卍解までは転生者の嗜み。 作:点差惨敗
仮面の目元が 抜かれていても
見える世界は 狭められている
不気味な雨と虚侵入のコンボがほぼほぼ無くなってきた。
さらにそこで大鬼道長と新しい副鬼道長こと握菱鉄裁さんが天気予報に関する鬼道を開発。ハードを任されたので製作して、この不気味な雨に類する通常の自然現象ではない雨を警報として報せる仕組みがつくられた。
鬼道を作るとかして大丈夫だろうか、と僕的には多少思うところあったんだけど、大鬼道長曰く「あくまで死神または虚の能力に対抗するためのものだから大丈夫ですよ」とのこと。
確かに、ルールチェンジャーってわけでもないもんね。
なお、このように握菱鉄裁さんは鬼道への固定観念が無いらしくて、僕みたいな頻度ではないにせよ、主に範囲系統のNew使い方鬼道を日夜研究開発しているそうな。ま、これ僕の固有技能じゃないしね。浦原さんもできるようになったし。
なんなら方丈の調理スタッフも若干できるし。
この面子に並ぶ調理スタッフとは。いやこの面子に並ぶ七席とは、ではあるのは承知しております。
浦原さんは期間が十日じゃなくなったよ、と伝えたら喜んでくれて、「良かった、アレを使わなくても済みそうスね」とかよくわかんないことを言っていた。何するつもりだったんだい君。
そして真央霊術院への鬼道衆出向に関するアレソレも定まってきた。僕がそうであるように、霊術院卒の鬼道衆は当然に多い。それで、大鬼道長も一緒なら……って感じにOKサインを出した鬼道衆が結構多かったんだって。久しぶりに霊術院に入ってみたいという気持ちもありけり、未来の同僚を学生の内から育みたいという気持ちもありけり、らしい。
……ただし、霊術院側の教師たちの意見もちょっとヒアリングしたんだけど、鬼道衆はぼそぼそ喋るのが良くないとか、鬼道の使い手としては凄まじいのだろうが教育者としてはうーん、みたいな人ばっかりだったので、まずは教師になるためのトレーニングを組まなきゃなぁ、みたいな段階。そりゃそう。
という感じで、もう結構色々進んでる。僕はまーったく進行状況を知らないけど、なんだか良い改革って感じで良いな、とは思ってる。「大掃除」は膿を出すためのものだったからさ。
ああそう、大掃除といえば。
あの虚に、ひいては背後にいるオサレ眼鏡に対して見せつけた偽始解。それに使った神具についても触れておこう。
四楓院家が役に立たない神具、霊力を込めると形状変化する満願利剣。王途川家が役に立たない神具、一たび地面にザクっとすると雨を呼ぶことができる罔象御鍬。
そして綱彌代家の大秘宝、神具・大円鏡典。効果は千日さんに説明した通り、鏡に映る対象者の全能力を下限に合わせる、というもの。えーこちら、役に立たないどころかふつーに「代々伝わる」クラスの代物でございます。
きっかけはまぁ、執行さんたちがいた頃のことだ。
執行さんのやる「脅かし劇」への出演回数が五十回くらいを超えたあたりで、「出演料を支払っておらなんだな」みたいな話になった。要りませんよぉ、とか言ってはいたんだけど執行さん一切退かないもんだから、「じゃあ執行家に伝わる役に立たない神具とかあったらください」みたいな話をしたわけだ。いつも通りね。
ただ当然執行家は貴族の家じゃない……というか執行乃武綱さん自身が天涯孤独であるそうで。それでもその場では「……良かろう」と言ってくれて、僕的には流れたつもりだった……んだけど。
執行さん投獄後、そして善定寺さんの助けで脱獄したらしい彼からの手紙と共に、この鏡が入っていました、と。
達筆なその字の文を要約すると、「綱彌代家の解体の際、映像庁の中核を担う神具をくすねることに成功したのでくれてやる。前に言うておった、出演料……儂にとっては何の役にも立たぬ神具、じゃ」とのこと。
さらに志島さんから、「足がつかないようにしておいたから、あんまりみだりに綱彌代家の秘宝とか言わんようにな」と釘を刺す手紙。
えー……あの、爆弾……渡された、みたいな。はは。
なお、善定寺さんからは「罪に問われたとしてもオレ様が出してやるから安心しろグワハハハ」みたいな手紙が来ててソッコー燃やしたよね。汚職をクリーンにしたばっかなんだって。執行さんを脱獄させるのは護廷との取引だから良いにしても、それ以上は職権乱用なんだってば。
……まぁ、投獄されたとか、責任をとって辞めさせられたとかって人達が元気そうなのはちょっと良かったけど。
さて、そろそろ現在へと目を向けよう。
僕が今いるのは『訓練部屋』。真央霊術院地下にある大規模訓練場である。
観戦用と区切られた領域にいるのは、十一番隊の全隊士の二百九十名。
その彼らが見ている先。中心で対峙するのは、今はまだ剣八でなき者、痣城双也。そして刳屋敷剣八である。
今朝方使用の申請があって……だから僕は伝えてある。
刳屋敷さんの卍解も、この部屋では抑え込めます、と。
仲間を巻き込む心配はないです、と。
……痣城家。
財力を持つ貴族の一家だけど、『利暁』壊滅の際に余波を受けた。その際に痣城家の財を狙う貴族による魔の手が伸びかけたけど、執行さんが厳しくこれを管理。
だから痣城家でただ二人悪事に手を染めていなかった姉弟は何の傷もなく生きているけれど、痣城家というものが存続していくことは最早無理だろう、という段階での、決闘。目的は読めない。お姉さん無事なのになぜ、という思いが渦巻くけれど、刳屋敷さんは決闘を受領。
戦いは。
霊力を封印してほしい、という願いは認可された。
己の中に渦巻いている思想の危険さを自ら説いて、霊力など無くとも姉を守って生きていきたいと語るその存在に対し、瀞霊廷が出した決断がこれ。
彼の要望通り霊力を封印した上で流魂街に放逐。綱彌代家や『利暁』と同じ刑だ。
その上で彼は流魂街にて事業を開き、十三番隊の姉共々清貧に生きていく、と言っていた。無駄嫌いの彼とは思えない決断であるが、やっぱりお姉さんが生きているのが何よりも大きいんだろうなぁ、と。
そういうわけで。
「世話んなったな、坊主」
「いえぇ、以前のお返しですよぉ」
「ん? 俺がなんかしたか? 今回のことで一方的に助けられたから、なんか返せるものはねえかと考えてたんだが」
七代目剣八、刳屋敷剣八は……死ななかった。
雨露柘榴はしっかり使ってきていた。その上で刳屋敷さんは諦めなかった。始解で距離を取ったのが大きかっただろう。そこから怒涛の連打で雨露柘榴の能力を探り、鬼道なども混ぜ込んだ上で勝利。卍解は使わなかった。
痣城は決して弱くない……というかフツーにチートレベルの斬魄刀&素の能力をしているんだけど、速攻を決めきれなかったのが分水嶺だったかな、という印象。
結果も……その良し悪しはわかんないけど、マイルドなところに落ち着いたんじゃないだろうか。
ただ問題は。
……剣ちゃんこれ、勝てるぅ?
いや決闘にしてほしくはないから戦いにならないのが一番なんだけど。
……トリプル剣八システムが理想……?
なんて。現世の暦にて1750年──そろそろ色々近付いてきた頃合いのことであった。
*
さらに時は進む。どんどん進む。
そろそろ色々起きるなぁ、なんて考えながらも、やることは変わらない。できるだけ準備をすること。そして──。
「……オマエ、これ……やりすぎじゃね? いや仕様書見た時からオイオイオイオイとか思ってたけどよ」
「どうですかねぇ。あくまでこの『訓練部屋』の特殊な条件下でのみ
眼下……最早おなじみバヴァ・アナンタ君と全力戦闘を繰り広げる五番隊、七番隊、十番隊、十一番隊の面々。
「『操身体』。作り上げた瞬間に
「……よく……オマエってさ、度胸あるよな。怖かったんじゃなかったのかよ」
「怖い?」
「いやだって、あんなに頑なに口割らなかったわけでさ」
「ああ。……いや怖いのは怖いのかもですけ、ど……怯える怖さというか、対策が難しくて面倒なだけで、す。いざことを構えることになったら全力で抵抗します、よ」
「その相手が仮に護廷でも、だろ。護廷のためなら護廷とだって戦う。ああ、聞いた聞いた。若干どころじゃなくアレだがな」
というわけで。
苦節四百年くらいか。『様身体』の改造版『操身体』の完成にまで漕ぎ付けた。
読んで字のごとくだ。この『訓練部屋』の内部であれば、遠隔で人形を動かすことができる。ヒトガタとかけ離れた虚であろうと、あるいは具象化した浅打みたいな見た目の素の操身体を操って、全力の山本総隊長と戦う、みたいなことまでできる。
今までラグに関連する問題で出すに出せなかったこれだけど、「意識にも中継器があったらいいのでは?」という発想から作り出した遅延型想念送受信機というものをかますことでこれが可能となったわけである。
ちなみに二枚屋さんからは「ちょいちょいちょーい! 前にちゃんボクが教えてあげた基準を忘れたのかYO! それホントにその性能ならちゃんボクたちも黙ってられないってわかってるのかNA!」みたいに来たので、『訓練部屋』の全方向から鬼道が通る仕組みを使わないと使えないです、あたりを説明して、「なるほど、最高にギリのギリのギリギリを攻めてみたってことDA。やるね、ヒリつきで生きてるみたいだNA」と言ってもらえて、引き下がってもらえた。そんな綱渡り精神はありません。
「これ操れるだけなのか? 鬼道……虚閃的なのは撃てねーの?」
「操作者が僕ならできますよぉ。僕は自分から離れたところに鬼道の発射点を設置できるの、で。ただし威力はお察しですが」
「あー。……鋸歯文か握菱で代用できないモンかね。この規模の虚だと虚閃をどうするか、ってのも結構な議題になるんだが」
確かになぁ。
虚閃。
大虚以上の虚の遠隔攻撃技能として使われるこれだけど、然したる説明が無い。読みはスペイン語で「0」を意味するCeroだろう。
ただ、月牙天衝は虚閃寄りの攻撃、霊力放出と違って虚閃ならそうであるとすぐにわかるなど、性質と呼べるものを何か持っているはずである。
月牙天衝の性質は、「斬撃の瞬間に使用者の霊圧を食らって巨大化させて飛ばす」というもの。恐らくはこの「霊圧を食らって」の部分が虚閃に似ているのだろう。
一般に霊圧とは霊力が齎す圧力のことを言う。そのため、霊力を使って砲撃をすれば霊圧も少し減って、実質霊圧を食ったということになり得る。けれど、そうではない。
霊圧を電圧に、霊力を電力に変換して考えてみると、その道の人にとってはわかりやすいかもしれない。
電力は本質的にP=VIだ。だから、電圧を一部パージする……食わせれば、負荷へ届く電圧が減るわけだから、結果として電流が減ったように見える。さらにP=VI=V²/Rなわけだから、言葉としては「電圧を削った分だけ電力が減る」が出来上がる。
パージされた電圧は、実際には抵抗やインピーダンスで食わせている、という表現になるのだろう。つまり熱エネルギーや電磁エネルギーに変換しているわけだ。
無論、電圧というのはエネルギーの差を意味する言葉なので、これらは全て逆説的な話になるけれど。
ここで大事なのは、「圧を食わせるという言葉の意味合いは、何か別のものに変換するということ」であるということ。
エネルギーそのものを放出しているなら「霊力を食らって飛ばす」という表現になるはずだ。霊圧の方を食らって飛ばしているということはこの結論に落ち着ける。
恐らくこれがミソ。
尾花さんの刀葉林。あれが繰り出す熱波の斬撃は、あくまで霊力を始解に通した形。驟霖の水の刃もそうだ。鬼道の放出系も全て、本質的には「霊力の形を変えたもの」でしかない。
でも、虚閃は違う。霊子の動きであることは間違いないのに、上記のそれらとは全く別の性質を有している。何かに変換されている──のだけど、変換先のエネルギーが存在しないというおかしな事態が起きている。
つまりそれが答えだ。
虚閃とは、「何かに変換しようとして失敗している掻き毟り」であると言えるのだと。霊力を、霊子を掻き分けて虚無へと変換しようとして失敗すること自体が攻撃となっているもの。
月牙天衝が似ているのは、斬撃の形に掻き毟らんとする、という技であるからなんじゃないかな。特に何が混ざっているわけでもない一心も月牙自体は撃ててたし。
無論、イッチーの天鎖斬月が……というか斬月が虚であるから、というのはあるだろうが。天鎖斬月さん帰刃説ね。
長くなってしまったけど、だから本質的に虚閃の模倣をする、というのは実は難しい。
僕は再現ができる。この理解があるから。
だけど、他の死神に言っても感覚がまず掴めないと思う。……それこそ本当に虚化でもしない限りは。
それと遠隔の装置から鬼道を射出できる仕組み、は流石にルールチェンジャーだと思う。『操身体』が此処まで怒られているのは、つまりもしこれを外に持ち出せたのなら、「死神が生身で戦わずとも良い時代」が来かねないからだ。
そしてそうなった時、……三界のバランスもだけど、帝国が大義名分を得て攻め込んでくるかもだし、霊王自体も大局を用いて僕を殺しにきそうだよなぁ、って。
命を張らずに命を奪えるものなんて、本来あっちゃいけないからね。
それでも──そのリスクを負ってでも、僕は犠牲を嫌う方針を決めたんだ。心は鬼で行くよ。どこまでも。
*
瀞霊廷は六番区東、のもっと東にある貴族の敷地内。その中でもとりわけ広大な面積を有する四楓院家、その本家。
畳と屏風に囲まれた空間で、一人の青年があぐらをかいている。
「千日様」
「おう。来たか。通せ」
「は」
四楓院千日。既に彼は当主の座を退いているものの、その発言力は絶大だ。そもそも当主が絶対の発言権を持つ四楓院家である。本来は当代当主には及ばない権力のはずであるのだが、その当代当主が千日を崇めているからこうなっている部分もあるが。
内々の派閥争いなど存在しない。当主か、それ以外か。四楓院家とはそれだけしかない。
部屋に入ってくるのは、やんちゃな印象を受ける青年と、それをいくらか若くしたような、褐色肌に金目の青年。
「お久しぶりにございます、千日様」
「あー、堅い。崩せ」
「……相変わらずですね。二言目にそれですか」
「なんで家族間でそんな堅っくるしくしなきゃいけねーんだよ。まぁオレの子じゃねーが」
四楓院家は非常に特殊な基準で当主を選別している。
まず、純血……元より他家の血を入れない四楓院家の中でも色濃い本家の血筋であること。
そして、天賜兵装を万全に使い得る素質と才覚を有すること。
いついかなる時でもそれを解放し、力になれるように。そしてその時以外は厳重に封印・管理ができるように。
その才が無くば、純血であっても当主となることはできないし、当主となれなかった者達が当主となれる才覚を持つ者を恨むこともない。
ただ安堵するだけだ。良かった、血が続く、と。
四楓院千日はその中でも極めて高い純度の血を有し、さらには素養と才覚も歴代最高峰である。そのことが発言力に影響している可能性は勿論あるが、単純に長生きだから、というのもあるのだろうと千日は考えている。派閥争いも権力闘争もない四楓院家では、過去の当主を引き摺り下ろす必要が無いのだから。
そして彼の目の前にいる短髪の青年が千日の次の当主、四楓院暮七。さらに隣にいる少年が。
「
「はい。──お久しぶりにございます、千日様。この極三、四楓院家二十一代当主を拝命しました」
「だから堅いっつの。オマエら普段そんなんじゃねーだろ」
「……まぁ、そうですね」
「一応式典に近しき場なのですが、やはり千日様は耐えきれませんか」
「オウ。だるい」
もう挨拶が終わったからか、そこまで言われては、と張っていた肩肘を崩す二人。
それでも背筋が伸びているのは、日々の訓練の賜物だろう。
暮七と極三。血の濃さの面でも天賜兵装を扱う素養の面でも千日に大きく劣るものの、同世代においては突出した才を持つ二人。
──だからこそ。
「早速ですが、本題に参りましょう。……夜一様についてです。生後五十年の儀……天賜兵装への御目見にて、兵装の全てが夜一様へ首を垂れました。千日様以来の現象です」
「まぁ、だろうな。知ってたよ。一目見て、オレの血を感じた。母上たちも鼻が高いだろう」
「……そうであると願うばかりです」
千日と夜一の母親は姉妹である。そのどちらもが「死神としての才」ではなく「純血の女性」としての役割を求められる役職にいる。
そのため、たとえ息子であろうとも、当主であろうとも、千日、暮七、極三は彼女らに会うことができない。もし会うことができたのなら、その時は既に当主でも元当主でもなく、次代の四楓院家を産み落とすための種としての役割になっている、ということだ。
自身らの親と会ったのは、恐らくは、生後まもなくが最後。
どこまでも──当主・元当主以外は機械的に、システム的に徹するのが四楓院家である。
「極三。前に会っただろ、平良」
「は」
「夜一と引き合わせて、何が得られるか予想つくか?」
「……僭越ながら、言わせていただきますと……非常に不味い事態になるかと」
「不味い?」
「はい、なんせ、今でさえ──」
丁度。タイミングよく、というべきか。
ドタドタとバタバタという足音と共に──。
「ちょ、まずいです、まずいですって!!」
「きわみ! くれな! 隠れてもむだじゃ、儂はもう霊圧ちかくできるからのぅ!」
制止する声をガン無視して現れたのは、八重歯の煌めく褐色肌の童女。
それに引き摺られてきたのが──浦原喜助。
「おお? おぬしは初めてみるの! いや、幼きころに見かけた霊圧の気がしなくも……」
「し、失礼がすぎますよぉ夜一サン! この方は──んむぐっ!?」
正体を明かそうとした浦原。その口を塞ぐのはなぜか暮七である。
その様子を見て、怒ろうとしていた極三も口を噤む。
「おぬし、名はなんというんじゃ?」
「
「ほう! 儂は夜一じゃ。おぬしも四楓院かや?」
「オウ、そうだ」
「ならば儂と鬼事をしよう! くれなときわみは、つかれてしまうからと、全然あそんでくれぬ」
「まぁこいつら弱いからな。遊んでやるのは吝かでもねーが……ちょいとオマエに会わせたいやつがいる。浦原、何も言わずについてこい。良いな」
「は、はい……」
目配せをする千日。暮七と極三はうなずき、下がる。
……この後のことに若干怯えながら。
千日が夜一を肩車して連れてきたのは、真央霊術院地下にある『訓練部屋』である。
そこで『操身体』の整備をしていた少年に声をかける。無論、滑川だ。
「よぉ、平良。オマエの霊圧知覚で気付いてねえとは言わせねーから、ほら。遊んでやってくれ」
「……今から僕ぅ、お昼ご飯なんですけ、ど」
「終わったらなんか奢ってやるよ」
「はぁ。……わかりましたぁ」
ゆらり、ゆらり。
独特の感じで、骨が骨として機能していないのではないかと思う柔らかさで歩いて、千日の肩から降りた夜一の前までやってくる滑川。
その滑川に……若干怯えたように、千日の足に隠れる童女。
「お……おぬしも、四楓院か? 儂と同い年くらいに見えるが……」
「いえいえぇ。僕は滑川平良といってぇ、千日さんのお友達、ですよぉ」
「き……きすけ、ちか! こやつ、おかしいぞ! 霊圧になみがない……木とか、石とかと喋っているみたいで、こわい!」
「おや、珍しいこともあるもんスね……。普段の夜一サンなら、好奇心旺盛に飛びつくのに」
「わかった! お、おぬし妖怪というやつじゃな!? 死神に紛れて……人を食ろうておるのじゃろう! 儂は騙されんぞ!」
指を差してまでのその指摘に……滑川はこてん、と首を傾げ。
「ひぃっ!?」
「ええぇ、お察しの通りぃ……僕は人を食べる妖怪さんですよぉ。……それじゃあ問題です。それを指摘されたからにはぁ、僕がぁ……あなたを無事で帰すと思いますかぁ?」
「き、きすけ! たいじ、たいじするべきじゃろう! ほろうより怖いぞ、こやつ!」
「確かになぁ。じゃあ平良、三対一でいーか?」
「いーわけないでしょ……と言いたいところですけどぉ、まぁ、良いですよぉ? 三対一で負けて心が折れてしまわないなら、ですけど、ね」
「え、いやいやいや! 滑川サン、ダメですって! 僕はどうとでもなるでしょうけど、夜一サンと千日様はとんでもなく速いんですよ? 勿論千日様のことはご存知だと思うスけど……」
「斬魄刀の解放やら鬼道が無いならぁ、僕はもう、格闘技戦では負けませんよぉ。……まぁ勝てるかどうかは微妙ですけ、ど」
ケラケラと笑いながら、「冗談だ」と言って……少し離れたところへ行く千日。
取り残された夜一と浦原は。
「きすけ、ふ……ふたりがかりでたおすぞ。妖怪は、たおすべきじゃ!」
「い、いやぁ。……その、滑川サン。夜一サン本当に容赦が無いんで、無理そうなら──」
じゅるりと浦原に肉薄し──その足を払って転ばせ、ぐるんと上空へ投げる滑川。
「い──!?」
「きすけ! この、妖怪め! 儂が相手じゃ!」
童女の、四尺とない背丈から放たれるは、極めて練度の高い白打。
何の遠慮も容赦もないそれを、ぐねりぐねる、うにょりぬねりと動いて往なす滑川に、焦るような声色を出しながら白打の密度を、速度をあげていく夜一。
「っと、とと……」
「きすけ! こやつ、捉えどころがない! はさみうちじゃ!」
「えっと、でもですね──」
「じゃあ、もう一回、ですねぇ?」
「うわっ!?」
煮え切らない、というか攻撃に参加できない、というような態度で落ちてきた浦原がまたも上空へ投げられる。
夜一の連打を躱しながら、だ。
「浦原ー。そろそろわかるだろ。──そいつ、回避技能だけで言えば隊長格に匹敵するぜ。攻撃力はねーけど」
「流石にそれは過大評価ですよぉ。
「……言うじゃねーか」
「騙されるでない、ちか! こやつはおぬしの友ではない! 妖怪のなりかわりじゃ! きすけが使い物にならぬから、おぬしが手を貸せ!四楓院家の名に懸けて、妖怪はたいじせねばならぬ!」
「確かになぁ。そうかぁ、オレの友達の平良は妖怪に成り代わられてたかぁ。じゃあ平良の無念を晴らすためにも参加するかぁ」
思い切り口角を上げた千日が、今の夜一では攻撃の発生すら掴めないほどの一撃を繰り出し──それさえも避けられる。
横から見たら「ら」の字だったり「く」の字だったり「わ」の字だったりに表現できそうなくらい、関節の曲がる向きも骨とは形の変わらないものとする常識も無視して、曲がる、曲がる曲がる曲がる。柔らかいのではなく煙と戦っているかのような感覚。
ぱち、と……大気を叩く乾いた音がした。
「オマエ、それ──」
「もっと迅く、もっと迅く──」
「わぁ。こんな年頃から教えてるんですかぁ?」
「な訳ないだろ……」
徐々に、徐々にと加速していく夜一。しかしさらにその上を行く煙が如き少年。
「きすけ! 呆けてないで、こやつの足を掴め! そうすれば──」
「さっきからやろうとしてるッスけど! こ……こんなに速く動けたんスか、滑川サン!?」
「じゃから違う! 既にこやつはおぬしの知る者ではないのじゃ!」
「かもしれませんねぇ。──浦原さぁん、来ないのなら……今度は、もう少し痛めの投げ方をします、よ」
「きすけ、覚悟を決めよ!」
「──あとは、こういうことをしてみたりぃ?」
じゅるんっと這うように滑るように移動した滑川。彼はその手で、夜一の首根を掴む。
「ひぃっ……!?」
「よ、夜一サン!」
「ゆ……指に、体温が無い! やはりこいつは──」
「滑歩七番・瓢箪鰻」
「ごば……!?」
中空に浮き……訳が分からない、という顔でジタバタあばれる夜一。しかしその手足は空を切るばかりで、拘束から逃れることがかなわない。
「球体型の結界──『緩衝霊子』と不触結界の合わせ技!?」
「これを、くるくると回転してみたりぃ」
「ぬあぁあああ!? きすけ、助け──」
瞬歩。それによって滑川の背後を取った浦原の顔面を、滑川の草履がべたんと踏みつける。
「ぶっ!?」
続けざまに、結界へ手を伸ばせばギリギリ届くところに現れた浦原の顎をつま先が蹴り上げ、滑川の軸足付近に出現した浦原の横腹を殴り飛ばし。
吹き飛ばされようと踏みつけられようと痛みと呼べるほどのものは一切無いけれど、近付けない。目で追われているわけじゃない。
「浦原さんが相手の認識のどこを隙と捉えるか、その好みがどうであるか、というのはもうわかっていますから、ね」
「人読みだけで……僕の出現位置を割り出してる、と!?」
「じゃないと僕じゃあなたたちの相手はできませんよぉ。同じようにこうして踏みつけるとぉ、か」
「ちっ、読まれてるか。……いつもじゃない動きをしたんだけどなぁ。こんな遅い足をどーして避けられねーんだオレは」
「はぁい。千日さんがいつもじゃない動きを意図的にしようとした場合、どこを好むか、というのもわかっていますか、ら」
千日の腕を踏みつけた姿勢から、じゅるりと退避する滑川。ただし夜一は持った上でである。
「い、いい加減にごばがば!!」
「そこから抜け出せるようにならないとぉ、僕に触るとか、夢のまた夢ですよぉ。──しっかし、四楓院家も大したことないですねぇ。浦原さんも、もしかして鬼道だけだったりするんですかぁ? 斬拳走鬼全部優秀だって聞いてたんですけ、ど。僕に鬼道習ってる暇があったら、もうちょっと霊術院の勉強頑張ったらどうですか、ね」
「あいや、僕もう霊術院は卒院してて!」
「あれぇ? そうだっけ。……そういえば卒院祝いを送ったような気も」
「ハッ、そのナリでボケてきたかよ平良! ちなみにオレも忘れてた。なんかオマエっていつまでも後輩じゃねーけどさ、下っ端感あるよな。口調変えたら?」
「ヒドイ!?」
けれど、と。
杞憂だった。どころか。
回避だけなら隊長格に匹敵するというのは、誇張ではないらしい。
だから……浦原は、滑川に見せていないモノを用いて、本気で彼を倒してみることにした。
「この──夜一サン!」
「へえ。自分っぽく着色した結界ですかぁ。発想は良いですねぇ」
「一瞬で見抜かれた!?」
「と、驚くような声の下方向が囮で、本体は結界と見せかけたものの中に」
「おら──食らえ!」
「さらに千日さん風の偽物で攻撃。僕が持っている結界にも不可視の結界が被せられていて、思わず持ち替えを行えば奪い返せる、とぉ」
看破されて行くすべて。
その全てが──突然、消える。
「初めから僕は視覚にも頼っていないしぃ、霊子の照射先だけを見ているわけじゃないですよー?」
二本指。
それで白刃取りされた、浦原の手刀。──その浦原が、ぱぁんと弾けた。
──直後、滑川の世界は暗闇の中に。
「ああ、これ、ダメですよぉ。危ないので自分だけで使っちゃダメって言ったじゃないですかぁ。もしかして僕に黙って練習してたんですかぁ?」
「は……え、効いてないわけじゃ、ないスよね? まだ……破られてないし」
「ご自身で聴覚潰しておいて何言ってるんですかぁ。聞こえないですよぉ。何を言っているのかはわかりますけど、ね」
結界を受け止めさせて、そこを基点に対象を覆い、五感封殺の結界を編むその技法。
考案者である滑川にはできない、激しく動きながらのそれの行使は、結界化することで難度を下げ、この速度下での使用が可能になった。
既に浦原の霊圧が滑川を超えていればこそ、その付与は容易だったはずなのに。
「僕はねぇ、浦原さん。最初から視覚にも聴覚にも触覚にも頼ってないんですよぉ。勿論嗅覚にも味覚にも、ね。意図的にそれらを使うことは勿論ありますけどぉ、霊子の照射先でさえ見てないんですねぇ。僕を騙すには霊圧を偽装しましょうねえ。それも、霊圧の遮断とか、別人のふりとか、大気と同じとか、そういうのじゃだめですよぉ?」
「……なんだったら、騙せるんスか」
「なんでしょうねぇ~。それを教えるほどの強さがあるとは思えないんですよねぇ~」
「……でも」
「ああそう、だからぁ」
夜一の入った結界球を動かす滑川。
その元あった場所を掠めていく浦原の手。さらにその伸びた腕に足が絡みつき、ガン! と組み伏せられる。
滑川も、夜一も、千日も浦原も──全く別の場所で固まっているのに、だ。
今動いた二人は、果たして誰だったのか。
「うぐ──今、僕の用意した
「はぁい。騙されたように見えましたかぁ?」
「……かかったフリ、ってことスか」
「術者に上手く騙せたな、と思わせるための演技か。良いのか、それ出しちまって」
「初見でしか使えない技をそう何個も用意しても、ですからねぇ。それに……本当にかかっているのかわからない、みたいにした方がぁ、駆け引きの難度は上がるでしょぉ? ……それと、君の意識を最初に騙したのは僕ですからねぇ。君がどっちに成長するか、どういうものを隠しているかも想像した上でぇ、
ぱちんと結界を解除し、大分グロッキーになっている夜一に回道を当て始める滑川。
浦原への組み伏せも解除して、だ。そしてそっちはなんと、千日が回道を当てている。
「うぅ……妖怪め……」
「千日様、い、いいですって……」
「ってなわけで、また夜一を連れてくるからさ。相手してやってくれよ、妖怪。あ、ちょい動くな」
「たまになら、いいですよぉ。私塾の方もあるんでぇ、そっちと被らなければ、ね」
「オウ。……治ったか? ま、擦り傷程度だが」
「は、はいッス! 申し訳ございません、千日様のお手を煩わせてしまって……」
「良いって。最後の結界の応酬は見てて面白かったし。組手に鬼道持ち込むとかいうとんでもねーことしてたとはいえ」
「あ」
「いいですってぇ。結界まで使っても僕に一撃も入れられなかったって事実が残るだけです、し」
そんな滑川を見て、はて、と首をかしげる千日。
「今日のオマエなんか妙に煽るな。浦原と夜一には期待してる、ってことか?」
「そうですよぉ。期待している人相手にしかこういうことしませんからねぇ、僕。……あと虚だけにしか」
「儂は虚とどうれつか!? この……回道までつかえるとか、なんなんじゃおぬし!」
「初めて会う相手を妖怪呼ばわりする悪い子は、虚と同列扱いで良いですよぉ」
「む。……。……むむむ」
「いや妖怪って呼ばれて乗り気になって変な体術使い始めたオマエが悪いだろ大分」
「変な体術じゃないですよぉ。滑歩十番・竜髄ですぅ。前に教えたのに、千日さんが唯一習得できなかった滑歩ですよぉ」
「……そんなのあったな。……あの時は流したが、そう言われると……習得したくなる」
「ちなみに浦原さんはできますよぉ」
「んだと? ……ぜってー抜かされねーからな、夜一」
「む? なぜ儂なんじゃ? いま、きすけにけんかを売る話にきこえていたが……」
「賢い子ですねぇ。何歳くらいですかぁ? 七歳とか、八歳とかかなぁ」
「儂はもう五十じゃ! おぬしとそう変わらん!!」
「たしかぁに。零一個分と少しくらいしか違わないかもぉ」
治癒を終えて、立ち上がる滑川。ちなみに彼はもうそろ八百歳に突入する。完全な余談だが逆骨の大翁はまだ存命である。
「さて、お昼御飯ですよぉ。奢ってくれるんでしたよねぇ、千日さん?」
「奢りはするが、こいつらも一緒だ。……『方丈』か、『秋風』か……あと近さで言えば『足福』でもいい。浦原はもうオマエの料理に慣れてんだもんな。夜一の舌がここで破壊されることになるが、まぁ頃合いだろう」
「舌を、破壊とは……どういうことじゃ?」
「あー……まぁ大丈夫ッスよ、夜一サン。怖いことじゃないッス」
「いやじゃから、どういうことかを聞いているというのに」
……その後。
四楓院家では考えられない味に見事舌を破壊された夜一は、それはもう毎日のようにここへ来ることを熱望し、浦原と極三を大層困らせた、とか。
また滑歩というものの存在を知った彼女がそれを己に取り入れ始め──。
極三の懸念通り、四楓院家の中を大暴走し、おちょくりまわり、それはもう……それはもう、だったそうな。
*
そういうことがあって……懐かれたわけじゃなく、敵視され続ける日々が続いたある日のことである。
僕が私塾の片づけをしていたら、突然夜一さんが駆け込んできたではないか。
とうとうここも侵略されるのかぁ、とか考えていたら。
「た、助けてくれ、妖怪! きすけとあせんが、ほろうにやられてしまう!!」
「……方角、わかりますかぁ?」
「あっちじゃ!」
あっち、と言われた方向に集中する。虚が出ている方向か。九番隊が対処していたから問題ないと思っていたんだけど……。
……結構な怪我人が出ている。っていうか今喜助と鴉泉って言った? 千日さんは?
とか、色々考えたけど。
「ここで待っててくださいねぇ」
僕にできることなんてほとんどないけど……現場を見てから、手にあまりそうな虚なら誰か呼びつけよう。
滑歩と瞬歩の重ね技……前に厳原隊長がやっていたやつの僕用アレンジ版で結構な速度を出して到着した現場にいたのは。
──前のサメ頭とは違う。ほとんど……成体に近い、見た目完全に破面な人影、だった。
周囲には負傷者がたくさんいるけど、なぜか死体は無い。……というか、ん? 林の影に千日さんいるじゃん。……えーと、珍しい。刑軍のハンドサインだ。えーと、時、金、虚、釘、運ぶ? ……あ、察し。爆速理解は以下省略。……いやまぁこれは、千日さんの友人としての嗜みかな。
というか、こいつって……。
「……増援、か? 霊圧からして、雑兵のようだが」
「はぁい。初めましてぇ、虚さん。お名前教えてくださいますかぁ?」
「──シャウロン・クーファン。そして虚ではない。破面と呼べ、死神」
……。
そこは……普通になの? え、それとももう崩玉あったりする? 浦原さんまだ作ってないよね多分。でもオサレ眼鏡側はとっくに……?
一応懸念はしていたんだ。
オサレ眼鏡も作っていた崩玉だけど、浦原さんのものじゃないものとも融合させられるんじゃないか、って。
それが──たとえば、ザエルアポロ・グランツの、とか。
崩玉。アレは多分、構造的には浅打と同じものだ。浅打の原材料を刀の形にしたか玉の形にしてさらに材料を投入したかの違い。
尸魂界の鉱石というのは霊子の集積物且つ死した死神や虚の体組成霊子の堆積物。何百万という死神の魂魄を降り重ねてつくる斬魄刀と同じ。
崩玉は周囲にいる者の願いを叶えるという形で霊子に干渉し、浅打は自身を使い続けた者の可能性をもう一人の自分として具現化する。
だから、二枚屋王悦が作れるなら。あるいは何百万という魂魄を手に入れる手段があるなら……どちらかを作れておかしくはない。そして二枚屋王悦の製作技術がワンオフだというのなら、むしろ崩玉の方へ行きつきがちであると判断できる。
ギリアン……メノスの森とか、崩玉落ちてたりして。……さすがにないか。新年のプレゼントで山本総隊長が配布するくらい無いね。
「どうした? 霊圧差に恐れ、言葉も出ないか。まぁ、安心しろ。先程の童女もだが、子供を殺す趣味はない。早く頼れる大人を呼んでくるといい」
「いやいやぁ。僕も護廷の一員ですから、ね。戦います、よ。あ、でも、解放だけさせてもらってもいいですかぁ?」
「……独特な間の使い手だな。そして、許そう。それほどの力量差が私達の間にはある」
「すごく良い人ですねぇ。ありがとうございますぅ。──では、
今は雨も降らせていなければ『大円鏡典』さえセットしていないので、本気で刀身が無い……鍔がハンコになっているだけの形状変化である。
こ、こんな棒切れでどう戦っていうんだよぉ。
「ほう! 刀身が消えたということは、他の攻撃手段を有すると見た。さて、どう出る、少年」
「じゃあまずぅ、破道の十番以下・全部ぅ」
衝とか撃とか白雷とか。
そういうのの入ったプレゼントボックスみたいなものをまとめてプレゼントする。
──しかし。
敵、シャウロンは……防ぐ素振りさえせずに、ノーダメィジ。
「何かしたか、少年」
「そ……そんなぁ! 傷一つも……無いんですかぁ……?」
「ふっふっふ。我々破面程の霊圧の持ち主には、鋼皮と呼ばれる特殊硬化外皮が備わっている。この程度では傷はおろか触れられたことにさえ気付かないぞ」
「こ、このぉ。……破道の十番台・全部! うわぁ!?」
暴発する十番台の破道たち。当然である。放出する系ばかりだった一番から九番までと違い、十番台は綴雷電や伏火など、ワンクッション置いてから発動する系が揃っている。それを同時になんて使ったら、元素系が競合を起こして暴発する。
「いや……何をしているのだ、少年。私は何もしていないのに……腕が爛れているぞ。……というか、斬魄刀の能力も一切効果が出たように思えないし……まさかこれが初陣とか言わないだろうな」
「……そ、そんなことはぁ……ないです、よ」
「そ……そうか。……いや、困ったな。戦力調査をしてこいとの仰せだったが……子供の相手をして帰りました、では流石に……」
「五百璽剣! 五百璽剣……なんで言うこと聞いてくれないんですかぁ……!」
「あー。……君の斬魄刀は、本当はどういう効果なんだ? そのだな。……一切効きはしないだろうが、取ってほしい行動があれば──」
余裕があるからか、紳士的だなぁ。
……時間稼ぎはこの辺で良いんだろうか。……あ、まだダメですかぁ? はぁい。
「本当は、こうやって鍔を向けた先から判子が飛んでぇ、それが身体に付着すると、見えない刀身が永遠に対象を追い続けるはずなんですよぉ」
「そうか、思いのほか凶悪な能力だな。……しかし、その……判子とやらが出たようには見えなかったが」
「言うことを聞いてくれないんです……。これ、僕の家に代々伝わる刀なのに、僕のことを主人と認めてくれてなくて……」
「成程、己の魂の写し身ですらないのか。……わかった。少年」
「はぁい、なんですか、良い人っぽい虚の人」
「うむ、まず破面に良い人はいない。それを覚えておくように。そして先も言ったが虚ではないこともちゃんと覚えておくように」
「はぁい、シャウロン・クーファンさん」
「よろしい。──それでは、人のいそうな方向に蹴り飛ばすから、上手く受け止めてもらうんだぞ」
「え」
その──最大限突き破ったりしないように鋭さ皆無で放たれた蹴撃が。
ヌ゜んっ、と……外れる。
「うっ……?」
「な……何事ですかぁ!?」
「なに? 君も分かっていないのか……。……否、だから……実はそういう能力であるのに、伏せられている?」
続けざまの蹴り、さらには拳、鞘での殴打。
その全てが、すっぽ抜けるようにして当たらない。二枚舌さんみたいな喋りの演技でも良かったかこれは。
「……あくどいな。一見無害そうな幼子を戦場に出して、嗜虐的な性格の多い虚がこれを攻撃すれば、このようにして当たらず、激昂する。……幼子本人ですらその能力を知らぬから演技が割れることもない。──そして、その間に負傷者を回収する、か」
「え、えっと……?」
「少年。信じられないだろうが、君は死神たちに利用されているのだよ。見ろ、先程まで周囲にいた負傷者たちがどこにもいない。察するにオンミツキドウとかいう者達の手で片付けられたのだろう。私が君と戯れている間に」
「つまり……僕は、役に立ったってことですかぁ?」
「……その発言は、普段から役立たずと呼ばれていることの証左、か。……死神とは三界の調停者ではなかったのかね。このような非道が横行しているというのならば……あのお方が滅ぼすべきであると言っていた理由がよくわかる」
「その……」
「そうだ、良いことを思いついた。少年、虚圏に来ないか? あちらは霊子密度が高い。ゆえに腹が減らない。君の斬魄刀の能力があれば自衛もできるだろうし、その上で君に不当な指示を出す者もいない。理想的だろう」
そろそろ……かな。
いやなんかフツーに真っ当な提案されててびっくりするんだけどさ。
「でも僕、持ち場を離れたら……こ、殺されちゃいます」
「大丈夫、証拠は残らない。──そら、黒腔を開いてやったから」
開かれる黒腔。そして……手を差し伸べてくるシャウロン・クーファン。
恐る恐る、と言った風にその手に自身の手を伸ばし──掴んだ。
一気にあくどい顔になって引き千切られる、とかもなく。よし、と頷き、そのまま黒腔へ──。
入られると面倒臭いので、閉じますねぇ。
「なんっ……なんだ、黒腔が閉じ──」
「縛道の六十番台・全部」
「っ!? 少年、貴様!?」
そして──断空と霊圧知覚を遮断する効果で囲んでいた近辺の結界を、解除すれば。
「──そのまま拘束しておけ、少年。
シャウロン・クーファンのその首を、真紅の鎌が、薙いで──。
……情けをかけてくれたようだし、終始紳士的に対応してくれたけど、ごめんねぇ。
こっちもそうも言ってられないからさ。