卍解までは転生者の嗜み。 作:点差惨敗
1.嚆矢濫觴
この星が丸いから あなたに出会えた
この星が丸いから あなたから逃れられない
曳舟さんが義魂技術を、浦原さんが義骸技術をほぼ同時に発表した。
特に口裏を合わせたというわけではないらしいけど、ほとんど同時。
これを受け──曳舟さん、浦原さん
五人までじゃなかったのか、という思いは当然にありつつ。
浦原さんはその話を蹴ったらしい。そして曳舟さんは承諾した。知っている通りの流れだ、だいたいは。
違うのは、浦原さんが零番隊への昇進話を蹴った、というのがある程度には知られている、というところか。
現世での暦は、1897年。
ローズ君は三番隊の副隊長になった。厳原隊長がやめてないからね。
僕的に嬉しいトピックスとしては、やっぱりこれか。
「……お久しぶりですねぇ、志島さん」
「ほんまに。お久しぶりやんな、滑川君」
志島さん。
500年の謹慎を経て……護廷に復帰。ただし四番隊ではなく。
「ああ、そうでしたか。滑川七席と志島さんは、お知り合いだったのですね」
「ちょっと浮竹隊長、僕に丁寧語とかやめてくれや。今の僕は副隊長。贖罪中なんやで? ほんまは平隊士からのとこを、浮竹隊長の主治医からの指示を受けて副隊長におる、というのを忘れやんように」
「ははは、すみません。気を付けてはいるのですが、やはり霊術院時代に憧れていた隊長の一人である、という意識が抜けなくて。そして……わかってはいましたが、滑川七席もその時代を生きた存在だった、と」
「僕にも丁寧語はやめてくださいねぇ。七席なんでぇ」
「滑川君に関しては僕も敬語で接する必要があるかもしれんやんな。功績という点で今の滑川君に勝れる人ほとんどおらんのやないですか?」
「買い被りですねぇ」
十三番隊副隊長、というポジションに入った。理由は今志島さんが言った通り、浮竹さんの体調管理やら薬管理やらをするために、という話。主治医からの指示とは言うけど、お墨付きだったか太鼓判だったか、それならば安心できます、みたいなノリだったとか。
志島さんは『利暁』関連でも脅されて隊士を人質に取られて仕方なく悪人を治療していた、というバックストーリーになっているから、悪印象を持っている人がほぼいないのも決め手の一つ。そうなるように執行さんがやったんだけどね。
元四番隊隊長が、比較対象にするのは悪いと思うけど、鹿取さんみたいに力を失ってからの副隊長、ではなく……何の力も損なわれていない状態で十三番隊副隊長になった、というのはかなり大きな話だ。四番隊のサブとして十三番隊が動き得る、ということだもん。回道の使い手多いし。
また、浮竹さんの体調面を憂慮して宛がわれていなかった遠征も行えるようになるだろう。勿論志島さんが同行のもと、という制限付きは当然にして。
さらにもう一つのトピックスは、やはり。
「……こんな感じ、ですかねぇ」
「いや……流石は『方丈』、『秋風』、『足福』を支えた腕、って感じだねぇ。……うん、しっかり霊力が回復する。文句なしの腕と、文句なしの味だよ!」
「ありがとうございますねぇ」
霊力回復料理。
僕としてはようやっと出てきたか、というそれ。
それを教わっている。曳舟さん固有の──どうやら斬魄刀の能力らしい──それを見せてもらい、霊子運動から再現してみた次第。霊力回復に関しては卯ノ花さんと志島さんが習得できたらしいんだけど、食事で回復させる、っていう方はてんで全くだったようで。
そりゃそうだよ、と思いながら今僕も作っている。だってこれ。
「丹精を込めてつくる、なんて言葉がありますけどぉ、やってることはほとんどそれですねぇ」
「そうだね。霊圧が低い奴には作れないし……あんたみたいに繊細な霊子知覚を持ってないと無理だ」
言うなれば料理版月牙みたいなものだよ、これ。
調理の際に材料へ霊力を込め、「霊圧を有する食材」にした上で料理する。ただし、本来霊圧というのは魂魄のある存在にしか備わらないから、義魂技術であるという扱いにした上での霊力封入。遠回りだ、この時点で。
さらにそのままでは「他人の霊力」でしかないそれを「食べた者への霊力還元」にするために、どうするのか、と思っていたら、魂魄を癒すような特殊な回道が使われた。ここでようやくなぜ今まで成功しなかったのか……発表はしないにせよどうして個人実験でもやれなかったのかがわかる。
つまり……僕の解釈が違っていたんだ。「他人の霊力を食べた者の霊力に変換する」んじゃなくて、「込めた霊力で魂魄を強化する」という行為こそが霊力回復。
通常の回道が「本来満杯であるはずの小瓶の中身が損なわれたためにそれを補充する行為」であるのならば、これは「小瓶の修復・強化をすることで補充速度を上げる」みたいな感じ。魂魄が持つ霊力の自然回復力を一時的に極大にする行為が近い。
勉強になるというか、僕じゃ出てこなかった発想だ。ある意味で通り過ぎていた地点なのだから。
「本当のことを言えば……アタシはアンタの方が零番隊へ昇進するに相応しいと思ってたんだけどねぇ」
「……それは、なぜですかぁ?」
「なぜってアンタ、舐溶飴も鬼道改良も、最近流行ってる霊鎧技術なんかもアンタの作品だろ。発案者は隠されてたけど、流石にわかるよ。方向性でわかる」
「……まぁ。僕の発明は死神の持つ現行のルールを著しく変える、ってものじゃありませんからねぇ。零番隊が欲しいのってつまりぃ、
歴史に残る何かを創り出し、霊王に認められる。
ただ……霊王の現状を思えば、認めるというのは許されるに近いのかな、とか思うし。大枠は多分和尚の方がやっているのだろうし。
そして……恐らくは、瀞霊廷が一掃されるような事態が起きたとしても、再度死神という役割を持つ組織を再建できる存在として、「技術の保存」という意味で零番隊メンバーを集めている感じがする。
通称が零番隊なだけで、本来は王属特務。山本総隊長が作った護廷十三隊に役割を当てはめているにすぎないわけで。
僕が作り上げたほとんどの技術は、「今の護廷」を強化するためのものだ。二枚屋さんからストップがかかった『様身体』などの技術は「別の護廷」にも使えるからあんなにも過敏に反応されたんだと思う。だから僕は呼ばれない。
「……やけに詳しいね。行ったことあんのかい?」
「ないですよぉ。でも、零番隊へ行った人とは何人かと関わりがありますからねぇ。なんとなく察せるというかぁ」
「なんとなくだけでそこまで察されたら色々困るんじゃがのぅ」
──。
「おや。アタシを迎えに来たのかい?」
「それもあるが、ちょいとこの小坊主に釘を刺さねばならなくてのぅ」
いた。いつの間にか。
木魚みたいな形の顔の、大柄な男性。
「そう警戒するでない。おぬしをどうこうするつもりはない。言った通り、釘を刺しにきただけのこと」
「釘……ですかぁ?」
「そうじゃ。……その判断通り、おぬしを零番隊へ勧誘する、という話は今のところ出ておらぬし、定員となった以上はそう怯えずとも滅多なことでは声をかけたりせぬ。技術部分はそれで良い。──その上で」
和尚さんは……怖い顔をする。
「
「……そうですかぁ。目的は、代替でぇ?」
「そうなるなぁ。──あるいは」
ぎょろり、と。
「おぬしの力で
「買い被りですねぇ。僕にそんな技術はないです、よ」
「そうか? 二十年そこらでもおぬしを
「どうして、そう思うんです、か?」
「おぬしの名を断ったとしても、おぬしはわしに名を奪われぬからじゃ。──どうする? 曳舟の前で、これ以上を続けるか?」
「……いいえぇ。引き下がります、よ。……すべてがどうにもならなかった場合のみ、またお声がけくださいねぇ。──百年かかるか千年かかるか知りませんけ、ど。……やれることは、あると思います、よ……とだけ」
霊王を作り得るのか、という問いだ。
そんなことまでできるとは思っていないけれど──到底思えないではない、とは言っておく。
霊子と器子しか無い世界で、その片方を操り得るすべがあって。
再現できないものは、果たして存在するのか。
お手本まで見せられて……できないことが。
「期待しておこう! というわけで、それ以外は
「……僕も、期待をしていますから、ね」
「うむ。……では、曳舟。支度は終わったか。今日の夜には出立するゆえ、挨拶回りを済ませておけ。集合場所は志波家。以上!」
「ああ……ったく、急だねぇ。というか大事な話なら捌けるってのに、まったく」
……僕一人にさえ霊力回復料理を教えたら、十二分に「引き継ぎ」できたって思われたのかもね。
しかし、今日の夜までいるのか。なんか新鮮だな。霊圧的には他のメンバーはいないみたいだし、和尚さんだけ来たのも意外。
「それじゃあ、ありがとうございましたぁねぇ。後の時間は、大切な人たちにお使いくださぁい」
「お気遣いありがとうね。……そうだ、
「勿論ですよぉ。……それじゃ」
滑川平良。
ようやく……霊力回復料理を習得しました。
*
浦原さんが十二番隊隊長になるとか、平子さんが久しぶりに挨拶に来たとか、藍染さんが副隊長で頑張っているとかの話を後目に……
流魂街の住民。その幾人かが、服だけを残して消えている、という事件。
魂魄消失事件にしか聞こえないけれど……やるのかなぁ、という思いの方が強い。
残留霊子の感じは『魂魄消失事件』っぽい。けど違和感が凄い。
なんというか……何か別のことをした後に、わざと魂魄を削って霊魂を消滅させた、みたいな。
本来の目的は別だと思う。
そういえば確かに虚化に関するデータは揃っていないはずだ。崩玉のための魂魄ではなく、魂魄の虚化……「整」と「虚」の境界を崩す方に注力した結果……だとしたら。
容疑者が、一人増えてしまうけれど。
……確かにそうなんだよな。曳舟さんの引き抜きが「ちょっと早い」だけでなく、『魂魄消失事件』も「ちょっと早い」わけで。
その中心にいるのは、と考えると。
「滑川七席、何かわかりましたか?」
「……はい。まぁ、防ぎ方は、わかりました、ね」
「本当ですか? 流石は一番隊……」
調査の人にある程度を報告し……魂魄頑強のみに特化した廉価版舐溶飴を流魂街でも売り出すよう指示。本当にこの症状のみならばこれで良いと思う。
……正直、浦原さんが崩玉を作るかどうか、というところについては微妙だと思っている。
そうならないよう誘導した、というか。
崩玉程度のことは、それを使わなくてもできるということを見せつけ続けてきたというべきか。
その結果それ以上のものを……つまり「死神と虚の境界を崩す物質」としての在り方を望まない物質を作った可能性はあれど、一連の物語の中核を担うアイテムを作ることはないんじゃないか、って。
果たして、だね。
「浦原さん」
「──……。……どうしたんスか、滑川サン。
神妙な声。何かを隠す動作。
……嫌だなぁ。考えちゃうなぁ。
和尚さんの言っていた……何をしてもいい、というのが、どういう意味なのかを。
「浦原さんは……とても優秀な生徒でしたけどぉ。ちょーっと悪い子というかぁ、好奇心を抑えられないんですよ、ね。禁止されたことまでやっちゃう、っていうか」
「えっと……何の話ッスか? もしかして昔の……五感封じのことを言ってるんスかね」
「いいえぇ。確認をしに来ただけですよぉ。その……霊圧を完全に遮断する容器の中に、何が入っているのか」
「……」
生唾を飲む浦原さん。
どう……だろうなぁ。全て勘違いという可能性も勿論あるけれど。
霊子遮断外套は自分で作ったからねぇ。わかるんだよねぇ、どういう原理で遮断が起きていて、そして打ち消された霊圧が元々どういう形だったのかもわかる。
「申し訳ないですねえ。僕……わかっちゃうんです、よ」
「……何が、ッスかね」
「それが数百万の魂魄の混ぜ物だってことがですよぉ」
あれはやっぱり、崩玉だ。わかる。
……こっちにまで「触角」を伸ばしてきているけれど、僕が靡くとでも?
「──乱流結界」
霊子乱流の結界を構築する。
「こ……れは」
「お見せするのは、初めてでしたよねぇ。──卍解」
「っ、卍か──」
久方振りに世界を染める。
この結界に触れるか触れないかくらいのギリギリを範囲として。
「
消える刀身。元より刃として役に立たぬものが消えるのはなぜか。
それは即ち、全てを刀身とすることに同じと言えよう。
「……卍解が……発動しない……?」
「卍解してまで、僕から
「ッ、いつの間に──」
容器を取る。
力を失い、光を失い、黙したままの多面体。
「これが何かを知った上で作ったんですかねぇ」
「な……その、口ぶりは……まさか……これさえも、先回りして……?」
「僕は作ってないです、よ。潰えて融合した魂魄の意思が自我となって宿るせいで、扱い難いったりゃありゃしませんしぃ」
斬魄刀のように写し鏡としての意思ではなく、乱雑で血の通わない意思など邪魔なだけだ。
作れそうだったけど、作っていない。余計なことしかしないことを知っている。
「危険だと思ったはずですねえ。じゃあこれ、破壊しちゃっていいです、か?」
「……無理スよ。その方法についてはもう何通りも試しました」
「
容器を握って、割って砕いて。
結晶体を抓んで──罅を入れる。
「良心の呵責。最後に残った理性から破壊を試みたけれど、心のどこかではこれがどういう働きをしてくれるのか楽しみで仕方がなかった。……という顔にしか見えませんねぇ。──さらに、もう一つ」
ピシ、ピシピシと。
入っていく罅に、けれど、助けも呼べない結晶体。
「……なぁんて。はいこれ、返します、よ」
「へ……?」
「今触ってわかりましたぁ。流魂街の人々の魂魄を使わなかったんですねえ。原材料は折れた、もしくは持ち主が消えてしまった斬魄刀ってところかなぁ。それに……方向性は死神と何かの境界を崩すというより、もう少し内面的なものっぽいです、し」
「う……嘘だ。触っただけでそんなことまで……」
卍解を解除し、乱流結界も解除する。
途端結晶体の修復が始まり。
「あなたが護廷にいる内は、研究しても使用しても良いと思いますけ、ど。……処分するなら、言ってくださいねぇ。間違っても誰かにあげるとか、それを封入した義骸を作るとか、ダメですから、ね」
行動の価値はあった。
少なくともあの崩玉は今回の事件で使用されたものではない。ということは、犯人も確定だ。
考えるべきはじゃあ、やっぱり、どうして今更そんなことをしているのか、だな。
「あ……あの、滑川サン」
「はぁい?」
「……ずっと聞きたかったんスけど。……滑川サンって……実は死神じゃなかったり……します、か?」
……色んな人が聞いてくるね、それ。
答えなんか一つしかないけど。
「死神ですよぉ、間違いなく。それじゃあ、ごきげんよう」
僕は死神だよ。
どこまで行ってもね。
*
正式に調査隊が編まれることになった。
「よろしくお願いしますねぇ、虎姫さん、愛川さん」
「うス。よろしくお願いします、滑川七席」
「また、同行者を頼む、少年」
「はぁい」
七番隊全隊が正式な調査隊となり、そこに僕なんかの特化能力持ちのパーツが組み込まれている形であり、席次が変わったりなんだりは無い。
その上でなんか僕を持ち上げてくれているのは愛川さんだ。つまりラブだね。
虎姫さんが何かを話したらしい。お世話になっただかなんだか。その結果がこれっぽい。勘弁しておくれ。
「早速ですけ、ど。一つ鬼道を使うので、驚かないよう隊士さんたちに言っておいてくれますかぁ?」
「どんな鬼道ですかい?」
「夜の暗闇を昼の明かりのように見せる鬼道ですよぉ。一日で効果が切れますけ、ど。暗がりで相手の顔が見えないとか、何かがいた気がする、みたいなのがほとんど起きなくなりますねえ」
「ほーぉ。知らない鬼道だな。流石は鬼道衆……」
というのを使用する。夜目が利くようになる、という効果だ。シンプルに強い。
長期に亘って使うと体内時計が狂うので推奨できないけど、こういう調査では役に立つだろう。
それをかければ。
「うおっ……すげえ、明るい」
「はぁい。『魂魄消失事件』……その消失は夜間に起きているっぽいですからねえ。痕跡等々見逃さないようにぃ。──そしてもう一つ。縛道の七十七・天挺空羅-縮図」
詠唱破棄した天挺空羅を七番隊の人にかける。
この改造版はちょっと面白いかもしれない。
「これは……空に、何かが浮かんで……?」
「皆さんの右目に映る視界にだけぇ、ここら一帯の地図が浮かび上がるようにしましたよぉ。味方の位置や虚の位置は、僕が知覚した霊圧配置をもとにしていますからねえ。まぁ早々外れないと思ってくださいねぇ」
「こりゃ……便利すぎねえですか、ちょっと。普段の任務から使いたいくらいですけど……」
「んー、使いこなせる人がいるかはわからないですけ、ど。一応汎用鬼道リストには上げているのでぇ、今度時間あったら見てみてくださいねぇ」
「それは、すんません、勉強不足でした」
厳原さんの提案してくれた鬼道テンプレート。あれの「分類されない汎用仕様変更鬼道」のリストにこれは記載されている。
簡単に言えば視界にミニマップを表示させる機能だ。眼球運動に追従しないような仕組みになっているので、ミニマップを拡大しようとしてミニマップがどんどん端に行っちゃう、みたいなことも起こらない。
「ただぁし。虎姫さんみたいに虚を制御下においているならともかくぅ、暴走状態の虚化死神は虚として表示されますからぁ、その辺お気をつけをぉ」
「虚化……起こるってことですか。虚圏じゃないのに……」
「全ての可能性を列挙しているだけですよぉ。そして、起きてしまっても捕縛さえしてくれたら僕が対処できますから、ね」
「安心しろ。この少年は、術使いとしては……恐らく最高位だ。たった半年の……手ほどきで、私に術を一つ……覚えさせた。そう言えば……わかるだろう」
「ええっ!? そりゃすげぇ、本物だ!」
それでいいのか。
……マジとかヤバいとか言わない愛川さんの違和感すごいな、とか。余談余談。
──咆哮。
「先に行く」
僕らが振り返るよりも早くそう言い残して消える虎姫さん。早すぎるよ判断が。
「おぅ、お前ら! いつも通りだ! 虎姫隊長への援護は俺が行く。お前らは近辺調査! 少しでも怪しいと思ったら全部書き留めて報告しろ? 気のせいで済ませて後で味方が、とかあり得ねぇからな!」
まぁ……そうか。
虎姫さんが隊長らしいことするとは思えないもんな。副隊長がそういう役回りになるよね。苦労してそう。
「俺らも行きましょうか」
「はぁい」
なんにせよ──行動開始だ。
虎姫さんは少し離れた空き地で、十数体の虚に囲まれていた。
「隊長!」
「……少年。少し、調べてくれ。……この虚、妙に……味がしない」
「はぁい。愛川さぁん、申し訳ないですけ、ど」
「あ、いえ、わかってます。滑川七席の護衛っすね。どの道俺が虎姫隊長の助けになるとか微塵も思ってないんで」
「お願いしますねぇ」
というわけで、「味がしない」らしい虚を視る。
霊圧……霊子知覚。
……え?
顔を上げる。十数体の虚に囲まれている虎姫さん。そのままだ。
けれど、僕の感覚は。
「──虎姫さん! 上空へ離脱してくださぁい!」
返事は無いが、瞬時に上空へ飛びあがる彼女。たった半年とはいえ四六時中一緒にいたからね。こういう連係はお手の物だ。
「雷鳴の馬車、糸車の間隙、光もて此を六に別つ! 縛道の六十一・六杖光牢!」
とは言いながらも使うのは僕ナイズした方。
迸る帯状の霊圧は複数の虚を纏めて捕らえ、縛り付ける。
が……僕の拘束力だとすぐに破られるな。
「殺すか?」
降りてきた虎姫さんの物騒な言葉に──首を振る。
「ならば、どうする」
「封印します」
「封印って……たかだか虚を? 霊力がもったいねえんじゃ」
「いえあれ……多分、流魂街の人々ですよ」
「な……。……いやいや、そんな馬鹿な……」
霊圧が明らかにそうだ。
もう少し言うならば──霊圧なんて無い、というべきか。ミニマップにも映ってないし。
これは。
「霊力を持たない魂魄の虚化……。そうか、前回調査時の違和感はそれか……」
虚にしてから、削って殺したんだ。
わざとではない。恐らくは……そちらの方が糧になるから、とかかな。
でも、どうやって。霊力が無いものを虚にするのは……無理がある。そもそも虚化っていうのは、「たっぷりあるもの」を削ることで生まれたマイナス領域が拡大して起きるもの。元から無いものを削ったって何が起きるはずもない。
それとも……その「霊力の無い魂魄」と「虚」の境界を崩した、って?
……違うな。それは崩せるものじゃない。概念的に壁ですらない。
ただ……霊力を持たずとも、つまり霊感が無い人間でも別に普通に虚にはなるわけで。
現世ではそこの区別は無い。霊力があろうとなかろうと「整」にも「虚」にもなる。……つまり、それか。
現世の「整」も心を失くせば「虚」に堕ちる。なれば流魂街の人々とて……魂葬によって尸魂界に来た彼らとて、"虚に堕ちる素養"とでも呼ぶべきものは持っているはずだ。
恐らくそれをさせないのが尸魂界という世界の力場のようなものであれば、そこを現世として設定してしまえる結界等々があれば。
「愛川さん、隊士の方々を見てきてくださぁい。今……天挺空羅を再改造して、このタイプの虚も表示されるようにしましたぁ。以後、この虚は『
「了解!」
さて……どうするか。
六杖光牢と鎖条鎖縛を追加し、悩む。
「少年。……今のおまえの悩みは、何に対するものだ」
「なに、とはぁ?」
「殺すことも……封印というのをすることも……あるいは、治癒をすることも、できると。……そう、思う。おまえの……いや、あなたは、それができる。根拠はないが」
「……」
「治癒することで……悪いことが起こる、か?」
……そうだ。
悪いことが、起きる。
「今思いついているやり方でやると……彼らは治療後、霊力を有する魂魄になりま、す」
「それは……何が悪い? 戦力が増える……死神が増える。そう、聞こえるが」
「尸魂界は、霊力を有していたら、お腹が空くから、基本的には死神にならざるを得ないんですよ、ね。商売をするというのは、余程の才が無いと難しいのでぇ。……昨日までお腹の空かなかった人が、次の日から空くようになって……その後起きることって、なんだと思いますかぁ?」
「……。……盗み。あるいは、殺し」
「はぁい」
それもこの人数がとなれば、あるいは窃盗団みたいなものが結成されるかもしれない。
この全てが死神になるとは考え難い。……そして、そうなるのなら。
「何が違う……? 今ここで殺すことと……後で捕縛し、殺すこと。……後者の方が、迷惑をかける人数は減る、か?」
人は数ではないけれど。
被害は量だ、というあの言葉が聞こえる。
これは犠牲か。
それとも障害か。
「……いえ、治しちゃいましょうかぁ。治癒された後の人々がどうなるかなんて……背負いすぎ、ですからねぇ」
「……異論は無い」
やることは単純だ。
虚化を封印し、削られた魂魄に義魂の技術による修復をかけるだけ。
それだけで……ぶしゅう、なんて音を立てて縮んでいく虚たちの身体。それはやがて白目を剥いた人々の口や耳の中へ入っていって、動かなくなる。
さらに……今虎姫さんが鼻を鳴らした通り。
微弱ではあるけれど、捕縛されている全員から霊圧を感じるようになったと思う。……うぅ、僕の霊力もかなり持っていかれたけど。やっぱ義魂技術は霊圧食いがすごいなぁ。
……これこそ……『
本当にね。
「落ち込んでいるところ悪いが、他の現場にも頼む……霊力はどうだ」
「ああそれは大丈夫ですよぉ」
取り出したるは駄菓子のラムネみたいなちっちゃい筒。そこにぎっしり詰まった錠剤をガーッと飲めば。
はぁい回復。……いやホント、ルールチェンジャーだよ、やっぱり。僕とは比べ物にならないって。
「では……行くぞ」
「はぁい」
けどこれ……どうするかなぁ。
というのを報告した。
「『
「そう、ですね。流魂街1区あたり平均して1,000人から3,000人。東西南北八十区ずつで320区の96万人。といっても人口のまばらな地域もありますから、概算すると60万人くらいですかね、今の流魂街の人口は」
「霊力を有している者は、全体の三割に満たない程度でしょう」
「単純計算42万人が『擬虚』となって他者を襲う可能性がある、と。薬用飴はもう調合し終わったのか?」
「ええ、既に流魂街では販売が始められています。子供でも買える値段ですが、無料にするとこの先立ち行かなくなることが見えたので販売、と」
隊首会。特例で参加させてもらっているけど、当然口は挟めない。
一応伝えるべきことは伝えてあるけど、どうだろうなぁ、って感じ。
「虎姫。実際に交戦してみて、どうじゃった。力の程は」
「然程……ではない。私達が日頃相手にしている虚と……そこまでの変わりはない。だが、味が薄いのと……妙に群れたがる傾向にある、とは思う」
「群れる……? 規模感はどれくらいだ」
「十から十五……ほどだな。そのため、攻撃範囲の広い斬魄刀以外だと……数に押しつぶされることはあるだろう。上空へ逃げれば、基本は追ってこない……はずだ」
「他に、何か気付いたことはあるかの」
「……斬った感触が、枯れ木のようだった。乾いているというか……無理矢理に外殻を固めているかのような。……。骨……動物の頭骨を斬っているような感覚」
多分それは、無理矢理に虚にされているがため、だ。
内側から押しのけるように……本来虚化しないはずの霊魂が、一度ぶち撒けるように外側に出て……それでそうなっている。
「滑川」
「はいぃ」
「仮に一つの塊を十五とした場合、一時間に封印し得る塊は、幾つくらいじゃ」
「封印なら……十が限界ですねぇ。治療なら五が限界かなぁ」
「それは、おぬし以外にも使える術か?」
「……時間をください、としか」
「速やかに完成させよ。抱えている他全ての仕事は後に回せ」
「承知いたしましたぁ」
だとして……ちょっと厳しいぞ。
封印術がまず適性あるなしで変わる、回道もそう。
義魂技術に精通していないと難しくて、霊魂を触れる人……だから、一人じゃ無理だな。複数人用にしないと。
……僕が一人だから、ちょっと苦手なんだよな。複数人用の鬼道作るの。大鬼道長とかに相談しながらやんないと。
「封印、治療ができるのであれば、『擬虚』はやはり捕縛優先にすべきですかね」
「やむを得ない場合を除き、そうするべきじゃろう。……他に何か言うべきことがある者は?」
「一つ」
「よかろう、刳屋敷。話せ」
手を挙げる刳屋敷さん。これが珍しいことなのかもわからない。隊首会初めてすぎる。
「舐溶飴についてだ。薬用の舐溶飴は予防にもなるって話なんでな、隊長格であろうと忘れずに舐めておけよ。気休め程度でも、無いよかマシだろう」
「ホンマにそこまで効くんかいな、って思てしまうけどなぁ。……あとは、霊鎧っちゅう技術も有効なんとちゃうか? アレ防御力上げるだけやのぅて外側から来るモン全部弾くって話やろ」
「前に一回講習会やったけど、もう一回やるべきかもねぇ。これ、かなり大事かもよ」
「あ、それでしたらちょっといいスか? 僕、護廷に導入したい制度があって」
ちゃんとみんな意見を持っているから、ちゃんと会議が進む。踊らない。
そうだよね。ただの山本総隊長からの命を聞くだけなら、伝令だけでいいもんね。
「そうじゃ、二番隊及び技術開発局からのアレを提示しておけ、喜助」
「ああ、実物が無いんですけど……」
「はぁ? なんじゃ用意の悪い……ひぃっ!?」
勝手に声出しちゃダメかなーと思って無言で夜一さんのそばにぬぅっとソレを……ようやく完成した伝令神機を出してみたんだけど、とんでもなく驚かれた。
「お、おぉ、そう、これじゃ。ほ……ほれ、喜助。説明をな」
「ハイ。じゃあ、これは売り込みになるんスかね? これ技術開発局で作った、
まだ早いかなとは思っていたけど、そうも言ってられなくなったので完成させた。
装置に鬼道を使わせるというのはちょっとだけライン越えかなと思いつつ、何やってもいいらしいし、良いんだろう。
史実のそれよりとんでもなく性能が良い。タッチパネル式にはしなかった。流石にまだ早い。……なんでか二枚屋さんは持ってたけど。
本来のイッチーたちはガラケー世代だったはずだし。時代がね。
するりと移動し、元の位置……山本総隊長の後ろに戻る。二番隊だから近かったんだよ。浦原さんは十二番隊で遠いからさ。
「せめて気配を出せ気配を……妖怪め……」
「此方からも、一つ良いだろうか、総隊長」
「うむ」
「最近雨脚が妙なのだ。流魂街の一部地域にだけ降る雨がある。自然形成とは考え難いゆえ、鬼道か、なんらかの装置が使われていると考えるべきであろう」
え。
え、いや、いや。それそれそれそれそれそれそれそれ!!
多分それだよ「現世の環境」を整えている結界術!
は……発言したい! 七席は立場が低すぎる!
「山本総隊長。滑川殿が何か言いたげです」
「む? どうした、滑川。言うてみよ」
銀嶺さん……ナイスすぎるそのアシストは……!
「恐らくですがぁ、王途川さんの言うその雨が、『擬虚』を発生させているものの一因である、かと」
「真か? ……よし、調査隊に王途川を組み込む。良いな、王途川」
「無論。此方にわかることはすべて滑川殿に伝えまする」
「……滑川殿? なんで王途川隊長までそんな……流石に王途川隊長の方が古株やんな?」
「平子真子。それは隊長としての発言か?」
「ああいえ、スンマセン、私語でした」
「よろしい。……以上で隊首会を終了とする」
正直な話をすると。
多分浦原さんもだけど……不謹慎なことに、この状況を楽しんでいる僕がいるのだ。
オサレ眼鏡が用意した「問題」。史実に無かった展開。
犠牲は出したくない。それはそれとして、この不可解な状況を紐解きたい。
そしてその上で、もう一つ駒を置きたい。
「平子隊長、どうされたのですか? そんな……顔の中心に部品が寄った顔をして」
「どんな顔やねん。……なぁ、平良ってそないに凄いんか? 王途川隊長まで敬称付けるって……四大貴族筆頭やで王途川家」
「凄さがどうかはわかりませんが、お世話になった死神は多いのではないでしょうか。それと、筆頭という言い方は少しばかり礼を欠くかと。現状四大貴族はどこもそこまで力の差がありませんので……」
「ええやろ別に。どーせ本人たちは気にせーへんのやし。そういうの杞憂っちゅうんやで惣右介」
「どこへ出しても危なっかしい発言を繰り返す平子隊長のためを思って話しているのですが……こういう心は伝わらないものですね」
「ヤメロその独白みたいに言うんは。オレが死ぬほどわからず屋で部下想いやない隊長みたいやんけ」
「まぁ今のやり取り聞いてて思うのは、わからず屋で部下想いじゃない隊長さんだよねー」
「こら、鹿取ちゃん。他隊のメンドくさそうな事情に首つっこまないの」
「はーい」
「……」
「……い、行くで、惣右介。……ちょっと……道中、貴族の話でも聞かんこともないで、ちょっとだけやけど」
「はい。色々お話しますよ、平子隊長」
……みたいな会話を聞きつつ。
久しぶりの創作鬼道パズルのお時間、だ。
現在の護廷
| 隊 | 一 | 二 | 三 | 四 | 五 | 六 | 七 | 八 | 九 | 十 | 十一 | 十二 | 十三 |
| 隊長 | 山本元柳斎重國 | 四楓院夜一 | 厳原金勒 | 卯ノ花烈 | 平子真子 | 朽木銀嶺 | 虎姫 | 京楽春水 | 六車拳西 | 王途川雨緒紀 | 刳屋敷剣八 | 浦原喜助 | 浮竹十四郎 |
| 副隊長 | 雀部長次郎 | 大前田稀ノ進 | 鳳橋楼十郎 | 山田清之助 | 藍染惣右介 | 朽木響河 | 愛川羅武 | 鹿取抜雲斎 | 久南白 | 西紀早乙留 | 久面井透徹 | 猿柿ひよ里 | 志島知霧 |