁ」
「ははは、元柳斎殿に追いつかんとした日々でしたからね」
「うむ、長次郎は落ち着いていて……。……む? 待て長次郎、それは……儂が老けているから、追いつかんとするために己も老けた、という意味か?」
「ははははは」
……へこんでいるんじゃないか、とか思ってたけど。
ま、そっか。僕より……まっさきに雀部さんがメンケアするか。
「気を遣わせたようじゃな、滑川」
「えぇ、まぁ、勝手に、ですけどねぇ」
「じゃが、大丈夫じゃ。堪えはするが、へこたれはせぬ。……執行の阿呆にも、ケツを叩かれたわい。"過去にばかり目を向けている暇があるのか"、とな」
「執行の卍解なー。良いよなぁ、オレも戦いたかった。ああいう生物系ででけぇ卍解はわくわくするよなぁ」
「それで言うなら、十一番隊の……刳屋敷君、でしたか。彼の始解も生物系でしたよ。彼自身も非常に強く……」
「ああ……十一番隊な。……まぁ、ここで話す話題じゃねーから後で共有するが、もう少しひと悶着ありそうだぜ」
五代目剣八は『利暁』との繋がりを指摘されて放逐になったけど、六代目はまだ健在だ。悪い噂、黒い噂が絶えないけど、目撃者も証言者も全部殺して回っているとの噂。
刳屋敷さんが動くのも時間の問題かもしれない。
「ああでも不謹慎だが、例の場所が起こした奇獣騒ぎは楽しかったなぁ。……ん、なんだよ平良」
「四番隊だとぉ、やっぱり虚退治に出られなくて、つまらないんじゃないかな、と」
「あー。んー。……割とそんなことなかったりする。つか結構遭遇するよ、虚。基本は他の隊の連中に任せるけど、とんでもねーのが出てくるとよくお鉢が回ってくる。……教育や経験のことを考えるとあんましよくねーだろうな、とは思ってる」
「ううむ。失敗せども撤退せども、最後にはおぬしがなんとかしてくれる、という考えになってしまいかねん。……今後はそれを、少しずつ控えていくがよい」
「そうするよ。……んでそーなると、確かにつまらねえ。平良オマエなんかそういうのつくれねーの?」
「そういう技術を得ると危ないからぁ、僕はその例の場所と隔離されていたのではぁ?」
「いやそーなんだけどさ」
卵と豆腐のふわふわスープを飲む。……コンソメがなぁ。手作りなのが。市販品がどれほど美味しいかっていう話。
「四楓院さんは、回道の腕はどれくらいになったんです、か? もう腕とか繋げられた、り?」
「あー、全然。前にも話した虎徹朱音ってのが今副隊長やってんだけどさ。そいつ曰く、人体の全ての神経の配置を覚えて、且つ個人差をしっかり見極められるようになったら神経に触っても良い、らしいんだけど。オレにそこまでの知覚能力は無くてさ。とはいえ腹に孔が空いた程度なら治せるぜ。胸は無理だけど」
「しかし……奔放にしているおぬしを本家はどう思っとるんじゃ。あまり快く思われていないのではないか?」
「そんなことねーかなー。つか四楓院家は他の貴族とちょっと毛色が違うんだ。当主・元当主の発言力が一番でけーし、口出してくるやつもいない。当主になれなかった奴らは四楓院家の機構として生きていくと本気で思ってやがるからな」
「今の隊長はぁ、
十九代目の万宵さんは、残念ながら戦死してしまった。今は二十代目の人。四楓院暮七さん。こんな名前だけど男性だ。
夜一さんが初代女性当主だったからね。
「当主になるやつはどうもそういう気質なんだよなぁ。あんまし堅いやつはならねーっていうか。四楓院全体の感情や行動力が、当主一人に集約されてる、っつーか?」
「おかげで、四楓院家には色々頼みやすくて助かっておる。……他の貴族だと、恩義がどうの、頼られたのならば権力がどうのと……ちと面倒臭いでの」
「元柳斎殿、そんな明け透けな……」
「あぁ、ここは音漏れしない個室なんで大丈夫ですよぉ」
「滑川君も、そういう問題では……」
山本総隊長ともなると、そういうのも全部気にしなきゃいけないだろうし、面倒だろうねぇ。
「志波家はどーなんだよ。オレの印象、あそこはやりやすそうだが」
「うむ。志波家も楽な部類じゃ。ただ志波家は、なんというか……騒動を起こしやすい、というか」
「今のご当主、志波
あー。主人公体質というか。トラブルメーカーというか。
そういう……成程ねぇ。イッチーに流れ込む血は、そういう色を取るわけだ。……初見でモリガンって読んだのは……流石に転生者の嗜みか?
「尾花もそのケがあるからのぅ。果たして二人の子は、如何ほどの、と思ってしまうが」
「尾花隊長といえば、寿脱隊の件はもう聞きましたか?」
「はぁい。尾花隊長が喧伝してますし、ね」
「アレも、通った理由はちょいと複雑だけどなー。阿万門とかの四十六室良識派が動いた半分、尾花の求心力を恐れた奴らが早いとこ退かしちまおうって考えたのが半分っぽいし。山本は仕方ないにせよ、船頭多くして船山に上るっつーの? 護廷ができる前から妙に求心力を持つようなやつを四十六室は遠ざけがちだからよ」
……ああ。
そういうことか。……四十六室も変わってきたのかな、とか思ってたけど……成程。
確かに未来の護廷十三隊も、熱血求心リーダー気質、みたいな隊長は少ない。いやまぁそれこそ志波家一同がそれにあたるのかもしれないけど。
「でも確かに、王途川が子供作るのが先か、尾花が先か。貴族の古いしきたりでさ、五大当主は一堂に会してはならない、っつぅのがあってよ。それを考えると、どっちかが死神になることはあっても、隊長にまで任命されるのは……少なくともどっちもにはならねえだろうな。五大貴族が四大に減った以上は、三人までしか選出できん」
「まぁ、どれほど強大な死神になるのだとしてもぉ、子供に次代を、っていうかぁ時代を担わせたいか、というと、微妙ですもんねぇ。せめてもう少し大人になってから、っていうかぁ」
「うむ。そうならぬよう儂ら大人がしっかりするべきじゃろう。……美味であった、滑川。馳走になったな」
「はぁい。お粗末様でしたぁ」
気のせいじゃなければ、山本総隊長の目の輝きが少し戻ったような気がする。糸目で見えないという人は心眼が足りない。
未来を向いてくれたのかな、ってさ。
「この料亭にも、しばしば足を運ぶとするかの。……少人数であれば、ここで宴会をしても良いかも知れぬ。こういった味を好む者も多かろう」
「そうですね。鋸歯文さんに話をつけておきます」
「うむ、頼んだぞ。……それでは」
「はぁい」
という解散の運びになった。
……のだが。
なう『全力部屋』である。なうはもう古いのか新しすぎるのか。
「ちょっと気になっちまってさ。大型の敵の話の時、オマエ否定しなかったじゃん。あるんだろ? なんか遊べるモン」
「耳聡いですねぇ相変わらず」
「ハハッ、これでも刑軍なんでな」
全力部屋のコンパネを操作して出すのは──バヴァ・アナンタ。……の、様身体。
「おおっ! こいつは!」
「
「ん、こうか?」
ガンっと良い音が鳴る素手での打撃。
「それがぁ、このようにぃ」
スコアボードにしている木の看板。それにかけられた木札が自動で動き、今の打撃力を威力として換算し算出する。
モニタが作れなくてもね。こういうことはできます。
「
「はぁい。ちなみに僕の白打だとぉ。……ったぁい」
木札が動く。
「……六十てオマエ」
「いやまぁ、足技ならもう少し行きますけ、ど、拳はこんなものですねぇ」
「弱すぎだろ……。……これ鬼道とか斬撃とかだとどうなんの?」
「詳細設定をするとぉ、鬼道威力、斬撃威力なんかが個別に出せますけどぉ、この状態だとすべて威力に換算されます、ね。手段がなんだろうと、敵にどれくらいの損失を与えられたかを示しますぅ。毒とかだとぉ累積になりますか、ね」
「毒もいけんのか。へえ。……これ隠しておくの勿体なくねぇ? 護廷の基礎訓練項目に組み込んで、普段の訓練で使えるようにすりゃ……まぁ攻撃はしてこないかもしれねえけど、攻撃連係の訓練にはもってこいじゃねーか」
それなぁ。
ちょっと……思うところある、というか。
様身体については四番隊にだけ極秘裏に貸し出ししているんだけど、厳原さん、山本総隊長、あと新しい斬魄刀を手に入れた鹿取さんからも要請が出ている。
どう……なんだろうなぁ、って。
「まーた何か気にしてんな。……大体わかってきたが、要するにオマエは自分に技術力があるとか知識があるとかってのをあんまし知られたくねーわけだ。鬼道のこと以外は」
「まぁ、そうです、ね」
「んじゃウチの……四楓院家の紋をつけちまおう。それで解決だ」
「え……良いんですかぁ?」
「オウ。ウチにゃこういうおかしなもんが山ほどあってな。天賜兵装に関しちゃ話は別だが、神具を作る工房もある。そこの新作とでも言えば良い。それで無理なら蔵を探したら出土した、でもいい。オマエがこれから作る全てのモンを四楓院家からの発表にすりゃ、オマエも気兼ねなく色々作れる。そうだろ?」
それは……願ってもないというか。
とんでもなくありがたいというか。
だ……だったら作りたいものがたくさんある。これでもセーブにセーブを重ねてきたんだ。
「お、目が輝いてんな。──ただし、条件が一つある」
「……僕が隠していることを言え、ですか、ね」
「オウ、わかってんな。……オマエが隠しごとをするのには理由があることもわかるし、オレが守らなきゃならねえことがあるのもなんとなくわかる。つまりあれだろ? 敵にわざわざ情報与えんなって、鹿取がよく言ってることだろ?」
「……はい」
「なら大丈夫だ。オレはそういうの喋る前に、っつぅか喋ると見せかけて背後取って心臓刺す派閥にいるんでな」
そうだね。
信用、するか。……付き合いも、大分長くなったことだし。
*
──真央霊術院地下。
そこに作り上げた、新たな部屋、『訓練部屋』。
建築に関しては山本総隊長、四楓院家が認証済みであり、監獄にも被らない位置であるため四十六室も特に何も言ってこなかった。
そんな場所で、四楓院さんの隣で……顔も体つきも隠れる刑軍の、それも鬼道部隊が着ているような装束に身を包む僕。
眼前に広がるは二番隊、三番隊、四番隊、五番隊。
隣にいる四楓院さんが声を張り上げる。
「よーし。集まったな! そんじゃ、四楓院家の虎の子……または最近蔵の掃除をしていたら偶さか見つけたなんか使えそうなやつこと様身体! 四楓院家で調整もしてあるから安全は確認済みだ! こいつで、いつかの巨大虚を再現し、各隊の連携、及び各人の連係を訓練する! んじゃ、頼む」
無言で良いらしいので無言でコンパネを操作し──バヴァ・アナンタの模型をせり出させる。
その巨体、その異形にざわめく死神。
さらにこれを……ゴゴゴゴ、と、彼らを取り囲むような動きにループ設定。細かい操作は手動ならできるけど判断AIとかは組み込めないかなー。
とんでもない地鳴りがしているけれど、地上には何の影響も及ぼさない。『全力部屋』みたいに天相従臨を防げるほどじゃないけど、独自の耐震技術──つまりさらに一回り大きな空間にジェル状の霊子を詰め込むことで中空に浮かんでいるようにしたもの──を用いているため、その辺はバッチシなのだ。
霊術院でカードを立てていたって気付かないはず。まぁ怒られはするだろうけど。
「この立て札にかけられた木札は、与えた威力によって自動で動く。今回は五億だ! 累計五億点を超えるまでひたすらに攻撃しろ! そういう訓練だ!」
ざわめきは、けれど、バヴァ・アナンタが一切攻撃をしてこないことを理解し、落ち着いていく。
「ただし! よぉ、圓悠。準備はどうだ」
「問題ねえな。──あのひよっこ共に、広範囲系の破道を撃ちまくりゃいいんだったか?」
「おう。四番隊がいるからな、殺す気の威力でもいい。様身体には当てんなよ」
「任せとけ。威力は大鬼道長に負けるがな、霊力操作に関しちゃワシは滑川に並ぶんだ。──余計なモンには当てず、確実に死神を丸焦げにしてやる」
そのやり取りに、顔を蒼くしてギャーギャー言い始める隊士たち。
笑みを深めていくのは四楓院さんと副鬼道長である。ちなみに大鬼道長の鬼道だと本気で人死にが出かねないので今回はお留守番。いやね、あの人ふざけてるけどマジでガチで強いんだよ。
「そんじゃあ、各隊、大型虚を倒す時の陣形でな! あ、別に途中で変えてもいいぞ。あと隊長格の卍解は……まー、尾花だけでいいか、禁止は」
「えー! なんでだ! 俺も訓練がしたい!」
「味方巻き込むからに決まってんだろ。文句があるなら厳原くらい制御できるようになってから言え。もうすぐ引退するオマエにゃ無理だろうが」
「そもそももうすぐ引退する者がなぜこの訓練に参加しているのか、ですが……」
「おう、んじゃ始めんぞ! あ、時間経過でやめるつもりはないんでそのつもりでな! 書類仕事だのなんだのあろうが知らねえ滞ろうが知らねえ。弱いオマエらが悪い! 以上!」
では、始め。
そう言って座る四楓院さん。
「……四楓院さんも参加しなくて良かったんですかぁ?」
「オレは……ま、今じゃない、って感じかね。やりたいからいつかやるが、暮七の動きもみてーし。想定より時間がかかったら後で追加稽古だ」
「うわぁ、怖い先達だぁ」
様身体それぞれ、そしてこの部屋にも四楓院家の紋が彫られている。
なお、神具を作る工房というのは本当にあるらしく、様身体はそこで「本当に古の技術っぽい構造」にマイナーチェンジされている。僕の奴は量産型様身体になるのかな。どっちが本家なんだか。
さらに余談を追加すると、様身体はその工房チームから大絶賛だったらしい。「今の時代にここまでのものを作り得る死神がいるのか!」みたいに言われていたんだって。本職に言われるのは流石に嬉しいかもしれない。
さて、多くの始解が飛び交う様を眺めるけれど……やっぱり、なんか。
「個人技すぎる、だよな。言いてーのはさ」
「はぁい」
「……『
まぁ僕は始解を半ば魔法のようなものと捉えているからできることではあるんだろうなぁ、って。
魔法使いが化学知識でより凄いものを作る、的な。それをこの時代の人に求めるのは中々難しい。シロちゃんは時代の最先端だったからね、アレ。
でもまぁ水で濡らしたところには雷撃系の攻撃が通りやすいとか、凍らせるとか、火傷させるとか。
水基点の連係プレーは結構散見される感じがある。うん、すべての基本だよね水属性って。
そういう意味でも王途川隊長は求められている、のかもしれない。雀部さんの卍解も、王途川さんと組み合わせれば超強そうだし。
少し離れたところにいる副鬼道長とか、そういう元素の組み合わせ系の鬼道を沢山使うんだけどな。濡らしたものを凍らせて、超高温で蒸発させる、とか。感電したものに水の槍を刺して、方々に放電させて範囲を向上させる、とかさ。
「おい、四楓院。ちょいと鬼道の撃ち手を増やしてもいいか」
「オウ、かまわねーよ」
「んじゃ握菱、範囲系のみだ。やってみな」
「はっ、このような場に呼んでいただき、」
「うるせー早くやれ。堅いんだよ」
おっと。
……握菱鉄裁か。まだ髪型が大人しいな。
知っている人が出てくるたび、心臓の鼓動も早くなる。
だって──ほら、五番隊で、周囲の隊士と共に……まるで余裕がありません、みたいな動きで戦っている彼は、オサレ眼鏡だ。まだ眼鏡が本体の頃。
尾花さんも一尺八寸さんも一度も話題に挙げたことがないあたり、本当に平隊士として紛れているのだろう彼。
霊圧もうまく隠している。とても特記戦力とまで言われる霊圧の持ち主には見えないもんなぁ。
「……これどの隊が一番威力を出せるかで賭けるのも面白そうだな」
「『利暁』の違法賭場が一斉摘発された後なのに、ですかぁ?」
「冗談だよ冗談。……士気向上にさ、なんかねーかな、って」
「……じゃあ、こういう団体戦での一度の攻撃……一分間の攻撃で出せた威力に基づいてぇ、なにか報酬を出す、とかどうでしょぉかぁ? 個人なら十分間とかにしてぇ」
「非常にアリ。採用。仕組み考えといてくれ。報酬はオレがなんか用意する」
スコアアタック要素である。
……どんどん、なんというか、ゲーム染みてきたな。いや半分以上僕のせいなんだけど。
ということがあった、すぐ後くらい、かな。
「《よぉ。キミが滑川平良であってるKAI?》」
「……。……
「《あぁすまねえNA。なんせちゃんボクは零番隊。気軽にそっちにゃ赴けないんでNE☆》」
……。
やっぱり、来たか。隠せなかった、ってことかな。零番隊には。
「《今回連絡を取ったのHA、艶羅鏡典と妖刀抜雲の残骸、どっちもキミが持っていると情報を掴んだからSA☆ 大人しく明け渡す気はあるかNA!》」
「《随分と……ハイカラな喋りですねぇ。南蛮被れ、というやつですかぁ?》」
「《口調についちゃキミに言われたくないNE。それで、その態度は──》」
「《あぁ、いえぇ。こんな厄ネタ要らないのでぇ、とっとと回収してくださぁい。どっちも霊王宮まで打ち上げればいいですかぁ?》」
「《霊王宮はそんな手段で行ける場所じゃないYO。……それと、キミの斬魄刀、野箆坊。……》」
む。なんだ。野箆坊を僕から奪おうとでもいうのか。
ダメだぞ。能力以前にもううちの子だから野箆坊は。創り手だとか知らないけどあげないぞ。
「《……対等でも、どっちが上でもNAI。どちらもが……引け目を覚えている、みたいNA。どちらもがどちらもを主人に定めようとしている、不思議な関係だNE》」
「《それはぁ、どう、も。僕は僕の斬魄刀の付属品でいるつもりですけど、ね》」
「《野箆坊もそう思ってるって言ってるのSA。……けどソレって、結果的に、奇跡的に
「《ああ……そういうお話ですかぁ。まぁ、そうですねぇ。普通の斬魄刀と、普通の死神だったらぁ、まぁ、その指摘は図星だったのかもしれないですけ、ど》」
《
《
「《……!? なんだ、野箆坊の意思と声が重なっTE……?》」
「《刀神であればご存知でしょうけどぉ、野箆坊はね、いっぱいいるんですよぉ。たくさんたくさん、十人十色》」
「《もちろん知ってるYO。数ある斬魄刀の中でも個を持たず、無数の姿を持つ斬魄刀野箆坊》」
「《僕は浅打を握った瞬間にぃ、野箆坊の姿を見ましたぁ。具象化したわけじゃないですよぉ? そんな天才じゃないの、で》」
「《……余程波長が合ったんだろうNE》」
「《はぁい。──そして、野箆坊の性質を理解したのち、僕も野箆坊になったんですねぇ》」
「《……? 言っている意味がわからないNE》」
つまぁり。とても簡単に言うとぉ。
「《僕自身を野箆坊の一人として斬魄刀に取り込んでぇ、斬魄刀の中から新しく僕を抽出した、みたいな感じですよぉ》」
「《……》」
「《無論、概念的な部分も多いですけどねぇ。……僕という自我は一度、無数の野箆坊に埋め尽くされることで実質的な死を迎えているしぃ、野箆坊の中から"恐らく滑川平良であろう部分"で再構成された僕はぁ、流石に以心伝心と呼べるほどに言葉がわかるわけじゃないにせよぉ、ぼでぃらんげぇじで言葉が伝えられるわけです、ね》」
声を発せない野箆坊から卍解名を聞き出すのも似たようなことだ。具象化した野箆坊に自我を溶かし、卍解名を知った。
それを敗北と捉えるか屈服と捉えるか同調と捉えるかは人に依るだろう。
僕自身が野箆坊になることだ、を最初にやったって話ね。
「《性格が奇跡的に似通っていたのは事実ですしぃ、互いが互いを付属品だと認識している、というのも確かに元からでしたぁ。……けど、だからと言って僕らは通じ合っていないわけじゃないんです、よ。忘我の僕と無我の野箆坊。その足並みはもう揃っていてぇ、もう一度後から……今現在、性格を付け足していくことでぇ、考え方に差異を生もうとしている段階、ですねぇ》」
「《わざと……心を違わせようとしている、ってことKAI?》」
「《はぁい。だって、完全に同一の存在ならぁ、
だから、違いをつけることにした。
僕は進む。野箆坊は退く。そういう性格になった。
野箆坊がこうも感情豊かでコミカルで「個性がある」のはそれが理由だ。
顔の無い存在。誰でもない存在。誰かになれる誰かであるのは、本来僕の性質ではなく野箆坊の性質のはずだ。
一度溶け合った僕らは互いに、それぞれのやりたいこと、やらねばならないことに必要な性格と要素を偏らせ、"滑川平良であろうもの"と"野箆坊であろうもの"に分離した。
攻撃力が無いことを散々嘆いていたけれど、まぁ、これが理由だ。攻撃力……攻撃性とでも言うべき部分は野箆坊に内包してある。それは保険であり秘密兵器。
僕自身にそんなものは必要ない。誰かのための誰かであるために、攻撃以外の部分にステータスを振り分けた。野箆坊になるために。野箆坊であり続けるために。
「《そこまで自分を捨てられるやつは初めて見たNA。隠密機動のそれとも違う、狂気的な信仰心ってやつKA》」
「《はぁい。僕は野箆坊が僕の最適解だと信仰しているので、ね》」
前世の記憶は忘れていない。その記憶という個が選択する最大限。
僕という器を最も効率よく使うための"機能の分配"。
僕は正しく斬魄刀の付属品だ。そして野箆坊もまた同じことを思っているのなら、等しくそうだ。
状態異常無効、霊子異常の封殺。
この二つの効果の付属品が、僕と野箆坊だ。
「《わかりあっているんなら言うことはないYO。……麒麟寺からナイアブなヤツと聞いていたけど、なるほどコッチ方面とはNE》」
「《ええ、おわかりいただければなによりですぅ。……それで、この不良品はどこへお納めすればぁ?》」
「《使いを出すから、そいつに預けてくRE。合言葉も決めておこうKA。そうだな……何か考えつくKAI?》」
「《じゃあ、合言葉は、"今にぅ里"でぇ》」
「《オウとんでもないNA。今の一瞬でそこまで意味のない文字列を思いつけるとHA》」
パスワード抜かれ放題時代を生きた人間ですからね。こういうのはお手のものですよ。転生者の嗜みです。
それに……まぁ、意味がないとは言っていない。
「《それじゃあ、そういうことDE。……ああそれと、『様身体』っていったかNA。あれくらいが
えっ。
……この会話なんの意味があるんだろうなぁ、とか思いながらしてたけど……最後の最後でとんでもない爆弾が。
それとーってもありがたい。やっていいことと悪いことの区別というか、四楓院家の名を借りて今後作っていく全てに基準ができた。
と同時、僕なんかやっちゃいました案件すぎる。え、そんなに? 僕のやってたことってメラを誰でも撃てるようにしたとかそんな感じで、最大威力メラゾーマ連発できるようにしました、とかじゃないのに。飴だって序盤は好まれるけど中盤になると効果が足りなくて使わなくなる序盤のオトモアイテムでしかないのに。
いや待てよ。……さては良い人だなちゃんボク。知ってたけど。こうやって言うことで僕にセーブさせようとしているわけだな。
多分良い人じゃないと零番隊いけないだろうしあれ。マナコさんは除外。
「《あそうそう、妖刀もといトウヨウはリョウザイとして使っちゃうけどE?》」
「《
「《そうかい、じゃあ、》」
「《ただぁ──封印は、しっかりしてください、ね。特に寄せ集めの斬魄刀とか、は》」
「《……知りすぎは命に係わるZE。気を付けNA》」
あ、切れた。
……嬉しい。僕の名が四楓院家に置き換わることも考えると、じゃあもう技術開発局の前身、なんて呼ばれるくらいのものは作っちゃってもいいだろう。というか研究所をそっちにね。
あくまでハード・生物系は一割くらいにとどめて、鬼道系、特に様身体とか転身体みたいなものはじゃんじゃか作ろう。ラインを越えない程度に。あと死亡率を……まぁこれはもう少し下げたって。
いやこれがあるならパズルなんて暇潰しは不要だよ。その辺はもう逆骨さんに丸投げしよーっと。
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して、ずあっと時間が飛ぶ。
現世の暦にして1603年。──つまり、江戸時代に入ったところで、尸魂界もまた新たな顔触れになった。
"寿脱隊"のこともあって戦死せずとも隊長を交代できるようになったことで、恐らく史実よりも激しく人の入れ替わった護廷だけど……現時点を見れば、それが収束した感じもある。
一番隊隊長、山本元柳斎重國。副隊長、雀部長次郎。三席に沖牙さんがいて、七席が僕。……五席の稲武さんは、残念ながら亡くなってしまった。
二番隊隊長、四楓院
三番隊隊長、厳原金勒。副隊長、美津島さん……は引退したので、
四番隊隊長、卯ノ花烈。副隊長、虎徹朱音。三席には山田清史郎さん、四席、四楓院さん……千日さん。そろそろわかりづらいから下の名前で呼べと言われている。
五番隊隊長、小椿宗次。副隊長、菱刈善哉。オサレ眼鏡は十席。ぼちぼち力をつけ始めた、風だけど、あれはもうかなりだね。隊長、副隊長はともに全然知らない人。小椿さんは名字だけ知ってるけど、って感じ。あ、尾花さんは知っての通り寿脱隊、一尺八寸さんもそんな尾花さんを羨んで良い男性を見つけて寿脱隊した。
六番隊隊長、朽木銀嶺。副隊長、柏原徹。三席には……朽木響河さん。どうなるかはわかんない。とりあえずまだ清廉潔白で精悍な青年って感じ。
七番隊隊長、虎姫。副隊長、藤沢アロヱ。四席、志波
八番隊隊長、京楽春水。副隊長、鹿取抜雲斎。……実力の関係でここはこうなっているけど、京楽さんが珍しく女性に頭が上がらないというか、鹿取さんへの尊敬の念があってちぐはぐなのが面白い隊だ。ちなみに鹿取さんは既に卍解修行に入っている。『全力部屋』フル活用である。
九番隊隊長、口之津晏那。副隊長、加津佐板橋。ここも全く知らない二人。副隊長の人は名前っぽいのが名字で名字っぽいのが名前らしい。
十番隊隊長、王途川雨緒紀。副隊長、西紀早乙留。……そう、なんと王途川さん、半減したはずの霊圧を鍛えに鍛えて隊長格にまで戻してきたのだ。西紀さんもこれには満足&誇らしげ。智さんとお子さんにこの前会ったけど、あの人をまたよろしくお願いします、って頼まれた。僕に言われてもね。
十一番隊隊長、刳屋敷剣八。副隊長、斐川大。六代目剣八の悪事を暴きつつ一対一で倒して隊長に。マー強い超強い。
十二番隊隊長、曳舟桐生。副隊長、名田庄
十三番隊隊長、浮竹十四郎。副隊長、車谷拝司。逆骨さんに「見込みがある。よくしてやってくれ。その中のモン共々な」とか言われたけど、僕に言われてもね案件なんだよねこれも。
さらにもう一つ。
大鬼道長、鋸歯文早蕨、副鬼道長は握菱鉄裁さんになった。有昭田鉢玄さんも鬼道衆にいるし、ああ、そろそろだな感がある。圓悠さんは大分前に引退したかな。
史実──物語が始まる400年前のメンバーがこれになる。
あと少しで、始まるのだ。……始まるよね?
東仙さんがいなくても……関係なく始まってくれないと、色々……。いや、大丈夫。オサレ眼鏡の目的に彼自身の有無はあんまり関係ないだろうから。でも二人と一人じゃ違うものがありすぎるというか、二人になることで同盟になるのが一念発起の材料になるというか、う~~ん。
始解始解。
──迎えようか、新時代のプロローグを。